憎まれ救世主 ~憎まれる程に強くなる力のせいで、マトモに話す事も出来なくて地獄なんだが~

お米うまい

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第五章 決戦の行方はスキル次第

第28話 救世主の真価

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「まずは私が数を減らします! 救世主様は手筈どおりにお願いします!」

 戦いの始まりはサーラの魔法から始まった。

 事前に聞かされていた内容では威力ではなく範囲を重視した魔法を使い、少しでも数を減らしていくという話であったのだが――

(えっと、これは何だ?)

 サーラの魔法が放たれた瞬間、研一は戸惑いで目の前で何が起きているか瞬時には判断出来なかった。

 視界一面がオレンジ色の何かで埋め尽くされている。

 あまりに強大過ぎて、それが何なのか解らない。

(炎の壁、か?)

 一瞬遅れで目の前の物の正体に気付いた瞬間。

 壁のように全く動いていなかった炎が、まるで津波を思わせるような動きで魔族軍へと押し寄せていく。

(え、これ俺本当に要る?)

 水のように炎が流動し、全てを呑み込んでいく。

 生えていたサボテンを瞬時に灰にし、偶々魔法の進路上に居てしまった通りすがっただけの哀れな魔物が焼き尽くして尚――

 勢いは留まる事を知らず突き進んでいく。

(雪崩……)

 不意に研一の頭に浮かんだのは、そんな突拍子もない単語。

 山でもなければ雪でもない。

 砂漠を駆け抜けていくオレンジ色の炎の波には、不似合いな言葉だろう。

 けれど、その全てを覆い尽くす抗いようのない光景は、まさしく研一がイメージする雪崩そのものであった。

「はぁ……」

 その圧倒的なまでの暴力に対して魔族の男は、つまらなさそうに一つ溜息を吐く。

 そして買い物でもするかのような足取りで、迫りくる炎の前に立ち塞がったかと思うと――

「随分と舐められてるんだな、俺達……」

 軽く腕を横薙ぎに振るう。

 たったそれだけの行為で炎で出来た雪崩は切り裂かれ、雲散霧消した。

「この程度の魔法で倒せるとは思っていなかったですが――」

 言葉どおりサーラとて、こんな魔法で倒せるとは露ほども思っていなかった。

 魔法というのは原則として、範囲を広げれば広げるだけ威力は弱まる傾向があり、確実に相手を殺したいのならば、細く鋭く魔力を集中させ、急所を射貫く事こそが正道とされている。

 だが、それはあくまで一対一の話。

 大人数でぶつかり合う場合は、まずは範囲攻撃で敵の兵と体力を削り、その後で生き残った強者に集中するのが基本戦術なのだ。

 だから耐えられる事自体はサーラだって予想していたのだが――

「まさか全く通用しないとは思いませんでした……」

 僅かさえ削る事も出来ずに防がれるのは、あまりに想定外であった。

 威力重視でこそないものの、それでも多少の強さを持った人間や生半可な魔物ならば防ぐ事も出来ず焼き尽くせる程度の威力ならあったし――

 範囲攻撃の最大の利点は、避け難い上に完全には防ぎ辛い事にある。

 精々が魔力で壁を作ったりして軽減するのが関の山と思っていただけに、サーラも少なからず驚かされる。

 けれど――

「ですが、大した問題ではありませんので」

 本当に驚きは僅かだけ。

 少しでも戦力を削れれば御の字であったが、負け惜しみでも何でもなく今の魔法が通じなくてもサーラとしては何の問題なんてない。

 そもそも今の魔法は攻撃を目的として放たれたモノなんかでは、なかったのだから。

「うおおおおおお!」

 雪崩のような炎を隠れ蓑に、研一が炎と共に駆け抜けていた。

 既に魔族は手に届く距離どころか、振り被った拳を振り抜くだけで攻撃が届く立ち位置。

「何!?」

 突如現れた研一の姿に、炎の雪崩を掻き消した魔族の男の顔が驚愕に歪むが、研一は止まらない。

 というか、そんな余裕がない。

(まだ功績なんて何一つ残せてない! こんな状態で死んで堪るか!!)

 この世界に来てマトモに戦闘用の魔法など見てなかった上に、憎まれる方法を考える事に忙しくて、あまりこの世界の常識を理解していない研一は誤解していたのだ。

 サーラの魔法は開戦時の余裕がある時に使えない、決戦用の凄まじい強力な魔法なのだと。

 ――魔法と共に駆け抜け、弱い魔物をいとも簡単に蹴散らす姿を目の当たりにしたのも、その印象に拍車を掛けていただろう。

 そんな魔法をいとも容易くあしらった相手に、手加減なんて出来る訳がない。

 不意討ちの好機に、全身全霊の一撃を叩き込もうとするのは当然の流れと言えるだろう。

「間に合わ――」

 既に避けられるタイミングではない。

 それならばとばかりに腕を交差して防御態勢に移る魔族であったが――

 研一の拳が身体に触れた途端、防御の甲斐も虚しく首から下が全て吹き飛んだ。

「は?」

 その戸惑いの声は誰の口から放たれたものだったのか。

 サーラの魔法を軽々と掻き消した魔族は、それ以上の呆気なさでこの世界から消滅した。

「…………」

 戦闘中だとは思えない静寂が辺りを包み込む。

 仕方ない事なのかもしれない。

 今倒された魔族は、この部隊の中では決して最強ではないものの、それでも上から数えて五指に入る程の強者ではあったのだ。

 それがいくら不意討ちであったとはいえ、防御したにも拘わらず一撃で消滅。

 即座に受け入れろという方が無理という話だろう。

(えっと、あれ? これは別に俺が有利なだけで気にするような事でもないよな?)

 何とも言えない空気に僅かに戸惑う研一であったが、よく考えれば別に何も不都合なんてない。

 むしろ想像していたよりも遥かに、自分の強さが飛び抜けていた事が解かっただけの話。

 慌てる必要なんて、どこにもなかった。 

「まとめて掛かって来いよ! じゃなきゃ相手にもならねえぞ!」

 サーラからは一当てしたら無理せずに戻って来て下さいと言われていたが、今まであまりにも好き放題やってきたのに、それでも救世主としての力を信じてくれていたのだ。

 それならば指示を無視する事になっても、期待してくれた分くらいの活躍をしたかった。

 ――撤退の指示が別に何かの作戦という訳ではなく、単に研一の身を案じている事なのはベッカの口から聞いていたから。

(最後にこれくらいは、な……)

 研一がそんな行動に出た理由は簡単な話。

 この戦いを最後に国を出る予定であり、スキルの性質上仕方ないとはいえサーラには特に酷い態度を取り続けてしまった。

 その罪滅ぼしを少しでもしたかったのだ。

(正直潮時だろうしな。ベッカには全部演技だったって見抜かれてしまったし、今思い返せばセンちゃんの事で驚いていたとはいえ、シャロン相手にはマトモに演技なんて出来てもなかったしな)

 もはや魔族との戦いに身の危険など微塵も感じていない。

 余裕の生まれた頭が、緊張が忘れさせてくれていた失敗や悩みの種を次々に思い出させていく。

(センちゃん、全部知ったらどんな顔するだろうなあ……)

 そんな中、どうしても研一の頭に浮かんでくるのはセンの事だった。

 母親に頼まれたし、気持ち的には自分に付いてきてほしい。

 けれど、どれだけ都合の良い想像をしようとしても、恨みがましい目で睨まれ、別れる事になる未来しか想像出来なかった。

「化け物め! 怯むな! 魔族の未来の為に、コイツだけはここで討ち取れ!」

 もはやBGMにしか聞こえない叫び声や、拳を振るう度に身体が吹き飛んで消滅していく魔族の姿を、どこか遠いモノに感じながら――

 研一は悩み事の片手間に魔族軍を蹂躙していくのであった。
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