154 / 188
第四章 悪魔、広い世界を知る
154泊目 北の聖女、魔物と触れ合う
フォスから話を聞かされたポーラは、更なる理解を深めようと、アサーナたちにさらに詰め寄っていた。
「あの、スプリンターたち、魔物についてお聞きしてもよろしいでしょうか」
ポーラの真剣なお願いを聞いて、アサーナはそのお願いを聞き入れることにした。
お昼からは、宿の飼育小屋を案内する。
ちょうどセミルもお世話があるので、それについていってもらうことにしたのだが、セミルの負担も大きいだろうということで、アサーナもついていっている。
「えっと、こちらが魔物の飼育小屋ですね」
相手は北の聖女ということで、セミルは緊張しながら飼育小屋を紹介している。
セミルの声を聞きながら、目の前の光景にポーラはとても驚いていた。なにせ、恐ろしい相手だという風に聞かされている魔物たちがいるのだから。
そこには、宿に着いた時にちらっと聞いていた魔物である、ヘルファイアハウンドやホーンラビットがいるのである。
ところが、そんな恐ろしい魔物だというのに、セミルが近付くと嬉しそうに駆け寄ってじゃれついている。その光景は、ポーラにしてみれば信じられないものでしかない。
「うそでしょ……」
セミルに体を擦りつけているその姿は、実際に見てみても驚くしかなかった。
「まったくすごいわよね。セミルさんにはテイマーの素質があるみたいで、その関係で魔物たちがとても懐いているのよ」
「そうなのですか。なんということなのでしょうか……」
ポーラは開いた口が塞がらないようである。
「この子たちは、こちらから攻撃しないことには襲い掛かることもないので、よかったら撫でてみるかしら」
「わ、私は聖女です。ま、魔物に触れるなどそんな……」
「ここまでスプリンターに乗ってきておきながら、今さらだと思うけれどね」
「あうっ……」
必死に首を左右に振って断ろうとするポーラだったが、しっかりとアサーナから指摘されてしまって言葉を失っていていた。
こうも冷静に事実を指摘されてしまえば、ポーラにはもはや断る理由など存在していなかった。
諦めたポーラは、まずはホーンラビットに対して手を伸ばしている。
「聖女様、お気を付けください」
護衛たちが注意をするのも無理はない。
ホーンラビットは額から伸びた角で相手を攻撃する性質がある。ところが、目の前のホーンラビットは、聖女であるはずのポーラの手にまったく動じていなかった。
気が付けば、ポーラの手はホーンラビットにしっかりと触れているのだ。
「うわぁ……、ふかふかですね」
あまりの手触りに、ポーラはにこやかにホーンラビットを撫でまわしている。
ホーンラビットはまったく嫌な気がしていないらしく。おとなしくポーラに撫でられていた。
そのあまりの気持ちよさを眺めていた他の魔物たちが、じりじりとポーラに迫っていく。気が付くと、ポーラは魔物たちに囲まれていた。
「ひっ!」
囲まれていることに気が付いたポーラは、思わず声を上げてしまう。
「あーあ、自分たちも撫でてもらいたくて近づいてきちゃったみたいね」
武器を構えようとする護衛たちを制し、アサーナは苦笑いで反応している。
驚いて周りを見ているポーラだったが、あまりにもきれいな毛並みの魔物を見て、さらに驚いている。
「ちょっと待って下さい。これはムーンウルフではないですか」
一発で魔物の名前を言い当てていた。
「その隣にいるヘルファイアハウンドっていう魔物と同一なんですよ。ムーンウルフが瘴気を取り込んで毒性を持ったのが、ヘルファイアハウンドだったというわけなんです」
「なんですって!? どうして、このようなことに……」
驚きながらもアサーナが説明すると、ポーラもとても驚いていた。
「名前をご存じなら、理由も知っていると思うのですけれどね。その昔、乱獲にあっていたようで、自分の身を守ろうとして瘴気を自ら取り込み、ヘルファイアハウンドとなったそうですよ」
「そんなことがあったのですか……。なんと可哀想なのでしょうか」
ムーンウルフを見ながら、ポーラは涙を浮かべている。
どういうことなのか護衛に確認をしてみると、どうやら北の教会ではムーンウルフはその美しさから信仰の対象になっているらしい。絶滅したという現実から半ば神格化していたのではないかと推測される。
ところがだ、事態をややこしくさせているのが、ヘルファイアハウンドの魔物としての恐ろしさだ。爪や牙にやられれば苦しんで死に至るという魔物ということで、信仰の対象である魔物と同一だという事実が、ポーラに複雑な気持ちを抱かせているようなのだ。
「これは……、この事実は伏せておいた方がよいでしょうね」
「まあ、あたしはその方がいいと思うわよ。印象が相反する二種類の魔物が、同一だなんて、誰が受け入れられるかと思うからね」
ムーンウルフとヘルファイアハウンドが同一であるということは、ポーラと護衛たちだけの秘密にしておくという結論に至ったようだった。
さすがに教会の信者たちの反発が予想されるというものである。北の教会のトップであるポーラからすれば、当然の措置だろう。
その後も、魔物たちと触れ合ったポーラは、それはとても満足そうに宿に戻っていったのだった。
「あの、スプリンターたち、魔物についてお聞きしてもよろしいでしょうか」
ポーラの真剣なお願いを聞いて、アサーナはそのお願いを聞き入れることにした。
お昼からは、宿の飼育小屋を案内する。
ちょうどセミルもお世話があるので、それについていってもらうことにしたのだが、セミルの負担も大きいだろうということで、アサーナもついていっている。
「えっと、こちらが魔物の飼育小屋ですね」
