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運命の出会い
第7話
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ゼノスとイリスにとっては三回目のダンジョン。
その景色は今までとは一変していた。
あくまで二人にとってはであって、実際は全く変わり映えしない、真っ暗闇の洞窟なのだが。
魔法による明かりがうっすらと二人の周りを照らし出している。
しかし、閉鎖的な空間の中で、お互いに気になっている者同士。
肩が触れるほどの距離で歩いていた。
イリスは、魔法の明かりに照らし出されたゼノスの横顔をチラリと見つめる。
——な、何てことなの?
こんなに暗い場所に二人っきりだなんて……。
ただの廃鉱も、隣を歩いているのが一目惚れの相手となると、一転してロマンチックな場所に感じてしまうのだから不思議なものだ。
表情にこそ出ていないが、イリスの心臓は跳ねまくっている。
鼓動の音がゼノスに聞こえてしまうのではないかと、心配してしまうほどに。
——静まりなさい、私の心臓!
と、イリスが両手を胸に押し当てて、自分に言い聞かせているときである。
ゼノスはゼノスで、
——ヤべえ。横顔もありえねーくらいに可愛い。
しかも、なんかいい匂いまでするし。
ポーカーフェイスを気取っているが、内心はかなり動揺していた。
魔法の明かりでうっすらと照らし出されたイリスは神秘的で、とても美しかった。
美人というものはどこにいても絵になるものだと痛感させられる。
ダンジョンに入ってからそれなりの時間が経つ。
お互いに意識しすぎているせいか、ゼノスもイリスも一言も話せないでいた。
そのせいかもしれない。
イリスは気持ちを落ち着かせることに集中していたため、足下の窪みに気づくことができなかった。
「きゃ……!?」
ゼノスは反射的に手を延ばし、イリスを抱き寄せる。
しかし、イリスの体勢が崩れていたこともあり、二人とも地面に倒れこんでしまう。
少しでも衝撃をやわらげようと抱き寄せた腕に力を入れると、ふわりと香る甘い匂いがゼノスの鼻腔をくすぐる。
背中に鈍い痛みはあるものの、ダメージを受けたというほどのものではない。
イリスの重みを感じる一方で、ゼノスは己の不甲斐なさに溜め息を吐く。
——ったく、情けねぇ。
いつもなら、もっと早く支えることができたはずだ。
見蕩れてボーっとしてるから、こんなドジを踏んじまう。
ただ、それでもこうして受け止められたんだからまだマシか。
「あの……」
イリスが顔を上げて、こちらを見ている。
今までにないほどの至近距離だ。
うっすらと頬を染め、瞳が潤んで揺れていた。
「……怪我はしてねえか?」
「ゼノスが受け止めてくれたから大丈夫です。その、ありがとうございます」
「いや、無事ならよかった」
ホッとしたゼノスだが、
——イリスの体って、すげぇ柔らかい。
初めて会ったときに握手は交わした。
だが、その時に感じた柔らかさと今感じている感触とでは比べるべくもない。
イリスはゼノスの胸の中にすっぽりと収まってしまうほどに小さく、華奢だ。
少しでも乱暴に扱ってしまおうものならすぐに壊れてしまいそうなほど細い。
何より最高の抱き心地。
ただでさえ、今まで女性に縁のなかったゼノスが美少女と密着しているのだ。
しかも一目惚れの相手と。
その心地よさは、イリス以外の全てを忘れさせる魔力を持っていた。
そう感じていたのはゼノスだけではなく、イリスも同じ。
生まれて初めて男の腕に抱かれるという感触に、空を舞うような気持ちになっていた。
——思っていたよりもごつごつしてて、硬い。
でも、なんだか安心する。
ゼノスの逞しい体に包まれているという心地よさを感じるイリス。
ずっとこのままでいたいという欲望にかられてしまう。
しかし、それはほんの一瞬。
今が授業中であることを思い出したイリスは、すぐに正気を取り戻した。
「あの……もう大丈夫です……」
身をよじるイリス。
ここにきて、ゼノスはようやくイリスを抱きしめたままだったと気が付いた。
「うおぁ! す、すまねぇっ!?」
ゼノスは抱きしめていた両手を解除し、立ち上がる。
「わ、悪い、別にそういうつもりがあったわけじゃなくてだな……」
「い、いえ、私の方こそ……こんなところで躓いたのが悪かったんです」
「いや、この明かりだと地面は見えにくいし、仕方ねえよ。っと、立てるか?」
「……ありがとうございます」
イリスは、ゼノスが差し出した手を素直に掴んで立ち上がる。
手を離すと、イリスが少しだけ名残惜しそうに見えた。
きっと気のせいだろう、ゼノスはそう思うことにして気持ちを入れ替える。
「……進むか」
「そうですね」
——あ、危なかった。
もし、あのまま身を委ねていたら……ううん、その前に誰かに見られでもしたら、大変なことになっていたわ。
イリスはルナミス王国の第一王女。
アルカディア共和国の平民でしかないゼノスと抱き合っていたという噂が広まれば、王国を揺るがすスキャンダルになるかもしれない。
理屈ではいけないことだと分かっている。
しかし、ゼノスに抱きしめられた心地よさが忘れられない。
もしも自分が王女という身分でなければ……だが、それを覆すことはできないのだ。
——でも、それでも私はどこか彼に惹かれている。
ゼノスもまた、イリスと同じことを考えていた。
——何やってんだ、俺は。
俺の使命はなんだ、女とイチャつくことか?
