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オーダー・巫女の妹の命を救え
1・受肉
「あなたは死にました。それは理解していますか?」
いきなりなにを。
そう言いかけた僕は、背筋を悪寒が駆け上がり、全身の毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出すような感覚に、思わず叫び声を上げそうになった。
燃え上がる部屋。
息が苦しい。
それはそうだ。
僕は炎と黒煙に巻かれているだけでなく、胸に突き立った出刃包丁で肺をやられたのか、かなりの勢いで喉の奥から血が逆流して窒息しかけていたんだから。
「ぼ、僕は……」
「辛い記憶を掘り起こしてしまってすみません。ですが、あなたはもう死んでいる。それを理解してもらわないと説明のしようがありませんので」
そう言って苦しそうに眉根を寄せた女の子には見覚えがない。
初めて会う人のはずだ。
なのにどうして、初めて会った気がしないんだろう。
「僕は、死んだ。胸を刺されて、家が燃えて、痛くて、熱くて、どうしようもなく苦しくて。そしたら、だんだんと意識が薄れて……」
「はい」
「なら、どうして僕はまだ生きてるんだ」
「生きているのとは少し違います」
「だって目が見えるし、耳も聞こえて」
「では、ご自分の手を見てください」
「手を?」
「はい」
言われた通り自分の手に視線を移す。
「な、なんだこれ。手が、透けてる?」
青と呼べばいいのか、それとも白か。
とにかく僕の手は青白く発光しながら透けていて、その向こうに灰色の石材でできているらしい床が見えている。
「今のあなたは、生と死の狭間にいます。その状態を霊と呼ぶべきか魂と呼ぶべきか私にはわかりません。ですが、あなたはまだ生きる事が可能です。新しい体を手に入れて、常人と同じように生きてゆける。私達の提案を受け入れ、力を貸してくれるのならば、ですが」
「提案?」
「はい。科学世界であるあなたの故郷、地球とは違い、この世界には神様方がいて人類種と深く関わっています。人間や亜人は、その神々に与えられた魔法やスキルを持って生まれ来るのです。それらを行使せねば太刀打ちできない人類の敵、モンスターに抗するため」
「まるでアニメかマンガだ」
「それらがなんなのかまでは私が与えられた知識にはありませんが、物語のようなものであるのならその通りですね」
「それで、どうすれば僕は生き返れると?」
「私の妹を。まだ12歳でしかないのに不治の難病に侵され、寝台で身を起こす事すらできずに苦しむ少女の苦痛を和らげ、最終的には救ってほしいのです」
「病気か。僕にできるんなら喜んでさせてもらうけど、僕にそんな力は……」
「あります。というか、もしもこちらの提案を受けていただけるのならその力を得る事が可能です」
「それで、その提案ってのは?」
「先ほど言ったように、こちらの世界には神様方がおられます」
「あー。うん、それで?」
「その神様方の一柱、カマラ様の使徒となる事です」
「使徒?」
「はい。本来ならば使徒は神事を司り神官や巫女を含めたすべての信徒を統べる立場でもありますが、カマラ様は個人の自由を尊重してくださるお方ですので、面倒な仕事などほとんどありません」
「それなのに人の病気を治せるような力を与えると?」
「無条件に誰でも癒せる訳ではありませんので。それにはまずカマラ様を信仰する医師や薬師のカマラ様への信仰度を、さらにそれだけでなく使徒への、忠誠度のようなものもカンスト状態になるまで上げてようやく可能になる『クラスチェンジ』で特別な力を与えるしかないそうです。それで、死を待つだけの妹を救う事ができます」
「なるほど」
室内に静寂が満ちる。
考えに耽りながら見るともなしに青白く発光する足の甲とその向こうに透けて見える石の床を眺めていると、その足の指先が音もなく歪む。
「どうやら時間が来たようですね」
「時間?」
「はい。今のあなたの状態は非常に不安定で、カマラ様でもそう長くこの世界に留めてはおけないらしいのです。ですので、決断を。このまま死して自我が消滅するのを是とするか。それともあなたの世界の物語の舞台のようなここで私の妹を助け、その後は使徒として生きてゆくのか」
「死ぬのが怖くないとは言わない。けどそれ以上に、助けられる人を助けないで死んじゃうのは嫌かな。やるよ。ほんとに僕にできるんなら」
「……ありがとうございます。その優しいご決断に、心からの感謝を」
視界が歪む。
僕の手足だけじゃない。
見えているすべてが、始めて見る部屋の景色と女の子も。
もしかして僕は、また死……
「うああっ!?」
「落ち着いてください。すぐに終わるそうです」
その言葉に嘘はなかった。
僕が女の子の言う意味を理解する前に視界の歪みは治まって、石の床の感触を足の裏に感じてまでいる。
「手が、足も、透けてない……」
「はい。あなたの受肉は済んだようです」
「僕の世界じゃ、受肉ってのは神様が人間として地に降り立つ事を言うんだけど」
「似たようなものでしょうから問題はありません。あなたは、使徒様はこの世界でも稀有な存在。神の代弁者となって今ここに降り立ったのですから」
神の代弁者。
それはなんだと問う前に、女の子はその細くて白い指を僕の背後へと向ける。
そうされて反射的に視線を向けた先にあったのは、見慣れてはいないけれど、それがなんなのかは一目で理解できる物体だった。
「パ、パソコン?」
僕が死ぬ前に毎日使っていたそれよりはだいぶ古そうな、モニターがまだ分厚い箱型のブラウン管の時代のパソコンだ。
そうとしか見えない。
「名称はわかりません。ですが使徒様はそれを使えて、扱う方法にも熟達していると聞いています」
「まあ、それはそうだけど」
「ならばまず確認を。カマラ様がおっしゃるには、それを使徒様が使えばこれ以上の説明は必要がないようにしてくださっているとの事ですので」
「わ、わかりました。じゃあ……」
「はい。ごゆっくりどうぞ。私はお茶でも淹れてまいりますので」
お気遣いなく。
そう返すと女の子はペコリと頭を下げ、石の壁に嵌まっている木製のドアを開けて部屋を出ていった。
天井も床も壁も、すべてが灰色がかった石でできている部屋。
「凄いな。テレビで見たどっかの国の遺跡みたい。石材の色は違うけどピラミッドとか。こんな部屋で普通に暮らしてるっての? まあ神様がいて魔法もあるって言ってたから不思議じゃないか。でも、そうなるとこれの違和感がハンパないなあ」
言いながらパソコンにしか見えない物体が載っている簡素な木製の机の前に立ち、これまた簡素な木の椅子を引いて腰掛けてみる。
テーブルは天板と足しかないし、椅子にも肘掛けすら付いてない。
「ケーブルの類なんてないのにモニターが動いてるから、キーボードとマウスだけが無線って訳ではないのかな。にしても、なにさこれ……」
トップページ、と呼んでいいのかわからないそこには、僕の顔写真。
それとデフォルメされた人間の姿とたくさんの文字や数字が浮かんでいる。
「一宮 優紀。17歳。称号・カマラの使徒(無属性)。クラス・なし。レベル1。発令中のメイン・オーダー、巫女の妹の命を救え。発令中の使徒オーダー、なし。HPにMPにスタミナ。ウソでしょ、なんで精力なんて表示もあるの? 後は体力とか筋力とかのステータス。画面の上の方には、タブもたくさんあるや。オーダーってのは、ゲームで言うクエストみたいなもんかな……」
そんな独り言を漏らしながらマウスを動かし、たくさんあるタブの先頭を選択してみる。
「信徒? のページ。の、アンルート家ってタブ。さっきの女の子だ。……ニル・アンルート。17歳。称号・カマラの巫女。クラス・中級薬師(水属性)。レベル25。発令中のオーダー、妹の命を救うため使徒を導け。発令中の使徒オーダー、なし。って、ええっ!?」
大声も出る。
だってレベルやHPやMPという文字の下の方には、なんと『性癖』と書いてあるんだから。
「せ、性癖って。……ウソでしょ。あんな清楚な感じの女の子が? マジで? うっわエッロ」
さっきまで話していた女の子、ニルちゃんという名前らしい女の子の印象を言葉にするのなら、『美少女』、『清楚』、『巨乳』。
そんな女の子の性癖が書いてあるとか……
僕のそれと同じくニルちゃんのデータが書いてあるページには、正面を向いた状態の首から上だけが写された顔写真。
その下の方にはデフォルメされた女体のイラストが描いてあり、口や胸部、股間なんかから線が伸びて、その先に『開発度』という文字まである。
これなんてエロゲ?
