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第一章 醜いあひるの子
29 ゲチスバーグへ
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「昨日の今日で、泊らせて頂くだなんて……」
ぐずぐずしているジュリアを、侍女のルーシは急き立てる。
「ほら、馬車に荷物も乗せましたし、セドリック様もお待ちですよ」
ルーシーはセドリック様の侍従のトーマスと一緒にゲチスバーグ卿の屋敷に行けるので、浮き浮きとしていた。
「あんなにトーマスの悪口を言っていたのに……」
容姿の良いマシューの方が、セドリック様の侍従に相応しいと言っていたルーシーをからかうと、真っ赤になって言い訳をする。
「トーマスは誠実ですし、それに親切ですもの。少し不器用なところもありますが、男の人は見た目より誠実さが一番です」
器用なルーシーは、不器用なトーマスがセドリック様のシャツのボタンを付けるのを手伝ったり、重たい荷物を持って貰ったりしているうちに、好意を抱いてきたのだ。
「私のことより、ジュリア様はどなたかお好きな方はいないのですか? 来年には、社交界にデビューしても、おかしくない年なんですよ」
ジュリアは、ハンサムで陽気なルーファス王子や、真面目なセドリック様、そして優しいサリンジャー師を思い浮かべたが、頭を振って消去する。
「さぁ、急ぎましょう!」
ルーシーは恋ばなをしている場合では無かったと、ジュリアを急かせて下に降りる。
「彼処が、ゲチスバーグ卿の屋敷なんだな」
セドリックが馬車から、屋敷を見て呟いた。ジュリアは、その言葉で屋敷を見て、こんなに小さかったかしらと驚いた。
『ベーカーヒル伯爵のヘレナの屋敷に着いた時に、瀟洒だと思ったんだわ……それにしても、女中頭さんは覚えているかしら?』
屋敷に近づくにつれて、お父ちゃんに連れて来られた時の緊張感に襲われた。
「ジュリア、顔色が悪いが、大丈夫か?」
セドリックは領主のゲチスバーグ卿とは面識があったので、そんなに怖れる必要はないと宥める。
「ゲチスバーグ卿は武官だが、女性にはお優しいお方だ。それに、夫人は、おおらかなお方だから、何も緊張することは無い」
夫人なのに、おおらかなお方? 少し変な表現だと感じていたジュリアは、馬車を出迎えてくれたゲチスバーグ卿と夫人を見て得心した。武骨な武官らしいゲチスバーグ卿の横に立っていた、ふくよかな夫人が笑いながら、縁戚になるベーカーヒル伯爵家のセドリックと、そこの客人であるジュリアを迎え入れた。
前に会った女中頭を見かけたジュリアは、挨拶をしようとしたが、素知らぬ顔をされた。
「それは、女中頭さんが気をつかったんですよ。ジュリア様はお客様なのですからね、変に緊張してたりしたら、もてなすゲチスバーグ家の人達にも迷惑です」
客間で、ルーシーはジュリアの荷物を整理しながら、そんなの常識ですと、お説教する。
「そんなものなのかしら? あっ、それより両親に話をしに行かなきゃ!」
ルーシーは慌ててジュリアを止める。
「勝手に出かけたら、ゲチスバーグ卿夫人に失礼です。許可を取ってから、行かないといけません」
育った家までは歩いていけるのにと、ジュリアは遠慮したが、夫人は馬車を用意しますと言い切る。
「それと、侍女を伴って行かないと駄目ですよ」
ジュリアはメイド服のルーシーと一緒だと、何事だろうと不審がられると困惑したが、気をきかした女中頭さんが他のメイドの普段着を貸してくれた。
「どうしよう? 明日は茶色のドレスを着るけど、このドレスを着て行ったら驚かせちゃうわね」
ゲチスバーグ卿の屋敷に宿泊するのだからと、未婚の令嬢らしい白に小さな花柄が可愛いドレスを着ていたジュリアは、どうしようかとルーシーに相談する。
「ベーカーヒル伯爵家の馬車で行ったら、どうせ驚かれると思いますよ。それに、ご両親のことや、お祖父様のことを、話に行くのでしょ? その服で行かれたら、どうですか?」
「私は、結婚式はルーシーが縫ってくれた茶色のドレスを着て行くつもりだけど、両親に話に行く時はお母ちゃんが縫ってくれた服を着て行くつもりだったんだけど……」
「ええっ! それは駄目ですよ! 毛織物なんて、暑いでしょう」
ジュリアがこっそりと荷物に入れていた、毛織物の服を取り出したので、ルーシーは慌てて止める。
「そうねぇ、夏に毛織物は暑いわよねぇ。でも、この服は少ししか着てないから、妹のマリアにあげようと持って来たの。明日と同じ服になるけど、茶色のドレスにするわ」
ルーシーのお陰で、茶色のドレスには、白いレースの襟がつけられて、夏らしい雰囲気に縫い直されていた。
「まぁ、ルーシー、ありがとう!」
鏡に写った自分が、少し可愛く見えて、ジュリアはホッとする。
『これなら、醜いアヒルの子には見えないかも……』
小さな村にも意地悪な悪ガキがいて、ジュリアが捨て子だと当て擦るように、他の兄弟達と違うガリガリで不器量なのを笑って『醜いアヒルの子』と囃し立てたのだ。ガァガァとアヒルの真似をしながら、ジュリアをからかった悪ガキを、ジャスパー兄ちゃんがやっつけてくれたのだと思い出しながら、馬車で家へと向かう。
