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勇者を目指せ!?
第41話
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「我を倒す、だと?」
「そうだ」
決定事項だ、とでも言わんばかりにハッキリと断言するゼノスに、仮面の男――カイナは憤りを覚える。
カイナを前にこれほど不遜な態度を取る者はいなかった。
いや、一人だけいたことを思い出す。
現魔王であるバエルだ。
――フン、あんな奴、誰が魔王と認めるものか。
我が魔王と認める御方はルキフェ様のみ。
そこで、カイナは目の前に現れた少年がゼノスと呼ばれていたことに気づく。
「ゼノス……そうか、貴様が我の計画をことごとく邪魔していた人間か」
「だったらどうする」
「知れたこと。ここで貴様を殺し、イリスを殺す。それで我が願いを成就する」
「……いま、なんて言った?」
ゼノスの姿が消えた。
カイナがそう思ってしまうほどのスピードだった。
「なっ!?」
次にカイナがゼノスを視認したとき、ゼノスはカイナの目の前にいた。
「イリスを殺すとほざいたような気がしたんだが、俺の気のせいか?」
――我の目でも追えない速さだと!
何かの間違いに決まっているっ。
カイナには前魔王ルキフェの側近としての自負がある。
現魔王バエルの側近たる四天王にも負けない自信があった。
イリスを殺し、ルキフェを復活させ前魔王派に呼び掛けて現魔王派を一掃する。
そして、人間どもの国へ侵攻し、魔族の世界をつくるのだ。
カイナは地面を蹴り、ゼノスから離れる。
「これは決定事項だ。魔王ルキフェ様復活のため。貴様とイリスにはここで死んでもらう――ウィリアム!」
カイナの声に呼応するかのように、ウィリアムはゼノスに向けて手を振りかざす。
イリスにも使用した『アース・バインド』。
ゼノスの足へと絡みつき、自由を奪う。
その間に落ち着きを取り戻したカイナがゼノスに突進した。
「死ね」
カイナが魔力を込めた拳でゼノスに殴りかかる。
魔族の魔力量は人間のそれとは桁違いだ。
膨大な魔力を体で覆えば、それだけで武器と化す。
当たってしまえば、脆弱な人間など一撃で粉々になるはずだった。
しかし、カイナの拳はゼノスを捉えることなく空を切った。
「がはっ!?」
その声は、ゼノスのものでもカイナのものでもない。
「あの程度の魔法じゃ、俺の動きを止めることはできねえよ」
カイナが振り返ると、地面に転がされたウィリアムの姿があった。
またしてもカイナの目で、ゼノスの動きを捉えることはできなかったのだ。
「貴様……何をしたのだ」
カイナの目は驚愕で見開かれていた。
「拘束を強引に引きちぎってお前の横を通り過ぎた。でもって、ウィリアム先生のボディに一発入れただけだ。なんだ、見えなかったのか」
「ありえぬ」
「いや、事実だし」
目の前の仮面の男が魔族なのは一目で分かった。
実力もそれなりにあるというのも分かる。
だけど、それだけだ。
「我は魔王ルキフェ様の側近が一人カイナ! 魔王復活を果たすため、断じて貴様ごときに後れをとるわけにはいかぬ!」
カイナは右腕を前に突き出すと、そこに黒い魔法陣が浮かび上がる。
「見せてやろう。人間では到達できぬ魔族の真の力、闇の最上位魔法を」
それと同時。
カイナの全身から爆発的な魔力が迸った。
漆黒に染まった魔力はバチバチと音を立てながら、カイナの右手にまとわりつくように集まっていく。
「消し炭となれ! 『タラニス』!!」
カイナの右手から真っ黒な魔力が雷となって、一直線に放たれた。
ゼノスに触れた瞬間、中立都市のシンボルたる教会が、爆発したように吹き飛んだ。
「ゼノスッ!? そんな……」
イリスの悲痛な叫びが響き渡る。
魔法の威力は魔力の消費量で異なる。
最上位魔法となれば、消費する魔力量はすさまじく、当然威力もとてつもない。
パラパラと破壊された教会の破片が地面へ落下してくる。
そこに教会があったなどとは思えない惨状になっていた。
カイナはイリスの方へ振り返り、ニヤリと口角を上げる。
「悲しむことはない。すぐに奴と会わせてやろう」
「くっ!」
イリスは目に涙を浮かべたまま、身構える。
が、次の瞬間、イリスは大きく目を見開いた。
その表情は悲しみから喜びへと変わっている。
