3 / 28
3 マディソン村の学校
しおりを挟む
春の農繁期の盛りを過ぎると、マディソン村の学校に子どもたちが学びにやってくる。村の学校にはエマーソン先生一人しかいない。
「ふぅ、今年も新入生がやってくる時期だなぁ。また、文字から教えなきゃいけないのか……」
大きな町の教師を引退したお爺さん先生は、マディソン村で悪ガキ相手に最低限の文字と計算を教えるのに飽き飽きしていた。それでも、いつか学習意欲に燃えた子どもを指導できるのではないかとの夢を持ち、新学期に備え、何冊かの教科書を用意していた。
その新入生の一人がアシュレイだ。
「明日から、お前も学校に通うんだよ。ほら、この服を着てごらん」
祖母が縫っていた新しい服を着て、アシュレイは学校で友達ができるかなと緑の目を輝かせる。
「服はこれで良いとして、お前の髪はどうにかならないかねぇ。ベンジャミンもくせ毛だったけど、これほどくるくるじゃなかったよ」
祖母にブラシでぎゅうぎゅう髪をとかれて、アシュレイは悲鳴を上げる。
「お祖母ちゃん、痛いよ!」
アマンダは、どうにか鳥の巣状態では無くなったので、まだくるくるしていて不満だったが、ブラシを置いた。
「髪の毛を伸ばしてくくった方がまだまとまるかもしれないけど……男の子が長い髪なのは不潔になるんじゃないだろうか……」
アシュレイは、父親もくせ毛の髪の毛を括って整えていたので、大人になったら伸ばすのも良いかもしれないと思う。
「お父さんみたいにくくるよ!」
アマンダは、懐かしい我が子を思い出して茶色の髪を撫でてやる。
「そうだね。大きくなったら髪の毛を括ると良いよ。でも、子どものうちは短い方が清潔にできるからね」
アシュレイは、学校に通うことになって、祖母が満足するまで毎朝くるくるの髪の毛と格闘することになった。でも、その苦労は学校に着くまでに無駄になる。
「おはよう!」
せっかく整えた髪の毛も走った途端にくるくると巻き上がってしまう。でも、そんなことアシュレイも村の子ども達も気にしない。
「おはよう!」と、何人からも声がかかる。
初めは、町育ちのアシュレイを遠巻きにしていた子ども達も地元のマシューとアマンダの孫として受け入れてくれた。それは、長年にわたり堅実な生活をしている祖父母達への信頼のなせる業だ。
アシュレイは、エマーソン先生から習うまでもなく、文字の読み書きや計算ができた。母親のレティシアから習っていたからだ。レティシアの実家はナンツの薬師を代々行っていて、庶民とは一段上の生活をしていたのだ。港に出稼ぎに来ていた男と一目惚れして駆け落ち同然に結婚したため、アシュレイは庶民的な生活をしていたが、学習面では一歩抜きん出ていた。
「あのチビ生意気だな!」
出る杭は打たれる。エマーソン先生はアシュレイの能力を適切に評価して、一年生をスキップさせ三年生にした。この田舎の学校では珍しい事だ。
一年生は「アシュレイは賢いんだな」と思っただけだったが、飛び越された二年生と年下と机を並べる三年生は面白くなかった。
エマーソン先生は、女の子をムチでぶったりはしなかったが、反抗的な男の子にはしなやかな細い木の枝で手を打つこともあった。そうしないと、男の子は言う事を聞かなくなるからだ。
三年生のボスは、村の管理人の息子のアンガスだ。アシュレイが入学するまで、学校で一番だと自分では思っていたし、周りの子も管理人の子供であるアンガスには逆らわなかった。
「でも、エマーソン先生は暴力には厳しいよ」
アンガスに腰巾着扱いされているジムだが、マシューとアマンダと祖母が親しいので、小さなアシュレイに意地悪をするのを止めようとする。
「ふん、学校で殴ったらエマーソン先生にムチ打ちだろうけど、帰り道ならわからないさ。それに、ちょっと礼儀を教えるだけだ。あんなチビを本気で殴ったりするもんか。お前も来るんだぞ!」
ジムは、アンガスが何を企んでいるのか分からず、嫌々ながらうなずいた。それにアンガスを無視して家に帰るより、一緒にいた方が止まることもできるかもしれない。
こうして何人かの男の子が、アンガスの馬鹿な企みに参加することにした。
その日の放課後、男の子達は家に急ぐ。何故なら、家に帰って畑の手伝いや、家畜の餌やりなどを手伝わないといけないからだ。
「じゃあ、また明日ね!」
アシュレイも、一年生の友だちと別れて走っていた。
「先回りしてチビを捕まえるぞ」
まだマディソン村に来たばかりのアシュレイは、家と学校の間の道を使っていた。でも、畑や牧草地を突っ切れば、それより早い。それに、チビより三年生の男の子たちが足も長い。
「おかしいなぁ?」
アシュレイの祖父の家へと続く道の脇で、大きな木に隠れたアンガス達は、そろそろ姿が見えても良いはずだと首をひねる。
「もしかしたら、途中で道をそれたのかもしれない?」
ジムに言われて、アンガスは「見てこい!」と偉そうに命じる。
ジムは、マシューの家の近くまで走って行き、牛を牧草地から連れて帰っているアシュレイとすれ違った。
「アシュレイ、もう牛を連れて帰っているのか? 早いな」
「学校の帰りに牧草地へ行ったんだよ。家に帰ってから牧草地に行くより、早いんだ」
これではアンガス達が待ちぼうけになるはずだと、ジムは笑った。
ジムはこれでアンガスも飽きるだろうし、他の男の子達も家の手伝いをサボると親に叱られると思ったが、そうはならなかった。
「ちぇっ、チビめ! 今日は運が良かったな。明日は牧草地で待ち伏せだ!」
他の男の子達も、牧草地に行って牛を連れて帰れば二度手間にならないので、待ち伏せはそんなに嫌ではなさそうだ。
「もう、ほっとけば良いじゃないか」
ジムの真っ当な意見は無視された。
「ふぅ、今年も新入生がやってくる時期だなぁ。また、文字から教えなきゃいけないのか……」
大きな町の教師を引退したお爺さん先生は、マディソン村で悪ガキ相手に最低限の文字と計算を教えるのに飽き飽きしていた。それでも、いつか学習意欲に燃えた子どもを指導できるのではないかとの夢を持ち、新学期に備え、何冊かの教科書を用意していた。
その新入生の一人がアシュレイだ。
「明日から、お前も学校に通うんだよ。ほら、この服を着てごらん」
祖母が縫っていた新しい服を着て、アシュレイは学校で友達ができるかなと緑の目を輝かせる。
「服はこれで良いとして、お前の髪はどうにかならないかねぇ。ベンジャミンもくせ毛だったけど、これほどくるくるじゃなかったよ」
祖母にブラシでぎゅうぎゅう髪をとかれて、アシュレイは悲鳴を上げる。
「お祖母ちゃん、痛いよ!」
アマンダは、どうにか鳥の巣状態では無くなったので、まだくるくるしていて不満だったが、ブラシを置いた。
「髪の毛を伸ばしてくくった方がまだまとまるかもしれないけど……男の子が長い髪なのは不潔になるんじゃないだろうか……」
アシュレイは、父親もくせ毛の髪の毛を括って整えていたので、大人になったら伸ばすのも良いかもしれないと思う。
「お父さんみたいにくくるよ!」
アマンダは、懐かしい我が子を思い出して茶色の髪を撫でてやる。
「そうだね。大きくなったら髪の毛を括ると良いよ。でも、子どものうちは短い方が清潔にできるからね」
アシュレイは、学校に通うことになって、祖母が満足するまで毎朝くるくるの髪の毛と格闘することになった。でも、その苦労は学校に着くまでに無駄になる。
「おはよう!」
せっかく整えた髪の毛も走った途端にくるくると巻き上がってしまう。でも、そんなことアシュレイも村の子ども達も気にしない。
「おはよう!」と、何人からも声がかかる。
初めは、町育ちのアシュレイを遠巻きにしていた子ども達も地元のマシューとアマンダの孫として受け入れてくれた。それは、長年にわたり堅実な生活をしている祖父母達への信頼のなせる業だ。
アシュレイは、エマーソン先生から習うまでもなく、文字の読み書きや計算ができた。母親のレティシアから習っていたからだ。レティシアの実家はナンツの薬師を代々行っていて、庶民とは一段上の生活をしていたのだ。港に出稼ぎに来ていた男と一目惚れして駆け落ち同然に結婚したため、アシュレイは庶民的な生活をしていたが、学習面では一歩抜きん出ていた。
「あのチビ生意気だな!」
出る杭は打たれる。エマーソン先生はアシュレイの能力を適切に評価して、一年生をスキップさせ三年生にした。この田舎の学校では珍しい事だ。
一年生は「アシュレイは賢いんだな」と思っただけだったが、飛び越された二年生と年下と机を並べる三年生は面白くなかった。
エマーソン先生は、女の子をムチでぶったりはしなかったが、反抗的な男の子にはしなやかな細い木の枝で手を打つこともあった。そうしないと、男の子は言う事を聞かなくなるからだ。
三年生のボスは、村の管理人の息子のアンガスだ。アシュレイが入学するまで、学校で一番だと自分では思っていたし、周りの子も管理人の子供であるアンガスには逆らわなかった。
「でも、エマーソン先生は暴力には厳しいよ」
アンガスに腰巾着扱いされているジムだが、マシューとアマンダと祖母が親しいので、小さなアシュレイに意地悪をするのを止めようとする。
「ふん、学校で殴ったらエマーソン先生にムチ打ちだろうけど、帰り道ならわからないさ。それに、ちょっと礼儀を教えるだけだ。あんなチビを本気で殴ったりするもんか。お前も来るんだぞ!」
ジムは、アンガスが何を企んでいるのか分からず、嫌々ながらうなずいた。それにアンガスを無視して家に帰るより、一緒にいた方が止まることもできるかもしれない。
こうして何人かの男の子が、アンガスの馬鹿な企みに参加することにした。
その日の放課後、男の子達は家に急ぐ。何故なら、家に帰って畑の手伝いや、家畜の餌やりなどを手伝わないといけないからだ。
「じゃあ、また明日ね!」
アシュレイも、一年生の友だちと別れて走っていた。
「先回りしてチビを捕まえるぞ」
まだマディソン村に来たばかりのアシュレイは、家と学校の間の道を使っていた。でも、畑や牧草地を突っ切れば、それより早い。それに、チビより三年生の男の子たちが足も長い。
「おかしいなぁ?」
アシュレイの祖父の家へと続く道の脇で、大きな木に隠れたアンガス達は、そろそろ姿が見えても良いはずだと首をひねる。
「もしかしたら、途中で道をそれたのかもしれない?」
ジムに言われて、アンガスは「見てこい!」と偉そうに命じる。
ジムは、マシューの家の近くまで走って行き、牛を牧草地から連れて帰っているアシュレイとすれ違った。
「アシュレイ、もう牛を連れて帰っているのか? 早いな」
「学校の帰りに牧草地へ行ったんだよ。家に帰ってから牧草地に行くより、早いんだ」
これではアンガス達が待ちぼうけになるはずだと、ジムは笑った。
ジムはこれでアンガスも飽きるだろうし、他の男の子達も家の手伝いをサボると親に叱られると思ったが、そうはならなかった。
「ちぇっ、チビめ! 今日は運が良かったな。明日は牧草地で待ち伏せだ!」
他の男の子達も、牧草地に行って牛を連れて帰れば二度手間にならないので、待ち伏せはそんなに嫌ではなさそうだ。
「もう、ほっとけば良いじゃないか」
ジムの真っ当な意見は無視された。
51
あなたにおすすめの小説
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
魔法学校の落ちこぼれ
梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。
しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。
『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
逆行転生って胎児から!?
章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。
そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。
そう、胎児にまで。
別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。
長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
常識的に考えて
章槻雅希
ファンタジー
アッヘンヴァル王国に聖女が現れた。王国の第一王子とその側近は彼女の世話係に選ばれた。女神教正教会の依頼を国王が了承したためだ。
しかし、これに第一王女が異を唱えた。なぜ未婚の少女の世話係を同年代の異性が行うのかと。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる