夏風はショートカットを撫でるように

あ゙あ゙あ゙あ゙(仮)

文字の大きさ
3 / 9

第3話 日焼け跡とスポブラ、あるいは放課後の不文律 ③

しおりを挟む

 気まずさを誤魔化すように視線を逸らすと、薫の脱ぎ捨てたエナメルバッグや、泥のついたスパイクが目に入る。

 いつもなら「だらしないな」と笑い合える日常の風景なのに、今はその持ち主が発する熱気にあてられて、直視できない。

「……なぁ、涼」

 不意に、薫がボソリと呟いた。

 顔を上げると、彼女はまだ赤い顔をしたまま、けれど濡れたような瞳でじっと俺を見ていた。

「なんか……変な感じ」

「え?」

「さっき、お前に触られたとこ……まだ、なんか熱い」

 ドクン、と俺の身体の奥が跳ねた。

 薫は自分のワイシャツの胸元を、暑さを逃がすようにパタパタと手で扇いでいる。

 その隙間から、汗ばんだ谷間と、白いインナーがチラチラと見え隠れする。

 俺の視界に入る、黒と白の境界……。

「汗のせいかな。……それとも、涼のせい?」

 挑発しているのか、それとも天然なのか。

 その言葉は、俺を境界の向こうへ誘う。

 天然なのか、それとも無自覚なのか。

 薫は小首を傾げたまま、じっと俺の反応を待っている。

「……薫……俺……」

「……涼……」

 ベッドのスプリングが軋む音がした。

 膝を抱えている薫に、俺はじりじりと距離を詰めていく。

「涼……」

 ベット斜め端、部屋の角へ逃げる薫。

 逃げ場はもうない、背中を壁に押し付けたまま固まるしかない。

 彼女が潤んだ瞳で俺を見つめる、まつ毛や虹彩まで分かる距離に近づくと、むわりと薫の熱気が押し寄せてくる。

 それは不快な湿気などではなく、生命力に溢れた、甘く危険な女の匂いだ。

 俺の手が、薫の肩を掴んだ。

 俺と壁の間に彼女の身体の挟まれる形になる。

「……涼……なに……するつもり……」

 耳元で囁かれた声は、いつものハスキーなトーンなのに、どこか濡れていた。

 至近距離にある薫の顔。

 長いまつ毛の先に、小さな汗の粒が震えているのが見える。

 彼女の視線は俺の瞳を捉えて離さない。

 まるで、ピッチャーがキャッチャーのサインを覗き込む時のような、真剣で、でもどこか縋るような眼差し。

「涼、顔真っ赤。……ボクと同じだ」

 薫がふふ、と力なく笑い、コツンと自分のおでこを俺のおでこに押し付けてきた。

「あっ熱いっ」

 突然の行動と接触に俺の体がマシュマロのようにとろけそうになる。

「あはっ、涼もすごく熱い」

 火傷しそうなほどの熱が、接触面から伝わってくる。

 お互いの鼻先が触れ合い、荒くなった呼吸が混ざり合う。

 彼女が息を吐くたびに、ミントガムの香りと、身体の奥から湧き上がる熱っぽい匂いが俺の理性を揺さぶる。

「なぁ、涼……。私の汗、臭くない?」

「……臭く、ない。むしろ……」

「むしろ?」

「……いい匂い、する」

 正直に答えると、薫の瞳がとろりと揺らいだ。

 彼女は安心したように目を細め、さらに身体を密着させてくる。

 その拍子に、開いたシャツの隙間から覗く豊かな膨らみが、俺の胸板にむにゅりと押し当てられた。

「ッ……!?」

「ん……涼の匂いも、好き。落ち着く」

 薫は俺の反応になど気付かず――いや、気付いているのかいないのか、俺の首筋に顔を埋めて、すんすんと子犬のように匂いを嗅ぎ始めた。

 柔らかい感触が胸に当たるたびに、電気のような痺れが走る。

 スポーツブラ越しの弾力と、その奥にある確かな熱。

 汗ばんだ肌同士が張り付いて、じっとりと湿った音を立てる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...