55 / 67
隠しごとをしているのは誰?
しおりを挟む
「……そうですか」
『お役にたてなくてすみません』
「いえ、お話が聞けただけで十分ですわ。機会があればそちらに伺わせてくださいませ」
『……ええ、是非』
私は大鏡に映るアシュタルテに向けて静かに頭を下げ、まろやかに微笑んだあと、接続を切った。
腰が沈み込むような感触の椅子に腰を下ろし、寛いだ姿勢を取る。
「あの者たちがアマルディアナの後任というわけじゃな」
「ええ、そうよ。貴女にはどう見えて?」
「ふーむ。はっきり言ってよいのか?」
「構わないわ」
「大したことないのう。あくまでアマルディアナと比べたら、じゃがの」
ジヴリールには3人の女神が大したことのない相手に見えたようだ。
まあ、私自身、彼女たちを脅威に感じたことは一度もない。
「それで、3人と話してみてどうじゃった。みな、同じ反応をしていたようじゃったが」
ジヴリールと一緒に魔王城へ戻った翌日。
私は早速3人の女神に探りを入れることにした。
質問の内容は全て同じだ。
一つ、アマルディアナという女神の名に覚えはないか。
一つ、あるのであれば何故、人間たちが覚えていないのか。
一つ、『星喰い』という神に覚えはないか。
それに対する答えはジヴリールの言うとおり、確かに同じだった。
アマルディアナは自分たちが来る前にベルガストを管理していた女神であること、人間たちが覚えていないのはアマルディアナが邪神と化したため、その事実を隠すために人々の記憶から消し去り、アマルディアナに関する文献も抹消したそうだ。
女神が邪神に堕ちるというのは、本来あってはならないことらしい。
だからといって、世界を創造した女神の存在をなかったことにしてしまうのもどうかと思うのだけれど。
女神の価値観というものはよく分からない。
『星喰い』については、存在そのものは知っているけれど、実際に会ったことはないと言うのが彼女たちの言い分だ。
3人とも同じ返答だったし、表情におかしなところはなかった。
あくまで表面的には、だけれど。
「怪しいのは2人、といったところかしら」
「ほほう、誰じゃ?」
「イシュベル、それにフローヴァ。この2人は嘘をついているわね」
私に嘘をついたところで意味がない。
女神というだけあって表面上も感情の揺らぎもコントロールされていたけれど、『星喰い』という言葉を聞いたとき、ほんの僅かな――刹那にも満たない動揺を私は見逃さなかった。
「2人は『星喰い』がベルガストに現れたことに何らかの関与をしているはず」
「……つまり、そ奴らが『星喰い』をおびき寄せたと言いたいのか?」
「さあ、そこまではまだ何とも言えないわ」
あまりにも情報が少なすぎるのだ。
「そういえば、なぜ儂の名前を出さなかったんじゃ?」
ジヴリールの問いに、私はクスッと笑う。
「私がアマルディアナや『星喰い』の話をすれば、何も知らないアシュタルテはともかくとして、イシュベルとフローヴァは今頃きっと動揺しているでしょう」
「まあ、そうじゃな」
「彼女たちも馬鹿ではないわ。表立ってということはないでしょうけど、必ず何かしらの動きを見せるはずよ。例えば、女神の力を使って守っている聖地の『英雄の剣』の状況を確認したり、ね」
「おお!」
わざわざ女神3人の力を使ってまで聖地を守護しているのだ。
きっと、ジヴリールが宿っていた『英雄の剣』が関係しているはず。
とはいえ、2人が取る選択肢は限られている。
本人が直接動くことはまずないでしょうし、そうなると考えられるのは勇者に命じて、ということになるのだが。
2人が召喚した勇者のうち、定森駿は現在牢獄の中だ。
つまり、残っている水無瀬鋼太郎を使うしかない。
そちらの動きはセバスに任せておけば問題ないでしょう。
「まあ、直ぐに動きを見せるほど愚かではないでしょうし、気楽に待ちましょう」
「そうじゃの」
ジヴリールは特に焦っていないようだった。
『英雄の剣』に封印されてからどれだけの年月が経っているのかは分からないけど、ずっと身動きがとれない状態だったのだ。
元の姿でなくとも、久しぶりの自由に喜びを感じているのは間違いない。
そうそう、持ち帰った単眼の巨人の魔石だけど、調べてみたら面白いことが分かった。
この魔石を武器や防具に混ぜると、『修復機能』が付与されるのだ。
