魔王の息子、潜入した勇者養成学校で王女様に一目惚れをする〜彼女のために勇者を目指します〜

洸夜

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勇者を目指せ!?

第23話

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 広間の中央にはゼノスとレティシア、それに審判を務めるオルフェウス学院長だけになっていた。
 生徒たちとロムルス、護衛の二人は二階部分に設置された観戦席に座っている。

 レティシアの手には、オルフェウス学院長から渡された剣の柄が握られていた。
 レティシアが魔力を込めると、氷の結晶のように薄く透き通った青い刀身が姿を現す。

「へぇ、悪くないわね」

 刀身を眺めながらレティシアが告げる。
 
 ――水系統の魔法か。
 相性としては最悪だな。

 ゼノスの得意魔法である火と対極するのが水の魔法だ。
 属性には相性があり、火は土に強い反面、水には弱い。
 同程度の魔力はもちろんのこと、多少のレベル差では相性の不利を覆すことは不可能だ。
 それほど属性の相性というものは密接な関係がある。

 ドーム内の気温がぐっと下がり、レティシアの周りにキラキラと光るものがきらめいた。
 レティシアの放つ冷気が、空気中の水分を凍らせているのだろう。
 魔力レベルの高さの現れといえる。

 他の生徒に同じことをやれと言ったところで、出来るものはいないだろう。
 ユリウスやイリスでも無理だ。
 ゼノスたちよりも幼く見えるレティシアが、何故これほどの魔力を秘めているのか気になるところではあった。
 だが、今は模擬戦に集中すべきだ。

「さっさと始めましょうか」

 レティシアが笑みを浮かべる。
 自分が絶対に勝つという自信に満ちた笑みだ。

 しかし、笑みは次第に不機嫌なものへと変貌し、すっ、と青い瞳が細まる。
 周囲の温度が一段と下がっていく。
 レティシアの視線はゼノスの手に向けられている。
 
「何のつもり」
「見たままの通りだ。俺はでいい」

 そう言うゼノスの手には何も握られていない。
 つまり、素手で相手をすると言っているのだ。
 レティシアは青筋を立てて眉根を上げた。

 ――人を小馬鹿にして……。
 いいわ、直ぐに後悔させてあげる。

 魔力や魔法のスキルは血筋に依存する。
 基本的に優秀な魔術師の子供もまた優秀な魔術師になるのだ。
 レティシアの両親はどちらも優秀な魔術師であり、物心ついた時から英才教育を施されて育った。
 魔族を討伐した経験もあるし、対人戦闘の経験もある。
 帝国では『氷の女王』の二つ名をつけられるほどの実力をもっているのだ。
 素手で相手をすると言われて怒るのは当然だった。

 ゼノスの方はというと、武器を使用しないのは理由があった。
 ゼノスの魔力を帯びた刀身は非常に殺傷能力が高い。
 加えて刀身に込められた魔力量の違いによって、レティシアの刀身を破壊してしまう恐れがあった。
 
 その場合、勢い余ってゼノスの刀身でレティシアを傷つけてしまうかもしれない。
 入学前は人間に対してさほど興味を抱いていなかったゼノスだが、今は違う。
 一番の理由はイリスへの一目惚れだが、同年代の人間たちと触れ合うことで、守る対象になっていた。
 要は、初対面のレティシアであっても怪我をしてほしくないのだ。
 ゼノスはやはりお人好しだった。

 かといって、ゼノスとしては別に武器を使用しないのが失礼だとは思っていない。
 何故なら、入学前――魔族領にいた頃は己の体が武器であったからだ。
 魔族であれば、魔力を全身にまとわせるといった魔力操作は必須といえる。
 魔力で体を覆えば強度を上げることもできるし、攻撃力や防御力のアップに繋がるからだ。

「審判、合図を」
「……うむ。それでは、始めっ」

 オルフェウス学院長の開始の合図と同時に、レティシアが一直線に駆けた。
 魔術学院の生徒と比べれば身体能力だけでもかなり上だろう。

 ――魔力量はこれくらいでいいか。

 ゼノスは右手をレティシアの刀身と同程度の魔力で覆う。

「はああああッ!!」

 右に大きく振りかぶった剣がちゅうあおを描き、ゼノスに襲い掛かる。
 迫りくる剣をゼノスは避けず、無駄のない動作で頭上に右手を掲げた。

 ――なんで避けないの!?

