8 / 19
第ニ章 逆恨み
1 IT産業の曹操!
しおりを挟む
瑠美が連れてきた身なりの良い中年の男は、影に憑かれているにも関わらず、自分の意識もかなり持っていた。その様子を見た政宗は、何とはなく他人では無いかと感じる。
「一応、基本的な事をお尋ねします。名前と年齢、そして職業、後は家族構成……ええっと、そんなところかな?」
政宗は、ミステリー小説を読むのが一番好きな癖に、いざとなったら全く推理力もない。ミステリー小説の名探偵なら、この人物が誰かぐらい経済新聞とか読んで把握していただろう。しかし、中年の男は、若いオーナーの不見識を責めるどころでは無かった。
「私は東三条賢治といいます。年齢は55歳になったところです」
「職業は……」と言い続けたところで、流石の政宗もハッと気づいた。無礼にも指さして、叫ぶ。
「東三条賢治! あのスリースターズの社長さんですよねぇ? IT産業の曹操と呼ばれている方と会えるなんて、光栄だなぁ」
「その呼び方は、あまり好きではないのです」
次々と企業を買収していくIT三国時代の雄としての東三条を評した言葉だが、奸雄のイメージが強い曹操と言われるのは心外だと眉を顰める。
「へぇ、私は曹操が好きですけどねぇ。まぁ、それは置いておいて……なら、仕事がらみなのかなぁ。何とは無く、身内が憑いている感じじゃ無いんですよねぇ」
頼りない上に無礼な若者に腹を立てていた東三条だが、自分にはどうしようも無い分野の事だし、紹介してくれた喜多は信頼しているので、相談を続けることにする。
「仕事関係と言われても、私は恨みを持たれるような事はしていないのですが……」
そう言った途端に、黒い影はぐおぉと大きくなり、政宗は「やはり仕事関係だ」と感じる。
「東三条さんがそうは思っていなくても、相手は勝手に恨んだりする事もありますよ」
どうも政宗は、人や悪霊すら怒らすのが上手い。ますます影は大きくなる。カウンターで天敵の留美にアールグレイを出していた銀孤は「何をやっているのか?」と溜息をつく。
『正輝様なら、あんな悪霊ぐらい直ぐに祓っていたでしょうに。それにしても、これ以上怒らすとまずいですね』
黒い影が大きくなると、話していた東三条がぼんやりとしてくる。
「これじゃあ、話にならないなぁ」
政宗は、黒い影に事情を尋ねることにする。
『ええっと、貴方は東三条さんに何か恨みがあるのですか?』
カウンターで香り高いアールグレイを飲みながら、聞き耳を立てていた留美も、プッと紅茶を吹き出しそうになる。
「ねぇ、銀孤さん。もしかして政宗さんって空気読めないの? 恨みが無ければ、わざわざ憑かないんじゃない?」
「貴女に憑いた美夜さんは、恨みがあった訳では無かった筈ですよ」
「そっかあ! 都伯母さんは、未練があっただけだもんね」
銀孤も政宗の質問の下手さに、ヒヤヒヤしていたのだが、留美に指摘されると思わず庇ってしまう。そして、そんな自分に苛つきを感じる。
「わぁ~! そんなに怒らないでよ。東三条さんに恨みがあるのは分かったけど……こんな事をしても無意味でしょ? 東三条さんは、貴方に取り憑かれても、死にそうにないし……やはり、曹操と呼ばれる人物だけあって、運気が強いのかなぁ」
黒い影も、東三条の運気の強さは感じているのか、少ししょんぼりする。そうなると、東三条はしっかりとしてくる。
「こんな風では仕事にもさわりが出てくるのです。どうにかして下さい」
確かに、重要な会議の途中で社長がぼんやりしていたら、問題になるだろうと政宗は頷く。それに、心なしか顔色が悪い。どうも、悪意のある相手に憑かれるのは身体にも負担が大きいようだ。
「あっ、ここは喫茶店です。何か飲むか、食べるかしませんか?」
東三条は、確かに喉も渇いているので、差し出されたメニューを見る。妙に喫茶店経営に熱心な銀孤は、すかさずオーダーを取りに行く。東三条は、人間離れした美貌の銀孤に少し驚いたが、落ち着いた大人らしく注文をする。
「では、コーヒーをいただこう」
「あっ、私にもね! キリマンが良いなぁ」
お客には愛想が良い銀孤だが、役に立たないオーナーには無愛想に頷いて、その場を去る。
東三条は、運ばれてきたキリマンを一口飲むと、ふぅ~と溜息をついた。
「これは美味い!」
「やはり、キリマンは良いなぁ」
銀孤のいれる普通のコーヒーも絶品だが、普段は高いキリマンなどは飲ませてくれないので、政宗は贅沢な気分で味わう。暫し、二人は無言で、美味しいコーヒーを楽しむ。
「おや? 影が小さくなりましたね」
東三条は、このコーヒーで気分が良くなり、そのせいで影を押し返しているのだ。
「何だか、気分が爽快になりました。コーヒーをお代わりしましょう」
「銀さん、コーヒーお代わりだって! 今度はマンダリンが良いかなぁ? 良いですよねぇ、東三条さん」
留美も東三条はコーヒー代ぐらいは気にしないだろうとは思うが、何だかセコイと政宗に呆れる。
「このままコーヒーを飲んでいる訳にはいきませんよねぇ」
黒い影が憑いてから、どうも不調に悩まされていた東三条は、二杯目のコーヒーを飲み干すと、肝心の相談に戻る。政宗は、銀孤がいれてくれたマンダリンをちびちびと味わっていたが「会社訪問でもしましょう!」と席を立つ。
「えっ、会社に来られるのは……」
「だって、仕事関係の恨みみたいですし、私は貴方の会社については知らないから」
東三条は、こんな若僧を会社に連れて行き、あれこれと内情まで説明をするのかと躊躇する。
「えっ、おじ様の会社に行くの? 私もついて行くわ! だって、私は助手だもの!」
「留美ちゃんも来るのかい? まぁ、紹介してくれた訳だし、良いかもしれないね」
「いつ、助手になったのですか?」と、政宗は内心で毒づくが、今日会ったばかりの自分と二人よりも、前からの知り合いの留美が一緒の方が東三条には気が楽なようだと考え直す。
こうして、政宗と留美はスリースターズ本社がある北浜へと向かうことになった。
「一応、基本的な事をお尋ねします。名前と年齢、そして職業、後は家族構成……ええっと、そんなところかな?」
政宗は、ミステリー小説を読むのが一番好きな癖に、いざとなったら全く推理力もない。ミステリー小説の名探偵なら、この人物が誰かぐらい経済新聞とか読んで把握していただろう。しかし、中年の男は、若いオーナーの不見識を責めるどころでは無かった。
「私は東三条賢治といいます。年齢は55歳になったところです」
「職業は……」と言い続けたところで、流石の政宗もハッと気づいた。無礼にも指さして、叫ぶ。
「東三条賢治! あのスリースターズの社長さんですよねぇ? IT産業の曹操と呼ばれている方と会えるなんて、光栄だなぁ」
「その呼び方は、あまり好きではないのです」
次々と企業を買収していくIT三国時代の雄としての東三条を評した言葉だが、奸雄のイメージが強い曹操と言われるのは心外だと眉を顰める。
「へぇ、私は曹操が好きですけどねぇ。まぁ、それは置いておいて……なら、仕事がらみなのかなぁ。何とは無く、身内が憑いている感じじゃ無いんですよねぇ」
頼りない上に無礼な若者に腹を立てていた東三条だが、自分にはどうしようも無い分野の事だし、紹介してくれた喜多は信頼しているので、相談を続けることにする。
「仕事関係と言われても、私は恨みを持たれるような事はしていないのですが……」
そう言った途端に、黒い影はぐおぉと大きくなり、政宗は「やはり仕事関係だ」と感じる。
「東三条さんがそうは思っていなくても、相手は勝手に恨んだりする事もありますよ」
どうも政宗は、人や悪霊すら怒らすのが上手い。ますます影は大きくなる。カウンターで天敵の留美にアールグレイを出していた銀孤は「何をやっているのか?」と溜息をつく。
『正輝様なら、あんな悪霊ぐらい直ぐに祓っていたでしょうに。それにしても、これ以上怒らすとまずいですね』
