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国王からの依頼
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日が昇って間もない時間。
一ノ瀬善人たちとそのパーティは、2週間ぶりに王都へ戻っていた。
国王、ガエリオ・ミドガルド・フロイゼンの招きに応じたものだ。
善人のレベルは90まで上がっており、アシュタルテたち女神が今まで召喚した勇者の中で最も高い数値だ。
経験値3倍の恩恵を受けている善人と違い、他のパーティメンバーのレベルは70前後と善人に比べれば低い。
それでも、このレベルであれば魔王城の門番たるアークデーモンは抜けられるはずだし、魔王の元までたどり着くことも可能だろう。
善人のレベルは90なのだから。
だが、ここで善人たちの前に思わぬ問題が発生した。
善人たちは魔王城に向かうべく、魔界に繋がる祠までやって来ていたのだが、転移門に近づいてもまったく反応しなかったのだ。
転移門を通る以外に魔王城へ向かう方法はないと言われていた善人にとって、これは予想外の出来事だった。
いったん諦めて近くの町まで戻った善人の下に、国王からの親書が届いたのだ。
内容は、「善人に直接会って話がしたい」というものだった。
善人は素直に応じることにした。
ベルガストにやって来てからというもの、国王には良くしてもらっている。
それに、転移門が反応しなかった件を報告しておきたいという思いもあった。
そして王都へ戻ってきたのが昨日の夜のこと。
そのままお城へ向かってもよかったのだが、それなりに急いで戻ってきたため衣服の汚れが目立つ。
そこで、善人はパーティと相談し、宿で一泊して服装を整えてから向かうことにした。
国王から指定された面談の場所はいつもの謁見の間だった。
部屋の前には近衛騎士が警備をがっちりと固めていたが、中には国王とロザリア、そしてマクギリアスの3人だけだった。
善人たちは近衛騎士の案内に従い、謁見の間に入った。
玉座には国王が座り、両脇にロザリアとマクギリアスが立っている。
善人たちは膝をついて頭を垂れた。
「お久しぶりです、国王陛下。一ノ瀬善人以下4名、参上いたしました」
「勇者ヨシトとその仲間たちよ、忙しいところ、来てもらって礼を言う。ああ、そう畏まらなくてもよい。面を上げて楽にして欲しい」
善人たちが顔を上げると、国王は笑顔で頷いていた。
善人は笑顔で返し、国王の両脇を見た。
「ありがとうございます。マクギリアス様とロザリア様もお久しぶりです。お元気そうなお姿を拝見できて嬉しく思います」
「私も会えて嬉しいよ」
マクギリアスの態度は前回よりもフレンドリーだった。
一度会っていることもあるが、何よりもマクギリアス自身が善人のことを気に入っているというのが大きい。
「ええ、本当に」
続けてロザリアが頷く。
彼女の場合は表情からして顕著だ。
久しぶりに会えて嬉しいという気持ちに満ちた、華やかな笑みを善人に向けている。
ロザリアとしては善人にもっと会いたいと思っているのだが、善人は勇者であり、彼の目的は魔王の討伐だ。
そのことを差し置いて会いに来てほしいなどと我が儘を言うつもりはない。
「本日は話がしたいということでしたが、どういったお話しでしょうか?」
善人が国王に尋ねる。
「そうであったな。だが、今回は私ではなくマクギリアスから話があるのだ」
「マクギリアス様から、ですか?」
軽く善人の表情が動く。
具体的には、両目をわずかに見開いた。
「ヨシト殿は聖地ティルナノーグに行かれたことはあるかな?」
「ええ、一度だけですがあります」
「そうか。では『英雄の剣』を抜こうと試したことも?」
「あります。抜くことはできませんでしたが……」
善人が聖地に行ったのは、レベルが40になった時だ。
どれだけ力を込めてもびくともしなかったのを覚えている。
その時は自分がまだ未熟であり、剣を抜く者に相応しくないのだと諦めた。
これなら大丈夫だと納得できる強さを手に入れてから、また挑戦しよう。
そう決意してから今まで近づかないようにしていたのだ。
「それなら話は早い。ヨシト殿、聖地へ行っていただけないだろうか?」
「……もう一度、挑戦しろということでしょうか?」
「それもあるが……」
マクギリアスが一瞬目を伏せて、言いよどむ。
「実は、つい最近だが私も聖地に行ってきたんだ。その時、魔物に襲撃された」
「魔物に!?」
今度は明らかな驚きの表情が善人の顔を過った。
聖地は女神の力によって守られており、魔物が聖地に近づくことはない。
