堕ちた神

セティ

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 今度こそプルーヴォの声は人々に届いた。しかしそれは人々が求めていた言葉ではなかった。予想外の言葉に動きを止めていた人々の目の前にプルーヴォは現れた。プルーヴォは既に人々が知っている姿をしていなかった。青く輝いていた髪も、透き通るような白を持っていた肌も、何もかもが漆黒に染まっていた。
「……我を捨てた主らが、何故我に生贄を捧げる?」
 人々を睥睨するプルーヴォは水を操り、生贄達を地上に上げた。
「こんなもの、我は求めておらぬ。即刻立ち去るが良い」
「ま、待て!」
 湖に戻ろうと沈みかけていたプルーヴォを国王が止めた。人々はプルーヴォを連れ戻しに来たのだ。止めないわけがない。
 煩わしそうに振り向いたプルーヴォが国王を見れば、国王はにまりと口角を上げた。
「雨の神は人の願いから生まれた神だ。人の願いから生まれた神は一様に人間を好むもの。雨の神よ、朕の国に雨を降らせるが良い」
 あまりにも尊大な態度に絶句したプルーヴォは、しばらくしてその黒く染まった目を細める。
「何故、我が命令されなければならない?」
 思わぬ返答にたじろいだ国王は額に青筋を浮かべる。プルーヴォを捨てるまで平穏だった国を治めていた国王は、耐えることができない人物だったのだ。
「主の好きな、朕ら人間の役に立てるのだぞ!?ーーひっ」
 唾を吐きながら怒鳴った国王は、すぐに眼前から発せられる殺気に息を呑んだ。
「……我はもう人間と関わるつもりはない。最後の餞別として主のその願いだけは叶えてやろう」
 国王を始め、その場にいた者達は歓喜した。雨が降る。人々は一度捨てた神にこちらの利となる行動をさせた国王に尊敬の眼差しを向けた。
 満足して帰って行った人々を眺め、プルーヴォは再度呟いた。
「人間とは、あんなにも愚かだったのか。あんなにも短絡的であったのか」
 その瞳には嫌悪の色が浮かんでいた。
「あれらを好いていた我もまた、愚かだったのだ」
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