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第三章

決闘

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 空は雲一つない快晴だ。

 天から俺を見下ろした時に遮る障害物が無いのは良い事だと思う。

「これなら俺の勇姿を見やすいよな・・・父さん」

 天から見守っているはずの今は亡き父さんに向かって呟く。

 本当の戦いはこれからだ。

 足を肩幅に開き背を大きく仰け反らすと、闘技場内の空気をありったけ吸い込んだ。

 嫌な記憶を腹の底に押し込むように。

 五年前のあの日、父さんを失ってから二度と後悔しない力を得る為、自分なりに修行は積んできた。

 運良く最高の師匠に巡り会え、一緒に苦楽を共にした修行仲間も二人いた。

 幾度となく死を覚悟した過酷な修行は嘘をつかなかった。

 世界中で恐れられている犯罪者組織リターンズの幹部であるデスラー・ハウンドを撃破した俺は王宮にその功績を認められ、めでたく昇進を果たしたのである。

 しかし一部では未だに俺の功績にケチをつけ、昇進に反対する声もあるらしい。

 先輩曰く学院内でも相当な嫌われっぷりとのこと。

 昔の俺ならこの事実を聞き次第、即引きこもって一日かけて枕をびしょ濡れにしていただろう。

 想像に容易いその姿を思い浮かべ、思わず苦笑する。

 だがそれも昔の俺の話であって、今の俺には有り得ない話なのだ。

 俺には尊敬する師匠がいる。

 父さんに託された思いと、先祖が守ってきた村とその村に住む温かい村人がいる。

 軽口を叩き合えるクラスメイトもできた。

 そして俺のハーレム人生を彩ってくれる(予定)の美女四人がいるし────ついでに元女神もいる!

 応援してくれる人たちの顔を思い浮かべながら、闘技場の中央で一刻も早く俺をぶちのめしたくて、待ちくたびれているであろうモーガンの元へ向かう。

「待たせたな」

「逃げずに出てきたのは褒めてやる」

 何様だ、と言ってやりたくなるが安易にそれを口にする精神はとっくの昔に卒業した。

「そりゃどうも」

「この俺様が褒めてやってんだぞ?もっと嬉しそうにしろや」

「嬉しくないもんをどうやって喜べと?」

 忌々しそうにモーガンは舌打ちをする。

 やれやれ、人気と実力トップに君臨する会長なら様になる発言をこいつが言ってもお笑いだろ。

「ふん!試合の前に一つ言っておくことがある。エルバイスよ、お前は一つ重大な過ちを犯した」

 モーガンは俺が握る木刀を指差し、睨むと一言。

「俺様を舐めてんのか?」

 苛立ちの混じる声で俺を威圧した。

「試合してきた相手全員に言われたな」

 武器なんて壊れず相手を倒せれば何使っても個人と自由だろ。

 実際俺は木刀で先輩方に勝ってるし、木刀にも傷一つ見当たらず、充分に武器の性能を発揮して勝利に貢献しくれている。

 こいつは今日限りの俺の相棒だ。

 思ったよりもやれる相棒に段々愛着が湧いてきたというのに、初っ端からもう聞き飽きたそれを言わないで欲しかった。

「木刀を使って何が悪い。俺に負けた時の言い訳作りか?」

「へぇ、言うじゃねぇか。リターンズとかいう胡散臭い組織の幹部を、まぐれで倒したくれぇで調子乗ってんだろ?」

 以前のモーガンならキレ散らかしていた煽りを軽く受け流された。

「ああ、乗ってるさ。俺はデスラーを倒して、それなりの地位と実績を手にした。大切な物を失って無様に泣くだけの俺じゃない。暗い部屋に閉じ籠って、テレビ画面に文句を言ってる過去の俺じゃないんだ!」

 モーガンは特に何も言い返さなかった。

 熱く語ったが後半の部分は「何言ってんだこいつ?」みたいな顔をされ、無性に恥ずかしくなってしまった。うん、これも全てモーガンのせいにしておこう。

 俺はモーガンが両手に握り締める彼の武器に注目した。

「第一お前こそ鉄の棒二本て、人の事をとやかく言う権利ないだろ」

「はっ!浅ぇな」

 バカにした様子でモーガンは言う。

「これはなぁ、数々の試行錯誤を繰り返して辿り着いた俺様が使うのに最適な武器なんだよ。お前なんかの木刀と一緒にすんじゃねぇ!」

 短気な性格は変わってなくて安心したよ。 

「両者、雑談もそのくらいにしなさい」

 審判が咳払いをした。

「だってさ、みんなを待たせるのも悪いしさっさと始めよう」

「つくづく気に食わねぇ野郎だぜ。今更泣いて詫びようが、もう遅いからな!」

 審判が試合の開始を告げる。

「始めっ!!」

 開始と同時にモーガンは後ろへ飛び退いた。

 モーガン自慢の雷魔法にものを言わせて、初手からぶっ込んでくると思っていたので肩透かしを食らった気分だ。

 ここで俺が選ぶ行動は一旦様子見である。

 今までの先輩方と違ってモーガンは普通に強い。

 あいつが持つ二本の棒も何かしらの仕組みが施されているのだろう。てか絶対何かあるはず、じゃなきゃ棒を二つ持って威張るモーガンはただの馬鹿になってしまう。

 俺は木刀を構えると、魔力を練り備えた。

 すると、モーガンにも動きがあった。

「目ん玉かっぽじって見とけ!雷属性に精通するウルガンド家秘伝の技を!!!」 

武雷装ぶらいそう

 魔力の性質が変化し、二本の鉄棒にはバチバチと雷がまとわりつく。

 なおも雷は勢力を増し続け、周りに漏れ出す電磁波が闘技場内の魔法障壁と衝突し火花を散らした。

 モーガンが鉄棒に流す魔力の濃度が何十倍にも膨れ上がった。

 凝縮されて行く雷は徐々にその形を変えると、黄金色の巨大なハンマーと斧に成型したのであった。

「なるほど、鉄棒は持ち手用ってことね」

「その通りだ。俺様に喧嘩を売った自分の愚かさをあの世で後悔しろ!」

 今度は大きく踏み込んでくるモーガン。

 こうなっては迂闊に斬り合いに持ち込めないな。

「会長用に取っておきたかったけど、負けるのも癪だし・・・使っちゃうか」

 俺はバックステップで距離を保ちながら右ポケットに手を入れた。

「ほざけ!俺とお前の格の違いを見せてやる!」

 適当に振り回すだけで、凄まじい威力を誇るハンマーが地面を抉り、鋭い切れ味の斧が空気を切り裂いた。

 俺は右ポケットから手を抜いた。

「あれ、どこに入れたっけか?」
 
 既視感を覚えながら左ポケットに手を突っ込むと、ようやく目当ての物が見つかった。

 目を血走らせて向かってくるモーガンを見て、俺はニヤリと頬を釣りあげたのであった。
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