相手は北の聖女ということで、セミルは緊張しながら飼育小屋を紹介している。
セミルの声を聞きながら、目の前の光景にポーラはとても驚いていた。なにせ、恐ろしい相手だという風に聞かされている魔物たちがいるのだから。
そこには、宿に着いた時にちらっと聞いていた魔物である、ヘルファイアハウンドやホーンラビットがいるのである。
ところが、そんな恐ろしい魔物だというのに、セミルが近付くと嬉しそうに駆け寄ってじゃれついている。その光景は、ポーラにしてみれば信じられないものでしかない。
「うそでしょ……」
セミルに体を擦りつけているその姿は、実際に見てみても驚くしかなかった。
「まったくすごいわよね。セミルさんにはテイマーの素質があるみたいで、その関係で魔物たちがとても懐いているのよ」
「そうなのですか。なんということなのでしょうか……」
ポーラは開いた口が塞がらないようである。
「この子たちは、こちらから攻撃しないことには襲い掛かることもないので、よかったら撫でてみるかしら」
「わ、私は聖女です。ま、魔物に触れるなどそんな……」
「ここまでスプリンターに乗ってきておきながら、今さらだと思うけれどね」
「あうっ……」
必死に首を左右に振って断ろうとするポーラだったが、しっかりとアサーナから指摘されてしまって言葉を失っていていた。
こうも冷静に事実を指摘されてしまえば、ポーラにはもはや断る理由など存在していなかった。
諦めたポーラは、まずはホーンラビットに対して手を伸ばしている。
「聖女様、お気を付けください」
護衛たちが注意をするのも無理はない。
ホーンラビットは額から伸びた角で相手を攻撃する性質がある。ところが、目の前のホーンラビットは、聖女であるはずのポーラの手にまったく動じていなかった。
気が付けば、ポーラの手はホーンラビットにしっかりと触れているのだ。
「うわぁ……、ふかふかですね」
あまりの手触りに、ポーラはにこやかにホーンラビットを撫でまわしている。
ホーンラビットはまったく嫌な気がしていないらしく。おとなしくポーラに撫でられていた。
そのあまりの気持ちよさを眺めていた他の魔物たちが、じりじりとポーラに迫っていく。気が付くと、ポーラは魔物たちに囲まれていた。
「ひっ!」
囲まれていることに気が付いたポーラは、思わず声を上げてしまう。
「あーあ、自分たちも撫でてもらいたくて近づいてきちゃったみたいね」
武器を構えようとする護衛たちを制し、アサーナは苦笑いで反応している。
驚いて周りを見ているポーラだったが、あまりにもきれいな毛並みの魔物を見て、さらに驚いている。
「ちょっと待って下さい。これはムーンウルフではないですか」
一発で魔物の名前を言い当てていた。
「その隣にいるヘルファイアハウンドっていう魔物と同一なんですよ。ムーンウルフが瘴気を取り込んで毒性を持ったのが、ヘルファイアハウンドだったというわけなんです」
「なんですって!? どうして、このようなことに……」
驚きながらもアサーナが説明すると、ポーラもとても驚いていた。
「名前をご存じなら、理由も知っていると思うのですけれどね。その昔、乱獲にあっていたようで、自分の身を守ろうとして瘴気を自ら取り込み、ヘルファイアハウンドとなったそうですよ」
「そんなことがあったのですか……。なんと可哀想なのでしょうか」
ムーンウルフを見ながら、ポーラは涙を浮かべている。
どういうことなのか護衛に確認をしてみると、どうやら北の教会ではムーンウルフはその美しさから信仰の対象になっているらしい。絶滅したという現実から半ば神格化していたのではないかと推測される。
ところがだ、事態をややこしくさせているのが、ヘルファイアハウンドの魔物としての恐ろしさだ。爪や牙にやられれば苦しんで死に至るという魔物ということで、信仰の対象である魔物と同一だという事実が、ポーラに複雑な気持ちを抱かせているようなのだ。
「これは……、この事実は伏せておいた方がよいでしょうね」
「まあ、あたしはその方がいいと思うわよ。印象が相反する二種類の魔物が、同一だなんて、誰が受け入れられるかと思うからね」
ムーンウルフとヘルファイアハウンドが同一であるということは、ポーラと護衛たちだけの秘密にしておくという結論に至ったようだった。
さすがに教会の信者たちの反発が予想されるというものである。北の教会のトップであるポーラからすれば、当然の措置だろう。
その後も、魔物たちと触れ合ったポーラは、それはとても満足そうに宿に戻っていったのだった。
あなたにおすすめの小説
世界のはしっこ、灯りの宿
あめとおと
ファンタジー
世界の端に、地図に載らない小さな宿がある。
そこへ辿り着けるのは、
旅に疲れた人、居場所を失った人、
そして――少しだけ立ち止まりたくなった人だけ。
宿の決まりは三つ。
滞在は三日まで。
名前を名乗らなくてもいい。
出発の日、灯りをひとつ置いていくこと。
宿を守るのは、無口な管理人リノ。
彼女はただ食事を出し、話を聞き、見送るだけ。
救うわけでも、答えを与えるわけでもない。
けれど訪れた人々は、帰る頃にはほんの少し前を向いている。
元勇者の青年。
魔法を怖がる少女。
それぞれの「終わりかけた物語」が、静かに動き出す。
これは、終わりの場所ではない。
また歩き出すための、途中の宿の物語。
本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます
青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。
藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。
溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。
その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。
目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。
前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。
リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。
アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。
当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。
そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。
ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。
彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。
やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。
これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。
異世界で 友達たくさん できました ~気づいた時には 人脈チート~
やとり
ファンタジー
異世界に突然迷い込んだ主人公は、目の前にいた人物に何故かぶぶ漬け(お茶漬け)を勧められる。
そして、自身を神の補佐である天使というその人物(一応美少女)に、異世界について教わることに。
それから始まった異世界での生活は、様々な種族や立場の(個性的な)人に出会ったり、魔界に連れていかれたり、お城に招待されたり……。
そんな中、果たして主人公はどのような異世界生活を送るのだろうか。
異世界に迷い込んだ主人公が、現地の様々な人と交流をしたり、一緒に何かを作ったり、問題をなんとかしようと考えたりするお話です。
山も谷も大きくなく、話の内容も比較的のんびり進行です。
現在は火曜日と土曜日の朝7時半に投稿予定です。
感想等、何かありましたら気軽にコメントいただけますと嬉しいです!
※カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様にも投稿しています
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る
りーさん
ファンタジー
アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。
その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。
そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。
その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。
虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!
竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。
でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。
何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。
王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。
僕は邪魔なんだよね。分かってる。
先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。
そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。
だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。
僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。
従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。
だけど、みんな知らなかったんだ。
僕がいなくなったら困るってこと…。
帰ってきてくれって言われても、今更無理です。
2026.03.30 内容紹介一部修正
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
転生少年は、魔道具で貧乏領地を発展させたい~アイボウと『ジョウカ魔法』で恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
男(30歳)は、仕事中に命を落とし異世界へ転生する。
捨て子となった男は男爵親子に拾われ、養子として迎えられることになった。
前世で可愛がっていた甥のような兄と、命を救ってくれた父のため、幼い弟は立ち上がる。
魔道具で、僕が領地を発展させる!
これは、家族と領地のために頑張る男(児)の物語。