善人が立ち寄った時も、聖地周辺には魔物の姿はまったく見えなかった。
「今この場にいらっしゃるということは……マクギリアス様が?」
「……ああ。聖地に駐在している兵士たちの力も借りてだがね」
答えるのにしばらく間があったのは、襲撃を思い出してのことだろうか。
「ただ、その後も魔物の目撃情報が届いている。聖地に住む住人も不安になっているそうなんだ。また、魔物が襲撃してくるのではないか、と。そこで、ヨシト殿たちには聖地周辺の調査もお願いしたいのだ。聖地の住人の安心の為に、貴方の力を貸してもらえないだろうか?」
マクギリアスとしては自分が先頭に立って動きたかった。
事実、目撃情報の報告を受けたときは動こうとした。
だが、動くことができない理由ができてしまったのだ。
ほぼ同時期に入った、砦からの「亜人の国で不穏な動きあり」という報告。
マクギリアスは砦の責任者としては、いつでも砦に戻れるようにしておかねばならない。
そこで、マクギリアスは善人たちに依頼することを思いついたのだ。
「もちろん、お引き受けします」
善人は快諾した。
「感謝します。ただ、この件に関わることで、魔王討伐に影響が出てしまうのは心苦しいが……」
マクギリアスが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「いえ、気になさらないでください。その件に関しては僕からも報告があります」
「報告?」
「はい。僕たちは転移門のある祠まで行きました。ですが、転移門が反応しなかったのです」
「なんだと!? それはまことか?」
国王が玉座から立ち上がる。
「本当です」
「ううむ。困ったことになったな。転移門が使えねば魔界に行くことはできぬ」
「転移門以外に魔界に行く方法はないのでしょうか?」
善人は国王にそう訊ねた。
「ない。城にある文献に、転移門のほかに魔界に行く方法は記されていない」
「そうですか……」
これは困った。
聖地の件を解決したとしても、転移門が使えなければ魔王城に行くことができない。
「お父様、どうにかならないのですか?」
「転移門がなぜ反応しないのか調べる必要がある。魔術師を数人、現地に向かわせよう」
ロザリアと目を合わせてから、国王はそう答えた。
「その間、ヨシト殿たちは聖地に向かい、魔物の調査を頼む」
「分かりました」
善人と彼のパーティは、国王の言葉に力強く頷いた。
一ノ瀬善人たちとそのパーティは、2週間ぶりに王都へ戻っていた。
国王、ガエリオ・ミドガルド・フロイゼンの招きに応じたものだ。
善人のレベルは90まで上がっており、アシュタルテたち女神が今まで召喚した勇者の中で最も高い数値だ。
経験値3倍の恩恵を受けている善人と違い、他のパーティメンバーのレベルは70前後と善人に比べれば低い。
それでも、このレベルであれば魔王城の門番たるアークデーモンは抜けられるはずだし、魔王の元までたどり着くことも可能だろう。
善人のレベルは90なのだから。
だが、ここで善人たちの前に思わぬ問題が発生した。
善人たちは魔王城に向かうべく、魔界に繋がる祠までやって来ていたのだが、転移門に近づいてもまったく反応しなかったのだ。
転移門を通る以外に魔王城へ向かう方法はないと言われていた善人にとって、これは予想外の出来事だった。
いったん諦めて近くの町まで戻った善人の下に、国王からの親書が届いたのだ。
内容は、「善人に直接会って話がしたい」というものだった。
善人は素直に応じることにした。
ベルガストにやって来てからというもの、国王には良くしてもらっている。
それに、転移門が反応しなかった件を報告しておきたいという思いもあった。
そして王都へ戻ってきたのが昨日の夜のこと。
そのままお城へ向かってもよかったのだが、それなりに急いで戻ってきたため衣服の汚れが目立つ。
そこで、善人はパーティと相談し、宿で一泊して服装を整えてから向かうことにした。
国王から指定された面談の場所はいつもの謁見の間だった。
部屋の前には近衛騎士が警備をがっちりと固めていたが、中には国王とロザリア、そしてマクギリアスの3人だけだった。
善人たちは近衛騎士の案内に従い、謁見の間に入った。
玉座には国王が座り、両脇にロザリアとマクギリアスが立っている。
善人たちは膝をついて頭を垂れた。
「お久しぶりです、国王陛下。一ノ瀬善人以下4名、参上いたしました」
「勇者ヨシトとその仲間たちよ、忙しいところ、来てもらって礼を言う。ああ、そう畏まらなくてもよい。面を上げて楽にして欲しい」
善人たちが顔を上げると、国王は笑顔で頷いていた。
善人は笑顔で返し、国王の両脇を見た。
