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第十章 ガウェイン

第60話 捜索再開

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まあ、いつまでもくよくよしていられない。
そう思って顔を上げる。
「いや、やはり問題はあちら側にあるようだな。はぁ…。仕方がない。我々が向かおう」
「「わかりました」」
浮かない顔だが、どうやら考えは固まったらしい。
決まったら行動が早いタイプなのはご主人様と同様なのだな、などと考えつつ出口の方へ向かう。
と、真司の師匠が唐突に振り返り、指をパチンッと鳴らした。
一瞬わけがわからなかったが、直ぐに理解する。
ムカデの怪物が粉々に弾け飛んだからだ。体液らしき緑色のものがそこら中に撒き散らされ、肉片が壁に打ち付けられた。手というべきなのか足というべきなのかよくわからないが、その手足も地面や壁にぶっささる程の勢いで。
真司の師匠なだけあり、戦闘力はあの真司さえも凌駕しているということらしい。
レベルが高すぎて違いもそこまでわかったものではないが。
まあ、ウルフが何回攻撃しても脚の二、三本破壊するのがやっと。良くて装甲のような部位が破壊できるだろうか。それほどの敵だ。
真司に『中ボス』とさえ表現される階層主。その階層主がものの一秒で土塊と同化した。
これが勇者の師匠…。
そう思わずにはいられない。
類まれなる戦闘力を前にしたウルフ達は、より一層信頼と敬意を寄せるのだった。






「はぁ…はぁ…」
最悪だ。
上の階層に戻ろうにも、魔物がいて階段まで進むことができない。
もう階段は目前に迫っているというのに。
まあもっとも、階段のすぐ側まで一度たりとも魔物と遭遇せずに進むことができたのはある種奇跡とさえ言えるものだったが、風香はそれを知る由もない。
魔物の住処と表現され、この世界では「災厄」と名高いダンジョン。
単独では入れば生きて戻ることはほぼ不可能。
だが、風香は現在、意図せずその状態にとても類似した状況下に置かれていた。
「やっと足の痛みが引いてきましたわ…」
まだだいぶ腫れているが、何かを蹴り飛ばしたりしない限りは痛みを感じることはないだろう。
ありがたいことは確かだが、残念ながら状況が改善したわけじゃない。
回復職が一人で突破できる程度のダンジョンじゃあるまいし、このままこの階層を逃げ回るしか手段はないのだろうか。
「もう、飲み物も尽きてしまいましたわね…」
真司も旅の最初に言っていたが、一番怖いのは食糧不足だ。
特に、飲み物が尽きた現状では脱水症状の恐れがある。
幸いなことに暑さはないが、それでも水分不足は補えない。
相当過酷な状態だ。
先程から体力がどんどん落ちているのがわかるし、意識も薄い。
体が言うことを聞かなくなっている。
魔物に襲われでもしたら瞬く間に肉片と化すだろうことはもはや明確だった。
まあ、これ以上階段に近づけば階段前の部屋にいる魔物たちに気付かれかねない。
身動きが取れたところで動けないのは同じか。
とは言え、ここに魔物がいるということはウルフ達はまだ階段に来ていないという事にほかならない。
ならば、いずれは見つけてもらうことが可能になるだろう。
それだけが唯一の朗報。
毒のせいなのか何なのかわからないが、暗転していく意識。
「し…んじ…さま…」






中ボスの部屋を抜けて、すぐのところを階段の方向に曲がる。
「やはり、この階層には来ていないようです」
「ならば上に戻るしかないだろう」
もっともだ。
急いで階段を駆け上る。
というか、よくよく考えれば二人に気付かれることなく単独行動に移るなど、ほぼ不可能だった。
それも、二人より前に出ることなどありえない。
余程のスピードがなければ見えるし、音にも反応できる。
逆に、スピードが極端に早ければそれこそ気が付かないほうがおかしいレベルだ。
普通に考えれば魔物から逃げてるときにはぐれたと考えるべきだし、そうなれば早い段階で見つけ出すこともできただろう。
判断を間違えたくないということを考えすぎて逆に判断を間違えた。
常に柔軟な思考が必要だということは間違いないのだろうが、ある程度の決めつけも必要となって来るらしい。
一手ミスれば詰み。
本当にダンジョンというのは恐ろしい。
しばらく歩くと、魔物から逃げるときに曲った四つ角に戻ってきた。
「こっちにも匂いが続いてる…!?」
やはり、真逆の方向に向かったらしい。
階段のあたりまでは匂いがしていたので、引き返したのだろう。
間違った判断ではないが、嬉しい判断でもなかった。
まあ、一人逸れて階段を降りるような考えを持っていたら、今現生きてることも願えたものじゃない。
正しい判断ができているなら、生きている可能性は十分にある。
とは言え、ダンジョンの方は優しくない。
いつどこで魔物と遭遇してるかわからない以上、急ぐべきだろう。
若干焦りつつも、風香の匂いを辿っていくのだった。
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