57 / 61
第57話 祖父からの手紙
しおりを挟む
翌日ともなれば、ベニーもすっかり良くなっていた。
階段を走って昇り降りができるくらいなのだから、もう元通りといっても過言ではないだろう。
「よし、朝のチェックも終わったし、今日は港町へ行くわよ」
「ぴぃ」
ベニーが意気込むと、プルンも同じように気合いの入った声で鳴いていた。
朝食落ち着いて食べ終えたベニーは、片付けもそこそこに出かけるための最終確認をしている。
「薬よし、素材よし、おじいちゃんの手紙よし。うん、大丈夫」
全部持ったことを確認すると、ベニーは一度灯台守の墓へとやって来る。
今日はちょっと特別な日ということで、ご先祖様たちに励ましてもらおうと思ったからだ。
「お爺ちゃん、ご先祖様。私、頑張ってきます」
しっかりと誓いを立てたベニーは、改めて港町へと向けて灯台を出発していったのだった。
いつもより少し早歩きで港町への街道を歩いていくベニー。
右手では打ち寄せる波の音が響き、海からの風がそっとベニーの頬を撫でている。
左手には森が広がっている。
先日はここではぐれた魔物に襲われているので、さすがにベニーも強く警戒している。
だが、今日の森は静かだった。
出かける前に導の灯に強く祈ったことが功を奏したのだろう。ベニーはまったく魔物に出会うことなく、港町への街道を進んでいったのだった。
少し速めの速度で歩いてきたので、今日もベニーはお昼よりだいぶ前に港へと到着している。
普段ならここで、港町に入っていくところだ。
しかし、今日は様子が違っていた。港町の入口を過ぎ去ってしまい、近くに構える騎士の詰所へとやって来た。
その理由はというと、祖父の言いつけである。
夢の中で出会った祖父とのやり取りの結果、灯台守の力を狙うマーテルに対抗するためである。
ベニーはいろいろと魔法を使えるとはいうものの、あくまでもその力は人を守るために行使されるべきだというスタンスを持っているためだ。
つまり、ベニーたち灯台守の力は、人を傷つけるためには存在していないというわけだ。
このままマーテルと対峙することになると、彼を傷つけるために力を振るわなければいけなくなる。
だが、灯台守の教えからいって、たとえ悪しきものを断罪するためだとはいっても、人を傷つけるために力を振ることはできない。だからこそ、騎士たちに対応を任せるしかないというわけである。
(お爺ちゃんは自分の手紙を渡せば大丈夫とは言っていたけれど、本当に大丈夫なのかしら)
騎士の詰所までやって来たベニーは、不安な面持ちで立っている。
だけど、このままでは再び灯台の導の灯を奪われかねないし、マーテルに捕まっていると思われる自分の父親の身が心配である。
あんな暴言を吐く人だからといっても、悪人によって利用されて死ぬかもしれないという状況を放ってはおけないのだ。なぜなら、平和を守るのが灯台守の役目なのだから。
意を決して、ベニーは騎士の詰所に踏み入れる。
「こんにちはー、どなたかいらっしゃいませんか?」
おそるおそる声を掛けるものの、今日も警邏に出かけているのか人の気配を感じられない。
「おや、灯台守殿ではないですか」
誰もいないと思って外に出ようとした時、聞いたことのある声がベニーに向かって掛けられる。
くるりと振り返ると、やっぱり先日応対してくれた男性が立っていた。
「どうなさったのですか、こんなところまでやって来て」
きょとんとした表情でベニーのことを見ている。
「あ、ちょうどよかった。これを、亡くなった祖父から手紙を預かってきました。何も聞かないで、この手紙に書いてあることをして下さい」
「え?」
ベニーがどこからともなく手紙を取り出して、男性へと押し付けていた。
手紙を押し付けられた男性は、困惑した様子でベニーを見ている。
「おーい、今戻ったぞ」
外から別の男性の声が聞こえてくる。
「あっ、隊長! ちょうどいいところに戻ってこられました。ちょっと来て下さい」
男性が戻ってきた人物を大声で呼んでいる。
しばらくすると、戻ってきた人物が顔を出した。
「あっ、ペンソンさん」
「おや、ベニーちゃんじゃないか。どうしたんだい?」
姿を見せたのは、祖父の弔いに灯台までやって来ていた団長のペンソンだった。
なぜ騎士団長がこんなところにいるのだろうか。ベニーは目を白黒させている。
だけど、今はそんなことはどうでもいいと、さっきから手に持っている手紙をペンソンへと差し出す。
「ペンソンさん、これをどうぞ。お爺ちゃんからの手紙です」
「先代の灯台守からの? いや、亡くなられたのではなかったのですかな?」
ペンソンが驚いているものの、ベニーはとにかく祖父から預かった手紙を無理やり押し付けている。
ことは急を要するのだから、もう無駄なやり取りを避けたいのだ。
「わ、わわ、分かりました。とりあえずこの手紙を読んで、その内容に従えばいいのですね」
「はい、そのようにお願いします。人の命がかかっているんです。早くお願いします」
両手の拳を握りしめたベニーが、真剣な表情をペンソンに向けている。
「わ、分かった。今から読めばいいのだね。ギリー、すまないがベニーちゃんの相手をしておいておくれ」
「はっ、承知致しました」
ペンソンが手紙を読む間、ベニーは詰所の中で待機することとなった。
夢の中で祖父が認めてくれた手紙は、事態を動かすことができるのか、ベニーはそわそわしながらペンソンの様子を見守るのだった。
