【転生先が四天王の中でも最弱!の息子とか聞いてない】ハズレ転生先かと思いきや世界で唯一の氷魔法使いだった俺・・・いっちょ頑張ってみますか

他仲 波瑠都

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第一章

真の力を隠してるやつ

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「邪魔だっ!!」
 
 勢いに任せて山賊を斬り伏せていく。

 冷静さを欠いてしまった俺は剣筋が乱れ、結果的に今まで一撃で仕留めていた山賊一人にかける手数が無駄に増える。

 いつしか俺自身も囲まれていた。

 フレイとの距離は近づくどころか、間を隔てる壁が増えていくばかり。

「お嬢ちゃん、悪く思うなよ!」

 四人揃って一斉に斬り掛かる。

 未だにフレイは立ち上がれていない。

 いや、立ち上がろうとすらしていない。

 傍らに落ちている剣を手に取っている。

 圧倒的に不利なこの状況下を切り抜ける策でもあるのか、フレイの目はまだ”生”を諦めていない強い意志が宿っていた。

 彼女は四方から振り下ろされる刃を見据える。

「フレイぃぃぃぃ!」

 俺の叫び声が洞窟内で無情に響く。

 じきに聞こえるだろう少女が斬られる音に身構える俺であった────が。

「ぎぃゃぁぁぁぁあ!」 

 代わりに響いたのは野太い断末魔。

 山賊の喉元には剣が貫通していた。次第に山賊の声は掠れ、空気混じりの声を出す。

 そして、地面に崩れ落ち山賊の命は尽きた。

 フレイは正面の山賊に一歩詰めるとそのまま剣を喉元に突き刺したのだ。

 一切の無駄が省かれた、洗練されたその動作に俺は言葉を失う。剣を握ったことないなんて、とんだ見当違いであった。

 残り三体。

 仲間が一人殺られたが気にせずに突っ込んでくる。

「こんの!クソガキ!」

 僅かに左の山賊の剣が速い。

 フレイは目を閉じ一瞬で呼吸を整えると華麗にステップ。

 一旦深く沈み込むと倒した山賊の剣を左手で奪い取り、下から斜め上へと薙ぎ払った。

 滑らかな剣筋は振り下ろされる山賊の剣よりも速く、ガラ空きの男の上体を捉える。

 そしてその勢いのままに右隣の山賊を蹴飛ばし、一体一の状況を作り剣を受け止めた。

「なんだと!?その剣筋覚えがあるな・・・まさか!」

「あなたのご想像にお任せしますけど・・・たぶん合ってますね」

 華奢な体に見合わない力で山賊の剣を弾きトドメとばかりに心臓を一突き。

 そして今更起き上がった先程の山賊目掛けて持っていた剣を投げた。

 鋭く空気を切り裂く音を立てて剣は一直線に山賊の元へ飛んでいくと、見事頭部に刺さって山賊は絶命した。

「マルスくん!お怪我はありませんか?」

 戦っている最中の表情は一変し、眉尻を下げ柔らかい表情で俺を気遣う。健全な男子である俺の全身を躊躇せずペタペタと触って、怪我の程度の確認をしてくれている優しい女の子だ。

 しかし────

「う、うん。俺は大丈夫」

 当たり前である。だって俺はただ突っ立って見ていただけだから。

「ほっ、そうですか。マルスくんが怪我しないか気が気でなかったので・・・・・・安心しました!」

「あ、ありがとう。フレイのおかげで助かったよ」

「これぐらいお易い御用です!でも、少し元気がありませんね?どうかしま────はっ!まさか、時間が経って開いてきた傷口が!?」

 再び俺との距離を詰める彼女が本気で俺の身を案じている気持ちが伝わるので、下手にあしらうのは気が引けた。しかし、過剰気味な心配をするフレイを少し疎ましく思ってしまう自分がいるので、俺は罪悪感を感じながら視線を泳がせるのであった。

