彩音の不思議なお店屋さん

momo6

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第1章

8

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アーク祭: 2日目。

ジリリジリリジリリ
目覚ましを止めて起きる。
「んーーーっ」
背伸びをしながら、ベットから下りる。着替えて準備を終えると朝食の準備をする。
テーブルに並べると、トントン・トントンっと扉を叩く音がした。こんな朝早くから誰だろ?っとドアに近づくと。
「起きたか?問題が起きたんだがーー」
(クロウ?)
ガチャリとドアを開けると眉間に皺を寄せた、不愉快そうなクロウが立っていた。
「おはよ、何かあったの?」
「あぁーーー中に入ってもいいか?」
「どうぞ、朝ごはんまだなら一緒に食べる?」
朝食を勧めると、素直に頷くクロウだが、未だ眉間に皺がある。

「何があったの?」
コトリと、コップに水を入れたのを差し出しながら席に座ると、静かに話し出した。

「実は、あの後ーー結界に反応があったんだが、直ぐに収まって気にしなかったんだ。だが、その後も反応が度々あってーーーどれも違う気配だったから遠視で見たら・・・」
「結界って、出店の事だよね?えっ?どんな反応なの?ーーーもしかして、今もそうなの?」
コクリと頷くクロウに嫌な予感がした彩音はテーブルに並べた朝食に見向きもせず、白い扉を開ける。
その先には、異様な光景が映し出された。

「おい!押すんじゃぁねぇよ!」
「いてっっ誰だ!俺の足を踏みやがったのは!!」
「おらおら!てめぇら静かに待てねえのか!」
ガヤガヤと、見るからに柄の悪そうな人・・獣人が店の前に押し寄せていた。ざっと10人はいるだろうと思われる。


唖然と立ち尽くしていると、彩音に気付いた獣人が怒鳴り声で話しかけて来た。
「おっ!やーっと来たか!待ってたぜ」
「・・・何か御用でしょうか?お店はまだ始まっていませんが」
冷ややかな声で対応すると、1番前に並んでいた獣人が申し訳なさそうに頭をポリポリ掻きながら説明してくれた。

「すまねえ、俺らは冒険者をしてるんだが、昨日ここがすんげぇ美味かったって仲間から聞いてよ。居ても立っても居られず来たんだ。店がまだなのは重々承知してるが、一度閉店した後もまた待ってる奴らに振る舞ったんだろ?」

冒険者?確かによく見たら、鎧や剣とか持ってるけど。だからって時間は守って貰わないと。最初が肝心なのよね、こっちが下手に出ると今後良くないし。

「えぇ。確かに振る舞いました。でも、それは祭の時間内です。今はまだ始まってもいませんのでお出しする事は出来ません。ルールは冒険者と言えどもお守りください。」
ハッキリとお断りすると、周りで見ていたお店の人達がハラハラしているのが伝わる。

「いい気になりやがって!!!俺らを馬鹿にしてるのか!!」
「夜中からずっと待っていたんだぞ!!」
「獣人だからって見下してんのか!?」
一斉にブーイングの嵐が起きた。カチンときたクロウが身を乗り出すが、さっと手を出し止める。

「暗い中からお並び下さり、感謝しています。私の様な新米のお店に来て頂き光栄に思っています。ただ、アーク祭は私だけではなく、他のお店の方々も居ります。ルールはお守り下さい。ご期待に添えず申し訳ありません」
ぺこりと深くお辞儀をして謝罪すると、獣人達はどよどよと狼狽えだした。彼等も悪気があっているのでは無い。ただ、彩音の料理が食べたかっただけなのだ。

「頭をあげてくだせぃ。俺らが悪かったんだ。ーーーただ、あんたは知らないと思うが、俺たち冒険者は人から良く思われて無いんだ。特に獣人の冒険者はな……だから、人があまり来ない時間に並んでたのさ、迷惑を掛けちまったな。すまなかった。」
静かに話す獣人の言葉に衝撃を受けた。
差別があるのを知らなかったのだ。
悲しそうに、皆先ほどまでの威勢が無くなりションボリと踵を返している。

「待ってください!少しだけ時間を下さい!」
彩音は獣人達を引き止めると、急いで家に戻り凄いスピードで炊けたばかりの白米にほぐしたシャケを入れて、オニギリにしていく。次に卵焼きとウインナーを焼くとビーフシチュー用の入れ物に、オニギリ1個・卵焼き2切れ・ウインナー1個を詰めて運ぶ。

「決まりで、お店に出す物は時間前なので、出せませんが。せっかくお待ち頂いたのに、何もお出ししないのは私のポリシーが許さないので、少しですがこれを召し上がって下さい。」
今、作った簡単なお弁当を一つずつ獣人に渡すと皆喜び、温かいご飯に涙を浮かべる者もいた。

「ありがとう!」
「うわぁーーー美味そうだな」
貰ってすぐ、かぶりつく姿に彩音は微笑ましく思う。

「お代はいりませんので、また時間内にぜひ来てくださいね!」
そう言ったが、皆代金をそれぞれ置いていった。ちょうどビーフシチューと同じ代金。

「無償で頂くわけにはいけないからな」
口々に言うと獣人達は、店を後にする。

「ありがとうございます」
獣人達の優しさに胸が熱くなる。
今日も一日頑張る。そう誓う彩音であった。


ーーークロウは、自分の出番が無くふてくされていたが、お店が始まると気持ちを切り替えてせっせとビーフシチューを器によそっていた。
そんなクロウに、感謝の気持ちでいっぱいになる。
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