少女の水平線

未羊

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第17話 予想外に驚く灯台守

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 朝食はオールのお店のパンを温めたミルクと一緒にいただく。
 港町に出掛けた翌日のお決まりの朝食である。
 ベニーはおいしそうにパンを頬張ると、今日はバルコニーへと上がっていく。
 港町で船の荷下ろしを眺めていたせいか、今日は魚という気分になっていたのだ。
 どこからともなく椅子を出して、棒切れから魔力の糸を垂らして釣りを始める。
 まだ朝の時間ではあるものの、灯台の周囲にはいつものようにカモメが群れを成して飛んでいる。
 ベニーがバルコニーで釣りの態勢に入ったのを確認すると、寄こせと言わんばかり集まってきたのだ。
 周りを目ざとく飛ぶカモメとベニーの、仁義なき戦いが始まる。
 ベニーは釣った魚をカモメに取られることなく、無事に全部自分の食事にできるのか。今日のご飯をかけた争いに、つい力が入ってしまう。
 バルコニーで座るベニーではあるものの、竿にはまったく反応がない。カモメの鳴き声と波の音だけが聞こえてくる実に静かな時間が過ぎていく。
 灯台は海岸線から突き出た岬の先に建っている。
 その真下は切り立った崖で、岩場でごつごつしている。
 水深こそそこそこあるものの、普通なら魚がいるとは思えないような場所なのだ。
 それでも、ここでは過去何度も魚を釣り上げているので、魚はそこそこやってくることはあるようだ。ベニーの祖父も同じようによく釣り上げていた。
 しばらく待てどもまったく反応がない。

「はあ、退屈……」

 つい、ため息を漏らしてしまう。
 まったく反応がないのだから、それは気が滅入ってくるというものだった。
 日の光もかなり高くなってきたので、そろそろ打ち切ろうかと思った時だった。
 竿の先端がくんっと動いた。
 そう、ようやく魚がかかったのだ。
 ベニーの表情に真剣さが浮かぶ。
 垂らしている糸は魔力を練り上げたもの。簡単に切れることはない。

(いくわよ!)

 ひと呼吸おいて、ベニーはしびれる魔法を放つ。
 ベニーのいる灯台のバルコニーから崖下の海面まではかなり距離がある。だが、魔法ならそんな距離なんて関係ない。
 集中したベニーの魔法は、海に霧散することなく、食いついた魚だけに確実に命中する。

(手ごたえあり!)

 魔法を慎重に使ったので、命中したかどうかは手に取るように分かるのだ。
 先日に比べれば、今日のあたりは時間がかかりすぎた。
 集中してベニーは魔力の糸を回収し始める。それに伴って、海中から魚が姿を現す。

「おおっ!」

 見えた魚の姿を見て、ベニーが思わず声を上げる。
 それもそうだ。今日はなんと三匹もかかっていたのだ。いつもだと一匹だったので、あまりの珍しさに声が出てしまったのだ。
 喜んでばかりもいられない。まだ油断はできないからだ。
 今は風の魔法でカモメが近付けないようにしてあるものの、自分のところまで上がってくると、魔法が途切れてしまっているからだ。
 その一瞬の隙を突いて、カモメに魚をさらわれかねない。気の緩みは許されないのだ。
 バルコニーまで魚が上がってくる。
 それを合図に、カモメたちが我先にとベニーのところに集まってくる。そこまでして魚が食べたいかというような勢いだ。
 釣れた魚が一匹だけなら、先日のように収納魔法を遠隔出現させてしまい込めばいいのだが、今回はなんと三匹だ。
 ある程度距離が近ければよかったのだが、よりにもよって一匹が大きく離れている上に同一軌道上になさそうだ。これでは、ベニーの収納魔法は通用しないのである。
 実はこの収納魔法。かなりたくさんの弱点がある。
 それは、なぜ最後に釣り糸や風魔法から切り離した状態にするのかということともかかわってくる。
 まず第一に、他の魔法と干渉できないこと。魔法で出した水など、他のものと混じり合って物質として安定したものになっていればいいのだが、釣り糸や風は魔力そのものだ。つまり、収納魔法の周辺では魔法が反発し合ってしまう。
 そのため、上がってきたところで魚を自由にさせる必要があるのだ。
 二つ目に、収納魔法は一度に一つの穴しか発動できず、一度発動すると位置が固定される上に再発動させるには少し時間をおく必要がある。
 最後に、生きたものを入れられないということ。釣った魚は直前の魔法で息絶えているので問題はない。だが、その魚を狙うカモメは生きている。
 過去の灯台守も生きたものを入れたらどうなるかということを試したことがあり、その結果、とても口にできない状態になってしまったらしい。
 以降の灯台守には禁止事項として伝えらえており、そのために穴を大きくするという戦法もとれないのだった。

(仕方ありませんね。一匹は諦めましょう)

 やむを得ず、魚を一匹諦めることにしたベニーなのである。
 収納魔法に二匹を放り込み、すぐさま消し去る。残った一匹は、くちばしで見事キャッチした一羽のカモメがそのままどこかへと持ち去ってしまった。
 三匹とも自分のご飯にしたかったベニーはものすごく悔しがっていた。
 とはいえ、カモメたちは自分にとっていい暇つぶしの相手だ。怒るわけにもいかなかった。
 釣りを終えたベニーのお腹が、タイミングよく大きな音を立てる。
 お腹を擦ったベニーはやむなく椅子を片付けて、お昼を食べるために食堂へと降りていったのだった。
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