魔境の宿屋さん【リメイク】

未羊

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第四章 悪魔、広い世界を知る

154泊目 北の聖女、魔物と触れ合う

 フォスから話を聞かされたポーラは、更なる理解を深めようと、アサーナたちにさらに詰め寄っていた。

「あの、スプリンターたち、魔物についてお聞きしてもよろしいでしょうか」

 ポーラの真剣なお願いを聞いて、アサーナはそのお願いを聞き入れることにした。
 お昼からは、宿の飼育小屋を案内する。
 ちょうどセミルもお世話があるので、それについていってもらうことにしたのだが、セミルの負担も大きいだろうということで、アサーナもついていっている。

「えっと、こちらが魔物の飼育小屋ですね」

 相手は北の聖女ということで、セミルは緊張しながら飼育小屋を紹介している。
 セミルの声を聞きながら、目の前の光景にポーラはとても驚いていた。なにせ、恐ろしい相手だという風に聞かされている魔物たちがいるのだから。
 そこには、宿に着いた時にちらっと聞いていた魔物である、ヘルファイアハウンドやホーンラビットがいるのである。
 ところが、そんな恐ろしい魔物だというのに、セミルが近付くと嬉しそうに駆け寄ってじゃれついている。その光景は、ポーラにしてみれば信じられないものでしかない。

「うそでしょ……」

 セミルに体を擦りつけているその姿は、実際に見てみても驚くしかなかった。

「まったくすごいわよね。セミルさんにはテイマーの素質があるみたいで、その関係で魔物たちがとても懐いているのよ」

「そうなのですか。なんということなのでしょうか……」

 ポーラは開いた口が塞がらないようである。

「この子たちは、こちらから攻撃しないことには襲い掛かることもないので、よかったら撫でてみるかしら」

「わ、私は聖女です。ま、魔物に触れるなどそんな……」

「ここまでスプリンターに乗ってきておきながら、今さらだと思うけれどね」

「あうっ……」

 必死に首を左右に振って断ろうとするポーラだったが、しっかりとアサーナから指摘されてしまって言葉を失っていていた。
 こうも冷静に事実を指摘されてしまえば、ポーラにはもはや断る理由など存在していなかった。
 諦めたポーラは、まずはホーンラビットに対して手を伸ばしている。

「聖女様、お気を付けください」

 護衛たちが注意をするのも無理はない。
 ホーンラビットは額から伸びた角で相手を攻撃する性質がある。ところが、目の前のホーンラビットは、聖女であるはずのポーラの手にまったく動じていなかった。
 気が付けば、ポーラの手はホーンラビットにしっかりと触れているのだ。

「うわぁ……、ふかふかですね」

 あまりの手触りに、ポーラはにこやかにホーンラビットを撫でまわしている。
 ホーンラビットはまったく嫌な気がしていないらしく。おとなしくポーラに撫でられていた。
 そのあまりの気持ちよさを眺めていた他の魔物たちが、じりじりとポーラに迫っていく。気が付くと、ポーラは魔物たちに囲まれていた。

「ひっ!」

 囲まれていることに気が付いたポーラは、思わず声を上げてしまう。

「あーあ、自分たちも撫でてもらいたくて近づいてきちゃったみたいね」

 武器を構えようとする護衛たちを制し、アサーナは苦笑いで反応している。
 驚いて周りを見ているポーラだったが、あまりにもきれいな毛並みの魔物を見て、さらに驚いている。

「ちょっと待って下さい。これはムーンウルフではないですか」

 一発で魔物の名前を言い当てていた。

「その隣にいるヘルファイアハウンドっていう魔物と同一なんですよ。ムーンウルフが瘴気を取り込んで毒性を持ったのが、ヘルファイアハウンドだったというわけなんです」

「なんですって!? どうして、このようなことに……」

 驚きながらもアサーナが説明すると、ポーラもとても驚いていた。

「名前をご存じなら、理由も知っていると思うのですけれどね。その昔、乱獲にあっていたようで、自分の身を守ろうとして瘴気を自ら取り込み、ヘルファイアハウンドとなったそうですよ」

「そんなことがあったのですか……。なんと可哀想なのでしょうか」

 ムーンウルフを見ながら、ポーラは涙を浮かべている。
 どういうことなのか護衛に確認をしてみると、どうやら北の教会ではムーンウルフはその美しさから信仰の対象になっているらしい。絶滅したという現実から半ば神格化していたのではないかと推測される。
 ところがだ、事態をややこしくさせているのが、ヘルファイアハウンドの魔物としての恐ろしさだ。爪や牙にやられれば苦しんで死に至るという魔物ということで、信仰の対象である魔物と同一だという事実が、ポーラに複雑な気持ちを抱かせているようなのだ。

「これは……、この事実は伏せておいた方がよいでしょうね」

「まあ、あたしはその方がいいと思うわよ。印象が相反する二種類の魔物が、同一だなんて、誰が受け入れられるかと思うからね」

 ムーンウルフとヘルファイアハウンドが同一であるということは、ポーラと護衛たちだけの秘密にしておくという結論に至ったようだった。
 さすがに教会の信者たちの反発が予想されるというものである。北の教会のトップであるポーラからすれば、当然の措置だろう。

 その後も、魔物たちと触れ合ったポーラは、それはとても満足そうに宿に戻っていったのだった。
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