世界の創造主は、仲間達と問題の後始末ばかりします。

灰色

文字の大きさ
13 / 56
依頼1 スラム街の後始末をします。

10 腐った真実

しおりを挟む
 スラム街の酒場の前でドレイクとニールを待つ間、酒場のガレキを片付ける事になった。
 最初にミヨンとアニスがわざわざ手で片づけをしていたのは、関係者を呼ぶための時間稼ぎであり、ミヨンが両腕を大きな口に変えると、次々と石材や木材を口に入れて綺麗に掃除する。
 途中、ガレキに埋もれていた酒場の主人の死体もあったが、邪魔なのでそれも一緒に掃除をした。

「ん、ここの主人もあの冒険者たちを雇った豪商の仲間だったみたいだな」
「そうなんだ? じゃあこの酒場自体、豪商が裏で経営してたって事になるのね」

 ミヨンが酒場の主人の記憶を読み、頷きながらテキパキ片付けて行くと、あっと言う間に更地になる。
 更地のある部分には、地下倉庫へ続く扉があった。
 目的の物を見つけた時に、丁度ドレイクとニールがやって来る。

「お待たせしました皆さん。いやぁ、これは綺麗に片付いてますな」
「あれだけのガレキがこんな短時間で? 一体どんな魔法を使ったんですか?」
「まぁまぁニール様。神の力って事にしておきましょうよ」

 ドレイクが細かい事は話さずにフォローする。
 すでにニールにはドレイクも自分の身分を明かしていた。

 この酒場はスラム街に昔からある憩いの場で、二年前に主人が変わった場所だった。
 前の主人は高値で誰かが買い取り、それを元に家族とスラム街から出て行ったと、ニールはクリエたちに話す。

「この地下にレムル様が復讐と言った証拠があると言うのは本当なんですか?」

 ニールがクリエたちに聞きき、ミヨンが答えた。

「いや、証拠というよりは、何をやったかだな。その証拠は恐らくまだこの中にあるはずだ」

 地下倉庫へ続く扉へミヨンが手を掛けた時、大きな溜息を吐く。

「……匂いがきついだろうから覚悟しておくように」

 注意を言い扉を開けると、腐臭と血の匂いにが辺りに立ち込める。
 ドレイクとニールは不快な表情になった。血に慣れているアニスでさえ一瞬表情を歪ませる。
 人の血ではなく、それは獣独特の匂いだった。

******

 魔法で明かりを灯し、地下へ降りて行くと、そこには無残に放置されている獣の骨や肉片、皮などがある。
 周囲を見てニールが呟いた。

「これは……狩った獣の加工場?」
「そうだ、冒険者やここの主人は、密かに狩った獣をここで商品に加工し、豪商が密輸で売りさばいていた」

 現場を見つつ、ミヨンが手に入れた記憶を元に説明をする。

「そんな事が……」
「言っておくが、スラム街の住人は知らない。知っているのは豪商と関係のある者だけだ」
「それは良かった。少なくてもこれでスラム街は無実だと言える」
「だが、問題はそこじゃない……本命はアレだ」

 ミヨンが加工場と化している地下倉庫の一角にある、厳重な檻を指差す。
 全員で檻に近づくと、それはただの檻ではなく、何重にも魔法的な結界が張られた一種の牢獄だった。
 クリエが血の跡しかない、空の檻の中へ入ると、床に落ちている抜け落ちた獣の毛を手に取る。
 その毛は、白と黒が混じっており、わずかに魔力もまだ残っていた。

「ああ、そうか。これはレムルも怒るね」

 そう言うと、その数本の毛をニールに渡す。

「これが何か分かるかい?」
「動物の毛ですが……わずかに魔力を感じます。しかしこの毛色はまさか?」
「そう、レムルの使徒の毛だね」
「! ま、待って下さい。レムル様の使徒である二体は今も健在ですよ? だったらこれは……っ」

 そこでニールは気が付いた。二体の使徒の間には子供が居た事を……。
 ニールの血の気が一気に引き、ふらつくと壁にもたれた。

「まさか……そんなまさか。これは使徒の子供の?」
「そうだ。冒険者たちは使徒の子供を捕まえて……ここで解体した。商品としてな」

 信じられない事実に、全員が何も言えず居た。
 何もしてない使徒に手を出す事は、神への冒涜に等しい行為になる。
 暫くその場で調べたが書類など決定的な証拠はなく、何よりも気分が悪いため全員が外へ出る事になった。

******

 息を吐く度に、身体の中にある腐った匂いが消えて行く気がし、外の澄んだ空気は、いつもの何倍も美味しく感じられた。

「あー、空気が美味しい。今ならこの空気をツマミにお酒が飲めるわ」
「でしたらこれからのツマミは空気だけでいいですね。ダイエットにもいいですよ」
「私は痩せても、お腹ばっかりで胸は痩せないのよね」
「お前はさっきの場所で加工されたいらしいな」

 気分を変える様に、アニスたち三人が軽口を叩く。

「しかし、レムル様はなぜこの事を知る事が?」

 疑問をドレイクが口にし、クリエが答えた。

「使徒の事は離れてても分かるんだよ。流石に細かく何をしているかまでは無理だけど、生きてるか死んでるかくらいはね」
「では使徒の子供もですか?」
「子供も使徒の特性を少しは受け継いでいるからね。レムルは使徒の子供の魔力を追ったんだろう。この酒場に連れられて消えた。その後、毛皮などに残った魔力だけが移動したから、それで知ったんだと思う」
「なるほど。だから殺された事は知ったが、犯人……元凶までは分からなかったという事ですな」
「冒険者の事が分かったのは、使徒の子供の魔力が強く身体に残っていたんだと思うよ」

 話を聞くだけで気が重くなるような内容だった。
 ずっと無言で黙っていたニールが重い口を開く。

「ドレイク、今すぐこの事を陛下に報告してほしい。父上は罰を受けなければならない。私も……知らなかったとはいえ、無事では済まないだろうけど」
「それは出来ませんな」

 ドレイクが即否定した。

「なぜだ! これだけの証拠があるではないか!!」
「状況証拠だけです。報告してもハルミトン公爵閣下なら、自分は知らなかったと白を切るか、豪商辺りに罪を着せて終わらせるでしょう。欲しいのは書類などの確実な証拠です……そうですね、クリエ様?」
「そうだね。でも、僕の仕事に関係があるのかな?」
「無理を承知でもう一度お願いします。どうか、お力を貸してはいただけませんか?」

 頭を深く下げるドレイクに、クリエは微笑んで答えた。

「今のは少し意地悪だったかな。確かに僕たちの受けた仕事は『元凶は誰か』を調べる事、ベイルもそうなら調べないとね。それで君の思惑通りになる、そうだよね? 依頼人さん。いや、レムルもかな」

 クリエの言葉にドレイクは苦笑した。

「やはりまぁ、バレますよね。そうです、私が最初にレムル様と謁見した際、レムル様から今回の依頼を指示され、クリエ様を指定するように言われました。しかしいつ、私が依頼人だと分かりました?」
「最初会った時に。ドレイクも気付いたでしょ? うっかり青い封筒の発言は失敗したと」
「ははは……いやぁ、あれは私も驚きましたよ。確かに私は青い封筒に入れたのに、クリエ様たちが持っていたのは赤い封筒でしたからな。何も言われなかったので、スルーしていたんですが」
「ノルエステに来た封筒は確かに青色だったんだ。でもどこかのお酒好きが、うっかり封筒だけを汚しちゃってね。それで入れ替えたんだ」

 そのどこかのお酒好き、アニスは何事もなかったように夜空を見上げていた。

「それにベイルと会った時も、わざわざスラムの住人か騎士団ではなく『元凶』という部分を強調して言ってたしね。あの時に、結局は最後まで付き合う事になるって思ってたから」
「あれは少々露骨でしたな。ですがレムル様から時間制限を言われた時、もう手段を選ぶ時間がなったもので」
「だったら、僕に全部話してもよかったよね? でも話さなかった」
「それは……」
「僕がどんな神が知らないから、噂通りなら当てに出来ないと思っていたからかな?」
「その通りです。本当に申し訳ありません。例えレムル様からの要望でも、私自身が確かめたかった。お気に召さないのであれば、いつでもこの首を差し出します」

 真摯なドレイクの瞳がクリエを見つめていた。

「いらないよ。知らないって事はそういう事だから。僕の事は今回の件で知ってくれればいいから……さて、ミヨン。策は勿論あるよね?」
「問題ない。冒険者たちの情報で、そういった書類は全部豪商が管理している事が分かった。細かい場所までは分からないが、それもすぐ分かる。ドレイク、今すぐ荷馬車を一台用意してくれ。それだけでいい」
「承知しました。すぐに用意致しましょう」
「ニール、お前はこのまま私たちと一緒に居ろ。書類をお前も確認するんだ……いいな?」
「はい、私も本当の事を知りたい。いえ、知らなければならないでしょう」

 ニールが力強く頷く。
 ドレイクは荷馬車を用意しに向かい、クリエたちは豪商が住む屋敷へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

異世界人拾っちゃいました…

kaoru
ファンタジー
冒険者になるために、森の集落を出たディル 。 先ずは、ギルドがある街に行き登録をし、ソロで経験を積みながら世界を回り、気が合う異種族の仲間を見つけ、パーティーを組めればいいなぁーと、 気楽な感じに旅立った矢先、見慣れぬ子供を発見。 ディルの居た集落の近くには、他に集落はなく、怪しく思ったが、声をかけることに… …m(__)m … 書きかけありますが、異世界ファンタジーを自分も書いてみたくなったので、書き始めました… よろしくお願いします。 2021.1.29  今まで、『転異』と書いていた箇所を『転移』に書き直し始めました。 異世界を強調したくて、異と書いていましたが、いろいろ思い直し変えることにしましたので、変更した箇所と変更前の箇所があるので、違和感が出ると思いますがご容赦下さい。  

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...