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第40話 灯台守として
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マーテルと会うことを躊躇した日からも、ベニーはいつも通りの生活を続けている。
朝起きては灯を確認して、終われば朝食。
洗濯や掃除をして、迷いの森へといろんなものを採取しに向かう。
迷いの森は様々な魔物が生息しているものの、先祖代々の灯台守が頑張ってきたかいもあって、安全に狩りができる一角ウサギが生息する地域だけ利用するようになっていた。
迷いの森はその性質のせいか、場所ごとに決まった魔物が出没するらしい。魔物も迷ってしまうために、次第に生息域が魔物ごとに決まっていったらしい。なんとも不思議な話だ。
戻ってきてお昼を食べれば、薬を作ってあとはのんびり。
夕方になれば再度導の灯をチェックして、夕食を食べればあとは自由時間である。
こんな淡々とした生活を送るベニーではあるものの、楽しみはあるといえばある。
その一つが、先祖代々が残してきた知識の塊である書庫。
ここは灯台守の血と魔力のおかげか、願えば目的の書物が手元までやって来てくれる。
こんなことができたのは、おそらく初代の灯台守である魔法使いが原因だろう。自分が苦労をしてきただけに、子孫に同じ思いをさせたくなかったのだと思われる。
ベニーも幾度となく、書庫に掛けられた魔法の恩恵にあずかっている。
比較対象が港町の人間しかいないものの、住民たちと比べてみると、ベニーの発育具合はあまりいいとは言えない感じだったのだ。
特に身長はそこまで高くないので、書庫の上の方に置かれた書物は決して手が届くことがなかった。なので、本当に書庫の魔法には感謝しかないのである。
おかげで、書庫の中で有意義な時間が過ごせるのである。
まだ十三歳の少女であるベニーには、知らないことだらけなのだから。
そして、もう一つの楽しみが釣り。
釣り方は祖父から教えてもらって、それをしっかりと実践している。
まったく釣れなくても、灯台のバルコニーから見渡せる青い空と海は、ベニーにとっての生きがいだ。
灯台守という仕事をしているのは、この景色を守るためなのだから。
どこまでも見渡せる水平線と、海上を通り過ぎていく船舶。この光景さえあれば、たとえ一匹も釣れなかったとしてもベニーは満足できるのだ。
その日も、遠くに帆船が確認できていた。
動きを見ていれば、これから港町へと入港するところなのだろうと分かる。
また何か珍しいものでも荷揚げされたのだろうか。そう思うと、ベニーもはやる気持ちを抑えきれなくなりそうだった。
だけど、諦めをどうにか付けられるのは、灯台と港町の距離のおかげである。
朝一番で出かけないと、夕方には灯台に戻ってこられない。
灯台守は一日二回、朝と夕方に導の灯をチェックするという仕事がある。これはどんな時でも遂行されてきた務めゆえに、ベニーも破ることができないのだ。
時間としては食事も済ませたお昼過ぎ。
今から出かけていては戻ってくるのは翌日のお昼になってしまう。二回も灯台守の仕事をさぼってしまうことにある。
根っから真面目であるベニーには、とても耐えがたい現実なのである。
正直なところ、二回チェックを怠ったからといって、導の灯が消えるというような事態は考えにくい。
でも、何が起こるか分かったものではないのも事実。だからこそ、一日二回の灯のチェックは絶対にやめるわけにはいかないのだった。
「まあ、しばらくは港町に留まるでしょうから、明日にでも行ってみましょうかね、プルン」
「ぴぃ」
ベニーが問い掛けると、プルンは同意するかのように嬉しく鳴いていた。
翌日、港町に向かったベニーは、停泊中の帆船を確認する。
あちこちに見える特徴から、昨日沖合に見かけた帆船であることは間違いなかった。
「あれ、お嬢ちゃんどうしたんだい?」
船に近付くと、船員と思われる男性から声を掛けられる。
「はい。昨日見かけた船かなと思って確認しに来たんです」
「昨日見かけたって……。ああ、君が噂の灯台守かい?」
「え、噂のって?」
船員の言葉に思わず驚いてしまう。
「ああ、爺さんのことは残念だったな。先日ここを訪れた連中から聞いたよ。君の爺さんにはよくしてもらっていたというのに、何も恩を返せないままですまなかったな」
この船員はどうやらベニーの祖父のことをよく知っているようである。
「君が分からないのも無理はないかな。俺がここに来たのはもう十年は前の話だからね。時間に余裕があるようだったら、爺さんの話を少しくらいはしてやれるんだが、どうだろうか」
船員の話に、ベニーは興味を引かれている。
「嬉しいのですが、私は灯台守です。みなさんの安全を守るために、仕事をさぼるわけには参りません。お気持ちだけ受け取っておきます」
「そうか。まだ小さいのに立派だな。でも、あまり無理をするんじゃないぞ」
「ありがとうございます」
祖父の話を聞きたい気持ちをぐっとこらえて、ベニーは強がって見せていた。
自分の知らない祖父の話には興味があるものの、やはり使命に比べればそれほどの重要度はないのだ。
また今度でいい。
ベニーはそう考えたのだった。
今日もいつものように用事を済ませたベニーは、灯台へと戻ることにする。
港町を去る前にマーテルの住む小屋の方向をちらりと見る。先日感じた気配を今日は感じなかったので、どことなくほっとした顔をしたのだった。
このまま何もなければいい。
ベニーはそう思いながら、港町を後にしたのだった。
朝起きては灯を確認して、終われば朝食。
洗濯や掃除をして、迷いの森へといろんなものを採取しに向かう。
迷いの森は様々な魔物が生息しているものの、先祖代々の灯台守が頑張ってきたかいもあって、安全に狩りができる一角ウサギが生息する地域だけ利用するようになっていた。
迷いの森はその性質のせいか、場所ごとに決まった魔物が出没するらしい。魔物も迷ってしまうために、次第に生息域が魔物ごとに決まっていったらしい。なんとも不思議な話だ。
戻ってきてお昼を食べれば、薬を作ってあとはのんびり。
夕方になれば再度導の灯をチェックして、夕食を食べればあとは自由時間である。
こんな淡々とした生活を送るベニーではあるものの、楽しみはあるといえばある。
その一つが、先祖代々が残してきた知識の塊である書庫。
ここは灯台守の血と魔力のおかげか、願えば目的の書物が手元までやって来てくれる。
こんなことができたのは、おそらく初代の灯台守である魔法使いが原因だろう。自分が苦労をしてきただけに、子孫に同じ思いをさせたくなかったのだと思われる。
ベニーも幾度となく、書庫に掛けられた魔法の恩恵にあずかっている。
比較対象が港町の人間しかいないものの、住民たちと比べてみると、ベニーの発育具合はあまりいいとは言えない感じだったのだ。
特に身長はそこまで高くないので、書庫の上の方に置かれた書物は決して手が届くことがなかった。なので、本当に書庫の魔法には感謝しかないのである。
おかげで、書庫の中で有意義な時間が過ごせるのである。
まだ十三歳の少女であるベニーには、知らないことだらけなのだから。
そして、もう一つの楽しみが釣り。
釣り方は祖父から教えてもらって、それをしっかりと実践している。
まったく釣れなくても、灯台のバルコニーから見渡せる青い空と海は、ベニーにとっての生きがいだ。
灯台守という仕事をしているのは、この景色を守るためなのだから。
どこまでも見渡せる水平線と、海上を通り過ぎていく船舶。この光景さえあれば、たとえ一匹も釣れなかったとしてもベニーは満足できるのだ。
その日も、遠くに帆船が確認できていた。
動きを見ていれば、これから港町へと入港するところなのだろうと分かる。
また何か珍しいものでも荷揚げされたのだろうか。そう思うと、ベニーもはやる気持ちを抑えきれなくなりそうだった。
だけど、諦めをどうにか付けられるのは、灯台と港町の距離のおかげである。
朝一番で出かけないと、夕方には灯台に戻ってこられない。
灯台守は一日二回、朝と夕方に導の灯をチェックするという仕事がある。これはどんな時でも遂行されてきた務めゆえに、ベニーも破ることができないのだ。
時間としては食事も済ませたお昼過ぎ。
今から出かけていては戻ってくるのは翌日のお昼になってしまう。二回も灯台守の仕事をさぼってしまうことにある。
根っから真面目であるベニーには、とても耐えがたい現実なのである。
正直なところ、二回チェックを怠ったからといって、導の灯が消えるというような事態は考えにくい。
でも、何が起こるか分かったものではないのも事実。だからこそ、一日二回の灯のチェックは絶対にやめるわけにはいかないのだった。
「まあ、しばらくは港町に留まるでしょうから、明日にでも行ってみましょうかね、プルン」
「ぴぃ」
ベニーが問い掛けると、プルンは同意するかのように嬉しく鳴いていた。
翌日、港町に向かったベニーは、停泊中の帆船を確認する。
あちこちに見える特徴から、昨日沖合に見かけた帆船であることは間違いなかった。
「あれ、お嬢ちゃんどうしたんだい?」
船に近付くと、船員と思われる男性から声を掛けられる。
「はい。昨日見かけた船かなと思って確認しに来たんです」
「昨日見かけたって……。ああ、君が噂の灯台守かい?」
「え、噂のって?」
船員の言葉に思わず驚いてしまう。
「ああ、爺さんのことは残念だったな。先日ここを訪れた連中から聞いたよ。君の爺さんにはよくしてもらっていたというのに、何も恩を返せないままですまなかったな」
この船員はどうやらベニーの祖父のことをよく知っているようである。
「君が分からないのも無理はないかな。俺がここに来たのはもう十年は前の話だからね。時間に余裕があるようだったら、爺さんの話を少しくらいはしてやれるんだが、どうだろうか」
船員の話に、ベニーは興味を引かれている。
「嬉しいのですが、私は灯台守です。みなさんの安全を守るために、仕事をさぼるわけには参りません。お気持ちだけ受け取っておきます」
「そうか。まだ小さいのに立派だな。でも、あまり無理をするんじゃないぞ」
「ありがとうございます」
祖父の話を聞きたい気持ちをぐっとこらえて、ベニーは強がって見せていた。
自分の知らない祖父の話には興味があるものの、やはり使命に比べればそれほどの重要度はないのだ。
また今度でいい。
ベニーはそう考えたのだった。
今日もいつものように用事を済ませたベニーは、灯台へと戻ることにする。
港町を去る前にマーテルの住む小屋の方向をちらりと見る。先日感じた気配を今日は感じなかったので、どことなくほっとした顔をしたのだった。
このまま何もなければいい。
ベニーはそう思いながら、港町を後にしたのだった。
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