醜いアヒルの子は白鳥になれるのか?

梨香

文字の大きさ
77 / 86
第三章 白鳥

16  レリック卿と馬車で

しおりを挟む
 祖父母達に言いくめられ、ジュリアは精霊達とピクニックに行くことにした。

『いつもお世話になっているんだから、精霊達が喜ぶならピクニックに行っても良いわ。カリースト師も気分転換をしなさいと早く帰されたのだろうし』

 貧乏性のジュリアは、自分だけ遊んでいるのは気が引けたが、精霊達への感謝をあらわすためだと言われては仕方ない。

「えっ、そんなに沢山の方と行くのですか?」

 祖父母はお互いに推しの中の推しを選んでピクニックに参加させることにしたのだが、何故か招待していない子息達の姿も見える。でも、そこは愛想良く参加を認めつつ、グローリアは自分の推しをジュリアのエスコート役に選ぶことにする。

「ええ、こんなに良い天気なのですもの。それに、皆様方も多かれ少なかれ精霊使いの素質がある方ばかりで、精霊に感謝を伝えたいと仰っているのよ」

 祖母のグローリアは、城代のマーカス卿推しだったのだが、真面目なのが災いして、パーティが終わった次の日には緑陰城に帰ってしまっていた。でも、夫が推す南部同盟に有利な貴公子だけでなく、自分の付き合いがある性格がわかった子息達もピクニックに招待した。

「ピクニックに行くと決めたのは昨日なのに、大勢いらっしゃるのね?」

 不思議がるジュリアだったが、精霊達が『ピクニック!』と騒いでいるのを見て、他の方の近くにいる精霊達も『行きたい!』とせっついたのだろうと納得した。

 グローリアは、自分が推す友人の孫息子をジュリアに紹介し、エスコートを託す。夫が後ろで自分の推しである大貴族のハーフコート伯爵の嫡男を紹介しようとしているが、そんなの無視! 本人はまだしも、あそこの姑は気難しい。そんなの孫娘には近づけたくない。それに、緑陰城の跡取りには頭が良くて性格の良い二男で十分なのだ。

「ジュリア、この方はレリック卿ですよ」

 濃い茶色の髪の長身の貴公子を紹介され、ジュリアはパーティで踊った相手だと朧げな記憶を引っ張り出す。

「レリック卿、ジュリアです。今日はピクニックに参加して下さり、ありがとうございます」

 レリック卿は、にこやかにジュリアの手を取り、触れるか触れないかのキスをしながら応える。

「ジュリア嬢、私も多少ながら精霊の助けを得ています。それなのにお礼もそこそこで、今回ピクニックに誘って頂けて、とても嬉しく思っています」

「まぁ、では今回参加される方々は精霊達に感謝したいと思っておられるから、こんなに大勢なんですね」

 レリック卿は、グローリア伯爵夫人からピクニックの開催理由を教えられていたので、挨拶にそれを含めていただけで、本音は巫女姫になるジュリア嬢と親しくなりたかったからだ。それに、ここに集まった貴公子達の本音も同じだと見抜いていた。それに気づいてなさそうなジュリア嬢に驚き、好感を持つ。

「ジュリア嬢は、本当に純心で巫女姫に相応しいですね」

 ジュリアを他のライバルを蹴散らしながら、馬車にエスコートし、レリック卿は他の恋愛上手な令嬢とは違うのに気づいた。このジュリアには高慢だと噂されているハーフコート伯爵夫人の嫁は無理だと思い、グローリア伯爵夫人が自分を推したのだと内心で苦笑する。

「いいえ、私なんか……」

 ジュリアは、オレーリア師に闇の精霊を呼び出す許可も下りないのにと俯く。そんなジュリアをレリック卿は、こんなに精霊達に愛されているのに無自覚なのかと驚く。

「ジュリア嬢、貴女はもっと自信を持たなくてはいけませんね。ほら、ご覧なさい! あれ程の精霊達を集めるのはシェフィールドにもそんなにいませんよ」

 馬車の窓から外を見ると、ピクニックに浮かれた精霊達が乱舞しながらついてきている。

「まぁ、でもそれは皆様も精霊にお礼を言いたいとピクニックに参加されたのだからでは?」

「それは少しは私の周りにいる精霊もあるでしょうけど、ほとんどはジュリア嬢とピクニックに行きたいと昨夜から騒いでいるのですよ。シェフィールド中の精霊が集まっているのかもしれませんね」

 ジュリアは、そんなにピクニックに集まっていたら水晶宮の仕事に差し障りがあるのではと心配になる。

「それは大変ですわ。オレーリア師に叱られないと良いのですが……それでなくても、修行が行き詰まっているのに……」

 しおしおと落ち込むジュリアをどう慰めようかレリック卿が考えていると、窓からマリエールが飛び込んできた。

『ジュリア! もうすぐピクニックね! こんなにいっぱいの精霊と一緒に遊べるの久しぶりだわ。内戦の前に戻ったみたい』

 膝の上で浮き浮きと話すマリエールを抱っこして、ジュリアは『もしかして』と質問する。

『ねぇ、マリエール。こんなに精霊がピクニックに集まるのって、もしかして皆んなにお喋りしたの?』

『えへん! そうよ! ピクニックなんだから大勢の方が楽しいじゃない』

 やっぱり! とがくっりするジュリアをレリック卿は慰める。

「シェフィールドには元々精霊が多いのですが、内戦ですっかり少なくなってしまったのです。でも、こうして平和になり、精霊が戻ってきてくれて嬉しいです。水晶宮のオレーリア師も、少ない時期でもやってこられた訳ですし、精霊達がピクニックを楽しむのを怒られたりしませんよ」

「そうかしら……」

「そうですよ! 精霊使いは精霊に甘いものですし、ピクニックで感謝を伝えるだなんて巫女姫でしか考えつきません」

「巫女姫ではありません。私は……」

 これほど精霊に愛されているのに、何故にこんなに自信が無いのかレリック卿は首を傾げる。

『ジュリアは巫女姫に相応しいと思うわ。オレーリアもサリンジャーに、ジュリアなら立派な巫女姫になると言ってたもの』

『まぁ、盗み聞きは良くないわ。でも、それが本当なら嬉しいわ! 私が尊敬する二人の師匠がそう考えておられるなら、頑張るわ!』

『ジュリア! 頑張らなくて良いの。今のままで精霊はジュリアのことが大好きなんだから』

 ジュリアとマリエールの会話を微笑みながら聴いていたレリック卿は、噂に聞いた生い立ちから自信が持てないのだろうと推察した。

「もうそろそろピクニック会場につきますよ。おや、あの馬車は? ルーファス王子も来られているようてますね」

「えっ、ルーファス王子が? 屋敷にはおられなかったと思うけど?」

 訳が解っていなそうなジュリアだったが、レリック卿はピクニックの噂を聞きつけて、慌てて直接来たのだろうと苦笑する。

 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...