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第3章 異世界就職
月夜の密会①
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「ノックぐらいしたらどうだ?」
青年の呆れたような声が部屋に響く。
雑多な書類や本が散乱しているその部屋は、真夜中であるにもかかわらず、灯りの魔道具で淡く照らされている。
開け放たれた窓からは月明りが差し込み、重厚な木製の机に向かって座っている青年の白い肌を浮き立たせる。
青年は髪と瞳から黄金色の光を煌めかせながら、水晶型の魔道具を覗き込み、迷惑そうな表情を浮かべている。
魔道具には、最近冒険者ギルドに登録された者のIDと、IDに紐づく称号のみが一覧表示されていた。
氏名やスキルは省略されているが、冒険者ギルドの活動領域は全世界だ。
たとえ表示する情報を最小に絞り込んでも、日々登録される人数は膨大であり、それに伴ってチェックすべき情報量も膨れ上がる。
登録された全員の称号を毎日確認する作業量は、一人でこなすにはあまりに過酷だった。
だが青年は超人的な処理速度で、情報の流れの中からたった一つの称号を毎夜探し続けている。
本来であれば検索機能を設ければ済む話なのだが、この魔道具は古代のオーバーテクノロジーである。
それに対して新たな機能を追加することは、この時代の彼らには不可能であった。
今日も日中の業務を終えた後、青年は1人で先の見えない作業を続けていた。
そんな時、ふと、窓から入り込んだ風が彼の髪を撫でた。
そして舞い落ちる羽根のように音もなく、金髪の美女が部屋の中に降り立ったのだ。
それを感知した青年が作業を止めずに発したのが冒頭のセリフである。
青年の声に、その紅く輝く瞳を向けて美女は答える。
「あら、あなたが窓を開けたままにするからいけないのよ。
今夜は月明かりがキレイだから外を散歩していたの。
そしたら、せっかくの月夜なのに、魔道具の光が窓から漏れている部屋があるんですもの。
気になって見に来ちゃったわ」
「……防諜魔法で隠蔽した部屋の光に気付けたのは、まあ百歩譲ってできたとしても……何をどうやったら、結界にヒビ一つ入れずに入って来られるんだか」
青年は魔道具から目を離し、意味をなさなかった結界の具合を確かめながら不満をもらした。
その結界は他者の侵入を防ぐために彼が設置したものだが、破られた形跡はなく正常に動作していた。
それを確認した青年は憮然とした顔つきになる。
「ふふふ、それはお姉さんの秘密ね。
でもあなたなら今度ゆっくり教えてあげるわ。
――で、次の柱は見つかったのかしら。
夜中まで頑張っているところに追い打ちをかけるようだけれど、もう時間は残されていないわよ」
「いや……冒険者のステータスは毎日全部確認しているんだがな。
まだ見つかっていない。そっちこそどうなんだ?」
青年は魔道具に向き直り、表面を撫でるように操作して情報をスクロールさせる。
「探しているわよ。少なくともあなたよりはちゃんと、ね。
こっちは神官クラス以上を総動員して探させているもの。
見落としはないわ。
……あのね、いくらあなたがひと月ぐらい眠らなくても死なないとはいえ、確実にダメージは蓄積するのよ。
この重要なタイミングであなたが倒れたらどうなると思っているの?