 この勢いでは寸止めすることはできない。
 レティシアの剣はそのままゼノスに向かって振り下ろされた。
 直後――。

「――!?」

 レティシアは驚愕する。
 それは二階で見届けている生徒やロムルスも同様だった。
 青く輝く刀身が、ゼノスの右手に受け止められているのだから。

「いいのか、この位置だとすぐ終わっちまうぞ?」
「くっ!」

 ゼノスの言葉で我に返ったレティシアは大きく跳躍ちょうやくし、距離を取る。

「何よそれ!」
「何って言われても、魔力で覆ってるだけだ」

 ゼノスは右手を上げて見せた。
 魔力が赤い膜となって、ゼノスの右手に纏わりついている。

「ありえないわっ!」

 確かにゼノスの右手は魔力で覆われている。
 だが、薄い。あまりにも薄いのだ。
 あれで自分の攻撃を防げるはずなんて出来るはずがない。
 
 ゼノスが並の魔力量の持ち主であれば、レティシアが押し勝っていただろうし、覆った魔力を破壊していたはずだ。
 しかし、ゼノスの魔力量は常軌を逸しているし、魔力制御も緻密だ。
 いくらレティシアの身体能力や魔力量が優れているといっても、他の生徒に比べればに過ぎない。
 ゼノスとの差は明白だった。

 すぐにレティシアは再びゼノス目掛けて突っ込んだ。
 何度も剣を叩きつける。
 ガン、ガァン! と撃剣の音が立て続けに響いた。
 凄まじい連撃だが、ゼノスは右手で全て弾き返していく。

 ――何なの、あの右手は!?

 レティシアは焦っていた。
 どれだけ攻撃しようとも傷一つつけることができない。
 相手が武器を持っていないにもかかわらずだ。
 
 ――このままじゃ勝てない。だったら!

 バッと後ろに下がり、ゼノスと距離を取る。
 意を決したレティシアの体から、漏れ出る魔力量が増す。
 レティシアは床に剣を突き立て、両手を前に突き出した。
 白い冷気が渦を巻き、空気中の水分が凍りつく。
 レティシアの目の前で氷の塊が生み出され、徐々に大きくなる。
 氷塊は次第に槍の形へと姿を変えた。

「いかん!? その魔法は危険じゃ!!」

 オルフェウス学院長が叫び、止めようとする。
 しかしもう遅い。
 レティシアの瞳が青く輝き、美しい声が響く。

「『フロスト・スピア』!!」

 氷の槍が一直線にゼノス目掛けて飛来する。

 ――速いっちゃ速いが、単純だな。
 避けるのは簡単だが。
 
 避けることは容易い。
 だが、これは模擬戦だ。
 圧倒的な力の差を見せつけるのに一番効果的なことを考えた場合、ゼノスが取る手段は一つしかない。

 それに、この魔法がレティシアにとって切り札なのだろう。
 体内の魔力量も残り少ないし、肩を大きく上下している。

 ゼノスは右手を前に突き出す。
 神経を右手に集中させて、魔力を練る。
 そして、ゼノスが使える魔法の中で一番弱いものを選択した。
 
「『イグニス』」

 次の瞬間、凄まじい爆発音がとどろき、衝撃波がドーム内に広がった。
 白い霧が充満している。
 その中心には無傷のゼノスが、平然と立っていた。

「そ、そんな……」

 正体不明の衝撃がレティシアを襲った。
 自身が使える中で最大の攻撃魔法を火の最下級魔法で相殺されたのだ。
 魔力は残り少なく、相手はまだまだ余力を残しているように見える。
 それどころか、ゼノスの底がまるで読めずにいた。

「――強いのね。私が今まで見た中で一番かもしれないわ、貴方は」

 静かな声でレティシアが言った。

「そりゃどーも。で、まだ続けるか?」
「いいえ、やめておくわ」

 左右に首を振り、短くレティシアが答える。

「私の負けよ。――だけど、いつかまた戦ってくれるかしら?」
「ああ、いいぜ」

 ゼノスの差し出した手を握り返すと、レティシアは身をひるがえした。

「ってことらしいぜ、学院長」

 ゼノスの言葉で現実に引き戻されたオルフェウス学院長は、「オッホン!」と咳払いすると、ゼノスの右手を掴んで上げた。

「模擬戦の勝者は、ゼノスくんじゃ!」

 オルフェウス学院長の合図で、二階にいた生徒たちは割れんばかりの歓声を上げ、盛大な拍手が響き渡る。

 ――さて、これで終わりだといいんだが。
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