階段を走って昇り降りができるくらいなのだから、もう元通りといっても過言ではないだろう。
「よし、朝のチェックも終わったし、今日は港町へ行くわよ」
「ぴぃ」
ベニーが意気込むと、プルンも同じように気合いの入った声で鳴いていた。
朝食落ち着いて食べ終えたベニーは、片付けもそこそこに出かけるための最終確認をしている。
「薬よし、素材よし、おじいちゃんの手紙よし。うん、大丈夫」
全部持ったことを確認すると、ベニーは一度灯台守の墓へとやって来る。
今日はちょっと特別な日ということで、ご先祖様たちに励ましてもらおうと思ったからだ。
「お爺ちゃん、ご先祖様。私、頑張ってきます」
しっかりと誓いを立てたベニーは、改めて港町へと向けて灯台を出発していったのだった。
いつもより少し早歩きで港町への街道を歩いていくベニー。
右手では打ち寄せる波の音が響き、海からの風がそっとベニーの頬を撫でている。
左手には森が広がっている。
先日はここではぐれた魔物に襲われているので、さすがにベニーも強く警戒している。
だが、今日の森は静かだった。
出かける前に導の灯に強く祈ったことが功を奏したのだろう。ベニーはまったく魔物に出会うことなく、港町への街道を進んでいったのだった。
少し速めの速度で歩いてきたので、今日もベニーはお昼よりだいぶ前に港へと到着している。
普段ならここで、港町に入っていくところだ。
しかし、今日は様子が違っていた。港町の入口を過ぎ去ってしまい、近くに構える騎士の詰所へとやって来た。
その理由はというと、祖父の言いつけである。
夢の中で出会った祖父とのやり取りの結果、灯台守の力を狙うマーテルに対抗するためである。
ベニーはいろいろと魔法を使えるとはいうものの、あくまでもその力は人を守るために行使されるべきだというスタンスを持っているためだ。
つまり、ベニーたち灯台守の力は、人を傷つけるためには存在していないというわけだ。
このままマーテルと対峙することになると、彼を傷つけるために力を振るわなければいけなくなる。
だが、灯台守の教えからいって、たとえ悪しきものを断罪するためだとはいっても、人を傷つけるために力を振ることはできない。だからこそ、騎士たちに対応を任せるしかないというわけである。
(お爺ちゃんは自分の手紙を渡せば大丈夫とは言っていたけれど、本当に大丈夫なのかしら)
騎士の詰所までやって来たベニーは、不安な面持ちで立っている。
だけど、このままでは再び灯台の導の灯を奪われかねないし、マーテルに捕まっていると思われる自分の父親の身が心配である。
あんな暴言を吐く人だからといっても、悪人によって利用されて死ぬかもしれないという状況を放ってはおけないのだ。なぜなら、平和を守るのが灯台守の役目なのだから。
意を決して、ベニーは騎士の詰所に踏み入れる。
「こんにちはー、どなたかいらっしゃいませんか?」
おそるおそる声を掛けるものの、今日も警邏に出かけているのか人の気配を感じられない。
「おや、灯台守殿ではないですか」
誰もいないと思って外に出ようとした時、聞いたことのある声がベニーに向かって掛けられる。
くるりと振り返ると、やっぱり先日応対してくれた男性が立っていた。
「どうなさったのですか、こんなところまでやって来て」
きょとんとした表情でベニーのことを見ている。
「あ、ちょうどよかった。これを、亡くなった祖父から手紙を預かってきました。何も聞かないで、この手紙に書いてあることをして下さい」
「え?」
ベニーがどこからともなく手紙を取り出して、男性へと押し付けていた。
手紙を押し付けられた男性は、困惑した様子でベニーを見ている。
「おーい、今戻ったぞ」
外から別の男性の声が聞こえてくる。
「あっ、隊長! ちょうどいいところに戻ってこられました。ちょっと来て下さい」
男性が戻ってきた人物を大声で呼んでいる。
しばらくすると、戻ってきた人物が顔を出した。
「あっ、ペンソンさん」
「おや、ベニーちゃんじゃないか。どうしたんだい?」
姿を見せたのは、祖父の弔いに灯台までやって来ていた団長のペンソンだった。
なぜ騎士団長がこんなところにいるのだろうか。ベニーは目を白黒させている。
だけど、今はそんなことはどうでもいいと、さっきから手に持っている手紙をペンソンへと差し出す。
「ペンソンさん、これをどうぞ。お爺ちゃんからの手紙です」
「先代の灯台守からの? いや、亡くなられたのではなかったのですかな?」
ペンソンが驚いているものの、ベニーはとにかく祖父から預かった手紙を無理やり押し付けている。
ことは急を要するのだから、もう無駄なやり取りを避けたいのだ。
「わ、わわ、分かりました。とりあえずこの手紙を読んで、その内容に従えばいいのですね」
「はい、そのようにお願いします。人の命がかかっているんです。早くお願いします」
両手の拳を握りしめたベニーが、真剣な表情をペンソンに向けている。
「わ、分かった。今から読めばいいのだね。ギリー、すまないがベニーちゃんの相手をしておいておくれ」
「はっ、承知致しました」
ペンソンが手紙を読む間、ベニーは詰所の中で待機することとなった。
夢の中で祖父が認めてくれた手紙は、事態を動かすことができるのか、ベニーはそわそわしながらペンソンの様子を見守るのだった。
7
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる