夏風はショートカットを撫でるように

あ゙あ゙あ゙あ゙(仮)

文字の大きさ
1 / 9

第1話 日焼け跡とスポブラ、あるいは放課後の不文律 ①

しおりを挟む

 蝉時雨がうるさいく降る七月の午後。

 俺の部屋のドアが、ノックもなしに乱暴に開かれた。


「あーっつい! マジで死ぬ! 涼、エアコン強めて!」

 ドカドカと踏み込んできたのは、高校の女子生徒たちが黄色い悲鳴を上げる『王子様』こと、幼なじみの熊澤薫(くまさわかおる)だ。

 部活帰り特有の、土と汗、そしてシーブリーズの混じった匂いが、六畳間の空気を一瞬で塗り替える。

 襟足が刈り上げられたベリーショートの黒髪。日焼け止めを塗っても焼き付いてしまった小麦色の肌。そして、着崩したワイシャツの胸元からは、逞しくも華奢な鎖骨が覗いている。


 天使の輪が煌めく黒髪から、玉のような汗が滴り、泥で汚れたエナメルバッグを床に放り投げると、彼女はそのまま俺のベッドへと大の字にダイブした。


「……お前なぁ、部活帰りならまずシャワー浴びてこいよ」

「んー、ムリ。動けない。お前の部屋の方が涼しいし。……あー、生き返るぅ~」

 薫は男子野球部に混じってレギュラーを張る、正真正銘のスポーツ少女だ。

 凛々しい眉に、スッと通った鼻筋。

 女子なのに「王子」と呼ばれ、いつも世話を焼かされる俺が「姫」なんて呼ばれているふざけた関係。

 だけど、今の俺にとって、彼女は王子様なんかじゃない。

「……ふぅ」


 薫は俺の文句など意に介さず、ワイシャツのボタンを二つほど外して、パタパタと仰いだ。

 その隙間から、白と黒のコントラスト――

 ライン(境界線)がグラウンドの白線のようにキレイに引かれている。

「うっ……」

 日焼けしていない白い肌と、機能性重視の黒いスポーツブラがチラリと見えて、俺は慌てて視線を逸らす。

 幼い頃からの慣れとは恐ろしいもので、彼女には俺の前で肌を晒すことに警戒心がない。

 第二ボタンまで開かれた襟元から、健康的な鎖骨が覗く。 

 日焼けした首筋と、シャツの下に隠れた白い肌。

 普段みんなが見ている薫と、俺しか知らない薫のライン(境界線)

 目をそらしても幼なじみの、意図しない誘惑は続く。

 鼻腔をくすぐる匂い……。

 制汗スプレーのシトラスの香りと、部活後の蒸気した体から立ち上る、甘酸っぱい汗の匂い。

 それが混ざり合って、むせ返るような夏のフェロモンとなって部屋に充満している。

 こいつは野球部のエースで、学校じゃ女子にキャーキャー言われる「イケメン女子」扱いだ。

 だが、俺にとってはただの幼なじみで……そして、ここ最近は『ただの幼なじみ』のラインを大きく踏み越えてしまいそうになる。


「おい、涼。なんか冷たいもんない? 首冷やしたい」

「……冷蔵庫にポカリあるけど」

「取ってきてよー、姫ぇ」

「姫って呼ぶな」

 つっこみを入れて、部屋のドアを開ける。

 熱気と湿気が肌を焼き、湿らせる。

「あちー」 

 ったく俺はあいつマネージャーかよ。

 昔は俺が王子様だったんだ。

 あいつが俺のマネして。後から野球を始めたんだ。

 ピッチャーのポジションまでマネして……。

 いつの間にか俺よりうまくなって……。

 中学、俺はキャッチャーになってこいつとコンビを組むようになってた。

 王子と姫ってあだ名は中学生の時にはもう呼ばれていた……。


 高校生……俺はもう野球をやってない……。 


 冷蔵庫からポカリを取り出し、階段をドタドタとあがる。

「ほらよっ」

 ポカリをタオルに包んで渡すと、薫はそれを首筋に押し当てて「んあぁ……♥」と艶っぽい声を漏らした。

「うっ……」

 変な声出すなよ……。

 俺のベットで仰向けになり、エアコンの冷風とポカリの冷気で、火照った体を冷却する。

 薫の小さく膨らんだ胸元が、呼吸をするたびに上下している。

「あふぅ……♥」

 彼女の一挙手一投足が、俺の心を掻き乱す。

 汗で透けたワイシャツとインナーが、スポーツブラのラインをくっきりと浮き上がらせている。

 野球で鍛えられた身体は引き締まっているけれど、そこにあるのは間違いなく女子の柔らかさだ。

 ユニフォーム越しだと目立たない胸の膨らみが、重力に逆らってなだらかな曲線を描いている。

「……ふぅ、外ばっか冷やしても、体の中心が燃えるように熱い……」

 不意に、薫が上半身を起こす。

 ベットと密着する背中に熱が籠もるからだ。

 ポカリのキャップをひねり、勢いよく水分を補給する。

「はうっちべたっ」

 傾けすぎたペットボトルから飲料水が零れ、水滴が零れ落ちていく。

 透明な雫が、彼女の日焼けした首筋を伝い、白く無防備な鎖骨の窪みに溜まり、さらにその下――シャツの隙間の奥へと滑り落ちていく。

「わ、冷たっ! ちょ、涼! 拭いて! 背中まで垂れた!」

 乾いてきたYシャツがまた、じわぁと染みのように濡れていく。

「お前なぁ……自分でやれよ」

「動きたくないんだってばー。ほら早くぅ」

 薫が甘えたように上目遣いで俺を見上げ、顎をくいっと上げる。

 こいつ本当に……無防備すぎる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...