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第一章 再臨

第3話 再臨勇者の初陣

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アニメや小説なんかで「アルルカント」とか「ユグドラシル」とか、かっこいい名前の付いた異世界を見かけたことがある。
勿論、この世界にも名前がついている。
俺達が召喚された大陸は恐らく「グリリアス大陸」。
だが、世界に名前などついていない。
よく考えたほしい。
俺達が元住んでいた世界に名前など付いていたのかを。
地球?星の名前だ。日本?国の名前だ。
そう。付いていないのだ。
ちなみに、ここの国は国旗から見るに、恐らくグリリアス最大の国。王国、帝国などの国しかないこの世界の、代表的な王制国家。
ユバーシバル国王を中心としてできた国。
ユバーシバル王国。

まあ、俺のいた頃から名前が変わっていなければだが。
他にも立ち寄ったことのある国の名前は全て覚えているが、最低でも200年以上経過しているため、革命などで変わっているかもしれない。無論、立ち寄っていない国も当然あるが。

次に、年代だが、実を言うと街を見たところ、お決まりの中世ヨーロッパからほとんど変わっていなかった。
地球と違い、魔物がいる分、文明の発達は遅いのかもしれない。
見たところこの大陸の文字は変わっていないようだ。
ちなみに俺の家は隣の大陸にあるのだが、未だにあるだろうか…。


閑話休題かんわきゅうだい
目下では未だに戦いが続いている。
城壁の中に攻め込まれていることもあり、魔法などが使えずにやきもきしているのが伝わってくる。
兵士の数も徐々に減りつつある。
これはまずいかもしれない。
クラスのクソどもはいいとして、俺の第二の故郷が荒らされているのを黙ってみているのは気が引ける。
俺は遠方を見ることができるスキルを使っているが、皆は見えていないのだろう。轟音に身体を振るわせている。

ん?
ふと気がつくと、場内のざわめきはドラゴンから別なものに変わっていた。
「お、おぬし…」
ん?なに?
え?ホコリでもついてるわけ?
「はい…?」
「その装備は…」


あ。


忘れていた。
ステータスに夢中で着替えるのを忘れていた。
今の俺、勇者でした。
「あ、えっと」
「どこでその装備を…」
周囲の視線が一斉に俺に集まる。
どうしよう。
むやみに身元をばらすのはリスクが高い…。
だが、ここで隠しても今後の行動が取りづらくなるだけだ。
んー、ま、いっか!


俺は事情を説明し、ついでに城下町の状況も伝えておく。
「そなたが、あの…」
「ええまあ」
これがほんとの勇者召喚ってか???
「ぜ、是非とも。我が国を救っていただきたい…。勇者様…」
ここで受けてもいい。しかし…。
「お言葉ですが国王様。命をかけるには対価が必要でございます」
別にいらない。
放っておいても俺は倒しに行っただろうし、聖騎士がなぜか出てこないということは、不在であると見ていいはずだ。
このままでは防衛戦が持たないのは見てて明らか。
普通に助けるよね。
それでも、国王が何もせず勇者に任せっきりというのは、少々まずい。
特に、このクラスの人間は勉強はできても頭の回転は鈍い。
普通に自国の守れない国王のもとで召喚されて、修行するなど、不満が出ないわけがないのだ。
ここは、体面上でも「戦えば報酬が出る」、と思わせる必要がある。
「わかっている…。そなたの望み通りにしよう」
はーいきたこれ。いじめっ子がいなかったらふんぞり返るよね。
「では、行って参ります」


実はというと、国の直径はそれほど長くない。
今回の件でわかってもらえると思うのだが、この世界では街や国に襲撃してくる魔物など腐るほどいるのだ。
その際に、対応が遅れましたーでは、済まない。
そのため、民を護れる最大限まで国を拡大して、それ以上は集落や村などで固まるのが基本だ。
何が言いたいかというと、走れば俺の速さなら十秒でつく。
見たところ、兵士長らしき人のステータスは平均で400いけばいい方くらいなんじゃないか?4桁と1つカンストの俺にはおよばない。だが、問題もある。兵士たちがワイバーンにこれっぽっちも傷をつけられていないのだ。
これでは戦力を測れない。
どうしたものか…。
かと言って本気を出せば衝撃で城ごと壊滅させてしまう…。
さてさて。まいったな。
まあ、とにかく行くしかないな。

三年ぶりの死闘。
相手は亜種とはいえドラゴン。
下手をすれば死ぬ。
「頼みましたぞ、勇者様よ…」
「ええ。あ、離れててください割と強めに走ります。吹っ飛んで頭とか打たれるの嫌なので」
「は?」
「いいから、門を閉めてください」
「あ、ああ…。門を閉めよ!」

図太い音を立てて門が閉まる。
深呼吸をして踏み込む。


「はぁ…。ハァッッ………!!!!!!」


気合とともに走り出す。
衝撃で地面が凹む。門が音を立てて揺れる。
剣を構え、姿勢を低くして走る。
戦いでは常に冷静に。召喚されたばかりの俺に戦いを教えてくれた戦士長の言葉だった。

まだ。


今。ここ。


敵と交差する瞬間、視界がスローモーションになる。
極限まで集中したときになる現象だ。
スポーツなどでもよくある、一流の証といったところだろうか。その一流ですら一部しかおちいらない現象。
だが、それはスポーツの話。命をかけた死闘ともなれば、それはいとも簡単にその姿を現す。
ワイバーンも必死に反応しようとするが、やはりというか、遅い。
加速の流れに身を任せ、そのまま剣を引き抜く。
抜刀したまま切り裂く。



ガキャン!
「なっ!弾いた!?」
引き裂くはずの体は、逆に剣を弾き返していた。
まるで剣がぶつかりあったかのようなその音に違和感を覚える。
これはワイバーンの特性、局所硬化か…。
強い。
明らかに昔とは別のモンスターだ。
剣は無事だ。俺のは伝説の石で出来た剣のため、壊れる心配は無い。
だが、初撃が失敗に終わった以上、奇襲は不可能だ。
どうしたものか…。
と、そこでまだ、兵士が立ち止まっているのがわかる。
ワイバーンも少し不意打ちに戸惑ったのか一時的に止まっている。
「皆さんは市民の避難を優先して下さい!こいつは俺が相手します」
突如音速に近い速度で登場した人間に困惑してるのだろうか。誰も動かない。
面倒くさいが、ワイバーンが動き出そうとしてる。
一旦はこっちが優先だ。
俺はワイバーンの初撃をかわし、叩きつけられたワイバーンの手に登り、硬化できない爪を粉砕する。
ひるむワイバーンの足元をくぐり抜け、奴が振り返るのを待たずに尻尾を両断。
どこを硬化すればいいかさえわからなければ意味はない。
いかに反応速度が異常なモンスターだろうと、爪を粉砕されて平静でいられるわけがない。
戦場では僅かな隙が命取りなのだ。
尻尾の血が流れ落ちる。
痛みで飛び立とうとするワイバーンの右翼を炎魔法で燃やし尽くす。当然読んでいるのであろう。一瞬、ほんの一瞬だけ絶妙なタイミングで硬化を発動させて魔法を防ぐ。
が、当然俺だってそれは読んでいる。
右翼に魔法が到達するその瞬間に、俺は左翼を目前にしていた。跳躍の勢いそのまま、下から切り上げる。
根本から羽が消える。
当然飛行は失敗し、地面に落下。
同時に2箇所の硬化ができないというのがワイバーンの弱点だ。
俺は着地と同時に足を切り落とす。
「………………ッ!!!!!!!」
形容できない叫び声を上げ、俺の落下地点に炎を吐くワイバーン。俺は焦りつつある心を冷静にする。
氷結魔法でワイバーンの口を塞ぐ。すぐに溶けるが問題ない。一瞬あれば逆方向に移動できる。
無意識になのか、俺が後ろに回り込むとワイバーンの頭が硬化した。
命の危機を感じて頭を守る。いい反応だ。
が、俺は冷静に首を狙う。

ドパッ…!

という音とともに、ワイバーンの血が流れ出す。
倒れたまま死んだワイバーンの血が街に広がらないようにワイバーンの周りの地面を陥没させておく。

「ふぅ…。こんなものか」
思ったよりずっと強かった。昔なら初手で終わっていた。
結局兵士は避難もさせず、戦闘にも参加せず、足手まといだった。
ともかく、これは一刻も早く魔王を倒さねばならないかもしれない。
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