「ありがとうございます。マクギリアス様とロザリア様もお久しぶりです。お元気そうなお姿を拝見できて嬉しく思います」
「私も会えて嬉しいよ」
マクギリアスの態度は前回よりもフレンドリーだった。
一度会っていることもあるが、何よりもマクギリアス自身が善人のことを気に入っているというのが大きい。
「ええ、本当に」
続けてロザリアが頷く。
彼女の場合は表情からして顕著だ。
久しぶりに会えて嬉しいという気持ちに満ちた、華やかな笑みを善人に向けている。
ロザリアとしては善人にもっと会いたいと思っているのだが、善人は勇者であり、彼の目的は魔王の討伐だ。
そのことを差し置いて会いに来てほしいなどと我が儘を言うつもりはない。
「本日は話がしたいということでしたが、どういったお話しでしょうか?」
善人が国王に尋ねる。
「そうであったな。だが、今回は私ではなくマクギリアスから話があるのだ」
「マクギリアス様から、ですか?」
軽く善人の表情が動く。
具体的には、両目をわずかに見開いた。
「ヨシト殿は聖地ティルナノーグに行かれたことはあるかな?」
「ええ、一度だけですがあります」
「そうか。では『英雄の剣』を抜こうと試したことも?」
「あります。抜くことはできませんでしたが……」
善人が聖地に行ったのは、レベルが40になった時だ。
どれだけ力を込めてもびくともしなかったのを覚えている。
その時は自分がまだ未熟であり、剣を抜く者に相応しくないのだと諦めた。
これなら大丈夫だと納得できる強さを手に入れてから、また挑戦しよう。
そう決意してから今まで近づかないようにしていたのだ。
「それなら話は早い。ヨシト殿、聖地へ行っていただけないだろうか?」
「……もう一度、挑戦しろということでしょうか?」
「それもあるが……」
マクギリアスが一瞬目を伏せて、言いよどむ。
「実は、つい最近だが私も聖地に行ってきたんだ。その時、魔物に襲撃された」
「魔物に!?」
今度は明らかな驚きの表情が善人の顔を過った。
聖地は女神の力によって守られており、魔物が聖地に近づくことはない。
善人が立ち寄った時も、聖地周辺には魔物の姿はまったく見えなかった。
「今この場にいらっしゃるということは……マクギリアス様が?」
「……ああ。聖地に駐在している兵士たちの力も借りてだがね」
答えるのにしばらく間があったのは、襲撃を思い出してのことだろうか。
「ただ、その後も魔物の目撃情報が届いている。聖地に住む住人も不安になっているそうなんだ。また、魔物が襲撃してくるのではないか、と。そこで、ヨシト殿たちには聖地周辺の調査もお願いしたいのだ。聖地の住人の安心の為に、貴方の力を貸してもらえないだろうか?」
マクギリアスとしては自分が先頭に立って動きたかった。
事実、目撃情報の報告を受けたときは動こうとした。
だが、動くことができない理由ができてしまったのだ。
ほぼ同時期に入った、砦からの「亜人の国で不穏な動きあり」という報告。
マクギリアスは砦の責任者としては、いつでも砦に戻れるようにしておかねばならない。
そこで、マクギリアスは善人たちに依頼することを思いついたのだ。
「もちろん、お引き受けします」
善人は快諾した。
「感謝します。ただ、この件に関わることで、魔王討伐に影響が出てしまうのは心苦しいが……」
マクギリアスが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「いえ、気になさらないでください。その件に関しては僕からも報告があります」
「報告?」
「はい。僕たちは転移門のある祠まで行きました。ですが、転移門が反応しなかったのです」
「なんだと!? それはまことか?」
国王が玉座から立ち上がる。
「本当です」
「ううむ。困ったことになったな。転移門が使えねば魔界に行くことはできぬ」
「転移門以外に魔界に行く方法はないのでしょうか?」
善人は国王にそう訊ねた。
「ない。城にある文献に、転移門のほかに魔界に行く方法は記されていない」
「そうですか……」
これは困った。
聖地の件を解決したとしても、転移門が使えなければ魔王城に行くことができない。
「お父様、どうにかならないのですか?」
「転移門がなぜ反応しないのか調べる必要がある。魔術師を数人、現地に向かわせよう」
ロザリアと目を合わせてから、国王はそう答えた。
「その間、ヨシト殿たちは聖地に向かい、魔物の調査を頼む」
「分かりました」
善人と彼のパーティは、国王の言葉に力強く頷いた。
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