醜いアヒルの子は白鳥になれるのか?

梨香

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第二章 白鳥になれるのか?

18  内乱の終わり

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 南部同盟の旗頭であるエドモンド公が解放され、首都シェフィールドの護りの城を任されているオルフェン伯爵が味方について、戦況は一気に動いた。

 アドルフ王は首都に逃げ帰ろうとしたが、待ち伏せに逢ってかなりの軍勢を失ってしまう。その上、頼みにしていたシェフィールドに住んでいる貴族や商人達は、劣勢と見るや手のひらを反した。

「なんだって! 軍資金や兵站を出さないと言うのか! あれほど保護してやったというのに……ええぃ、出さぬというなら、強制的に取るだけだ」

 アドルフ王は、最後に残った味方とは言えないまでも、敵ではなかったシェフィールドの住民を、自分の愚かな決定で失った。

 アドルフ王におべんちゃらを言って、甘い汁を飲んでいたずる賢い貴族や商人は、とっとと見放して財産を纏めて逃げ出していた。先見の明の無い愚か者と、逃げようにも財産もない市民達は、アドルフ王の兵達の被害に逢った。

「止めて! それを持っていかれたら、家族が餓えてしまう」

 オルフェンからの街道が封鎖され、シェフィールドには食糧が不足していた。北部の領主達も、アドルフ王の劣勢を感じて、どんどんと南部同盟に参加していたので、首都は陸の孤島になっていたのだ。


 水晶宮に閉じ籠っていた精霊使い達は、自国の首都を荒らすアドルフ王軍に我慢ができなかった。

「カリースト師、無力な民をお護り下さい」

 精霊達がいずこにか消えたシェフィールドには、カリーストが名前を聞いた闇の精霊しか残っていない。しかし、名前を持つほど強力な闇の精霊を扱うのは、自分も闇の精霊使いになる危険があるのだ。精神が弱いと、闇の精霊に飲み込まれてしまう。

「そうだなぁ……これ以上、王の名前を辱しめてはいけない」

 カリーストは水晶宮の地下深くに眠る闇の精霊を解き放つ決意を固める。

『オンブラよ! シェフィールドの民を苦しめている兵達を眠らせておくれ』

 地下から闇の精霊オンブラが、ゆらりと立ち上がる。

『カリースト、兵達を眠らせるだけで良いのか? 自国の民を苦しめているアドルフを始末してやろうか?』

 オンブラなら、アドルフ王を深い眠りにつかせ、二度と目覚めぬ死の眠りに誘えるのだ。カリーストは長年の我慢の日々を思い出し、ぐらりと気持ちが動いた。アドルフ王を逃したら、内乱の火種が残るのだ。

『いや、アドルフ王の始末はエドモンド公に任せよう。オンブラ、民を苦しめている兵達を眠らせておくれ!』

 誘惑を退ける精神の強さが気に入って、カリーストに自分の名前を預けたのだ。オンブラはスッと闇に消えた。

 シェフィールドの街で、民達から食糧や金品を強奪していた兵達が、ばたばたと倒れていく。戦場に駆り出されなかった年取った男達が指示し、少年達や女達にも手伝わせて、縄で手足を括っていく。

「何をしている! 起きろ!」

 王宮の兵達もばたばたと倒れていった。アドルフ王は、すやすや眠る兵達を怒って蹴ってみたが、起きそうにない。

 日頃は威張っているが、アドルフは小心者だ。侍女だけで王宮が護れる筈はない。

「こうなったら、シェフィールドから撤退するしかない。金目の物を纏めろ!」

 侍女に命じて、蔑ろにしていた王妃を連れて逃げようと考える。王妃の実家のダベンポート伯爵領に逃げ込む算段をする。

「クラリッサ! どこにいる?」

 ガランとした王妃の部屋を唖然として眺める。政略結婚の相手である王妃を蔑ろにしたツケを、アドルフは今夜払うことになった。解放されたエドモンド公から、書簡を貰ったクラリッサ王妃は、実家のダベンポート伯爵家に退避したのだ。

 広い王宮で、孤立無援になったアドルフ王は、侍女が集めた銀製の食器や金目の物を引ったくると、シェフィールドの闇の中に消えていった。


「アドルフ王は何処に?」

 王宮を制覇したエドモンド公の前に引き出された、侍女達は、どうなるのだろうと、固まってぶるぶる震えていた。

「存じません……」

 エドモンド公は、イオニア王国中に、アドルフ王を見つけ出すお触れを出した。しかし、なかなかアドルフ王は見つからなかった。

 逃げたアドルフ王だけでなく、エドモンド公には数多くの問題があった。レオナルド公子と共に、自分に恭順を誓う諸侯に会見していく。しかし、エドモンド公はオルフェン城から解放された時から、果たしたい夢があった。

「ゲチスバーモンド伯爵、未だジュリアはシェフィールドに到着しないのか?」

 南部同盟の盟主としての顔を忘れて、早く孫娘に会いたいと焦れる。

「グローリアと共に、もうすぐシェフィールドに着きます」

 一日に何度、この会話を繰り返すのだろうと、ゲチスバーモンド伯爵は苦笑するが、自分もサリンジャーから孫娘が生きていたと手紙で知らされた時は、同じ思いだったと苦笑する。
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