違うだろーが。
いや、確かにイリスは見た目だけじゃなくて反応もいちいち可愛いし、やべぇんだけど。
って、またイリスのことを考えてるじゃねーか!
『彼女の一人でもつくってみろよ』
親父の言葉が頭をよぎった。
相手は人間だっていうのは分かっている。
分かっちゃいるが、それでも理屈抜きでイリスに惹かれている自分がいた。
今の機会を逃したら、二人きりで話す機会がいつやってくるか分からない。
確か、ユリウスに求婚されていたくらいだから、付き合っている男はいないだろう。
それならば。
「なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「何でしょうか?」
ゼノスが話しかけたその時。
「——!?」
地響きとともに、洞窟の奥の方から異様な気配を感じた。
「なっ!?」
幸いすぐに収まったが、気づけば前方に巨大な空間が出現している。
——あれは、転移の際に発生する空間だよな?
いったい、どういうことだ?
ゼノスが驚いていると、空間からうっすらと影が浮かび上がった。
遠目からでも分かる隆起した肉体。
そいつは牛の頭を持ち、二足歩行をする怪物。
「ミノタウロスだと!?」
レベル13の魔族——ミノタウロス。
体長三メートルを超えるその姿は赤黒く、巨大なツノと赤い瞳は見る者を恐怖に陥れる。
「ヴヴォオオオオオオオオッ!!」
ミノタウロスが咆哮し、煌々とした真っ赤な瞳を二人に向けた。
その景色は今までとは一変していた。
あくまで二人にとってはであって、実際は全く変わり映えしない、真っ暗闇の洞窟なのだが。
魔法による明かりがうっすらと二人の周りを照らし出している。
しかし、閉鎖的な空間の中で、お互いに気になっている者同士。
肩が触れるほどの距離で歩いていた。
イリスは、魔法の明かりに照らし出されたゼノスの横顔をチラリと見つめる。
——な、何てことなの?
こんなに暗い場所に二人っきりだなんて……。
ただの廃鉱も、隣を歩いているのが一目惚れの相手となると、一転してロマンチックな場所に感じてしまうのだから不思議なものだ。
表情にこそ出ていないが、イリスの心臓は跳ねまくっている。
鼓動の音がゼノスに聞こえてしまうのではないかと、心配してしまうほどに。
——静まりなさい、私の心臓!