ぐずぐずしているジュリアを、侍女のルーシは急き立てる。
「ほら、馬車に荷物も乗せましたし、セドリック様もお待ちですよ」
ルーシーはセドリック様の侍従のトーマスと一緒にゲチスバーグ卿の屋敷に行けるので、浮き浮きとしていた。
「あんなにトーマスの悪口を言っていたのに……」
容姿の良いマシューの方が、セドリック様の侍従に相応しいと言っていたルーシーをからかうと、真っ赤になって言い訳をする。
「トーマスは誠実ですし、それに親切ですもの。少し不器用なところもありますが、男の人は見た目より誠実さが一番です」
器用なルーシーは、不器用なトーマスがセドリック様のシャツのボタンを付けるのを手伝ったり、重たい荷物を持って貰ったりしているうちに、好意を抱いてきたのだ。
「私のことより、ジュリア様はどなたかお好きな方はいないのですか? 来年には、社交界にデビューしても、おかしくない年なんですよ」
ジュリアは、ハンサムで陽気なルーファス王子や、真面目なセドリック様、そして優しいサリンジャー師を思い浮かべたが、頭を振って消去する。
「さぁ、急ぎましょう!」
ルーシーは恋ばなをしている場合では無かったと、ジュリアを急かせて下に降りる。
「彼処が、ゲチスバーグ卿の屋敷なんだな」
セドリックが馬車から、屋敷を見て呟いた。ジュリアは、その言葉で屋敷を見て、こんなに小さかったかしらと驚いた。
『ベーカーヒル伯爵のヘレナの屋敷に着いた時に、瀟洒だと思ったんだわ……それにしても、女中頭さんは覚えているかしら?』
屋敷に近づくにつれて、お父ちゃんに連れて来られた時の緊張感に襲われた。
「ジュリア、顔色が悪いが、大丈夫か?」
セドリックは領主のゲチスバーグ卿とは面識があったので、そんなに怖れる必要はないと宥める。
「ゲチスバーグ卿は武官だが、女性にはお優しいお方だ。それに、夫人は、おおらかなお方だから、何も緊張することは無い」
夫人なのに、おおらかなお方? 少し変な表現だと感じていたジュリアは、馬車を出迎えてくれたゲチスバーグ卿と夫人を見て得心した。武骨な武官らしいゲチスバーグ卿の横に立っていた、ふくよかな夫人が笑いながら、縁戚になるベーカーヒル伯爵家のセドリックと、そこの客人であるジュリアを迎え入れた。
前に会った女中頭を見かけたジュリアは、挨拶をしようとしたが、素知らぬ顔をされた。
「それは、女中頭さんが気をつかったんですよ。ジュリア様はお客様なのですからね、変に緊張してたりしたら、もてなすゲチスバーグ家の人達にも迷惑です」
客間で、ルーシーはジュリアの荷物を整理しながら、そんなの常識ですと、お説教する。
「そんなものなのかしら? あっ、それより両親に話をしに行かなきゃ!」
ルーシーは慌ててジュリアを止める。
「勝手に出かけたら、ゲチスバーグ卿夫人に失礼です。許可を取ってから、行かないといけません」
育った家までは歩いていけるのにと、ジュリアは遠慮したが、夫人は馬車を用意しますと言い切る。
「それと、侍女を伴って行かないと駄目ですよ」
ジュリアはメイド服のルーシーと一緒だと、何事だろうと不審がられると困惑したが、気をきかした女中頭さんが他のメイドの普段着を貸してくれた。
「どうしよう? 明日は茶色のドレスを着るけど、このドレスを着て行ったら驚かせちゃうわね」
ゲチスバーグ卿の屋敷に宿泊するのだからと、未婚の令嬢らしい白に小さな花柄が可愛いドレスを着ていたジュリアは、どうしようかとルーシーに相談する。
「ベーカーヒル伯爵家の馬車で行ったら、どうせ驚かれると思いますよ。それに、ご両親のことや、お祖父様のことを、話に行くのでしょ? その服で行かれたら、どうですか?」
「私は、結婚式はルーシーが縫ってくれた茶色のドレスを着て行くつもりだけど、両親に話に行く時はお母ちゃんが縫ってくれた服を着て行くつもりだったんだけど……」
「ええっ! それは駄目ですよ! 毛織物なんて、暑いでしょう」
ジュリアがこっそりと荷物に入れていた、毛織物の服を取り出したので、ルーシーは慌てて止める。
「そうねぇ、夏に毛織物は暑いわよねぇ。でも、この服は少ししか着てないから、妹のマリアにあげようと持って来たの。明日と同じ服になるけど、茶色のドレスにするわ」
ルーシーのお陰で、茶色のドレスには、白いレースの襟がつけられて、夏らしい雰囲気に縫い直されていた。
「まぁ、ルーシー、ありがとう!」
鏡に写った自分が、少し可愛く見えて、ジュリアはホッとする。
『これなら、醜いアヒルの子には見えないかも……』
小さな村にも意地悪な悪ガキがいて、ジュリアが捨て子だと当て擦るように、他の兄弟達と違うガリガリで不器量なのを笑って『醜いアヒルの子』と囃し立てたのだ。ガァガァとアヒルの真似をしながら、ジュリアをからかった悪ガキを、ジャスパー兄ちゃんがやっつけてくれたのだと思い出しながら、馬車で家へと向かう。
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