ロイヤル・カンパニー ~元第三王子の英雄譚~

洸夜

文字の大きさ
17 / 39

第十六話『カーマインの夢 前編』

しおりを挟む
 ――懐かしい夢を見た。

 俺が八歳になったばかりで、第三王子カイルとしてアルフォンスに、ほぼ毎日のように訓練場で、剣術の稽古をつけてもらっていた頃の夢だ。

「たぁ!」
「王子、踏み込みが甘いですよっ」
「うわぁッ」

 あの頃の俺は、何度アルフォンスに向かっていっても、一撃を入れることが出来なくて悔しかったのを覚えている。
 まぁ、八歳の子供が十八歳の騎士に向かっていくんだ。
 普通に考えて、一撃を入れるなんて出来るはずがない。
 それでも当時の俺は、アルフォンスに一撃を入れる事が出来ると信じて、ずっと向かっていった。
 アルフォンスに向かって打ち込みをしては弾かれ、また打ち込みをしては弾かれを何度も繰り返した俺は、とうとう息を上げて床に倒れこむ。
 そして、その倒れこんだ俺をおんぶして部屋まで運ぶのがアルフォンスの日課となっていた。

「……くそぉ。今日もアルフォンスに一撃を入れることが出来なかったか」
「いやはや、カイル様の上達ぶりには驚かされます。
 今の時点でこれだけ出来るのであれば、将来が楽しみですよ」

 一撃を入れることが出来ずに悔しがる俺を背負い、上達ぶりを褒めてくれるアルフォンス。
 しかし、幼い頃の俺は頭を振る。

「――この程度ではダメなのだ。私はもっと、もっと強くならねばならぬ」
「何故ですか? 貴族の、それも騎士を目指す者であれば、真剣に稽古をする者もいるでしょう。
 ですがカイル様は王族です。普通、王族の御子息はここまで真剣に稽古に励むことはありません。
 せいぜい剣の型を覚えて嗜む程度です。
 何がカイル様をそこまで駆り立てるのですか?」

 アルフォンスの言うとおり、俺は幼少の頃から真剣に剣術の稽古に取り組んでいた。
 当時の俺は気づかなかったが、後にアルフォンスからは、いつ一撃を入れられるか肝を冷やしていたという話を聞いたことがある。
 そんな八歳の俺が、まだまだ力が足りないと嘆くのだ。
 アルフォンスは、さぞ不思議に思ったことだろう。
 だからこそ疑問を口にしたのだと思う。

「私にはな、夢があるのだ」
「夢――ですか?」
「あぁ、とても大きな夢だ。だが、今の私では到底叶えることは出来ない。
 その夢を叶えるには権力だけではダメなのだ。私自身が強くあらねばならぬ。
 今はまだ教えることは出来ないが、いつか必ず其方にも教えてやろう」
「そうでございましたか。どんな夢かは分かりませんが、カイル様が望む夢です。
 きっと素晴らしい夢なのでしょうね。カイル様が行動される時には、非才の身ではありますが、微力ながらお手伝いさせて頂きます」
「そうかっ。礼を言うぞ、アルフォンス!」

 俺の夢の話に対し、笑みを浮かべて手伝うと告げてくれたアルフォンスに、子供心に嬉しかったのを覚えている。
 この頃から既にアルフォンスは俺にとって、なくてはならない存在となっていたのだ。
 そう思っていると徐々に意識が浮上していくのを感じる――。



「ッッ」
「! カーマイン! 気がついたのねッ。大丈夫?」
「大丈夫かい? カーマイン?」

 目が覚めると目の前は森――ではなく、既にアニエス大森林を抜け、王都へ戻る途中だったようだ。
 俺はエルリックに背負われている。
 エルザとファラが心配そうな表情を浮かべて俺の顔を見ていた。
 背負われている為、エルリックの表情こそ見えないが、口調から気遣ってくれているのが分かる。
 ――あの頃の夢を見たのは、これが原因のようだ。

「あぁ、大丈夫だ。心配かけて済まなかったな。
 皆の方こそ大丈夫か?」
「私達は問題ないわ。ミノタウロス以外には魔物はいなかったし。
 それよりもミノタウロスを倒した後に、気を失うものだからそっちが心配で……」
「……済まない。【英雄領域】だけじゃ勝てない相手だったからな。
 新たな能力を使用したんだ。その反動だよ」
「新たな能力?」
「あぁ。能力の名前は【限界突破】。
 百秒という時間制限があるが、その間は【英雄領域】のおよそ二倍の力を強制的に引き出すことが出来る」
「二倍ですって!?」

 エルザは驚きで目を見開く。

「ああ。【英雄領域】は、自身の全てのステータスを上昇させる。
 しかし、それはあくまで英雄と呼ばれる存在の枠内に収まる範囲でしかないんだ」
「十分すごい事だと思うんだけど?」
「確かに十分有用な能力ではあるけど、相手によっては通じない事もあるんだ。
 ……今回のようにな」
「それは……」
「奴が何者かは分からないが、今回のように自分よりも強い者と戦うことはあるはずだ。
 【英雄領域】で倒す事の出来ない相手を打倒する為の力、それが【限界突破】というわけさ。
 ただし、【限界突破】は諸刃の剣だ。
 使用後の身体は、今みたいに反動で身体を動かす事もままならない状態になってしまう」

 俺が告げた驚愕の事実に、二人共愕然とした表情をしていた。
 エルザは目にうっすらと涙を浮かべている。

「おいおい、そんなに心配しなくても大丈夫だ。
 今回は気を失ってしまったが、俺の【生命癒術】で癒すことは出来るんだから。
 ……あれ?」
「どうしたの?」
「いや、どうやら【限界突破】を使用した後は、一時的に制限がかかるみたいだ。
 能力が使えなくなってる……」
「なッ!? 大丈夫なの!?」
「多分、一日休めば問題ないと思う。だがそうなると……兄さん、済まない。
 このまま王都まで戻ってもらわなきゃいけない。
 ……鎧を着ていないとはいえ、重いだろ?」

 申し訳なくなった俺はエルリックに謝った。
 能力に使用制限クールタイムが掛けられているのは盲点だった。
 こういう時の事も考えて、どの能力も一度は使って試しておくべきだったな……。

「ああ、大丈夫だよ。確かに昔背負った時に比べたら重いことは重いけど、弟を助けるのは兄として当たり前さ。
 弟なんだから、変に責任を感じる必要はないんだよ」
「……ありがとう、兄さん」

 そう言って笑うエルリックの姿が、夢の中のアルフォンスと重なる。
 あの頃から、ずっと俺の力になってくれているエルリックアルフォンス

 ――そろそろ、俺の夢について話してもいいかもしれない。
 俺は意志を固めて、皆に話しかける。

「皆。王都の宿屋に戻ったら話しておきたいことがあるんだ――」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...