『バケツ姫と魔王の異世界伝説』 - これは 願いを込めた 罪滅ぼし -

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第2章 異変の兆候

襲撃①

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しんと静まる夜の森の中で、薪が爆ぜる音だけが響く。

夜の帳が訪れてナナが見張りに立ってから、すでに5時間ほど経過している。
ナナは眠るニアンのそばに静かに立ち、周囲を警戒していた。
その決意を込めた凛とした横顔は、焚火に朱く照らされている。
大きな黒い瞳は森の暗闇を鋭く見つめ、ほんの少しの変化も見逃さないよう集中している。

そして、時が止まっているような静止した光景の中で、異変が起きた。

突如緊張感をまとったナナが臨戦態勢をとる。

『ナナよ、ニアンを起こせ!』

『ん、わかってるよ、魔王!』

ナナはニアンにさっと近付いて、小声で話しかけた。

「ニアン、起きて。魔獣の気配が近付いて来てる!」

するとニアンが勢いよく飛び起きた。

「敵襲かっ⁉」

「ニアン! シーーー‼」

「あ、あぁ、すまない、ナナ」

ニアンは困ったように頭を掻いた。
そしてスキル【鑑定】をレーダーのように全周囲に発動させる。

ナナはニアンに静かにするよう言ったものの、近づいてくる魔獣の気配の動きから、すでにこちらの位置が特定されていることには気づいている。

「これは……数が多いな。囲まれている。
それに……なんだと⁉ レベル110超えが1体、70~90が20体近い!
種類も複数混在している。どういうことだ?
このあたりにこんな異常な魔獣の集団がいるわけ……っ⁉
ナナ、この距離で気付いたのか⁉」

「うん、どうしたらいい⁉」

ナナは森の奥を見つめたまま、短くニアンに問いかける。

ニアンのスキル【鑑定】は、ニアン自身が知覚する範囲内において、対象の情報を読み取る能力である。
だが対象を指定するための条件付けがあいまいな状態でスキルを発動すると、周囲の全ての情報が脳内に流れ込み、精神に異常をきたすことすらある危険なスキルだ。
ニアンの場合、師匠の容赦ない訓練という名の地獄を生き抜くために、強制的に【鑑定】を酷使し続けることで、正確に対象を指定する術を学んだ。

とはいえ森の中では視線が通しづらく、知覚範囲は音を聞き取れる、せいぜい半径50メートルぐらいが限度だ。
【鑑定】の有効範囲もそれに準ずることになる。

そこでニアンは、称号【勇者】によって付与されたレアスキル【範囲拡張】を発動させた状態で、【鑑定】を使用した。
これにより、【鑑定】の有効範囲は半径800メートルほどに達していた。

だが、ニアンは気付いた。
たしかに魔獣に接近されているが、木々に阻まれてまだ目視できる距離ではない。
音も聞こえないはずだ。
ニアンですら感知できるギリギリの距離である。

それを、ナナはさらに遠い時点で察知したのだ。
たしかにスキル【気配探知】を持っているようだったが、これは数メートル程度の範囲内の気配を、なんとなく知覚できるぐらいの効果しかない。
ニアンがレアスキルを駆使してようやくたどり着いた境地を、レベル1のナナが一体どうやって超えたのか……と、思案に暮れそうになるが、それどころではない緊迫した状況を思い出して思考を戻す。

「直前にレベルが上がってたおかげでなんとか倒すことならできるが、20体近くいる。
このまま戦っても俺一人ではナナを守ることなど……。
だが逃げることもできそうにない……」


かすかにガサガサと、何かが移動するような音が聞こえてきた。

それは全周囲から届き、すでに包囲されていることを告げていた。

『お主は気配を消して隠れて、その間にそやつに戦わせるしかあるまい』

『うん、そう……だよね。でも私ちゃんとやれるかな……?』

アイマーの意見に、ナナは少し考える素振りを見せた後、何かを決意したように(キッ)と前を見据える。

その間にも魔獣達はどんどん近付いて来ている。
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