魔王の息子、潜入した勇者養成学校で王女様に一目惚れをする〜彼女のために勇者を目指します〜

洸夜

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勇者を目指せ!?

第25話

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 翌日。
 ゼノスは講義に集中できなかった。

 昨日の一件で、今まで以上に生徒たちの注目を浴びるようになったということもある。
 年頃の少年少女たちにとって、恋愛に興味を持たない者はいない。
 それが帝国のお姫様と共和国の平民という、特殊な関係であればなおさらだろう。
 
 男子生徒からは主に嫉妬が、女子生徒からは先に告白しておけば良かったという後悔を含んだ視線が多い。
 その中でも帝国の男子生徒からは、明らかな敵意が込められていた。
 レティシアは彼らにとって憧れの存在だったのだろう。

 一度断ったゼノスからすれば釈然しゃくぜんとしないものがある。
 だが、帝国民でもないゼノスが名ばかりとはいえ、皇帝から直接准男爵を下賜され、あまつさえ娘をどうだと言われたのだ。
 彼らの心中が穏やかでいられないだろうということは理解できた。
 それにこの程度の敵意など、ゼノスにとっては児戯に等しいし、集中力が乱されることもない。

 では、ゼノスが講義に集中できなかった最大の要因は何かというと――。

「ユリウス、ちょっといいか」
「なんだ?」

 講義の合間の休憩時間。
 ゼノスは一直線にユリウスの元へ向かった。

「あんたからも言ってくれねえか。もっと離れろって」
「何故だ?」

 ユリウスは首を傾げる。

 ――ダメだこいつ。分かってねえ。
 いや、分かっていて敢えて分からねえ振りをしている可能性も……あー、くそっ!

 ゼノスはガシガシと頭を掻く。
 だったら、と視線を自身の隣に立つ人物に向ける。

「だいたい、何でまだいるんだ? ここの生徒じゃねえだろ、レティシア」

 ロムルスと護衛はその日のうちに帝国へ帰ったのだが、レティシアは一人魔術学院に残っていた。
 そればかりか、しれっと講義に参加している。
 しかも、ゼノスの隣の席でだ。
 こてり、と小首を傾けたレティシアは、真顔でゼノスの方に向き直った。

「ゼノスの傍にいたかったから?」
「はっ? ……はぁっ!?」
「本当は間近でゼノスの実力を見たいと思ったからよ」
「……なんだ、びっくりさせんなよ」
「……傍にいたいというのも嘘じゃないけど」
「……」

 ゼノスは困惑した。

 ――なんだ、俺は別に何もしてねえぞ。
 たった一度戦っただけなのに、俺に対しての好感度が高くないか?
 勝ったからか? 俺が昨日負けていればこんなことにはならなかったのか?
 いや、待て。
 負けてたら勇者への道が……イリスとのイチャイチャが遠ざかってたはずだ。

 思わず頭を抱えたくなった。
 しかし、周囲にイリスとの関係を隠しつつ勇者を目指すことと、新たにレティシアという問題が増えたのだから、悩みは二倍だ。

「安心して。長居するつもりはないわ。ゼノスの強さの一端でも知ることができればすぐに帝国に戻るつもりよ」
「そ、そうか」
「それまでは近くにいるつもりだけど」

 そう言ってレティシアはゼノスの左腕にしがみつく。
 ふにゅっと柔らかな感触が伝わった。

「ちょ、おまっ――」
「離れなさい」

 ゼノスが口にするよりも早く、レティシアの行動を咎める声が聞こえた。

うらやま――じゃなくて、非常識な行動は慎んでほしいわね、レティシア・アウグストゥス」
「あら、貴女には関係のないことではなくて? イリス・レーベンハイト」

 イリスとレティシアの視線がぶつかり合い、火花が散った――ような感覚に襲われる。
 二人とも笑みこそ浮かべているものの、体から魔力が漏れ出ていた。

「関係はあるわ。ここは魔術学院よ。貴女のようにハレンチなことをする場所ではないの」

 突き刺すような視線でイリスは告げる。
 心の中では、

 ――う、羨ましいいい!!
 私だってゼノスに抱きつきたいのにっ!

 煩悩まみれだった。

「王国の聖女様はお堅いのね。これくらいどうってことないでしょう」

 レティシアはギュッと力を入れると、さらに胸が押し付けられる形になった。

 ――よし、今すぐ帝国を滅ぼしましょう。
 
 と、物騒な考えが頭をよぎるイリスだったが、必死で抑える。
 男の為に休戦協定を破棄だなんて、笑い話にもならない。
 大きく深呼吸をしたイリスは、ユリウスを見る。

「ユリウス様。次期皇帝として、兄として、妹の手綱くらい握れなくては人心も離れてしまうと思いますが、どのように考えていらっしゃるのかしら。いえ、お答えいただかなくても結構です。聡明なユリウス様であれば、きっと判断を間違えるはずなどないと思いますの。そうですわよね?」

 イリスの端正な唇から滑るように告げられた言葉の一つ一つに、有無を言わさぬ迫力があった。
 本能的にユリウスは頷くことしかできなかった。
 
「う、む。――レティシア」
「承知いたしましたわ、お兄様」

 わずかに不満げな顔をしたものの、レティシアはゼノスの腕に絡めていた手をほどき、少しだけ距離を取る。

「これで満足かしら?」
「ええ、聞き分けがよくて助かるわ」
「ふふっ」
「ふふふ」

 二人は自然と笑みをこぼす。
 彼女は敵だ。
 ほぼ同時にイリスとレティシアはお互いを敵と認識した。

 ――おいおい、まさかこの雰囲気で課外授業もやるのかよ……。

 イリスとレティシアの間を渦巻く険悪な空気に、ゼノスはまた頭を抱えるのだった。
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