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第3話 日焼け跡とスポブラ、あるいは放課後の不文律 ③
しおりを挟む気まずさを誤魔化すように視線を逸らすと、薫の脱ぎ捨てたエナメルバッグや、泥のついたスパイクが目に入る。
いつもなら「だらしないな」と笑い合える日常の風景なのに、今はその持ち主が発する熱気にあてられて、直視できない。
「……なぁ、涼」
不意に、薫がボソリと呟いた。
顔を上げると、彼女はまだ赤い顔をしたまま、けれど濡れたような瞳でじっと俺を見ていた。
「なんか……変な感じ」
「え?」
「さっき、お前に触られたとこ……まだ、なんか熱い」
ドクン、と俺の身体の奥が跳ねた。
薫は自分のワイシャツの胸元を、暑さを逃がすようにパタパタと手で扇いでいる。
その隙間から、汗ばんだ谷間と、白いインナーがチラチラと見え隠れする。
俺の視界に入る、黒と白の境界……。
「汗のせいかな。……それとも、涼のせい?」
挑発しているのか、それとも天然なのか。
その言葉は、俺を境界の向こうへ誘う。
天然なのか、それとも無自覚なのか。
薫は小首を傾げたまま、じっと俺の反応を待っている。
「……薫……俺……」
「……涼……」
ベッドのスプリングが軋む音がした。
膝を抱えている薫に、俺はじりじりと距離を詰めていく。
「涼……」
ベット斜め端、部屋の角へ逃げる薫。
逃げ場はもうない、背中を壁に押し付けたまま固まるしかない。
彼女が潤んだ瞳で俺を見つめる、まつ毛や虹彩まで分かる距離に近づくと、むわりと薫の熱気が押し寄せてくる。
それは不快な湿気などではなく、生命力に溢れた、甘く危険な女の匂いだ。
俺の手が、薫の肩を掴んだ。
俺と壁の間に彼女の身体の挟まれる形になる。
「……涼……なに……するつもり……」
耳元で囁かれた声は、いつものハスキーなトーンなのに、どこか濡れていた。
至近距離にある薫の顔。
長いまつ毛の先に、小さな汗の粒が震えているのが見える。
彼女の視線は俺の瞳を捉えて離さない。
まるで、ピッチャーがキャッチャーのサインを覗き込む時のような、真剣で、でもどこか縋るような眼差し。
「涼、顔真っ赤。……ボクと同じだ」
薫がふふ、と力なく笑い、コツンと自分のおでこを俺のおでこに押し付けてきた。
「あっ熱いっ」
突然の行動と接触に俺の体がマシュマロのようにとろけそうになる。
「あはっ、涼もすごく熱い」
火傷しそうなほどの熱が、接触面から伝わってくる。
お互いの鼻先が触れ合い、荒くなった呼吸が混ざり合う。
彼女が息を吐くたびに、ミントガムの香りと、身体の奥から湧き上がる熱っぽい匂いが俺の理性を揺さぶる。
「なぁ、涼……。私の汗、臭くない?」
「……臭く、ない。むしろ……」
「むしろ?」
「……いい匂い、する」
正直に答えると、薫の瞳がとろりと揺らいだ。
彼女は安心したように目を細め、さらに身体を密着させてくる。
その拍子に、開いたシャツの隙間から覗く豊かな膨らみが、俺の胸板にむにゅりと押し当てられた。
「ッ……!?」
「ん……涼の匂いも、好き。落ち着く」
薫は俺の反応になど気付かず――いや、気付いているのかいないのか、俺の首筋に顔を埋めて、すんすんと子犬のように匂いを嗅ぎ始めた。
柔らかい感触が胸に当たるたびに、電気のような痺れが走る。
スポーツブラ越しの弾力と、その奥にある確かな熱。
汗ばんだ肌同士が張り付いて、じっとりと湿った音を立てる。
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