醜いアヒルの子は白鳥になれるのか?

梨香

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第一章 醜いあひるの子

22  夏が来た!

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 首都ヘレナに夏が来た! 木々の緑は陽に輝き、花々は咲き誇る。学校も休みになり、ヘレナの街角には子供達の歓声が響いている。

 普段は王宮で政務を執っているミカエル国王も、少し涼しいリーベヘンの離宮へと移る。それを機に、ヘレナに屋敷を持つ貴族達も、それぞれの領地に帰って夏を過ごすのだ。

 ベーカーヒル伯爵家も領地で夏を過ごすのが、恒例になっているが、今年は少し事情が違う。ルーファス王子の学友として、セドリックはリーベヘンの離宮に同行することもあったが、ジュリアも国王から招待されたのだ。それには精霊使いであるサリンジャー師の要請が大きかった。

「ジュリアが一緒にいますと、ルーファス王子の修行もはかどります」

 精霊使いの育成を真剣に考えているミカエル国王は、サリンジャー師の意見に頷いた。

「元々セドリックは離宮に呼ぶ予定だったのだから、ジュリアも一緒に修行を続けた方がよいだろう」


 しかし、その招待されたジュリアは、はっきりいって困っていた。

「ベーカーヒル伯爵領はゲチスバーグに近いから、一日ぐらいは家に帰れると思っていたのに……」

 ゲチスバーモンド伯爵が祖父だとサリンジャー師から聞いてはいたが、未だ会ってもないし、ジュリアにとっての家族は育ててくれた両親と兄弟達だ。

「ジャスパーお兄ちゃんの結婚式に行きたかったのに……でも、仕方がないわね」

 ぶつぶつ文句を言っても仕方がないと、ジュリアは他の人が呆れるほど簡単に諦める。生まれた時から、自分の思い通りにならない事を諦めて生活してきたジュリアに、ミリエル先生は同情と同時に危惧を感じた。

『精霊使いになるジュリアを、貴族達は手に入れようとするでしょう。あの子は我慢強いのは良いけど、自分の考えを主張することも覚えなくてはいけない。さもないと、魔力目当ての相手に利用されてしまうわ』

 ミリエル先生は、ジュリアに自分の意見を人に聞いてもらえるようにすべきだと考えた。

「ジュリア、夏の間中、精霊使いの修行をしなくても良いと思うわ。サリンジャー師に、お兄様の結婚式に行きたいと言ってごらんなさい。きっと、数日の休暇ぐらいは認めてくださるわ」

 ジュリアは本当はゲチスバーグの家に帰って、両親に自分の生活が激変したことを直接会って話したかったのだ。お給料の前借りを貰い、母親と妹に布地を贈るついでに、短い手紙を書いたが、余り詳しくは説明してなかった。他の家族は字を少ししか読めないので、精霊使いだとか、ましてやイオニア王国の貴族が親ではないかとかは、書きようがなかった。


「そうかしら? サリンジャー師に頼んでも生意気だとか思われないかしら?」

 ミリエルは、うじうじしているジュリアの背中を押す。

「サリンジャー師は兄の結婚式に出席するのは当然だとお休みを下さりますよ」

 精霊使いの修行の時は厳しいけれど、いつも穏やかで優しいサリンジャー師には、ジュリアも頼んでみても良いかもと思った。

「そうね! 頼んでみます」

 ジュリアがちょっとだけ自己主張をしようと思ったのを見て、ミリエルはホッとする。が、ここには自己主張の塊のシルビアもいたのだ。

「良いわねぇ、ジュリアは夏休みもルーファス王子様と会えるのね」

 勉強部屋で聞いていたシルビアは、折角、一緒に領地で遊ぼうと思っていたジュリアが、離宮に招待されたので、少し拗ねていた。

「ずっと、離宮では肩が凝るでしょう。少しはベーカーヒルで、遊びましょうよ。ねぇ、ジュリアからサリンジャー師に言ってちょうだい」

 シルビアに手を引っ張られて、その件もサリンジャー師に頼んでみると約束させられる。



「サリンジャー師、夏の間中、離宮で修行をしなくてはいけないのでしょうか?」

 王宮の離れも夏らしくなり、飾り窓も開け放してある。木々の木漏れ日に、ちらちらと光の精霊が舞い、涼しい風を風の精霊が送ってくれる。

 修行の後でお茶を飲んでいたサリンジャー師は、珍しくジュリアが自分から口を開いたので驚いた。

「何故、そのようなことを尋ねるのかい?」

 ルーファス王子とセドリックも、ジュリアが初めて自分から話しかけたので、少しは慣れてきたのかとホッとする。

「あのう、兄が結婚するので、家に帰れると嬉しいのですが……駄目なら、良いのです……すみません」

 真っ赤になって謝るジュリアの周りに、心配そうに精霊達が集まる。三人はこれ程に精霊達に愛されているジュリアが、こうも卑屈な態度なのに苛つく。

「勿論、兄上の結婚式に行っていいのだよ! ジュリアはもっと自分に自信を持って、考えを口に出して良いのだよ」

 サリンジャー師の許可が出たので、ジュリアはホッとしたが、シルビアとの約束を思い出してもじもじする。

「何だ? 他にも何か言いたい事があるんじゃないか?」

 ハンサムなルーファス王子に俯いた顔を覗き込まれて、ジュリアは真っ赤になる。

「ジュリア、何か他にも予定があるなら、教えて欲しい。夏休みの間に、王宮では修行しにくい水や火の精霊を実体化させる修行をするつもりだったのだから」

 サリンジャー師に言われて、ジュリアは慌てて何でもありませんと首を横に振る。そんなジュリアが未だメイド意識が抜けてないと、セドリックは大きな溜め息をつく。

「精霊使いは、強い精神も必要なんだよ。自分の意見も話せないようでは、そのうち見放されてしまうぞ」

 若様に背中を後押しされて、ジュリアはシルビアと領地で遊ぶ約束もしていると、サリンジャー師に頼む。

「良いなぁ、私も夏休みなのだから、少しは羽根を伸ばしたいなぁ! そうだ、ベーカーヒル伯爵領に私も招待してくれないか? 確か、海にも近かったよね」

 夏の離宮には王族が集まるので、若いルーファス王子は逃げ出す案を思いつく。サリンジャー師は若い弟子達にも休暇は必要だろうと、微笑んだ。
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