武器が刃こぼれしても自動的に修復するし、防具がへこんだり傷がついても修復するという優れものだ。
しかも、使用する魔石はほんの僅かな量で効果があるのだから素晴らしい。
ただし、含有量によって効果回数が限られるので、混ぜる量が多い方が良いのは言うまでもない。
試作品として造った武器と防具は城に献上する予定だ。
もちろん、その場で効果を実証するつもりである。
価値を知ってもらうとともに、噂を広めてもらうことも狙いの一つだ。
手元にある単眼の巨人の魔石が一つしかないので、限定販売になってしまうけど、きっと売れるでしょう。
それと、販売用とは別に善人用に造っておくつもりだ。
勇者様へ、とでも言って国王に渡しておけば、善人のことを気に入っている国王のことだ、必ず渡してくれるだろう。
「そういえば、レボル様とはあれからどう?」
ジヴリールに向ける視線はいくぶん優しくなっていたけど、それでもまだ半信半疑といった感じだった。
「そうじゃのう、相変わらず不遜な態度じゃがそれは気にしておらん。儂を崇めておるがゆえの態度じゃろうしな」
そう言ってしまえるジヴリールの懐の深さには素直に感心する。
「そうそう、奴の弟のカイルじゃったか。あれは中々見どころのある奴じゃ」
「あら、どうしたの?」
「うむ、儂を見るなり自己紹介をしてきての。貢ぎ物を寄こしてきたのじゃ」
「貢ぎ物?」
「これじゃ」
そう言ってジヴリールが見せてくれたのは、おやつにどうぞと私がカイルにあげたお菓子だった。
「今日もこれから遊んでやるのじゃ」
「……そう、よかったわね」
「うむ!」
ジヴリールは満面の笑みを浮かべて頷いた。
私は敢えて口にしなかったが、カイルの行動は明らかに兄妹のいるお兄ちゃんが取るものだ。
カイルもまだ小さい少年ではあるが、見た目はジヴリールの方が幼い。
自分よりも年下の子ができたと思ったんでしょうね。
「おっと、そろそろ時間じゃな。儂は行くぞ」
「ええ。外には魔物もいるから気をつけて」
「ふはは、儂を誰だと思っておるのじゃ。邪魔する奴は蹴散らしてやるわ」
ジヴリールは笑いながら私の部屋から出て行った。
『お役にたてなくてすみません』
「いえ、お話が聞けただけで十分ですわ。機会があればそちらに伺わせてくださいませ」
『……ええ、是非』
私は大鏡に映るアシュタルテに向けて静かに頭を下げ、まろやかに微笑んだあと、接続を切った。
腰が沈み込むような感触の椅子に腰を下ろし、寛いだ姿勢を取る。
「あの者たちがアマルディアナの後任というわけじゃな」
「ええ、そうよ。貴女にはどう見えて?」
「ふーむ。はっきり言ってよいのか?」
「構わないわ」
「大したことないのう。あくまでアマルディアナと比べたら、じゃがの」
ジヴリールには3人の女神が大したことのない相手に見えたようだ。
まあ、私自身、彼女たちを脅威に感じたことは一度もない。
「それで、3人と話してみてどうじゃった。みな、同じ反応をしていたようじゃったが」
ジヴリールと一緒に魔王城へ戻った翌日。
私は早速3人の女神に探りを入れることにした。
質問の内容は全て同じだ。
一つ、アマルディアナという女神の名に覚えはないか。
一つ、あるのであれば何故、人間たちが覚えていないのか。
一つ、『星喰い』という神に覚えはないか。
それに対する答えはジヴリールの言うとおり、確かに同じだった。
アマルディアナは自分たちが来る前にベルガストを管理していた女神であること、人間たちが覚えていないのはアマルディアナが邪神と化したため、その事実を隠すために人々の記憶から消し去り、アマルディアナに関する文献も抹消したそうだ。
女神が邪神に堕ちるというのは、本来あってはならないことらしい。
だからといって、世界を創造した女神の存在をなかったことにしてしまうのもどうかと思うのだけれど。
女神の価値観というものはよく分からない。
『星喰い』については、存在そのものは知っているけれど、実際に会ったことはないと言うのが彼女たちの言い分だ。
3人とも同じ返答だったし、表情におかしなところはなかった。
あくまで表面的には、だけれど。
「怪しいのは2人、といったところかしら」
「ほほう、誰じゃ?」
「イシュベル、それにフローヴァ。この2人は嘘をついているわね」
私に嘘をついたところで意味がない。
女神というだけあって表面上も感情の揺らぎもコントロールされていたけれど、『星喰い』という言葉を聞いたとき、ほんの僅かな――刹那にも満たない動揺を私は見逃さなかった。
「2人は『星喰い』がベルガストに現れたことに何らかの関与をしているはず」
「……つまり、そ奴らが『星喰い』をおびき寄せたと言いたいのか?」
「さあ、そこまではまだ何とも言えないわ」
あまりにも情報が少なすぎるのだ。
「そういえば、なぜ儂の名前を出さなかったんじゃ?」
ジヴリールの問いに、私はクスッと笑う。
「私がアマルディアナや『星喰い』の話をすれば、何も知らないアシュタルテはともかくとして、イシュベルとフローヴァは今頃きっと動揺しているでしょう」
「まあ、そうじゃな」
「彼女たちも馬鹿ではないわ。表立ってということはないでしょうけど、必ず何かしらの動きを見せるはずよ。例えば、女神の力を使って守っている聖地の『英雄の剣』の状況を確認したり、ね」
「おお!」
わざわざ女神3人の力を使ってまで聖地を守護しているのだ。
きっと、ジヴリールが宿っていた『英雄の剣』が関係しているはず。
とはいえ、2人が取る選択肢は限られている。
本人が直接動くことはまずないでしょうし、そうなると考えられるのは勇者に命じて、ということになるのだが。
2人が召喚した勇者のうち、定森駿は現在牢獄の中だ。
つまり、残っている水無瀬鋼太郎を使うしかない。
そちらの動きはセバスに任せておけば問題ないでしょう。
「まあ、直ぐに動きを見せるほど愚かではないでしょうし、気楽に待ちましょう」
「そうじゃの」
ジヴリールは特に焦っていないようだった。
『英雄の剣』に封印されてからどれだけの年月が経っているのかは分からないけど、ずっと身動きがとれない状態だったのだ。
元の姿でなくとも、久しぶりの自由に喜びを感じているのは間違いない。
そうそう、持ち帰った単眼の巨人の魔石だけど、調べてみたら面白いことが分かった。
この魔石を武器や防具に混ぜると、『修復機能』が付与されるのだ。
武器が刃こぼれしても自動的に修復するし、防具がへこんだり傷がついても修復するという優れものだ。
しかも、使用する魔石はほんの僅かな量で効果があるのだから素晴らしい。
ただし、含有量によって効果回数が限られるので、混ぜる量が多い方が良いのは言うまでもない。
試作品として造った武器と防具は城に献上する予定だ。
もちろん、その場で効果を実証するつもりである。
価値を知ってもらうとともに、噂を広めてもらうことも狙いの一つだ。
手元にある単眼の巨人の魔石が一つしかないので、限定販売になってしまうけど、きっと売れるでしょう。
それと、販売用とは別に善人用に造っておくつもりだ。
勇者様へ、とでも言って国王に渡しておけば、善人のことを気に入っている国王のことだ、必ず渡してくれるだろう。
「そういえば、レボル様とはあれからどう?」
ジヴリールに向ける視線はいくぶん優しくなっていたけど、それでもまだ半信半疑といった感じだった。
「そうじゃのう、相変わらず不遜な態度じゃがそれは気にしておらん。儂を崇めておるがゆえの態度じゃろうしな」
そう言ってしまえるジヴリールの懐の深さには素直に感心する。
「そうそう、奴の弟のカイルじゃったか。あれは中々見どころのある奴じゃ」
「あら、どうしたの?」
「うむ、儂を見るなり自己紹介をしてきての。貢ぎ物を寄こしてきたのじゃ」
「貢ぎ物?」
「これじゃ」
そう言ってジヴリールが見せてくれたのは、おやつにどうぞと私がカイルにあげたお菓子だった。
「今日もこれから遊んでやるのじゃ」
「……そう、よかったわね」
「うむ!」
ジヴリールは満面の笑みを浮かべて頷いた。
私は敢えて口にしなかったが、カイルの行動は明らかに兄妹のいるお兄ちゃんが取るものだ。
カイルもまだ小さい少年ではあるが、見た目はジヴリールの方が幼い。
自分よりも年下の子ができたと思ったんでしょうね。
「おっと、そろそろ時間じゃな。儂は行くぞ」
「ええ。外には魔物もいるから気をつけて」
「ふはは、儂を誰だと思っておるのじゃ。邪魔する奴は蹴散らしてやるわ」
ジヴリールは笑いながら私の部屋から出て行った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
456
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる