醜いアヒルの子は白鳥になれるのか?

梨香

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第三章 白鳥

17 ルーファス王子にお断りしなくては

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 ピクニック会場には招待した覚えのないルキウス王国の紋が付いた立派な馬車が待っていた。

「まさか、ルーファス王子が?」

「さぁ、ジュリア嬢、みんなが待っていますよ」

 驚きを隠せないジュリアをエスコートして馬車から降ろすレリック卿だが、貴重な巫女姫を他国に渡す気はさらさらない。ルキウス王国の王子だろうが、招待されていないのだ。そんな非常識な輩を巫女姫に近づけるものかと、声を掛けられたのを無視して、ピクニック会場へと向かう。

 そこには、急なピクニック企画なのに白い大きなテントが設営されてあり、芝生の上で寛ぐ参加者達に先に着いた召使いがシャンパンやサンドイッチを用意していた。

「ジュリア……あの野郎、私を無視してジュリアをエスコートするなんて!」

 自国のルキウス王国では有り得ないと腹を立てるルーファス王子だ。

「まぁ、イオニア王国は巫女姫を他国にやる気は少しも無いですからね。それに、我々はピクニックに招待されていませんから。本当に逆風の中、強引に参加されるのですか?」

 付き添いのセドリックは、やれやれと肩を竦める。精霊使いの修行を目的として留学しが、ルキウス王子の真の目的は巫女姫のジュリアとの婚姻だ。だが、やはりイオニア王国は巫女姫を他国に嫁がす気は無さそうだ。セドリックとしては、ジュリアの件は諦めて精霊使いとしての修行に集中したいのが本音だ。それにジュリアは王妃に向いていないのでは無いかと、父親や王や王子には言えないが心の中で思っていた。

「当たり前だ。この前のパーティーでも好印象だった」

 自信満々のルーファス王子だが、セドリックはメイドとしてのジュリアを知っている。好印象というか、王子に対して失礼があってはいけないと気を使っている印象を持った。それに比べて、サリンジャー師とか緑陰城の城代マーカス卿には、ジュリアは親しくしていたと感じていた。ジュリアにはその方が幸せなのでは無いかとルーファス王子に何度も伝えようとしたが、なかなか微妙な話なので言い出さずにいたのだ。

「ほら、ぐずぐずしていたらジュリアの周りを取り囲まれてしまうぞ」

 セドリックは、強気なルーファス王子の後を追った。

 ジュリアは、ルーファス王子とセドリックがピクニックのテントに近づいてくるのが見えなかった。なぜなら、ジュリアの周りには精霊がやまと集まっていたからだ。

『ジュリア! ピクニックなんだから遊びましょう』

 周りの貴公子達を押しのけるようにマリエールや精霊達が騒いでいる。

『マリエール、何をして遊ぶの?』

 ゲチスバーグ村でもピクニックをすることもあったが、ジュリアはいつも余所者な感じを受けていた。夏至祭なので村人が集まる時には、大人の目が届かないところでは『醜いアヒルの子』『拾われっ子』と揶揄されていたのだ。なので、ジュリアはピクニックを楽しんだことがなかった。

「このピクニックは日頃お世話になっている精霊に感謝するのが目的なのですから、いっぱい遊んであげたいけど……」

 レリック卿は、これだけの精霊が集まっているのに感嘆していたが、それを集めたジュリアがどうしたら良いのか分からず困惑しているのに呆れていた。

「ジュリア嬢は子どもの頃に精霊達と遊んだりしなかったのですか?」

「ええ、子どもの頃から精霊は見えてはいたのですが、そんな事を言ったら叱られていたので……精霊と遊ぶなんて、どうしたら良いのでしょう?」

 レリック卿達は、ジュリアが外国育ちなのだと思い出した。

「私達は精霊が見えるようになったら、追いかけっこをしたり、鬼ごっこをして遊びましたよ。ジュリア嬢、今日はピクニックなのですから、子どもに戻って遊びましょう!」

 レリック卿に手を引かれ、ジュリアは精霊達と追いかけっこをして遊ぶ。

『マリアンヌ、待って!』

 いっぱいの精霊達と追いかけっこして、ジュリアは少し疲れた。

「ジュリア嬢、あちらのテントで少し休みましょう」

 レリック卿に誘われるままテントに向かったジュリアは、そこでルーファス王子とセドリックが居心地悪そうにサンドイッチをつまんでいるのを見た。

「まぁ、やはりルーファス王子もいらしていたのですね。申し訳ありません、ご挨拶もしてなくて」

 ジュリアが謝るので、ルーファス王子もにこやかに話す。

「いえ、招待されていないのに勝手におしかけたのですから気にしないで下さい。私は精霊への感謝をしたいと思って参加させてもらったのです」

 周りの人々は『そんなわけないだろう』と思ったが、ジュリアは信じた。

「まぁ、ルーファス王子は熱心に精霊使いの修行をされているのですね。丁度良いですわ。マリアンヌはもっと追いかけっこをして遊びたいみたいなんです。私は息があがってしまって……」

 ジュリアは実体化したマリアンヌをルーファス王子に紹介する。

『追いかけっこよ! 私を捕まえて!』

 ルーファス王子は、自分が精霊達への感謝の為と言った言葉に縛られて、マリアンヌを追いかけて野原へと走り去った。もちろん、お付きのセドリックも一緒だ。

「さぁ、ジュリア嬢」

 手渡されたジュースとサンドイッチを椅子に座って食べるジュリアだ。

「それにしても上手くルーファス王子を追いかけっこに行かせましたね」

 レリック卿や他の参加者の賛辞にジュリアは戸惑う。

「えっ、だってルーファス王子は……」

「巫女姫をさらっていこうなんて図々しいんですよ」

「本当に、さっさと国にお帰りねがいたいですよね」

 周りの人々の言葉にジュリアは驚く。

「ルーファス王子とセドリック様は精霊使いの修行の為に留学なさっているのでは?」

 レリック卿は、ジュリアが本当にルーファス王子の留学の意味を知らなかったのだと驚く。

「ジュリア嬢はルキアス王国の王妃になりたいのですか?」

「まさか! そんなの無理です。それにシルビィア様はルーファス王子に恋していらっしゃるんですよ」

 ジュリアは、祖父がイオニア王になったのも実感がないぐらいだ。それにルキアス王国でジュリアはメイドをしていたのだ。王妃なんて無理に決まっている。真っ青になってしまう。

「そうですか。では、はっきりとルーファス王子にお断りした方が宜しいかと……でないと、あちらは諦めないと思いますよ」

 動転しているジュリアを宥めながらもレリック卿は事実を知らせる。巫女姫の海外流失は絶対に阻止しなくてはいけないのだ。

「そんなぁ……お断りなんて……彼方はそんな気は無いと思いますよ」

 メイドを王妃になんか考えても無いだろうと、ジュリアは首を横に振るが、周りから『違いますよ!』と言われて、これまでのルーファス王子から口説かれているように感じたのは勘違いでは無かったのだと悟る。

「ルーファス王子にはお断りしなくては……」

 ジュリアはやっと決意したのだった。

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