世界の創造主は、仲間達と問題の後始末ばかりします。

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依頼3 音楽祭の後始末をします。

7 カレンとエレナの決意

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 都市内にある、小高い丘にカレンとエレナの姿があった。
 そこは少し入り組んだ場所あり、地元民しか知らない隠れスポットになっている。

「この場所に来るの、久しぶりですね」

 エレナが言いながら、懐かしそうに音楽祭が開かれている眼下にある都市を眺める。
 まだ昼過ぎとで活気に溢れていた。
 カレンは髪で二人分の椅子作ると、エレナと並んで座る。

「そうね。最近忙しくてあまり来れなかったしね」

 ここはカレンとエレナが初めて会った場所であり、二人の始まりの場所でもあった。

「……あの、クリエ様たちには申し訳ないですが。カレン様が全てを背負う必要はないと思います」

 クリエたちの会話を思い出し、エレナは都市を見つめながら言う。

「最悪、世界神様がどうにかしてくれるみたいですし、カレン様が傷つく事をなさらなくても」
「思想神である私には無理だって言いたいの?」
「いえ! 決してそんな訳では!」

 慌ててエレナは否定するが、カレンの口調は怒っている訳でもなく、ただ静かだった。

「ごめん、その通りなの」
「え?」
「私は本当はモフトっていう思想神で……カレンは偽名。昔の自分がどうしても好きになれなくて、ホントにそう、自分で自分を殺したのね。そんな私に何が出来るのかな」
「……」

 落ち込んでいるように話すカレンを見て、暫くエレナは何も言えなかったが、やがて何かを決めた様にカレンの片手を両手で握りしめて見つめた。

「カレン様はなんだって出来ます! 現に落ち込んで家に引き籠りだった私に夢を、幸せをくれました! 初めて会った時の事を覚えていますか?」
「忘れたくても忘れられないわね。ここで私が一人で練習していたら、小さな木に隠れてこそこそ覗き見してたんだから。全然隠れられていないのにね」
「あれまぁ、咄嗟でしたので。当時私は人間関係が嫌いになっていました。友達だと思っていた人が裏では悪口を言っているのを知って。でも本当に辛かったのは、私と会う時は普通に友達と言って接してきて……誰も信用できなくなって部屋に閉じ籠っていました」
「そんな事言ってたわね」

 言われて、エレナは恥ずかしそうに照れ笑いをする。

「ここは外へ出て来た時の私の隠れ場所だったんです。でも、ある日来るとカレン様が歌と曲の練習をしていました。それはとても下手でしたね……」
「まぁ、ほら当時は明るい歌って苦手だったのよ。でも今は上手でしょ」
「勿論、誰よりも上手です! そんなカレン様を見て、どうしてそんなに頑張るんだろうって、不思議に思いました。頑張っても良い事なんて私にはありませんでした」
「友達の事よね?」
「はい。伯爵の娘という事で、幅広い人脈を作るために頑張りました。友達もたくさんできましたよ」
「良かったじゃない」
「でも、それは伯爵の娘の友達であって、私自身エレナの友達は居ませんでした」

 エレナは暗い表情を作るが、カレンを握っている手の力が緩む事はなかった。

「頑張っても意味がないように感じていた時に、カレン様を見て意味が無いのにと、心の中で馬鹿にしていました。でも、カレン様は諦めなかった。どれだけ上手くいかなくてもずっと頑張ってた」
「それが私のしたかった事だからね。といっても、流石に人前で歌う勇気はまだ無かったけど」
「何度も見ていて見つかった時、私がカレン様に言った言葉覚えてますか?」
「覚えてるわよ。あんな酷いこと言われたの初めてだったわ。『どうして下手なのに頑張るの』って」
「はい、本当に酷いですね。でも、それが私の本心でした」

 カレンとエレナは当時の出会いを思い出し、お互いに軽く笑った。

「ま、私としても客観的な反応が欲しかったからね。ショックだったけど丁度良かった。それが今の実力だって気付けたわ」
「それからですよね。お互いにここで話し合って、歌詞を考えて曲を作って……初めて人前で披露した時は本当に緊張しました」
「あんたは見てるだけだったけどね……でも、心強かったわ」

 カレンの言葉にエレナの顔が綻ぶ。

「ほとんどの人は通り過ぎて行きましたが、中には最後まで聞いて拍手と笑顔をくれて、本当に嬉しかったです」
「そうね。ほんの数人だったけど、本当に嬉しかった。私が見たかった物がそこにはあったわ」
「なぜ、カレン様は最初から思想神と名乗らなかったのですか?」

 エレナの質問にカレンは少し戸惑ったが、やがて柔らかく微笑む。

「あんたと同じ。神とか人とかじゃなくて、一つの存在として私自身を認めて欲しかった。あの時、きっと初めて私はカレンになれた気がした。エレナのお陰で」
「そう言っていただけると嬉しいです。だから、今回の件は何もしなくてもいいんですよ。だって、もし失敗してカレン様の信仰が失われたら……」
「消える……からね」

 最初は無名の歌い手だったが、やがて努力が実り、多くの人を魅了するほどの歌い手となった。
 そして自分が思想神である事を告白し、この都市に住んで自分が出来る事を出し切って、音楽などの芸術全判に協力するとカレンはエレナに約束をした。
 新しい職業アイドルもそのための物で、実際にそれは成功し、まだ成り手は少ないが着実に世界に浸透し数も増えてきている。
 カレンが居なくなってもアイドルが無くなるわけでないが、全てが無意味な気がしていた。

「だから今回ばかりは頑張らなくてもいいんじゃないでしょうか……」
「ねぇエレナ。本心を聞きたい。頑張らない私は好き? 逃げて何もしない私を信じられる?」
「卑怯な言い方です。私は……どんなに辛くても頑張っていて、そして逃げずに立ち向かうカレン様が好きです」
「そう、ありがとう」

 カレンは握られている手に自分の手を重ねる。
 そして明るい口調で言った。

「うん、きっと失敗しても大丈夫よ。信仰が少しでも残ってれば消えないだろうしね」
「だったら、カレン様は絶対に消えませんよ」
「どうして」
「ここに貴女様のファン1号が居て、その信仰は、カレン様を想う気持ちは絶対に無くなりませんからね!」
「一人じゃどうにならないかもね」
「問題ありません。私の想いは一人で100人、いえ1000人分以上です!」

 二人は手を強く握りしめ合うと、笑いあった。
 その時、カレンが本当に欲しかった物は、すでに自分の傍にあった事を知る。
 そして立ち上がると眼下に広がる都市をじっと見つめて、カレンが明るく言った。

「さて、じゃあいっちょやってみようか。私たちの集大成を……ここが好きな人への恩返しをね!」
「はい!」

 決意と覚悟を決めた二人に、もう後戻りをする道は考えていなかった。
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