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第2話 日焼け跡とスポブラ、あるいは放課後の不文律 ②
しおりを挟む俺は溜め息をつきつつ、手近にあったティッシュを数枚抜き取ると、ベッドの縁に腰掛けた。
「ほら、じっとしてろ」
「んー」
俺は震えそうになる指先を抑えながら、彼女の首筋にティッシュを這わせる。
じわり、と紙越しに伝わる体温。
火照った肌は驚くほど熱く、そして吸い付くように滑らかだ。
首筋を拭うと、薫の喉がごくりと動くのが見えた。
「……ん、くすぐったい」
「我慢しろ。……あと、胸元」
視線を落とすと、胸の谷間へと続く肌に、まだ水滴が光っている。
俺は意を決して、シャツの第二ボタンと第三ボタンの間に指を差し入れた。
その瞬間。
ふわり、と濃厚な汗の匂いが鼻を掠めた。
太陽の匂いと、女の子特有の甘い匂い。
理性が焼き切れそうになるのを必死で堪えながら、俺は慎重に雫を拭き取る。
ドクン。ドクン。
俺の鼓膜を震わせる音は、薫にも聞こえてるんだろうか……。
俺の心を裸にする音。
「あっ……」
緊張して手元が狂った。
――ツン。
俺の指の背が、偶然にもインナー越しに、薫の胸の先端を掠めてしまったのだ。
「ひゃうっ!?」
薫の口から、グラウンドでは絶対に聞けないような、甲高く可愛らしい悲鳴が漏れた。
ビクン! と彼女の身体が跳ね、俺の手首を反射的に掴んでくる。
掴んで固定なんかするから俺の手は……。
薫の小さな胸を包み込む。
「あ……」
「わ……」
時が止まったようだった。
俺の指が、薫の柔らかい胸に沈んでいる。
薫の手は俺の手首を掴んだままだ。
熱い掌で脈動を伝えてくる。
……なんだよ……。
薫のヤツ。
余裕そうな顔しといて……。
俺と同じように心臓をバクバクと高鳴らせてんじゃん。
至近距離で視線が絡み合う。
いつもは勝気な瞳が、今はとろりと潤んで揺れている。
カァァッ、と音が聞こえてきそうな勢いで、薫の顔がみるみる赤く染まっていくのが分かった。
日焼けした小麦色の肌の下から、隠しきれない朱色が耳の先まで広がっていく。
「あ……わ、わ……」
薫の唇がパクパクと金魚のように動く。
試合でピンチを迎えても動じないはずの『王子様』が、たった指先一つの過ちで、完全にショートしていた。
俺もまた、全身の血液が頭に上ったように熱い。
慌てて手を引っ込めようとしたが、薫が俺の手首を掴んだまま離さない。
その握力は、バットを振る時の力強さとは程遠く、弱々しく震えていた。
「ご、ごめん! わざとじゃなくて、その、手元が狂って……!」
裏返った声で俺が弁解すると、ようやく呪縛が解けたように薫がパッと手を離した。
彼女はガバッと俺と距離を取り、ベッドの隅へと後ずさる。
そして、両腕で自分の胸を隠すように抱きしめた。
その仕草が、あまりにも「女の子」で。 普段のユニフォーム姿とのギャップに、俺の心臓は早鐘を打つ。
「バ、バカ涼……! いいのかよ……そんな……Hなこと……して……」
薫が膝に顔を埋めるようにして、くぐもった声を出す。
怒鳴られるかと思ったのに、その声には怒気よりも、どうしようもない羞恥が滲んでいた。
「……悪かったって。ほらっタオル。自分で拭くんだろ」
「……ん」
俺が差し出したタオルを、薫は顔を上げずにひったくる。
そのままゴシゴシと乱暴に首筋を拭うが、胸元のあたりだけは、どこか手つきがぎこちない。
さっき俺が触れてしまった場所を、彼女自身が意識しすぎているのが伝わってくる。
沈黙が痛い。
エアコンの稼働音と、窓の外の蝉の声だけが響く部屋の中……汗が玉のように浮かび、肌を湿らせる。
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