醜いアヒルの子は白鳥になれるのか?

梨香

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第二章 白鳥になれるのか?

10  緑蔭城の冬

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 春の戦準備をしてはいたし、ぞくぞくと騎士や兵士が集まってはいたが、未だ戦闘は始まっていなかったので、ジュリアは家庭教師のグレイシー先生と勉強する合間に、サリンジャー師と精霊を集める練習をする毎日をおくっていた。

 緑蔭城に集まった騎士や貴族の中には精霊使いの能力を持つ者もいたので、サリンジャー師とジュリアが精霊を集めているのを見て、驚き、感嘆の声をあげた。

「こんなに精霊が集まっているのを見るのは、内乱が始まってから初めてかもしれない!」

 ゲチスバーモンド伯爵も、緑蔭城の上を気持ち良さそうに舞う精霊達を見て、平和だった頃を思い出す。優雅に空を舞う精霊達を見ているギャラリー達とは違い、ジュリアはサリンジャー師にもっと集中するようにと注意されていた。

「貴女ならもっと集めることができるはずです。マリエールに気をとられないようにしなさい」

 ジュリアが精霊を集める練習をしだすと、マリエールが嫉妬して髪の毛を巻き上げたりするのだ。

『マリエール! 後で話を聞くから、今は邪魔しないで』

 ジュリアはこのままでは集中できないと、マリエールを説得するところから始める。

『私が側にいるのに、何故こんなに精霊を集めなきゃいけないの?』

 怒ってクルクル舞うマリエールを、ジュリアは手を伸ばして抱き止める。

『マリエール、貴女も水晶宮の精霊使い達を解放したいとは思わない?』

 幼い姿のマリエールだが、ジュリアより長く生きているし、水晶宮の精霊使い達と交流もあった。

『水晶宮の精霊使いは、私たちに人々を攻撃させたりするのよ! だから、私はシェフィールドから逃げてきたの』

 精霊達は争いを好まないので、内乱状態のイオニア王国は居心地が悪いのだ。

『マリエールは逃げたけど、まだ水晶宮の精霊使いに協力する精霊も沢山いるわ。アドルフ王を退位させたいけど、水晶宮の精霊使いが嫌々ながらも王命に従っているので無理なのよ』

 マリエールに理解できるかな? と思いながら、ジュリアは説明する。

『水晶宮の精霊使いに名前を教えている精霊は、離れたりしないもの』

 気儘なマリエールは、自分は水晶宮の精霊使いに名前を教えてないから大丈夫だと笑う。

『名前を教えている精霊はどのくらいいるのかしら?』

 マリエールは、そんなの知らないと、手から離れて空を舞う。サリンジャーは、ジュリアとマリエールの会話を聞いて、深い溜め息をつく。

「名前を持っているような強い精霊は、こちらには呼び寄せられないでしょう。しかし、やはり脅威になりますね」

 嫌々とはいいながらも、水晶宮の精霊使いはイオニア王国の中から選ばれたエリートだし、能力も高いので、自分に名前を教えてくれた精霊を易々と手放したりはしないだろうと、サリンジャーは作戦が上手くいくのだろうかと不安になる。

『マリエール! 貴女が水晶宮の精霊達を説得してくれない? このまま内乱が続くのは、嫌だと思っているのでしょ?』

 マリエールはクルクルと空高く舞い上がる。

『みんな! 内乱を止めさせたいわよね!』

 未だ精霊としては幼いマリエールの言葉に、他の精霊達は何を言い出したのか? と興味を持つ。

『当たり前よ! 血の匂いにはうんざりだわ!』

 先輩の精霊達は、若いマリエールを小バカにする。

『なら、水晶宮の精霊を説得しなきゃいけないわ! 人々を攻撃しないように!』

 そんなの無理だと、興味を無くして散らばった精霊もいたが、水晶宮から逃げてきた精霊達は興味を持った。

 サリンジャーは興味を持った精霊達に、根気よく説明する。

『名前を教えている精霊は、きっと離れないわ。でも、他の精霊なら……』

 結局は、水晶宮の精霊使い達が王命に逆らう勇気を持たないと駄目なのだとサリンジャーは、人質になっている家族を解放する作戦が上手くいくようにジョージと何度も練り直す。