黒い影が大きくなると、話していた東三条がぼんやりとしてくる。
「これじゃあ、話にならないなぁ」
政宗は、黒い影に事情を尋ねることにする。
『ええっと、貴方は東三条さんに何か恨みがあるのですか?』
カウンターで香り高いアールグレイを飲みながら、聞き耳を立てていた留美も、プッと紅茶を吹き出しそうになる。
「ねぇ、銀孤さん。もしかして政宗さんって空気読めないの? 恨みが無ければ、わざわざ憑かないんじゃない?」
「貴女に憑いた美夜さんは、恨みがあった訳では無かった筈ですよ」
「そっかあ! 都伯母さんは、未練があっただけだもんね」
銀孤も政宗の質問の下手さに、ヒヤヒヤしていたのだが、留美に指摘されると思わず庇ってしまう。そして、そんな自分に苛つきを感じる。
「わぁ~! そんなに怒らないでよ。東三条さんに恨みがあるのは分かったけど……こんな事をしても無意味でしょ? 東三条さんは、貴方に取り憑かれても、死にそうにないし……やはり、曹操と呼ばれる人物だけあって、運気が強いのかなぁ」
黒い影も、東三条の運気の強さは感じているのか、少ししょんぼりする。そうなると、東三条はしっかりとしてくる。
「こんな風では仕事にもさわりが出てくるのです。どうにかして下さい」
確かに、重要な会議の途中で社長がぼんやりしていたら、問題になるだろうと政宗は頷く。それに、心なしか顔色が悪い。どうも、悪意のある相手に憑かれるのは身体にも負担が大きいようだ。
「あっ、ここは喫茶店です。何か飲むか、食べるかしませんか?」
東三条は、確かに喉も渇いているので、差し出されたメニューを見る。妙に喫茶店経営に熱心な銀孤は、すかさずオーダーを取りに行く。東三条は、人間離れした美貌の銀孤に少し驚いたが、落ち着いた大人らしく注文をする。
「では、コーヒーをいただこう」
「あっ、私にもね! キリマンが良いなぁ」
お客には愛想が良い銀孤だが、役に立たないオーナーには無愛想に頷いて、その場を去る。
東三条は、運ばれてきたキリマンを一口飲むと、ふぅ~と溜息をついた。
「これは美味い!」
「やはり、キリマンは良いなぁ」
銀孤のいれる普通のコーヒーも絶品だが、普段は高いキリマンなどは飲ませてくれないので、政宗は贅沢な気分で味わう。暫し、二人は無言で、美味しいコーヒーを楽しむ。
「おや? 影が小さくなりましたね」
東三条は、このコーヒーで気分が良くなり、そのせいで影を押し返しているのだ。
「何だか、気分が爽快になりました。コーヒーをお代わりしましょう」
「銀さん、コーヒーお代わりだって! 今度はマンダリンが良いかなぁ? 良いですよねぇ、東三条さん」
留美も東三条はコーヒー代ぐらいは気にしないだろうとは思うが、何だかセコイと政宗に呆れる。
「このままコーヒーを飲んでいる訳にはいきませんよねぇ」
黒い影が憑いてから、どうも不調に悩まされていた東三条は、二杯目のコーヒーを飲み干すと、肝心の相談に戻る。政宗は、銀孤がいれてくれたマンダリンをちびちびと味わっていたが「会社訪問でもしましょう!」と席を立つ。
「えっ、会社に来られるのは……」
「だって、仕事関係の恨みみたいですし、私は貴方の会社については知らないから」
東三条は、こんな若僧を会社に連れて行き、あれこれと内情まで説明をするのかと躊躇する。
「えっ、おじ様の会社に行くの? 私もついて行くわ! だって、私は助手だもの!」
「留美ちゃんも来るのかい? まぁ、紹介してくれた訳だし、良いかもしれないね」
「いつ、助手になったのですか?」と、政宗は内心で毒づくが、今日会ったばかりの自分と二人よりも、前からの知り合いの留美が一緒の方が東三条には気が楽なようだと考え直す。
こうして、政宗と留美はスリースターズ本社がある北浜へと向かうことになった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる