29 / 76
第2章 異変の兆候
襲撃①
しおりを挟む
しんと静まる夜の森の中で、薪が爆ぜる音だけが響く。
夜の帳が訪れてナナが見張りに立ってから、すでに5時間ほど経過している。
ナナは眠るニアンのそばに静かに立ち、周囲を警戒していた。
その決意を込めた凛とした横顔は、焚火に朱く照らされている。
大きな黒い瞳は森の暗闇を鋭く見つめ、ほんの少しの変化も見逃さないよう集中している。
そして、時が止まっているような静止した光景の中で、異変が起きた。
突如緊張感をまとったナナが臨戦態勢をとる。
『ナナよ、ニアンを起こせ!』
『ん、わかってるよ、魔王!』
ナナはニアンにさっと近付いて、小声で話しかけた。
「ニアン、起きて。魔獣の気配が近付いて来てる!」
するとニアンが勢いよく飛び起きた。
「敵襲かっ⁉」
「ニアン! シーーー‼」
「あ、あぁ、すまない、ナナ」
ニアンは困ったように頭を掻いた。
そしてスキル【鑑定】をレーダーのように全周囲に発動させる。
ナナはニアンに静かにするよう言ったものの、近づいてくる魔獣の気配の動きから、すでにこちらの位置が特定されていることには気づいている。
「これは……数が多いな。囲まれている。
それに……なんだと⁉ レベル110超えが1体、70~90が20体近い!
種類も複数混在している。どういうことだ?
このあたりにこんな異常な魔獣の集団がいるわけ……っ⁉
ナナ、この距離で気付いたのか⁉」
「うん、どうしたらいい⁉」
ナナは森の奥を見つめたまま、短くニアンに問いかける。
ニアンのスキル【鑑定】は、ニアン自身が知覚する範囲内において、対象の情報を読み取る能力である。
だが対象を指定するための条件付けがあいまいな状態でスキルを発動すると、周囲の全ての情報が脳内に流れ込み、精神に異常をきたすことすらある危険なスキルだ。
ニアンの場合、師匠の容赦ない訓練という名の地獄を生き抜くために、強制的に【鑑定】を酷使し続けることで、正確に対象を指定する術を学んだ。
とはいえ森の中では視線が通しづらく、知覚範囲は音を聞き取れる、せいぜい半径50メートルぐらいが限度だ。
【鑑定】の有効範囲もそれに準ずることになる。
そこでニアンは、称号【勇者】によって付与されたレアスキル【範囲拡張】を発動させた状態で、【鑑定】を使用した。
これにより、【鑑定】の有効範囲は半径800メートルほどに達していた。
だが、ニアンは気付いた。
たしかに魔獣に接近されているが、木々に阻まれてまだ目視できる距離ではない。
音も聞こえないはずだ。
ニアンですら感知できるギリギリの距離である。
それを、ナナはさらに遠い時点で察知したのだ。
たしかにスキル【気配探知】を持っているようだったが、これは数メートル程度の範囲内の気配を、なんとなく知覚できるぐらいの効果しかない。
ニアンがレアスキルを駆使してようやくたどり着いた境地を、レベル1のナナが一体どうやって超えたのか……と、思案に暮れそうになるが、それどころではない緊迫した状況を思い出して思考を戻す。
「直前にレベルが上がってたおかげでなんとか倒すことならできるが、20体近くいる。
このまま戦っても俺一人ではナナを守ることなど……。
だが逃げることもできそうにない……」
かすかにガサガサと、何かが移動するような音が聞こえてきた。
それは全周囲から届き、すでに包囲されていることを告げていた。
『お主は気配を消して隠れて、その間にそやつに戦わせるしかあるまい』
『うん、そう……だよね。でも私ちゃんとやれるかな……?』
アイマーの意見に、ナナは少し考える素振りを見せた後、何かを決意したように(キッ)と前を見据える。
その間にも魔獣達はどんどん近付いて来ている。