と、イリスが両手を胸に押し当てて、自分に言い聞かせているときである。
ゼノスはゼノスで、
——ヤべえ。横顔もありえねーくらいに可愛い。
しかも、なんかいい匂いまでするし。
ポーカーフェイスを気取っているが、内心はかなり動揺していた。
魔法の明かりでうっすらと照らし出されたイリスは神秘的で、とても美しかった。
美人というものはどこにいても絵になるものだと痛感させられる。
ダンジョンに入ってからそれなりの時間が経つ。
お互いに意識しすぎているせいか、ゼノスもイリスも一言も話せないでいた。
そのせいかもしれない。
イリスは気持ちを落ち着かせることに集中していたため、足下の窪みに気づくことができなかった。
「きゃ……!?」
ゼノスは反射的に手を延ばし、イリスを抱き寄せる。
しかし、イリスの体勢が崩れていたこともあり、二人とも地面に倒れこんでしまう。
少しでも衝撃をやわらげようと抱き寄せた腕に力を入れると、ふわりと香る甘い匂いがゼノスの鼻腔をくすぐる。
背中に鈍い痛みはあるものの、ダメージを受けたというほどのものではない。
イリスの重みを感じる一方で、ゼノスは己の不甲斐なさに溜め息を吐く。
——ったく、情けねぇ。
いつもなら、もっと早く支えることができたはずだ。
見蕩れてボーっとしてるから、こんなドジを踏んじまう。
ただ、それでもこうして受け止められたんだからまだマシか。
「あの……」
イリスが顔を上げて、こちらを見ている。
今までにないほどの至近距離だ。
うっすらと頬を染め、瞳が潤んで揺れていた。
「……怪我はしてねえか?」
「ゼノスが受け止めてくれたから大丈夫です。その、ありがとうございます」
「いや、無事ならよかった」
ホッとしたゼノスだが、
——イリスの体って、すげぇ柔らかい。
初めて会ったときに握手は交わした。
だが、その時に感じた柔らかさと今感じている感触とでは比べるべくもない。
イリスはゼノスの胸の中にすっぽりと収まってしまうほどに小さく、華奢だ。
少しでも乱暴に扱ってしまおうものならすぐに壊れてしまいそうなほど細い。
何より最高の抱き心地。
ただでさえ、今まで女性に縁のなかったゼノスが美少女と密着しているのだ。
しかも一目惚れの相手と。
その心地よさは、イリス以外の全てを忘れさせる魔力を持っていた。
そう感じていたのはゼノスだけではなく、イリスも同じ。
生まれて初めて男の腕に抱かれるという感触に、空を舞うような気持ちになっていた。
——思っていたよりもごつごつしてて、硬い。
でも、なんだか安心する。
ゼノスの逞しい体に包まれているという心地よさを感じるイリス。
ずっとこのままでいたいという欲望にかられてしまう。
しかし、それはほんの一瞬。
今が授業中であることを思い出したイリスは、すぐに正気を取り戻した。
「あの……もう大丈夫です……」
身をよじるイリス。
ここにきて、ゼノスはようやくイリスを抱きしめたままだったと気が付いた。
「うおぁ! す、すまねぇっ!?」
ゼノスは抱きしめていた両手を解除し、立ち上がる。
「わ、悪い、別にそういうつもりがあったわけじゃなくてだな……」
「い、いえ、私の方こそ……こんなところで躓いたのが悪かったんです」
「いや、この明かりだと地面は見えにくいし、仕方ねえよ。っと、立てるか?」
「……ありがとうございます」
イリスは、ゼノスが差し出した手を素直に掴んで立ち上がる。
手を離すと、イリスが少しだけ名残惜しそうに見えた。
きっと気のせいだろう、ゼノスはそう思うことにして気持ちを入れ替える。
「……進むか」
「そうですね」
——あ、危なかった。
もし、あのまま身を委ねていたら……ううん、その前に誰かに見られでもしたら、大変なことになっていたわ。
イリスはルナミス王国の第一王女。
アルカディア共和国の平民でしかないゼノスと抱き合っていたという噂が広まれば、王国を揺るがすスキャンダルになるかもしれない。
理屈ではいけないことだと分かっている。
しかし、ゼノスに抱きしめられた心地よさが忘れられない。
もしも自分が王女という身分でなければ……だが、それを覆すことはできないのだ。
——でも、それでも私はどこか彼に惹かれている。
ゼノスもまた、イリスと同じことを考えていた。
——何やってんだ、俺は。
俺の使命はなんだ、女とイチャつくことか?
違うだろーが。
いや、確かにイリスは見た目だけじゃなくて反応もいちいち可愛いし、やべぇんだけど。
って、またイリスのことを考えてるじゃねーか!
『彼女の一人でもつくってみろよ』
親父の言葉が頭をよぎった。
相手は人間だっていうのは分かっている。
分かっちゃいるが、それでも理屈抜きでイリスに惹かれている自分がいた。
今の機会を逃したら、二人きりで話す機会がいつやってくるか分からない。
確か、ユリウスに求婚されていたくらいだから、付き合っている男はいないだろう。
それならば。
「なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「何でしょうか?」
ゼノスが話しかけたその時。
「——!?」
地響きとともに、洞窟の奥の方から異様な気配を感じた。
「なっ!?」
幸いすぐに収まったが、気づけば前方に巨大な空間が出現している。
——あれは、転移の際に発生する空間だよな?
いったい、どういうことだ?
ゼノスが驚いていると、空間からうっすらと影が浮かび上がった。
遠目からでも分かる隆起した肉体。
そいつは牛の頭を持ち、二足歩行をする怪物。
「ミノタウロスだと!?」
レベル13の魔族——ミノタウロス。
体長三メートルを超えるその姿は赤黒く、巨大なツノと赤い瞳は見る者を恐怖に陥れる。
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