『鬼姫』

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『鬼のような顔の王女が隣のクラスにいる』

そう友人から聞いた時は、一体なんの冗談だと俺も思ったものだ。

生暖かい風がふわりと吹く、春の入学式の直後の事だ。

王立バクニスタットアカデミー。各国の伯爵以上の貴族の令嬢令息を教育する伝統ある由緒正しき学園。令嬢令息は15歳になるとこの学園に入り、1人前の王族貴族になるために教育される。

そう、ここにいるのは皆王族貴族ばかりなのだ。それなのに、鬼だと?子供じゃあるまいし、信じるか。

バカバカしい、と言う俺だったが、友人に引っ張られて隣のクラスを覗いてみてぎょっとする。確かに鬼がいる。

目はギョロリと血走り、鋭い牙はむき出し、頭からは闘牛のようにツノが生えており、肌はゴワゴワと赤みがかってる。

文句無しの、女の制服を着た鬼が、教室の中央の席に座っていた。

「なんでも、婚約していた公爵令息から婚約破棄された挙句他の令嬢に乗り換えられたショックでああなったんだとか。」

友人のロディはひそひそと俺の耳元で囁く。

俺らの他にも鬼の顔の彼女を一目見ようと訪れた野次馬がいた。

1年B組前の廊下にわんさかと人が集まり、それぞれがひそひそと彼女を見て嘲笑ったり驚いたりし合ってる。クラス内も異質な雰囲気だ。皆彼女を腫れ物のような目で見てコソコソと話す。

それでもその鬼の女は俯くこともどこかへ逃げることもせず、ただ凛と、背筋を伸ばして堂々としていた。

不思議なものだ。貴族王族というものは見た目や見栄を兎に角気にする生き物だ。普通あんな醜い見た目になったならば学校どころか、社交界だって顔を出したくないと自室に籠って泣くであろうに。

俺はその堂々とした佇まいがなんだか気に入った。


「あの王女、どこの国の?」

とロディに聞く。

「メルガリアン王国の第4王女だって。前はめちゃくちゃ美人だったらしいけど」

ふーん、と生返事をして1のBの教室に入る。後ろでロディが引き止める声を上げるが無視無視。

スタスタと歩いて鬼の彼女の目の前に立った。

「こんにちは」

にっこりと微笑んで彼女を正面から見た。

化け物のような全眼の黒い瞳は目の前に立った俺を目視した後ぎょろぎょろっと左右に泳ぐ。おそらく戸惑ったのだろう。

「まあごきげんよう。ルカ王子。」

「おや、私をご存知でしたか?」

「ええ勿論。世界最大の軍事力を誇るアルンディア帝国第1王子様ですもの。この学校にいる方々は皆ご存知ですわ。わたくし、メルガリアン王国の第4王女アンジーと申します。以後お見知りおきを。」

席を立ってちょこんと令嬢のお辞儀をされる。

顔が鬼という点以外は普通のようだ。

ちぇ、なんだつまんねえのと思った俺は、

「はは、メルガリアンは随分と畜産が盛んになったようだ!王女までもが家畜と化している!出荷はいつのご予定ですか?出荷先は見世物小屋でしょうかねえ?」

と高笑いした。

ピシリと凍る空気。俺の顔の一点を見つめる鬼の女。大きな黒い瞳には、愉快そうな俺が反射して映っていた。

「せいぜい『楽しく』なるといいですね、学校生活。」

そう言って教室を去る。俺が去った後、教室も廊下も彼女への嘲笑の雰囲気が漂っていた。

「ルカ!お前ってば……」

後ろから着いてきたロディが呆れてる。

「何かないとつまんないじゃん、俺この学校の勉強は家庭教師から教わってて全部終わってるし。あの顔で学校入学してくるくらいなら『これ』ぐらいの覚悟あるだろ。」

「国際戦争でも起こすつもりかよ?俺知らないぞ」

「冗談言えよ、メルガリアン王国なんて畜産だけが盛んの軍力塵な芋国家だぜ?最大軍事力の国に間違っても剣を向けるかよ。たかが第4王女のためだけに。」

ロディは性格悪いなあもう、とため息をついた。今更だろう。もう10年もの付き合いになるというのに。



    
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