 そりゃあね、女の子に見せ場をかっさらわれた挙句、怪我の心配までされてちゃ俺の立つ瀬がないでしょうよ。

「クソガキ共が図に乗りすぎだぁ!!いいぜ、まずはそのお嬢ちゃんからあの世に送ってやる!」

 呆然としていた山賊たちが割り込んできた。 

 俺と一緒にフレイの戦闘を目の当たりにした山賊たちが標的をフレイへと変更すると、甘いムードを漂わせている若い男女の間に問答無用で襲いかかってきた。

「ちっ・・・せっかくのいい雰囲気だったのに邪魔しましたね。許しませんよ」

 俺には聞き取れないほどの小声で何かを囁いた────よりかは、吐き捨てたと表現するに相応しい言い方で、山賊たちへの不満のようなものを愚痴ったのだろう。

 キツい目で山賊たちを睨んだフレイは俺に振り返ると、その目元を緩め微笑む。

 彼女のアメジスト色の綺麗な瞳には、だらしなく口をポカンと開けて佇む俺が映っている。

 満足したのかフレイは敵へ視線を向けると駆け出した。

 壁を伝って横っ飛びに左右へ移動。確実に二本の剣で山賊たちの急所を突き、頭を切り落とす。

 銀色の艷めく髪をなびかせながらゆく彼女の後には山賊たちの血飛沫が飛び交う。

 彼女の剣戟は止まらない。

 頭上から加えられる攻撃に山賊たちは為す術なく、命を落としてゆくのだ。

「っ・・・!?」

 しかし、あらかた山賊たちを片付け残り一人となったところで、フレイは勢いを緩め地面へと降り立つと、最後の一人と相対した。
 
 逆立った赤毛にギラついた目。薄暗いジメッとしている洞窟の雰囲気とは相反する褐色の肌。

 他の山賊と明らかに違う魔力量。たぶんこの男は魔法を使えて確実に俺より格上だ。察するにこいつがここのボス的存在なのだろう。

 無惨に敗れ去った仲間たちの骸を眺めて、何を思うのか。

「おぉ!マジか?さすがはエルフ族だな。少しは楽しめそうだ」

 なんとも思っていなかった。

 余裕で構え、剣すら未だ鞘に納まっている。

「あなたは”風切りのストーム”ですね。あなたには周辺地域から被害報告をたくさん受けております」

「かぁー!俺も有名人になったもんだなぁ・・・で、そうだとしたらお嬢ちゃんは俺をどうしたいんだ?」

 挑発的な笑みを浮かべ、フレイに問うストームという男。

「もちろん決まっています。あなたを倒し捕縛するだけですので、少々大人しくしていてくださいね」

 先手を取ったのはフレイであった。

 彼女は柔らかく微笑むと一気に間合いをゼロ距離に詰め、二本の剣でストームの首を狙った。

 明らかに捕縛する意思のなさそうな、相手の命を確実に刈り取る彼女の戦法。

 この世界の住人の辞書には情けといった言葉は記されていないようだ。

「怖いね。けどなぁ、俺もはいそうですかって無抵抗で捕まるわけにもいかないんでね。こちとら命が懸かってるんだよ」

 命が懸かっている?ストームという男は捕まったら即死刑級の罪でも犯したというのだろうか。仮に合ってるのなら必死になるのも頷けるけど。

 謎は深まるばかりだが彼がそれを話す気はない。

 ストームは抜刀すると状態を仰け反らせてフレイの剣を受け流す。

 躱したことでストームはすかさず反撃に転じる。

 フレイの剣圧を利用しバク転を決め込むと一転して突っ込み。

鎌鼬かまいたち

 つむじ風に乗ったストームの剣技がフレイに迫る。

 彼女はそれに対し、剣に流す魔力量を増やして応戦。目にも止まらぬ剣のぶつかり合いに俺は目を離せないでいた。

 目で追うのがやっとの激しい攻防。

 俺はそれを眺める傍観者となってしまう。

 主人公ポジの俺がそれで良いのか?

 良いわけないだろ。

 女の子が必死に戦ってるんだ、男の俺が守られるばかりじゃまた父さんにどやされるし、魔法を教えて貰える日も遠のくだろう。

 自問自答を繰り返す。

 そして決心がついた俺が取った行動とは。

「フレイ~!頑張れぇ~!」

 フレイの応援団となる、であった。

 考えてみれば魔法も使えない。そこらへんの弱っちぃ山賊を倒してイキっていたこの俺が、これほど高度な戦闘に参加することなんてまず不可能。

 それに俺は元引きこもり。記憶を取り戻してからのレベル上げをたった二時間で辞めた実績を持つ男だ。

 こちとら伊達に人生一度きりの貴重な青春を諦めニート生活に捧げてないんだよ。

 俺の声援が届いたのか定かではないがフレイが一瞬笑みをこぼしたように見えた。
 
 喜んでくれたのか、馬鹿にされたのか、呆れられたのか。

 恐らく後者二択。

 せっかくの恋愛フラグをへし折ってしまった俺だが、この状況ではそれは些細なことに過ぎない。ともかく今は目の前の強敵にどう立ち向かうかが問題なのである。

「やるじゃねぇか。俺の鎌鼬を受け止める奴なんざぁ、お前が二人目だぜ」

 額に汗を浮かべながら話すストームには、言葉ほどの余裕はなさそうだ。

「あら、そうですか。それはそれは光栄なことですね」

 反対にフレイはまだまだ余裕をもって一ミリも本心ではないであろう感想を述べる。

 後方へ軽く跳躍して一旦ストームと距離を空けたフレイは剣を両手で握りしめ、上段に構えた。

「これ以上時間を消費するのも惜しいです。終わりにしましょう」

月光単華げっこうたんか

 これまとは異彩を放つ魔力を帯びた光り輝く剣身はまるで夜空に浮かぶ月のよう。

 瞬時に間合いを詰めるフレイ。

 音なく静かに振り下ろされたフレイの剣と慌てて対処に入るストームの剣が衝突した。

 一瞬両者の力は拮抗し、ストームが受けきったか、に思えたが。

「なんだと!?」

 一呼吸おいたフレイが即座に膨大な魔力を解放し抗おうと試みるストームを、赤子の手を捻るように簡単に押し切ると、彼の剣ごと薙ぎ払ったのだ。

 ストームは吹き飛ばされ受身を取るのもままならずに壁にぶつかると、そのまま地面に倒れ込んで意識を失った。

 戦いは決した。

 俺はフレイを労うために彼女の元へ駆け寄る。

 しかし途中で、未だに気を緩めない彼女にどこか違和感を覚えた。

「フレイ?」

 俺が名前を呼ぶと彼女はまだ真剣な眼差しをしており、俺を通して後ろの壁を睨んでいたのだ。

「まだです。まだ敵は残っています!!」

 ものすごい剣幕でフレイは叫ぶのであった。
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