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第23話 謎の男性
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どうにか男性を灯台まで連れてきたベニーだが、さすがに灯台の中に入れるわけにはいかなかった。
その理由は、この男性の素性がまったく分からないことだった。
騎士団長であるペンソンは、オリゾンテ王国の騎士団長というしっかりとした身分があるからこそ、灯台の中へと招き入れた。
なので、倒れていた男性は灯台の隣にある来客用の小屋の中に寝かせることにした。
とりあえず、連れてきたところで再び生活魔法で生み出した水を飲ませておく。これだけでもずいぶんと違うはずだからだ。
「ふぅ、疲れたわ。今日のところはもうゆっくりしようかしら。さすがに私は医者ではないから、あれ以上のことはできないし、どうしたものかしらね」
ベニーは森の中で倒れていた男性の処遇を考えるため、灯台の中の自室へと戻っていった。
灯台守は鑑定魔法が使えるものの、状態が分かったとはいえ、対処法が正確に施せるかといったら否である。
鑑定魔法は状態を把握するための魔法でしかない。そこはやはり、専門家に任せるしかないのだ。
「とりあえず、状態を見て大丈夫そうだったら港町からお医者様に来てもらうしかないわね」
ベニーはそう結論付けて、今日のところはちょくちょくと様子を見ながらいつもの作業をすることに決めた。
ひとまず遅くなったお昼を食べてからまず一度確認。
男性は最初に比べれば少し落ち着いた様子だ。
生活魔法の水には魔力が含まれている。相性がよかったということだろう。
青ざめた状態は少し緩んでいるものの、目を覚ますまでは気が抜けない。
いつもの灯台の中の作業場ではなく、男性が視界に収まる場所で薬を作り始める。
魔力のこもった水と薬草を混ぜ合わせるだけの作業だ。
単純な作業だからこそ、腕の違いで品質は大きく変わってくる。湿気だけで品質が大きく変わったことを経験しているベニーは、とにかく慎重に薬を作っていた。
やがて、空の色が赤く染まり始める。夕方になったのだ。
薬を作りながら男性の様子を窺っていたベニーだったが、結局目を覚ますことはなかった。
気にはなるものの、作業を終えたベニーは夕方のチェックへと向かうために小屋を後にした。
導の灯の状態に問題はなかった。
今朝感じた不安のせいで、むしろ少し強まっている状態だ。
森にいる間、魔物に襲われずに済んだのはそのせいのようだった。どうやら、不安を払しょくしようとして、いつもより強めに願いを込めてしまったらしい。まあ結果オーライといったところだろう。
まだ目を離せないので、今日のところは夕食もこの灯台の離れの小屋で食べることにする。
あと、においに釣られて目を覚ますかもしれないという、淡い期待もあった。
結果、まったくの無意味だった。
男性は寝息を立てたまま、目を覚ますことはなかった。
ただ、水分だけを与え続けた効果はあったらしく、顔色はかなり回復している。
「まったく、この人はいつからあの森の中にいたのかしら。そもそもあの森のことはみんな知っているはずだから安易に踏み込むわけがないんだけどな」
ベニーは状況を怪しむばかりだった。
身元が分からないのも困るので、食事を終えたベニーは男性の荷物を改めさせてもらうことにした。
これでもベニーはひと通りの読み書きができるので、失礼ながら確認させてもらった荷物から男性の身元を特定していた。
「やっぱり、あの草はこの人が持ち込んだもののようね」
ベニーは呆れた表情を見せている。
というのも、あの謎の草の種と思われるものが、男性の荷物から見つかったからだ。
身元は分かったものの、その種のせいでベニーの警戒が一気に高まる。
これは目が覚めたら、すぐにお引き取り願うべきだろう。ベニーはそう考えた。
荷物を完全に元通りにしたベニーは、男性の容態も安定したようだからと小屋から去っていった。
すっかり辺りも真っ暗になった真夜中。
「う……ん……」
小屋で眠っていた男性がようやく目を覚ました。
「俺は、森の中で倒れて……」
頭を押さえながら、状況を確認しようとする。
だが、急に上半身を起こしたことで、頭痛とめまいを起こしてしまった。
「ここは、どこかの小屋の中か。……俺は助かったんだな」
辺りが暗くて確認ができないものの、何かの建物の中であることは認識できたようだ。
真っ暗でありながら、空に瞬く光が存在しないからである。
「今は夜中か、ここがどこか分からない以上、下手に動くのは得策ではないな」
男性はそのように考え、再び横になる。
ただ、目が覚めたことで空腹を認識してしまい、そのせいでなかなか寝付けなくなってしまった。
仕方がないので、空腹に耐えながら朝になることを待つことにした。
「助けてくれた人にお礼を言わなければな。俺は灯台守に会いにやって来たんだ。おかげでその目的のためにまだ活動ができるのだからな」
男性はごろりと簡素なベッドの上に転がっていた。
だが、男性はまだ知らなかった。
