醜いアヒルの子は白鳥になれるのか?

梨香

文字の大きさ
54 / 86
第二章 白鳥になれるのか?

17  エドモンド公、解放!

しおりを挟む
 ジュリアを内乱に関わらせたくないとグローリアは思っていたが、夫のアルバートから手紙を受けとると、少し考え込む。確かに、こちらの情勢を囚われの身のエドモンド公にお知らせしたい。

「それに、ジュリアを緑蔭城に留めたままで、できることですもの……」

 ジュリアが水晶宮の精霊使いの人質の解放計画で、シェフィールドの郊外まで出向いた時は、無事に帰ってくるまで、グローリアは生きた心地がしなかったのだ。今回は、緑蔭城の精霊に、オルフェン城まで手紙を届けて貰うだけなので、夫の言うことに従う。

 ジュリアを自分の部屋に呼び出すと、夫からの手紙を渡す。

「この手紙をオルフェン城に囚われているエドモンド公に渡せば良いのですね」

 未だ会った事もない祖父なので、自分を孫と認めてくれるかはわからない。ジュリアがお祖父様と呼ばずに、エドモンド公と口にしたのを、グローリアは可哀想に思うと同時に腹を立てる。

「ジュリア、エドモンド公は貴女のお祖父様ですよ! 未だ卑屈な態度をしていますね。私の孫娘なのだから、ピシッと誇り高く頭をシャンとしなさい。看護をしたいと、私に逆らったみたいに」

 祖母に強く抱き締められながら、叱られて、ジュリアは未だ見ぬお祖父様に遠慮した自分の心の奥底を見抜かれたのだと反省する。

「私は、こうして緑蔭城で暮らしていても、未だ本当にゲチスバーモント伯爵家の孫だと信じられないのかも……父や母が生きていてくれたら、私の出自を信じられたのでしょうけど」

 グローリアは、ジュリアが捨て子として育った傷の深さを知り、愛情をたっぷりと与えて、時間をかけて癒していくしかないと溜め息をつく。

 しかし、ジュリアの疑惑を感じたマリエールは黙っていない。

『ジュリアは、フィッツジェラルドとエミリア巫女姫の子供よ! 二人から、赤ちゃんだったジュリアを手渡されたのだから!』

 ゲチスバーモントではなく、ゲチスバーグに間違って運んだ事は、マリエールには関係ないことみたいだと、ジュリアは溜め息をつく。

『だって、フィッツジェラルドは、風の精霊シルフィードよ、我が娘マリエールを無事に移動させておくれ! いざ、ゲチスバーグッ! って言ったのですもの』

 ジュリアは、父親の最後の言葉を聞いて、顔を青ざめさせた。

『マリエール! その時、父の周りには兵士がいたの?』

 マリエールは、その場面を思い出して、嫌な顔をする。

『ええ、巫女姫が呼んだから行ったけど、本当は近づきたく無かったわ。殺気に満ちていたのよ』

 ジュリアは、自分の息子の死の真相を推測するだけしかできなかった祖母に、マリエールの言葉を教えた。

「本当に、切羽詰まった情況で、貴女を私達の元に届けようと、最後の最後まで頑張ったのですね」

 いつもは気丈なグローリアだが、どれほど絶望的な情況だったのか知って、涙をハンカチで拭う。ジュリアも、父の最後の言葉が、自分を救おうとした言葉だったのだと、改めて確認できた。

「ゲチスバーモントと言おうとして、亡くなられたのね。私は捨て子として育ったけれど、父と母は死が目の前に迫った時にも、助けようと精一杯のことをしてくれたのだわ」

 サリンジャーから、推測された話は聞いてはいたが、真相をマリエールから聞いて、本当に両親に愛されていたのだと確信した。

『マリエール、赤ちゃんの私を救ってくれたように、内乱で苦しむイオニア王国を救って欲しいの。周りを南部同盟が囲んでいるオルフェン城に、手紙を届けて欲しいの。エドモンドお祖父様に、この手紙を届けて!』

 グローリアは、孫娘が手紙を空中に投げると、サッと風が吹き抜けて、手紙が消えたようにしか見えなかった。ジュリアは、マリエールが向かったオルフェン城の方向を窓から暫く眺めていたが、負傷者の看護に向かった。



 マリエールは、戦闘の真っ只中のオルフェン城にジュリアから渡された手紙を届けに行った。今度は、間違えずにエドモンド公にちゃんと渡さなければ! と気合いをいれている。

 小さな窓から一陣の風が吹き込んだ。血の臭いが立ち込めるオルフェン城に、シルフィードがやって来たのに、エドモンドとレオナルドは驚いた。

『おや、こんな戦いの場所に! よく来てくれたねぇ』

 マリエールは、とっとと立ち去りたいが、本人か確かめる。

『どちらが、ジュリアのお祖父ちゃんのエドモンドなの?』

 エドモンドは、ジュリアのお祖父ちゃん? と首を捻る。孫は一人もいない。

『私がエドモンドだが……ジュリアの祖父では無いから、人違いなのでは?』

 マリエールは、困ってしまう。血の匂いが大嫌いなのだ。

『貴方はエミリア巫女姫の父親でしょう? だったら、ジュリアのお祖父ちゃんよ! だから、この手紙は貴方に届けるわ』

 亡くなった娘の産んだ孫が生きていたのか!? 呆然としているエドモンドに、マリエールは手紙を渡すと、サッと消えてしまった。

「父上、まさか赤ん坊が……」

 震える手で、エドモンド公はゲチスバーモント伯爵からの手紙を開封する。ペーパーナイフすら無いのが腹立たしい。

「なんと! エミリアとフィッツジェラルドの娘が生きていたそうだ! 何故か隣国で育ったと書いてある。ジュリア! さっきのシルフィードを寄越したのは、ジュリアなのか?」

 南部同盟が水晶宮の精霊使いを解放した事や、シェフィールドからの王軍を足止めしている情況などが書かれていた。

「何故、姉上の子供がルキアス王国で育ったのですか?」

 戦闘が有利な点は、万が一オルフェン伯爵に手紙が渡っても、こちらに寝返って貰えたら良いと、詳しく書いてあったが、ジュリアの件はほんの少ししか書かれていない。

「さぁ、しかしジュリアは精霊使いなのだろう。さっきのシルフィードは、ジュリアが寄越したのだと思う」

 こんな戦場の真ん中に、精霊を送り込めるのは、巫女姫の血を受け継いだのだと、未だ見ぬ孫娘を誇らしく感じる。

「さて、この手紙の情報で、若きオルフェン伯爵を揺さぶってやろう! そこの看守、オルフェン伯爵と話がしたいと言ってきなさい」

 看守が、オルフェン伯爵にエドモンド公の言葉を告げると、側にいた城代は、そろそろ潮時だと忠告する。

「オルフェン城に援軍は来ません。どうやら、アドルフ王は退位させられそうですぞ。慎重に立ち振る舞わなくては……」

 城代に丁重な態度で連れて来られたエドモンド公とレオナルド公子は、いつもより堂々としていた。

「話とは、何でしょう?」

 老獪なエドモンド公に、水晶宮の精霊使いがアドルフ王を身限ったと告げられたエイドリアンは、この内乱は南部同盟の勝ちで終わりだと悟った。こうして、南部同盟の旗頭であるエドモンド公と、レオナルド公子は解放された。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...