「なんだ? 死の間際に頭がおかしくなったのか?」
気が触れたにしては目に力が宿っている。
諦めた者の目ではない。
だんだんと光を帯びて力強さを増していた。
――我を見ていない? ならば、いったいどこを見ているのだ。
カイナはイリスの視線の先を辿るように振り返った。
そして、わなわなと肩を震わせた。
ゼノスがウィリアムを脇に抱えて、平然と立っていたからだ。
「ば、馬鹿な……!? 『タラニス』の直撃を受けて、かすり傷一つ負っていないだと……!?」
「てめえの魔力じゃ俺の魔力を貫けなかったってことだ」
「ありえんっ!!」
――ありえん、って言われてもな。
親父に比べりゃ、カイナの魔力はそれなりでしかない。
「俺がここに立っている。それが事実だ。魔族ならそれくらい分かるだろ?」
「ぐっ……」
「さて」
ゼノスはウィリアムを地面に下ろすと、カイナを睨みつける。
「なんだ、ビビってんのか」
「な、んだと……」
カイナはそこで、自身が一歩後ずさっていたことに気づく。
「ふざけるな! 我が貴様ごときに恐れるなどありえぬ! 我が恐れ崇めるはルキフェ様ただ一人よ!!」
そう言って、カイナはイリスの方を振り返る。
自身が使える切り札ともいえる魔法を受けて無傷だったのだ。
口惜しいが、自分と相対しているのは、まともに戦って勝てる相手ではない。
だが、カイナにとって自分の死と負けはイコールではなかった。
彼は決着をつけるべく、死を覚悟した。
「死など恐れぬ。ここで貴様さえ殺すことができれば我が願いは叶うのだっ!!」
カイナの全身に魔力が満ちた。
カイナの体が急激に加速する。
全身凶器と化したカイナの突進だ。
イリスの『ディバインフィールド』を突き破り、イリスにも致命的なダメージを与えるだろう。
そこまで辿りつければ、の話だが。
「行かせるわけねえだろうが」
一瞬でカイナの前に立ち、カイナの体に手を押し当てる。
たったそれだけで、カイナの動きは止まってしまう。
「なっ!?」
どれだけ全身に力を込めようと、前にも後ろにも進むことができない。
その間、ゼノスは炎を最上位魔法を詠唱していた。
「――爆炎の魔神よ、我は願う」
ゼノスの魔力が炎となって周囲に渦巻き、突風が吹き荒れる。
「――万物万象、我が前に立ちはだかる全てを灰燼に帰す力をここに」
カイナの足下に、真紅に燃える魔法陣が姿を現す。
触れただけでジュッ! とカイナの足を焼く。
「ぐぅっ、離せ! 離せええええ!?」
必死でこの場を離れようとするカイナ。
だが、必死の抵抗も虚しく、炎獄への入り口の蓋が開く。
「『イフリート』!!」
カイナの頭上に姿を現したのは、真っ赤に燃える肉体を宿した炎の魔神。
炎の魔神は、カイナに向かって急降下する。
カイナに触れた瞬間、魔法陣を中心に炎の柱が天高く伸びる。
「ぐっ、ギャアアアアああ!?」
カイナの断末魔の叫び声が響き渡った。
人型の魔族の魔法耐性は、魔物と比べて高い。
全身を魔力で覆えば、どんな攻撃も跳ね返す。
だが、そんなものなど無意味だ、とでも嘲り笑うように、凄まじい熱と炎が、容赦なくカイナを焼いた。
「ル、ルキ……フェ、さ……」
カイナは最後まで言葉を発することすらできなかった。
魔法陣が消えると、跡には何も残っていない。
先ほどまで存在したカイナは、まるで最初からいなかったかのように跡形もなくなっていた。
「そうだ」
決定事項だ、とでも言わんばかりにハッキリと断言するゼノスに、仮面の男――カイナは憤りを覚える。
カイナを前にこれほど不遜な態度を取る者はいなかった。
いや、一人だけいたことを思い出す。
現魔王であるバエルだ。
――フン、あんな奴、誰が魔王と認めるものか。
我が魔王と認める御方はルキフェ様のみ。
そこで、カイナは目の前に現れた少年がゼノスと呼ばれていたことに気づく。
「ゼノス……そうか、貴様が我の計画をことごとく邪魔していた人間か」
「だったらどうする」
「知れたこと。ここで貴様を殺し、イリスを殺す。それで我が願いを成就する」
「……いま、なんて言った?」
ゼノスの姿が消えた。
カイナがそう思ってしまうほどのスピードだった。
「なっ!?」
次にカイナがゼノスを視認したとき、ゼノスはカイナの目の前にいた。
「イリスを殺すとほざいたような気がしたんだが、俺の気のせいか?」
――我の目でも追えない速さだと!