今いるこの場所が、その目的地であるということを。
そして、灯台守に会うという目的もすでにはたしていることも。
その理由は、この男性の素性がまったく分からないことだった。
騎士団長であるペンソンは、オリゾンテ王国の騎士団長というしっかりとした身分があるからこそ、灯台の中へと招き入れた。
なので、倒れていた男性は灯台の隣にある来客用の小屋の中に寝かせることにした。
とりあえず、連れてきたところで再び生活魔法で生み出した水を飲ませておく。これだけでもずいぶんと違うはずだからだ。
「ふぅ、疲れたわ。今日のところはもうゆっくりしようかしら。さすがに私は医者ではないから、あれ以上のことはできないし、どうしたものかしらね」
ベニーは森の中で倒れていた男性の処遇を考えるため、灯台の中の自室へと戻っていった。
灯台守は鑑定魔法が使えるものの、状態が分かったとはいえ、対処法が正確に施せるかといったら否である。
鑑定魔法は状態を把握するための魔法でしかない。そこはやはり、専門家に任せるしかないのだ。
「とりあえず、状態を見て大丈夫そうだったら港町からお医者様に来てもらうしかないわね」
ベニーはそう結論付けて、今日のところはちょくちょくと様子を見ながらいつもの作業をすることに決めた。
ひとまず遅くなったお昼を食べてからまず一度確認。
男性は最初に比べれば少し落ち着いた様子だ。
生活魔法の水には魔力が含まれている。相性がよかったということだろう。
青ざめた状態は少し緩んでいるものの、目を覚ますまでは気が抜けない。
いつもの灯台の中の作業場ではなく、男性が視界に収まる場所で薬を作り始める。
魔力のこもった水と薬草を混ぜ合わせるだけの作業だ。
単純な作業だからこそ、腕の違いで品質は大きく変わってくる。湿気だけで品質が大きく変わったことを経験しているベニーは、とにかく慎重に薬を作っていた。
やがて、空の色が赤く染まり始める。夕方になったのだ。
薬を作りながら男性の様子を窺っていたベニーだったが、結局目を覚ますことはなかった。
気にはなるものの、作業を終えたベニーは夕方のチェックへと向かうために小屋を後にした。
導の灯の状態に問題はなかった。
今朝感じた不安のせいで、むしろ少し強まっている状態だ。
森にいる間、魔物に襲われずに済んだのはそのせいのようだった。どうやら、不安を払しょくしようとして、いつもより強めに願いを込めてしまったらしい。まあ結果オーライといったところだろう。
まだ目を離せないので、今日のところは夕食もこの灯台の離れの小屋で食べることにする。
あと、においに釣られて目を覚ますかもしれないという、淡い期待もあった。
結果、まったくの無意味だった。
男性は寝息を立てたまま、目を覚ますことはなかった。
ただ、水分だけを与え続けた効果はあったらしく、顔色はかなり回復している。
「まったく、この人はいつからあの森の中にいたのかしら。そもそもあの森のことはみんな知っているはずだから安易に踏み込むわけがないんだけどな」
ベニーは状況を怪しむばかりだった。
身元が分からないのも困るので、食事を終えたベニーは男性の荷物を改めさせてもらうことにした。
これでもベニーはひと通りの読み書きができるので、失礼ながら確認させてもらった荷物から男性の身元を特定していた。
「やっぱり、あの草はこの人が持ち込んだもののようね」
ベニーは呆れた表情を見せている。
というのも、あの謎の草の種と思われるものが、男性の荷物から見つかったからだ。
身元は分かったものの、その種のせいでベニーの警戒が一気に高まる。
これは目が覚めたら、すぐにお引き取り願うべきだろう。ベニーはそう考えた。
荷物を完全に元通りにしたベニーは、男性の容態も安定したようだからと小屋から去っていった。
すっかり辺りも真っ暗になった真夜中。
「う……ん……」
小屋で眠っていた男性がようやく目を覚ました。
「俺は、森の中で倒れて……」
頭を押さえながら、状況を確認しようとする。
だが、急に上半身を起こしたことで、頭痛とめまいを起こしてしまった。
「ここは、どこかの小屋の中か。……俺は助かったんだな」
辺りが暗くて確認ができないものの、何かの建物の中であることは認識できたようだ。
真っ暗でありながら、空に瞬く光が存在しないからである。
「今は夜中か、ここがどこか分からない以上、下手に動くのは得策ではないな」
男性はそのように考え、再び横になる。
ただ、目が覚めたことで空腹を認識してしまい、そのせいでなかなか寝付けなくなってしまった。
仕方がないので、空腹に耐えながら朝になることを待つことにした。
「助けてくれた人にお礼を言わなければな。俺は灯台守に会いにやって来たんだ。おかげでその目的のためにまだ活動ができるのだからな」
男性はごろりと簡素なベッドの上に転がっていた。
だが、男性はまだ知らなかった。
今いるこの場所が、その目的地であるということを。
そして、灯台守に会うという目的もすでにはたしていることも。
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