夜の帳が訪れてナナが見張りに立ってから、すでに5時間ほど経過している。
ナナは眠るニアンのそばに静かに立ち、周囲を警戒していた。
その決意を込めた凛とした横顔は、焚火に朱く照らされている。
大きな黒い瞳は森の暗闇を鋭く見つめ、ほんの少しの変化も見逃さないよう集中している。
そして、時が止まっているような静止した光景の中で、異変が起きた。
突如緊張感をまとったナナが臨戦態勢をとる。
『ナナよ、ニアンを起こせ!』
『ん、わかってるよ、魔王!』
ナナはニアンにさっと近付いて、小声で話しかけた。
「ニアン、起きて。魔獣の気配が近付いて来てる!」
するとニアンが勢いよく飛び起きた。
「敵襲かっ⁉」
「ニアン! シーーー‼」
「あ、あぁ、すまない、ナナ」
ニアンは困ったように頭を掻いた。
そしてスキル【鑑定】をレーダーのように全周囲に発動させる。
ナナはニアンに静かにするよう言ったものの、近づいてくる魔獣の気配の動きから、すでにこちらの位置が特定されていることには気づいている。
「これは……数が多いな。囲まれている。
それに……なんだと⁉ レベル110超えが1体、70~90が20体近い!
種類も複数混在している。どういうことだ?
このあたりにこんな異常な魔獣の集団がいるわけ……っ⁉
ナナ、この距離で気付いたのか⁉」
「うん、どうしたらいい⁉」
ナナは森の奥を見つめたまま、短くニアンに問いかける。
ニアンのスキル【鑑定】は、ニアン自身が知覚する範囲内において、対象の情報を読み取る能力である。
だが対象を指定するための条件付けがあいまいな状態でスキルを発動すると、周囲の全ての情報が脳内に流れ込み、精神に異常をきたすことすらある危険なスキルだ。
ニアンの場合、師匠の容赦ない訓練という名の地獄を生き抜くために、強制的に【鑑定】を酷使し続けることで、正確に対象を指定する術を学んだ。
とはいえ森の中では視線が通しづらく、知覚範囲は音を聞き取れる、せいぜい半径50メートルぐらいが限度だ。
【鑑定】の有効範囲もそれに準ずることになる。
そこでニアンは、称号【勇者】によって付与されたレアスキル【範囲拡張】を発動させた状態で、【鑑定】を使用した。
これにより、【鑑定】の有効範囲は半径800メートルほどに達していた。
だが、ニアンは気付いた。
たしかに魔獣に接近されているが、木々に阻まれてまだ目視できる距離ではない。
音も聞こえないはずだ。
ニアンですら感知できるギリギリの距離である。
それを、ナナはさらに遠い時点で察知したのだ。
たしかにスキル【気配探知】を持っているようだったが、これは数メートル程度の範囲内の気配を、なんとなく知覚できるぐらいの効果しかない。
ニアンがレアスキルを駆使してようやくたどり着いた境地を、レベル1のナナが一体どうやって超えたのか……と、思案に暮れそうになるが、それどころではない緊迫した状況を思い出して思考を戻す。
「直前にレベルが上がってたおかげでなんとか倒すことならできるが、20体近くいる。
このまま戦っても俺一人ではナナを守ることなど……。
だが逃げることもできそうにない……」
かすかにガサガサと、何かが移動するような音が聞こえてきた。
それは全周囲から届き、すでに包囲されていることを告げていた。
『お主は気配を消して隠れて、その間にそやつに戦わせるしかあるまい』
『うん、そう……だよね。でも私ちゃんとやれるかな……?』
アイマーの意見に、ナナは少し考える素振りを見せた後、何かを決意したように(キッ)と前を見据える。
その間にも魔獣達はどんどん近付いて来ている。
0
あなたにおすすめの小説
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる