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第24話 男性の素性
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朝を迎える。
ベニーはいつもの通り、導の灯を確認してから一日を始める。
ところが、今日は朝食を作る前に離れの小屋へと向かった。例の倒れていた男性の様子を見に行くためだ。
離れに到着したベニーは、倒れていた男性が目を覚ましていることに驚いていた。
「よかったぁ、無事目を覚ましたんですね」
ちゃんと生きていたことにほっとするベニーである。生活魔法とはいえ、水を与えたのは間違ってなかったと確信した瞬間だった。
「えっと、君が助けてくれたのかな?」
男性の口ぶりは思ったよりしっかりしている。
その状況に驚きながらも、ベニーは質問に答える。
「はい、私がここまで運んできました。迷いの森の中で人が倒れているなんて思いませんでしたよ。あそこは基本的に誰も立ち入りませんからね」
「そうか……。あの森が噂に聞く迷いの森だったのか。……これはうっかりしていたようだ」
ベニーから場所の名前を聞いて、男性はちょっと表情を青ざめさせていた。どうやら迷いの森のことは知っているらしい。
「知らずに迷い込んだかと思ったんですが、知っていて迷い込んだんですね。詳しい人ならあの方向から来ることは避けて、回り込んでこられるはずなんですけれど」
「いやはや、とんでもない失態をお見せしましたな。敬愛する灯台守殿に会うために、焦ってしまったゆえのミスでしょうな。ご高齢と聞き及んでいましたので、気が逸ってしまったようです」
どうやら男性は、ベニーの祖父に会いに来たようである。
この話を聞いたベニーはちょっと表情を暗くしてしまう。
「どうなさいましたか、少女よ」
「いえ、ちょっと……」
今は言いづらいなとベニーは考えた。
そこで、ちょっとしばらく話題を逸らすことにする。
「ひとまず体力をつけましょう。飲まず食わずが長かったと思いますので、おかゆで失礼しますね」
「これはかたじけない」
日もだいぶ昇ってきたこともあり、さっさと朝食を済ませたいからだ。
ベニーは自分用にはいつもの一角ウサギの肉を、男性には残っていたパンとミルクをを煮立たせてパンがゆを作る。
「はい、どうぞ。熱いですから気をつけて下さいね」
「ありがとう」
ベニーと男性は、黙々と朝食を平らげたのだった。
朝食を終えると、男性がベニーに話し掛けてくる。
「すまないけれど、お嬢さんの名前を伺ってもいいですかな」
この質問には、ベニーは目を丸くしていた。
しかし、すぐに真面目な表情になってこう言い返す。
「人に名前を尋ねる時には、まずは自分が名乗る。それが暗黙のマナーではなかったですかね」
ベニーに言われて男性ははっとしていた。
目の前の少女は、どうやらしっかりとした教養を持っていたようだ
男性は表情を引き締め直し、改めてベニーに向き直る。
「これは失礼しました。俺は錬金術師のマーテルと申す者。改めてお嬢さんのお名前を伺ってもいいですかな」
「私はベニーといいます。現在の灯台守で、ここで一人暮らしをしています」
ベニーが答えると、マーテルは衝撃を受けていた。
「な……」
「どうかされましたか?」
言葉を失っているマーテルに、ベニーが声を掛ける。
「オンス殿ではなかったのですか、灯台守の名は……」
マーテルが口に出した名前。それは先代の灯台守であるベニーの祖父の名前だった。
迷いの森に倒れていたところから察するに、やはり祖父の死を知らなかったようである。
「オンスは私のおじいちゃんの名前ですね。非常に申し上げにくいのですが、ひと月ほど前に亡くなりました。それは突然でしたよ」
「そんな……、そんなバカな……」
訪ねてきた相手がすでに故人と知って、マーテルは衝撃のあまり言葉を失っていた。
「では、俺は何のためにここまで来たのだ……」
「お気持ちは分かります。私もおじいちゃんが死んでしばらくの間は泣き続けましたからね」
ベニーの言葉が聞こえているのか分からないくらい、マーテルは嗚咽を漏らしている。
「それと、ここまで来たのはいいですが、私はあなたのことが信用できませんので、元気になったらここから出て行ってもらいますね」
ベニーは追い打ちをかける。
「そ、そんなご無体な」
「何もただ追い出すわけじゃないですよ。私がよく使っている港町がありますので、そちらに住んでもらうだけです」
「港町?」
「はい、ここから迷いの森とは反対方向に日中の半分ほどをかけて進んだところにあるんです」
マーテルは、ベニーの言葉を黙って聞いている。
「実はあなたが気を失っている間に荷物を改めさせて頂きました。どうやら、灯台守になるためにこちらまでいらしたようですね」
「なっ、俺の荷物を勝手に?! というか、あの荷物からよく分かったものですな」
「灯台守って、不思議な力があるんですよ」
ベニーは意地悪く笑っている。
「そんなわけですので、明日港町に行きます。あなたはそこで港町に住んでもらって信用を勝ち取って下さい。おじいちゃんもよく使っていた場所ですから、私よりはおじいちゃんのお話が聞けるでしょうからね」
ベニーが笑顔でいうと、マーテルはハッとしていた。
(これは、俺は意地悪をされているのではなくて試されているのか。だったら、これはなんとしても乗り越えなば)
マーテルはぎゅっと拳を握っていた。
「それでは、今日はゆっくりと休んで体力を回復させて下さいね。明日は長旅なんですから」
ベニーはそう言って小屋を出ていったのだった。
ベニーはいつもの通り、導の灯を確認してから一日を始める。
ところが、今日は朝食を作る前に離れの小屋へと向かった。例の倒れていた男性の様子を見に行くためだ。
離れに到着したベニーは、倒れていた男性が目を覚ましていることに驚いていた。
「よかったぁ、無事目を覚ましたんですね」
ちゃんと生きていたことにほっとするベニーである。生活魔法とはいえ、水を与えたのは間違ってなかったと確信した瞬間だった。
「えっと、君が助けてくれたのかな?」
男性の口ぶりは思ったよりしっかりしている。
その状況に驚きながらも、ベニーは質問に答える。
「はい、私がここまで運んできました。迷いの森の中で人が倒れているなんて思いませんでしたよ。あそこは基本的に誰も立ち入りませんからね」
「そうか……。あの森が噂に聞く迷いの森だったのか。……これはうっかりしていたようだ」
ベニーから場所の名前を聞いて、男性はちょっと表情を青ざめさせていた。どうやら迷いの森のことは知っているらしい。
「知らずに迷い込んだかと思ったんですが、知っていて迷い込んだんですね。詳しい人ならあの方向から来ることは避けて、回り込んでこられるはずなんですけれど」
「いやはや、とんでもない失態をお見せしましたな。敬愛する灯台守殿に会うために、焦ってしまったゆえのミスでしょうな。ご高齢と聞き及んでいましたので、気が逸ってしまったようです」
どうやら男性は、ベニーの祖父に会いに来たようである。
この話を聞いたベニーはちょっと表情を暗くしてしまう。
「どうなさいましたか、少女よ」
「いえ、ちょっと……」
今は言いづらいなとベニーは考えた。
そこで、ちょっとしばらく話題を逸らすことにする。
「ひとまず体力をつけましょう。飲まず食わずが長かったと思いますので、おかゆで失礼しますね」
「これはかたじけない」
日もだいぶ昇ってきたこともあり、さっさと朝食を済ませたいからだ。
ベニーは自分用にはいつもの一角ウサギの肉を、男性には残っていたパンとミルクをを煮立たせてパンがゆを作る。
「はい、どうぞ。熱いですから気をつけて下さいね」
「ありがとう」
ベニーと男性は、黙々と朝食を平らげたのだった。
朝食を終えると、男性がベニーに話し掛けてくる。
「すまないけれど、お嬢さんの名前を伺ってもいいですかな」
この質問には、ベニーは目を丸くしていた。
しかし、すぐに真面目な表情になってこう言い返す。
「人に名前を尋ねる時には、まずは自分が名乗る。それが暗黙のマナーではなかったですかね」
ベニーに言われて男性ははっとしていた。
目の前の少女は、どうやらしっかりとした教養を持っていたようだ
男性は表情を引き締め直し、改めてベニーに向き直る。
「これは失礼しました。俺は錬金術師のマーテルと申す者。改めてお嬢さんのお名前を伺ってもいいですかな」
「私はベニーといいます。現在の灯台守で、ここで一人暮らしをしています」
ベニーが答えると、マーテルは衝撃を受けていた。
「な……」
「どうかされましたか?」
言葉を失っているマーテルに、ベニーが声を掛ける。
「オンス殿ではなかったのですか、灯台守の名は……」
マーテルが口に出した名前。それは先代の灯台守であるベニーの祖父の名前だった。
迷いの森に倒れていたところから察するに、やはり祖父の死を知らなかったようである。
「オンスは私のおじいちゃんの名前ですね。非常に申し上げにくいのですが、ひと月ほど前に亡くなりました。それは突然でしたよ」
「そんな……、そんなバカな……」
訪ねてきた相手がすでに故人と知って、マーテルは衝撃のあまり言葉を失っていた。
「では、俺は何のためにここまで来たのだ……」
「お気持ちは分かります。私もおじいちゃんが死んでしばらくの間は泣き続けましたからね」
ベニーの言葉が聞こえているのか分からないくらい、マーテルは嗚咽を漏らしている。
「それと、ここまで来たのはいいですが、私はあなたのことが信用できませんので、元気になったらここから出て行ってもらいますね」
ベニーは追い打ちをかける。
「そ、そんなご無体な」
「何もただ追い出すわけじゃないですよ。私がよく使っている港町がありますので、そちらに住んでもらうだけです」
「港町?」
「はい、ここから迷いの森とは反対方向に日中の半分ほどをかけて進んだところにあるんです」
マーテルは、ベニーの言葉を黙って聞いている。
「実はあなたが気を失っている間に荷物を改めさせて頂きました。どうやら、灯台守になるためにこちらまでいらしたようですね」
「なっ、俺の荷物を勝手に?! というか、あの荷物からよく分かったものですな」
「灯台守って、不思議な力があるんですよ」
ベニーは意地悪く笑っている。
「そんなわけですので、明日港町に行きます。あなたはそこで港町に住んでもらって信用を勝ち取って下さい。おじいちゃんもよく使っていた場所ですから、私よりはおじいちゃんのお話が聞けるでしょうからね」
ベニーが笑顔でいうと、マーテルはハッとしていた。
(これは、俺は意地悪をされているのではなくて試されているのか。だったら、これはなんとしても乗り越えなば)
マーテルはぎゅっと拳を握っていた。
「それでは、今日はゆっくりと休んで体力を回復させて下さいね。明日は長旅なんですから」
ベニーはそう言って小屋を出ていったのだった。
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