何かの間違いに決まっているっ。
カイナには前魔王ルキフェの側近としての自負がある。
現魔王バエルの側近たる四天王にも負けない自信があった。
イリスを殺し、ルキフェを復活させ前魔王派に呼び掛けて現魔王派を一掃する。
そして、人間どもの国へ侵攻し、魔族の世界をつくるのだ。
カイナは地面を蹴り、ゼノスから離れる。
「これは決定事項だ。魔王ルキフェ様復活のため。貴様とイリスにはここで死んでもらう――ウィリアム!」
カイナの声に呼応するかのように、ウィリアムはゼノスに向けて手を振りかざす。
イリスにも使用した『アース・バインド』。
ゼノスの足へと絡みつき、自由を奪う。
その間に落ち着きを取り戻したカイナがゼノスに突進した。
「死ね」
カイナが魔力を込めた拳でゼノスに殴りかかる。
魔族の魔力量は人間のそれとは桁違いだ。
膨大な魔力を体で覆えば、それだけで武器と化す。
当たってしまえば、脆弱な人間など一撃で粉々になるはずだった。
しかし、カイナの拳はゼノスを捉えることなく空を切った。
「がはっ!?」
その声は、ゼノスのものでもカイナのものでもない。
「あの程度の魔法じゃ、俺の動きを止めることはできねえよ」
カイナが振り返ると、地面に転がされたウィリアムの姿があった。
またしてもカイナの目で、ゼノスの動きを捉えることはできなかったのだ。
「貴様……何をしたのだ」
カイナの目は驚愕で見開かれていた。
「拘束を強引に引きちぎってお前の横を通り過ぎた。でもって、ウィリアム先生のボディに一発入れただけだ。なんだ、見えなかったのか」
「ありえぬ」
「いや、事実だし」
目の前の仮面の男が魔族なのは一目で分かった。
実力もそれなりにあるというのも分かる。
だけど、それだけだ。
「我は魔王ルキフェ様の側近が一人カイナ! 魔王復活を果たすため、断じて貴様ごときに後れをとるわけにはいかぬ!」
カイナは右腕を前に突き出すと、そこに黒い魔法陣が浮かび上がる。
「見せてやろう。人間では到達できぬ魔族の真の力、闇の最上位魔法を」
それと同時。
カイナの全身から爆発的な魔力が迸った。
漆黒に染まった魔力はバチバチと音を立てながら、カイナの右手にまとわりつくように集まっていく。
「消し炭となれ! 『タラニス』!!」
カイナの右手から真っ黒な魔力が雷となって、一直線に放たれた。
ゼノスに触れた瞬間、中立都市のシンボルたる教会が、爆発したように吹き飛んだ。
「ゼノスッ!? そんな……」
イリスの悲痛な叫びが響き渡る。
魔法の威力は魔力の消費量で異なる。
最上位魔法となれば、消費する魔力量はすさまじく、当然威力もとてつもない。
パラパラと破壊された教会の破片が地面へ落下してくる。
そこに教会があったなどとは思えない惨状になっていた。
カイナはイリスの方へ振り返り、ニヤリと口角を上げる。
「悲しむことはない。すぐに奴と会わせてやろう」
「くっ!」
イリスは目に涙を浮かべたまま、身構える。
が、次の瞬間、イリスは大きく目を見開いた。
その表情は悲しみから喜びへと変わっている。
「なんだ? 死の間際に頭がおかしくなったのか?」
気が触れたにしては目に力が宿っている。
諦めた者の目ではない。
だんだんと光を帯びて力強さを増していた。
――我を見ていない? ならば、いったいどこを見ているのだ。
カイナはイリスの視線の先を辿るように振り返った。
そして、わなわなと肩を震わせた。
ゼノスがウィリアムを脇に抱えて、平然と立っていたからだ。
「ば、馬鹿な……!? 『タラニス』の直撃を受けて、かすり傷一つ負っていないだと……!?」
「てめえの魔力じゃ俺の魔力を貫けなかったってことだ」
「ありえんっ!!」
――ありえん、って言われてもな。
親父に比べりゃ、カイナの魔力はそれなりでしかない。
「俺がここに立っている。それが事実だ。魔族ならそれくらい分かるだろ?」
「ぐっ……」
「さて」
ゼノスはウィリアムを地面に下ろすと、カイナを睨みつける。
「なんだ、ビビってんのか」
「な、んだと……」
カイナはそこで、自身が一歩後ずさっていたことに気づく。
「ふざけるな! 我が貴様ごときに恐れるなどありえぬ! 我が恐れ崇めるはルキフェ様ただ一人よ!!」
そう言って、カイナはイリスの方を振り返る。
自身が使える切り札ともいえる魔法を受けて無傷だったのだ。
口惜しいが、自分と相対しているのは、まともに戦って勝てる相手ではない。
だが、カイナにとって自分の死と負けはイコールではなかった。
彼は決着をつけるべく、死を覚悟した。
「死など恐れぬ。ここで貴様さえ殺すことができれば我が願いは叶うのだっ!!」
カイナの全身に魔力が満ちた。
カイナの体が急激に加速する。
全身凶器と化したカイナの突進だ。
イリスの『ディバインフィールド』を突き破り、イリスにも致命的なダメージを与えるだろう。
そこまで辿りつければ、の話だが。
「行かせるわけねえだろうが」
一瞬でカイナの前に立ち、カイナの体に手を押し当てる。
たったそれだけで、カイナの動きは止まってしまう。
「なっ!?」
どれだけ全身に力を込めようと、前にも後ろにも進むことができない。
その間、ゼノスは炎を最上位魔法を詠唱していた。
「――爆炎の魔神よ、我は願う」
ゼノスの魔力が炎となって周囲に渦巻き、突風が吹き荒れる。
「――万物万象、我が前に立ちはだかる全てを灰燼に帰す力をここに」
カイナの足下に、真紅に燃える魔法陣が姿を現す。
触れただけでジュッ! とカイナの足を焼く。
「ぐぅっ、離せ! 離せええええ!?」
必死でこの場を離れようとするカイナ。
だが、必死の抵抗も虚しく、炎獄への入り口の蓋が開く。
「『イフリート』!!」
カイナの頭上に姿を現したのは、真っ赤に燃える肉体を宿した炎の魔神。
炎の魔神は、カイナに向かって急降下する。
カイナに触れた瞬間、魔法陣を中心に炎の柱が天高く伸びる。
「ぐっ、ギャアアアアああ!?」
カイナの断末魔の叫び声が響き渡った。
人型の魔族の魔法耐性は、魔物と比べて高い。
全身を魔力で覆えば、どんな攻撃も跳ね返す。
だが、そんなものなど無意味だ、とでも嘲り笑うように、凄まじい熱と炎が、容赦なくカイナを焼いた。
「ル、ルキ……フェ、さ……」
カイナは最後まで言葉を発することすらできなかった。
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