「って違う違う。そうじゃなくって、まずはヘルプ的なのを探さないと。……あった」
すぐに見つけたヘルプというタブを開き、まずは一番上の文字列をクリックしてみる。
使徒とは
神に選ばれた代理人
信徒を統率する者
例外なく特殊なステータスや魔法、スキルを与えられた存在
「なるほど。じゃあ次、使徒ができる事を選択っと」
使徒ができる事
各信徒には神への信仰度とは別に、使徒の信徒に対する支配度があり数値化されている
使徒は各信徒が神への信仰度と、使徒の信徒に対する支配度が一定の値を上回った際、各ページで信徒のステータスの上下、スキルや魔法の貸与、クラスチェンジを行える(詳しくは該当のページを参照)
「これの事かなぁ。じゃあ、とりあえず妹さんの病気を治せるスキルか魔法があるかを確認しなきゃだね」
にしても神への信仰度はわかるけど、使徒の信徒に対する支配度ってなんだ。
信徒ページに1つしかないアンルート家タブの1つしかないページ、ニルちゃんという女の子の顔写真やステータスが書いてある画面に戻る。
「……どうしても目が行くなあ。性癖とか開発度。この、性経験とかもついついクリックしたくなっちゃうし」
「お待たせしました」
「ひゃあっ!?」
「ど、どうされましたか?」
ごめんなさい。
君の性経験を覗き見しようとしてました。
そんな事実を言えるはずもなく、部屋に入ってきたニルちゃんに曖昧な笑みを向け、差し出された木製のカップを受け取る。
ふわりと鼻に届いた湯気からは、嗅ぎ慣れた飲み物の香りがした。
「あれ? こっちにもコーヒーってあるんだね」
「こちらでは豆茶と呼んでいる飲み物です。熱いのでお気をつけてお飲みください」
「なるほど。ありがとうございます」
「説明はお読みになりましたか?」
「あーっと、とりあえず条件を満たせば使徒が信徒に魔法やスキルの貸与、クラスチェンジなんかできるってとこまでは。今から妹さんの病気を治せる魔法かスキルを探すとこだね」
「それを成すには私か妹本人か、もしくは私達の母のクラスチェンジが最も早いらしいです。どの道そこまでいかないと対象の病気を無条件で癒す事はできないそうで。なのでまずは、私のクラスチェンジを目標にしていただければよろしいかと」
「そうなのか。了解です」
「はい。ですので1秒でも早く、私をめちゃくちゃにしてください」
「……………………は?」
この美少女ちゃんはなにを言っているんだろう。
「もしかして、使徒様の信徒に対する支配度の上げ方はまだ読んでいないのですか?」
「う、うん。でも今の言い方だと支配度の上げ方って……」
美人ちゃん、ニルちゃんが頬を真っ赤にしながら頷く。
頬だけじゃない。
耳も首も、見てる僕が心配になるくらいに真っ赤だ。
「せ、性行為です。お察しの通り。それも、その、できる限りそれぞれの性癖に合わせた変態的な」
「僕らの神様ってエロ系の邪神かなんかなのっ!?」
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