人が折角パーティーの中核を担っていたのに、それを一方的に追い出した勇者。間違っていたと気付くも後の祭り ~とかいう都合の良いたわけた妄想~

こまの ととと

文字の大きさ
9 / 9

第9話 勇者の野望とは?

しおりを挟む
 何事も無く依頼を達成した俺達はその後、坑道の入り口でラティと別れギルドへと意気揚々と帰るのであった。
 外はもう夕暮れ。ちと肌寒さも感じる時間だな、季節的に。

「で、どうよ? 初めての冒険者の仕事ってヤツはよ? 俺程のベテランがついていてお前ラッキーだぜ。一人じゃ、もう無理~って言って泣きながらションベン漏らす羽目になったかもしれないんだからよ」

「んなワケないでしょうが。まあ、色々大変だったけど……、悪くはなかったかな」

「ほほう、中々素直じゃないか」

「アンタに褒められると正直ムカつくわ。だけどまぁ、アンタのお陰でこうして生きて帰れてるわけだし。そこは感謝してるっていうか……」

「ああん? 全然聞こえねーなぁ? もっと大きな声で、ありがたみを目いっぱいに含んで感謝の言葉を」

「調子にノるんじゃない!」

「痛っ。ぼ、暴力はよくない」

 はたかれた頭をさすりつつ、俺は思う。
 最初はただの生意気なヤツにしか見えなかったが、ラゼクというこの女の事を少しだけ見直した気がするぞ。
 ちょっとしたアクシデントはあったが、初のパーティプレイで得たモノは多い。はずだ。
 今回に関して言えば妥協点をくれてやらん事もない。

 俺は持っていた写真をラゼクに盗られ、出来を確認する奴を横目にそんな事を思った。


 ◇◇◇


 その夜の事。
 勇者パーティ、新拠点にて。

 教会での仕事を終えたラティーレンは、帰ってきて早々、リーダーであるティリートにある報告を行った。

「ティリちん、今日エレぴに会ったよ」

「! そ、そうかい。……彼は、あぁ……そのどんな様子だったのかな? まあ一応元パーティーメンバーだし、幼馴染だし。一応聞いておくのもぉ、悪くないような……」

 その報告はティリートにとって是が非でも聞きたかった事であり、表立って聞きにくい事であり、とにかくつい焦ってしまうような話であるのは間違いがない。

「ん~いつも通りだったよ? やっぱ昔っから変わんないねエレぴは」

「ふ、ふうん? そうなんだ……。ま、彼の場合! あの図太い性格だからどこへ行ってもそれなりに頑張って行けるだろうし。このパーティー程じゃないにしろ活躍も見込め……、なくもないんじゃないかな? ただ、あの性格だから結局メンバーと反発し合うかもしれないね。その時、少しは反省するかもしれないから、そうなったら声を掛けるのもやぶさかじゃあ……」

 いつも通り、という報告を聞き内心ほっとしたティリートは、余裕を取り戻してついエレトレッダに対する第三者としての評価を口にするが……。次の瞬間には、驚きを隠せないものがあった。

「あ、それと可愛い女の子連れてた。今はコンビってる感じ、結構お似合いかも」

「!?!?!? それはもしかして胸の大きい……!」

 別れた男が可愛い女の子を連れて歩いている。それはティリートにとって衝撃そのものであり、どうしてもある一点について言及しなければ気が済まなかったのだ。

「安心! あーしとどっこい」

「そ、そうかい……。ま、まあ彼はすごく失礼な男だからね。普通の女の子じゃすぐに愛想をつかされるだろう、うん」

「そうかもね。普通の女の子だったらエレぴと付き合おうなんて思わないっしょ。だってエレぴってばオープンおっぱい星人なんだもん」

 エレトレッダが巨乳好きというのは有名な話で、そのせいでメンバー全体が被害を被ったことも一度や二度ではない。彼を追放したのもそれに起因するのだから。

 ……本当に追放したかったかは置いておいて。

「う、うん。そうだよね。普通はそんな男の人なんて願い下げだろう。今はお似合いに見えるのかもしれないが、彼のあの性格だ女性の方から嫌気が刺してパーティを解散される事間違いないな。うん、たぶん……。いや、きっとそう!」

「ティリちん?」

 どこか自分を納得させるかのようにそう言い放つティリートに対し、ラティーレンは怪しげな視線を向ける。
 だが、当の本人はそれに気づかず、一人考え込んでいた。

(はは、何を焦っているんだボクは? 彼のあの性格は長い目で見なければ付き合いきれるものじゃない。そんな一日二日の付き合いなんて、それだけで終わるだろう。その時! 彼がどうしても泣きついてくるのであれば、仕方なく受け入れてあげようじゃないか!)

 追い出して本人であるにも関わらず、実のところティリートは本気でエレトレッダを毛嫌いしているというわけでも無く、その性格や癖の矯正に失敗した結果として出て行かれただけで、戻ってくるのであれば受け入れるつもりであった。


『やっぱ俺、ココじゃなきゃダメみたいだ。お前たちとじゃなきゃ……。また俺と一緒パーティを、いや! お前と一緒に行きたい!』

『ふぅ、全く仕方がないなキミは。いつもつまらない世話を掛けさせてくれて、まあこれも幼馴染としての宿命というか……。付いてくるのであれば好きにするといい』

『ありがとう! やっぱりどんなヤツよりもお前とのコンビが最高だぜ!』

『ふぅ、やれやれ……』


「フ、フフ……」

「え? 何? ど、どったんティリちん?」

 思わず妄想にふけ込み、つい笑みが零れる。それに気づく事なくラティーレンに心配されてしまうティリート。

 実のところ、このパーティには秘密があった。追放されたエレトレッダだけが知らない秘密。
 それはリーダーであり、幼馴染でもあるティリートの正体が男装の麗人であるという事。

 長年の秘密、というわけでは無かったのだが、その女性にしては高い背丈と恰好に中性的で美しい顔立ちと何より胸がほぼ無い故に勘違いした女性にモテてしまい、それを見たエレトレッダが勝手に男性であると認識して嫉妬していたのである。
 関係が崩れるのを恐れ、なんだかんだで十数年間も言い出せずにいたのである。

 本人は気づいてはいないが、嫉妬しやすい性格をしており、エレトレッダが女性と仲良く会話をしているだけでもヤキモキしてしまう。
 幸い、彼の好きなタイプである胸の大きい女性からは過剰なアプローチの為に嫌われやすい。だからこそ今まで安心している面があった。
 だが、自分の手元を離れてしまい。もし、万が一彼を受け入れてくれる巨乳の女性が現れたらと気が気でない。

 追い出した手前、大手を振ってエレトレッダに関する情報を入手する訳にもいかず、どうしようかと悩んでいたところに舞い込んできたラティーレンからの情報は、彼女を安心させるにたるものであった。

「ラティ」

「な、何?」

「これからも彼と出会う事があるかもしれないから、その時はボクに報告してくれてもいいよ」

「そ、そう? じゃあそうするけど……。他のメンバーには話してもいい?」

「それは……。いや、好きにするといい。彼の様子を知りたいメンバーがいればだが」

「分かったっしょ。あーしに任せて欲しいし!」

「ああ、よろしく頼むよラティ」

(これで彼が捨てられた時でも大丈夫だ! ボクが慰めれば彼はボクを頼ってくれるに違いない!)

 心の中でほくそ笑むティリート。その表情は勇者たる自信が満々に溢れていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

処理中です...