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しおりを挟む「私は・・・俺はこの国の元王子。エマ・マーリン。今のザイル・バッハは、俺の弟になる。腹違いの弟だ」
あまりにも突然の告白に、頭の中が真っ白になる。
何から聞いたら良いのか戸惑っていたのが顔に出ていたようで、苦笑しながら頭をポンポンとしてくれた。
「元って…エマは人間じゃないの?」
聞かずにはいられない。元王子も気になるが、口から出てしまった。
ユナから聞いた昔話では、ここにいる人達はーー天上人。そう聞いたからだ。
椿の質問にピンときたエマは「話を聞いたのね、」ポツリとそう呟いてから、近くにあった椅子を寄せて腰を下ろす。
椿もベットから起き上がり、視線を真っ直ぐエマに注ぐとそれに答えるようにエマも真っ直ぐ椿を見る。
沈黙の中、先に口を開いたのはエマだった。
「椿ちゃんの言う通り、私は天上人。そう呼ばれる種族よ」
そう答えるとバサリッと背中から純白の翼を見せてくれた。だが、翼は片方しか無かった。いや、途中で折れて無くなっていたのだ。
痛々しい翼を見て、椿は立ち上がりそっと触れる。
ビクリと肩を震わすエマに椿はギュウッと翼ごと抱きしめた。
「私は天上人でも構わない。」
痛々しい折れた翼を見て、涙が溢れ出るのを必死で抑え震える声で話すと「ありがとう」とエマが優しく手に触れた。
「ーーー私は、出来損ないなの。この翼は私の父…前国王が戒めの為に……だから私の羽は片方しか無いのよ。」
「っそんな…なんで?なんで!そんな酷い事をしたの!?」
まさか自分の父親が子供にするなんて、と目を疑ってしまった。
口調が強くなってしまうが、この怒りを抑える事が出来なかった。
困った顔をしながら、エマは椿をなだめるように柔らかく話を続けて「ありがとう。でも、これは私が禁忌の子供だったからなのよ。」
「えっ?」
「私はね、本当は生まれるべき子供では無かったの。私の父親は前国王って話したわよね?母親は、ベリーナ。ーーーベリーナ・バッハ、前国王の実の妹よ」
「妹…えっ?兄妹でーーー」
「そう。実の兄妹で愛し合ってしまった。そして、周りに気付かれないように愛を育んでいたけど・・・私ができてしまった。国王には妃がいて、ベリーナは目の敵にされていたのよね。だから、ベリーナは逃げた。妃に知られたら子供を殺されるって思ったからね、逃げた先で出会った若者に助けられて…しばらくしたら私が生まれたの。若者が名付け親になってーーーそれが、エリアス・マーリン。
エリアスは、普通の人間でベリーナに恋をしていた。でも、生まれた私には翼があり、ベリーナが天上人だと知ると どこか知らない街で暮らそうって提案してくれたんだけど…怒り狂った前国王に見つかり、ベリーナとエリアスは殺された。幼い私を見るとエリアスの子供だと勘違いして、殺さず 見せしめだと翼を切り落としたの。それからの日々は地獄だったわーーー食べる物も着る物も粗末で、生きているのが嫌になっていたわ…」
エマは悲しい目をしながら窓の外を見る。
何て声をかけていいのか分からず、握っている手に力が入る。
「ふふ、不思議よねーーーあんなに嫌で逃げ出した場所にまた戻るなんて。あっ、昔使った抜け道がまだあったから、そこから来たのよ?つばきちゃんを追っていたら光が上を指すから、まさかと思って辿ってきたら驚いたわ~それに、ウルがつばきちゃんを背に走っているのをみた時は何事かと思って。
無事で良かった!!」
ガシっと腕を引っ張られ、エマの胸の中に倒れこんでしまう。
「本当に無事で良かったーーー・・・」
震える声で椿の無事を確かめると、エマはそのまま抱き上げて部屋を出ようとした。それに気付いた椿がすかさず止めると不思議そうな顔をされてしまった。
「どうしたの?帰りたくないの?」
悲しそうに見つめるエマに首を横に振り「違うの。私の話も聞いて?」と今までの経緯を話した。もちろん、ザイルに求婚された話は除いて。
エマは静かに聞いていた。椿の話が終わると何か考えるようにジッと見つめられ、ザイルの事に気付いたのかとヒヤヒヤしたが「そう、」と一言だけ呟くとまたベットに椿を下ろし、その隣にエマも腰を下ろす。
「心配かけてごめんね?でも、私は戻れない。ここに居場所を見つけたの。でも、エマと一緒に居たい!だから、もう少しだけ待ってくれる?キチンと話を付けないと仕事を途中で放り投げたくないの。ーーーエマはいたくないよね、辛い思い出がある場所なんてーー「もう、大丈夫よ。いつまでも昔の私じゃないわ。つばきちゃんがそう言うなら、私も残るわよ?当たり前でしょ?もう二度と離さないからね。」
話を遮りながらツンっと椿の鼻を突いて、先に布団に潜り込んでしまった。どうやら一緒に眠るようだ。
そんなエマの優しさに嬉しくなる。
「ありがとう」
ポツリと言うと、椿も隣に横になる。久しぶりのエマの温もり。
安心する。
まだ聞きたい事が山ほどあるが、今はエマとの再会を喜ぶ事にした。
ウルも心なしか嬉しそうだ。
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