 ジュリアは実際の作戦とかは聞いてなかったが、少しでも多くの精霊を集めることが大切なのだと、マリエールを説得して、練習の邪魔をさせないようにした。

『火の精霊とは仲が良いのよ!』

 マリエールも協力してあげると言うのは嬉しいが、地の精霊と喧嘩をしたりしては大変なので、ジュリアとしては大人しくしていてくれた方がありがたい。

「サリンジャー師、水の精霊と、火の精霊は一緒には集められないのですね」

 サリンジャーは普段は一種類の精霊しか集めないので、教えても無かったと、精霊の相性と、混合技もあるのだと説明する。

「未だジュリアは初歩しか教えて無かったからね。風と火は相性が良いから、見ておいで!」

 サリンジャーは火の精霊と風の精霊を呼び出すと、大きな篝火を空に起こした。

「凄いわ! でも、これは……」

 ジュリアはこの技を戦闘で使ったらと、顔を青ざめさせる。

「そう、こんな技を戦闘で使えば、人々の被害は甚大になる。精霊使いは、本来は精霊に人々を攻撃させたりしてはならないのだよ。しかし、防御の技も沢山あるし、治療の技も練習しなくてはね」

 サリンジャーは精霊使いとして、やってはいけない事をジュリアに教えていく。

「何故、このような攻撃技があるのか、考えてみてごらん」

 ジュリアは戦争は嫌だし、精霊達も嫌がっているのは、承知しているが、攻撃技が必要な理由を考える。

「自分の身を守る時には、必要なのかもしれないわ」

 サリンジャーは頷いて、イオニア王国は豊かな大地に恵まれているから、外国から何度も侵略されそうになった歴史があると説明する。

「こういった攻撃技は、他国の侵略を許さない為に研究されたのだよ。精霊は基本的には攻撃技は嫌いだけど、自国の民を守る為だと説得して協力して貰うんだ」

 サリンジャーは水晶宮で自国の民を攻撃するように命じられるのが嫌で、命がけでルキアス王国に亡命したのだと苦い思いに耽る。

「サリンジャー師が私に闇の精霊の実体化を教えて下さらないのは、私が攻撃技を使うと思っておられるからなのですか?」

 ジュリアは闇の精霊の技には、治療に役立つ物が多いのに、サリンジャー師が教えてくれない理由は、それなのだろうと思いつく。

「闇の精霊は、精神を強く保たないと飲み込まれてしまうのですよ。私も最期に師匠から習いましたが、それまでに何年も修行をしてからのことでした。

 私はジュリアが人を闇の精霊の技で攻撃するとは考えたくありませんが、貴女には強い魔力があり、しっかりとセーブする事を覚えるまでは教えたくないのです」

 ジュリアは自分を信じてくれないのかと失望したが、サリンジャーに問い詰められると、答えられなかった。

「お祖父様や叔父様が……万が一のことがあったら……」

 考えるだけで、真っ青になったジュリアを抱き締めて、サリンジャーは優しくさとす。

「いくらアドルフ王が愚かだとはいえ、跡取りが居なくては困るでしょう。しかし、戦闘の混乱で何が起こるのかは誰にもわからないのです。その時も、感情に流されず、精神を統一しなくては精霊使いとはいえませんよ」

 ジュリアは未だ自分には闇の精霊を使いこなす資格が足りないのだと溜め息をついた。

「そんなに落ち込まないで下さい。私が闇の精霊を実体化させる許可が下りたのは、20歳を越えてからですよ」

 サリンジャー師もなかなか教えて貰えなかったのだと聞いて、ジュリアはそれならば仕方ないと笑った。

 こうして、緑蔭城の冬は過ぎていった。

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