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勇者を目指せ!?
第43話
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ゼノスが魔王ルキフェの側近、カイナと対峙してから一ヶ月。
魔族と繋がっていたウィリアム先生が魔術学院を去ってから、オルフェウス学院長は忙しい日々を送っていた。
日中は生徒たちに授業を教え、それ以外の時間は学院長としての雑務をこなしつつ、勇者協会や各国の要人との連絡を取り合う日々。
オルフェウス学院長は熟練の魔術師ではあるが、六十歳をとうに超えている。
普通の魔術師ならばとっくの昔に引退している年齢だ。
加えて生徒の数は九十人以上であり、しかも皆が己の孫くらいの年齢でしかない。
生徒の大半は素直でいい子だ。
授業中は真面目に話を聞いてくれるし、課外授業でも問題を起こすこともない。
ごく一部の生徒を除いては。
そう、それがオルフェウス学院長にとって一番の悩みの種であり、疲れが溜まる原因でもあった。
その原因となっているのは他でもないゼノス・ヴァルフレアだ。
だが、彼自身は別に問題児というわけではない。
ゼノスは極めて優秀な生徒である。
口調は多少ぶっきらぼうなところもあるが、周囲の生徒に対する気配りは誰よりも早く、そして的確だ。
課外授業では先陣を切って魔族に向かう。
そこに焦りや力みといったものは微塵も感じられない。
正面から近づき、確実に一撃で仕留める。
ゼノスの戦い方は、他の生徒たちにとってお手本となるような、そんな戦いだった。
それだけではない。
他の生徒が危険にさらされれば、率先して助けに入る。
ただ助けるだけでなく、助けた後のフォローも忘れない。
どうすれば対処できたかを実践を交えて丁寧にレクチャーするのだ。
国を代表して集まった生徒たちは、総じてプライドが高い。
にもかかわらず、ゼノスのアドバイスには素直に耳を傾けている。
オルフェウス学院長が「儂、必要ないんじゃね?」と思ったのは一度や二度ではない。
ゼノスは優秀だ。
だが、彼の傍にいる少女たちが問題だった。
一人はイリス・レーベンハイト。
そしてもう一人はレティシア・アウグストゥス。
イリスはルミナス王国の第一王女であり、レティシアはヴァナルガンド帝国の第一皇女、つまりどちらも要人だ。
二人とも優秀な生徒であることには間違いないのだが、ゼノスが絡むとお互い対抗意識を見せる。
それもちょっとやそっとではない。
教室での授業は必ずゼノスの両脇に座り、課外授業でも彼の傍にはイリスとレティシアの姿があった。
授業自体は真面目に受けてくれているのだが、とにかくゼノスとの距離が近い。
グランレイヴ魔術学院は、勇者や魔術師を養成するために設立されている。
しかし、彼女たちの行動は学院の理念に沿っているかと問われると、甚だ疑問が残る。
かといって、彼女たちは魔術学院のスポンサーの娘だ。
それにイリスには教会の修繕費の一部を負担してもらうよう、口利きをしてもらっているし、レティシアは中途入学を認めた見返りに皇帝から多額の寄付をもらっている。
軽く注意をすることはあっても、それ以上のことはオルフェウス学院長といえどもできなかった。
――くっ、胃が痛いわい……。
オルフェウス学院長の心労はピークに達しようとしていた。
コンコン、と扉を叩く音がしたのはその時だ。
オルフェウス学院長は疲れた顔を引き締める。
「入ってきなさい」
『……失礼します』
学院長室の扉が開かれる。
「お、お主は――!?」
オルフェウス学院長の前に姿を現したのは、彼が待ち焦がれた人物だった。
翌朝。
教室には全生徒が座っていた。
そして、ゼノスの両脇には当然のようにイリスとレティシアが座っている。
黒板の前に立つのは二人。
一人はオルフェウス学院長、もう一人は白い服を着た、見たことのない美人だった。
紫の髪に褐色の肌。
耳や首元、手首に呪術的なアクセサリーを身に着けており、神秘的な雰囲気を纏っている。
両肩が露出しているものの、着ている服の露出度は低い。
ただし、スカートには深いスリットが入っているため、太ももの褐色の肌が覗いていた。
年齢はゼノスたちよりも上に見える。
服装を見ても生徒ではないだろう。
しかし、オルフェウス学院長の隣に立っているのだ。
魔術学院と関係のない者とは思えない。
当のオルフェウス学院長はニコニコと笑顔を生徒たちに向けていた。
「おはよう、生徒諸君。儂の隣におるのは、新たに着任したアルヴィナ・ネフティス先生。今日から彼女が君たちの担当じゃ」
アルヴィナ先生は表情を変えることなく小さくお辞儀をした。
生徒たちの方は「あの格好で先生!?」と、驚いている。
「彼女は優秀じゃぞ。属性は滅多にいない闇じゃし、召喚魔法も使いこなす。君たちの良い先生となってくれるはずじゃ」
オルフェウス学院長は上機嫌で頷いている。
それもそのはず。
ようやく、勇者協会からウィリアム先生の代わりとなる教師がやってきたのだ。
学院長としての業務に専念できるのだから、これほど喜ばしいことはない。
レティシアが手を挙げながら質問をした。
「召喚魔法とはどういったものでしょう?」
「レティシアくん。それはじゃな――うむ、口で説明するよりも実際に見てもらったほうがよかろう。着任して早々ですまぬがよいかの? アルヴィナ先生」
アルヴィナ先生は、無表情で頷く。
「……ええ、もちろん。私はそのためにやってきたのですから」
「そう言ってもらえると助かるわい。みな、席を立つのじゃ。外に行くぞ」
生徒たちは全員「課外授業でもするのか?」と、考えた。
ゼノスも同じことを考え、問いかける視線をイリスとレティシアに向ける。
しかし、二人とも首を傾げるだけだった。
「ほっほっほ! すぐに分かる。ではついてくるのじゃ」
オルフェウス学院長とアルヴィナ先生が教室を出る。
生徒たちも二人の後をついて教室を出た。
魔族と繋がっていたウィリアム先生が魔術学院を去ってから、オルフェウス学院長は忙しい日々を送っていた。
日中は生徒たちに授業を教え、それ以外の時間は学院長としての雑務をこなしつつ、勇者協会や各国の要人との連絡を取り合う日々。
オルフェウス学院長は熟練の魔術師ではあるが、六十歳をとうに超えている。
普通の魔術師ならばとっくの昔に引退している年齢だ。
加えて生徒の数は九十人以上であり、しかも皆が己の孫くらいの年齢でしかない。
生徒の大半は素直でいい子だ。
授業中は真面目に話を聞いてくれるし、課外授業でも問題を起こすこともない。
ごく一部の生徒を除いては。
そう、それがオルフェウス学院長にとって一番の悩みの種であり、疲れが溜まる原因でもあった。
その原因となっているのは他でもないゼノス・ヴァルフレアだ。
だが、彼自身は別に問題児というわけではない。
ゼノスは極めて優秀な生徒である。
口調は多少ぶっきらぼうなところもあるが、周囲の生徒に対する気配りは誰よりも早く、そして的確だ。
課外授業では先陣を切って魔族に向かう。
そこに焦りや力みといったものは微塵も感じられない。
正面から近づき、確実に一撃で仕留める。
ゼノスの戦い方は、他の生徒たちにとってお手本となるような、そんな戦いだった。
それだけではない。
他の生徒が危険にさらされれば、率先して助けに入る。
ただ助けるだけでなく、助けた後のフォローも忘れない。
どうすれば対処できたかを実践を交えて丁寧にレクチャーするのだ。
国を代表して集まった生徒たちは、総じてプライドが高い。
にもかかわらず、ゼノスのアドバイスには素直に耳を傾けている。
オルフェウス学院長が「儂、必要ないんじゃね?」と思ったのは一度や二度ではない。
ゼノスは優秀だ。
だが、彼の傍にいる少女たちが問題だった。
一人はイリス・レーベンハイト。
そしてもう一人はレティシア・アウグストゥス。
イリスはルミナス王国の第一王女であり、レティシアはヴァナルガンド帝国の第一皇女、つまりどちらも要人だ。
二人とも優秀な生徒であることには間違いないのだが、ゼノスが絡むとお互い対抗意識を見せる。
それもちょっとやそっとではない。
教室での授業は必ずゼノスの両脇に座り、課外授業でも彼の傍にはイリスとレティシアの姿があった。
授業自体は真面目に受けてくれているのだが、とにかくゼノスとの距離が近い。
グランレイヴ魔術学院は、勇者や魔術師を養成するために設立されている。
しかし、彼女たちの行動は学院の理念に沿っているかと問われると、甚だ疑問が残る。
かといって、彼女たちは魔術学院のスポンサーの娘だ。
それにイリスには教会の修繕費の一部を負担してもらうよう、口利きをしてもらっているし、レティシアは中途入学を認めた見返りに皇帝から多額の寄付をもらっている。
軽く注意をすることはあっても、それ以上のことはオルフェウス学院長といえどもできなかった。
――くっ、胃が痛いわい……。
オルフェウス学院長の心労はピークに達しようとしていた。
コンコン、と扉を叩く音がしたのはその時だ。
オルフェウス学院長は疲れた顔を引き締める。
「入ってきなさい」
『……失礼します』
学院長室の扉が開かれる。
「お、お主は――!?」
オルフェウス学院長の前に姿を現したのは、彼が待ち焦がれた人物だった。
翌朝。
教室には全生徒が座っていた。
そして、ゼノスの両脇には当然のようにイリスとレティシアが座っている。
黒板の前に立つのは二人。
一人はオルフェウス学院長、もう一人は白い服を着た、見たことのない美人だった。
紫の髪に褐色の肌。
耳や首元、手首に呪術的なアクセサリーを身に着けており、神秘的な雰囲気を纏っている。
両肩が露出しているものの、着ている服の露出度は低い。
ただし、スカートには深いスリットが入っているため、太ももの褐色の肌が覗いていた。
年齢はゼノスたちよりも上に見える。
服装を見ても生徒ではないだろう。
しかし、オルフェウス学院長の隣に立っているのだ。
魔術学院と関係のない者とは思えない。
当のオルフェウス学院長はニコニコと笑顔を生徒たちに向けていた。
「おはよう、生徒諸君。儂の隣におるのは、新たに着任したアルヴィナ・ネフティス先生。今日から彼女が君たちの担当じゃ」
アルヴィナ先生は表情を変えることなく小さくお辞儀をした。
生徒たちの方は「あの格好で先生!?」と、驚いている。
「彼女は優秀じゃぞ。属性は滅多にいない闇じゃし、召喚魔法も使いこなす。君たちの良い先生となってくれるはずじゃ」
オルフェウス学院長は上機嫌で頷いている。
それもそのはず。
ようやく、勇者協会からウィリアム先生の代わりとなる教師がやってきたのだ。
学院長としての業務に専念できるのだから、これほど喜ばしいことはない。
レティシアが手を挙げながら質問をした。
「召喚魔法とはどういったものでしょう?」
「レティシアくん。それはじゃな――うむ、口で説明するよりも実際に見てもらったほうがよかろう。着任して早々ですまぬがよいかの? アルヴィナ先生」
アルヴィナ先生は、無表情で頷く。
「……ええ、もちろん。私はそのためにやってきたのですから」
「そう言ってもらえると助かるわい。みな、席を立つのじゃ。外に行くぞ」
生徒たちは全員「課外授業でもするのか?」と、考えた。
ゼノスも同じことを考え、問いかける視線をイリスとレティシアに向ける。
しかし、二人とも首を傾げるだけだった。
「ほっほっほ! すぐに分かる。ではついてくるのじゃ」
オルフェウス学院長とアルヴィナ先生が教室を出る。
生徒たちも二人の後をついて教室を出た。
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