少女の水平線

未羊

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第58話 父親を助け出せ

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 ペンソンはベニーから渡された祖父の手紙にしっかりと目を通している。
 すべてを読み終わった時、思わず大きなため息をついていた。

「マーテルといえば、最近この港町に住みついた錬金術師だったか。本当にそんな危険な人物なのかね」

 ペンソンはベニーに尋ねている。
 だが、それに答えたのはベニーではなくギリーと呼ばれた男性だった。

「危険かどうかは分かりませんが、港町の外れに住んでいて、滅多に顔を出さないそうです。あまりにも交流がなくて、町の人たちもかなり怖がっているそうですよ」

「ふむ……」

 ギリーの証言を聞いて、ペンソンは唸っているようだ。
 行動の怪しい錬金術師、消えた灯台守の一族。そこにこのベニーの祖父の手紙だ。
 ペンソンは悩み抜いた末、結論を出す。

「よし、ギリー。すぐに人を集めろ。マーテルという錬金術師の家に調査に向かうぞ」

「はっ。警邏に向かった騎士を何人か呼び戻してきます」

 バタバタとギリーが詰所を出ていった。

「ベニーちゃん、父君のことはつらいかもしれないが、必ず見つけてみせよう」

「はい、お願いします」

 ベニーはペンソンに頭を下げていた。

「ぴぃ!」

「えっ、プルン?」

 話がまとまると、プルンが突然鳴き始めた。

「プルンも手伝ってくるって? 大丈夫なの?」

「ぴぃ」

 プルンは気合いを示すようにその場で何度も飛び跳ねている。
 やる気十分のプルンの姿を見て、ベニーは表情を引き締める。

「分かったわ。プルン、補助をお願いね」

「ぴぃ!」

 話を終えたベニーは、すべてを騎士たちに任せて灯台に戻らざるを得なかった。
 いくら気になることがあったとしても、ちゃんと一日二度のチェックを無視することはできないのだ。
 自分を優先させてしまえば、多くの人を危険にさらしてしまう。多くの人というのは自分も含まれる可能性が高いからので、灯台守の仕事は最優先となるわけである。

「どうか、みなさん、無事でありますように」

 ベニーは祈るような気持ちで灯台へと戻っていった。

 灯台へと戻ったベニーは、ハッとしていた。
 プルンがいない生活は、とても久しぶりだったからだ。
 肩の上で「ぴぃ、ぴぃ」と鳴くプルンは、今頃はマーテル捕縛作戦に協力しているはずなのだ。

(プルンのいない左肩って、こんなに軽かったんだ……)

 あまり重さを感じないプルンではあるのだが、いつもいる場所にいなくて、聞こえる声が聞こえてこないだけでも、ずいぶんと左肩の感覚が違っていた。
 それだけベニーの生活に、プルンという存在が溶け込んでいたのだろう。

「みんな、無事かしらね」

 港町の方を眺めながら、ベニーは心配そうに眺めていた。

 ―――

 同時刻の港町。
 マーテルの小屋を囲みこむように、騎士団が配置されている。
 相手は錬金術師。ただで済むとは思えないのでこの布陣なのである。

「魔法を使える奴は、せめて手足をすぐに縛り上がてくれ。最悪口だけで発動はできるかもしれんが、身動きを封じるのが最優先だ」

「はっ!」

 ペンソンの指示に、騎士が返事をする。
 情報によれば、マーテルは夕方の時間だけ外に出るらしい。ペンソンたちはその瞬間を狙ってマーテルを押さえようというわけである。
 ただし、そのためにはベニーの父親を監禁しているという事実が必要だ。
 なので、まずはマーテルが出掛けていき、小屋が不在になる瞬間を狙う。
 しばらく待っていると、小屋の扉が開いてマーテルが出てくる。全身をローブで隠したその姿は、見るからに怪しさ満点である。
 やがてマーテルが見えなくなると、ペンソンたちは見張りを配置すると小屋の中へと突入しようとする。
 ところが、中に踏み込もうとした時だった。

「かはっ!」

 見えない壁で弾き返されてしまった。

「団長、見えない壁があります」

「くそっ、入られることを見越して、障壁を仕掛けていったのか。これはますます怪しいぞ」

 尻餅をついたペンソンが起き上がる。
 確かに扉のところには見えない壁がある。

「ぴぃっ!」

 その時、プルンが大きな声で鳴く。そして、すぐさま扉へと突撃していく。
 バシンという音がして、扉に張られた障壁が消えてしまった。

「おお、これはすごい。プルン、まだ大丈夫か?」

「ぴぃ!」

 大丈夫といわんばかりに何度も大きく飛び跳ねている。

「よし、障壁はプルンに任せて、中へと踏み込むぞ。プルン、踏まれてはいかんから、私の肩に乗れ」

「ぴぃ」

 大きく飛び跳ねて、プルンはペンソンの肩に乗っかる。
 数名の騎士が小屋の中を捜索する。中はそれほど広くはないので、すぐに目的の人物は見つかるかと思われた。
 ところが、どこを見てもその姿はない。あちこちすべてを探したのに、どうしたのだろうか。

「なぜだ。なぜ、この広さで見つからない。どこか見落としたか?」

 ペンソンが唇をかみしめている。
 その様子を見ていたプルンが、再び鳴き始める。

「プルン、どうした」

「ぴぃ」

 ペンソンの肩から飛び降りて、部屋の中にあったベッドの下を示している。
 だが、そこは先程見ても何もなかった場所だ。ペンソンはそんなバカなと思って、部下と一緒にベッドをどけさせる。
 やはり何もない。だまされたかと思った次の瞬間、プルンがぴょんと何もない場所に飛び移る。

 バチン!

 先程と同じようにものすごい音がする。空間が歪みだし、じわじわと何かの姿が見え始めてきた。

「こ、これは……」

 そこに現れたのは、ベニーから渡された手紙に書かれていた特徴に一致する人物だった。

「みーたーなー?」

 部屋の外から声が聞こえてくる。
 ペンソンが振り返ると、そこにいたのは出かけたはずのマーテルだった。
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