レベルが高いからって油断せずに、少しは身体をいたわって。
そしてあなたも、もっと組織全体を使って網羅的に探しなさい」
「……罪を負わせたくないんだ。
たとえ世界が許したとしても、見つけて報告した奴は必ず死ぬまでその罪を背負うことになる。
そんなものは俺みたいな奴が1人で背負って消えればいいからな。
それより、何か掴めたのか? 依頼していた件は」
青年は目頭を押さえて息を吐き、諫言に答える。
彼の答えは強い覚悟を語っているようだが、自分を軽んじていることが伺えた。
まるで彼自身が遠くないうちにこの世界から消えようとしているかのように。
「はぁ……。
まああなたからの依頼については彼から少し面白い情報をもらったわ。
でも、先にこっちの件を片付けてからよ。
急がなければならない理由が増えたわ。
今日ここに来たのは、これを伝えるため」
美女は視線を下げ、『いい、よく聞いて』と念押しして続ける。
感情を抑えるように伏せられたその瞳に映る月は、わずかに揺れていた。
青年の呆れたような声が部屋に響く。
雑多な書類や本が散乱しているその部屋は、真夜中であるにもかかわらず、灯りの魔道具で淡く照らされている。
開け放たれた窓からは月明りが差し込み、重厚な木製の机に向かって座っている青年の白い肌を浮き立たせる。
青年は髪と瞳から黄金色の光を煌めかせながら、水晶型の魔道具を覗き込み、迷惑そうな表情を浮かべている。
魔道具には、最近冒険者ギルドに登録された者のIDと、IDに紐づく称号のみが一覧表示されていた。
氏名やスキルは省略されているが、冒険者ギルドの活動領域は全世界だ。
たとえ表示する情報を最小に絞り込んでも、日々登録される人数は膨大であり、それに伴ってチェックすべき情報量も膨れ上がる。
登録された全員の称号を毎日確認する作業量は、一人でこなすにはあまりに過酷だった。
だが青年は超人的な処理速度で、情報の流れの中からたった一つの称号を毎夜探し続けている。
本来であれば検索機能を設ければ済む話なのだが、この魔道具は古代のオーバーテクノロジーである。
それに対して新たな機能を追加することは、この時代の彼らには不可能であった。
今日も日中の業務を終えた後、青年は1人で先の見えない作業を続けていた。
そんな時、ふと、窓から入り込んだ風が彼の髪を撫でた。
そして舞い落ちる羽根のように音もなく、金髪の美女が部屋の中に降り立ったのだ。
それを感知した青年が作業を止めずに発したのが冒頭のセリフである。
青年の声に、その紅く輝く瞳を向けて美女は答える。
「あら、あなたが窓を開けたままにするからいけないのよ。
今夜は月明かりがキレイだから外を散歩していたの。
そしたら、せっかくの月夜なのに、魔道具の光が窓から漏れている部屋があるんですもの。
気になって見に来ちゃったわ」
「……防諜魔法で隠蔽した部屋の光に気付けたのは、まあ百歩譲ってできたとしても……何をどうやったら、結界にヒビ一つ入れずに入って来られるんだか」
青年は魔道具から目を離し、意味をなさなかった結界の具合を確かめながら不満をもらした。
その結界は他者の侵入を防ぐために彼が設置したものだが、破られた形跡はなく正常に動作していた。
それを確認した青年は憮然とした顔つきになる。
「ふふふ、それはお姉さんの秘密ね。
でもあなたなら今度ゆっくり教えてあげるわ。
――で、次の柱は見つかったのかしら。
夜中まで頑張っているところに追い打ちをかけるようだけれど、もう時間は残されていないわよ」
「いや……冒険者のステータスは毎日全部確認しているんだがな。
まだ見つかっていない。そっちこそどうなんだ?」
青年は魔道具に向き直り、表面を撫でるように操作して情報をスクロールさせる。
「探しているわよ。少なくともあなたよりはちゃんと、ね。
こっちは神官クラス以上を総動員して探させているもの。
見落としはないわ。
……あのね、いくらあなたがひと月ぐらい眠らなくても死なないとはいえ、確実にダメージは蓄積するのよ。
この重要なタイミングであなたが倒れたらどうなると思っているの?
レベルが高いからって油断せずに、少しは身体をいたわって。
そしてあなたも、もっと組織全体を使って網羅的に探しなさい」
「……罪を負わせたくないんだ。
たとえ世界が許したとしても、見つけて報告した奴は必ず死ぬまでその罪を背負うことになる。
そんなものは俺みたいな奴が1人で背負って消えればいいからな。
それより、何か掴めたのか? 依頼していた件は」
青年は目頭を押さえて息を吐き、諫言に答える。
彼の答えは強い覚悟を語っているようだが、自分を軽んじていることが伺えた。
まるで彼自身が遠くないうちにこの世界から消えようとしているかのように。
「はぁ……。
まああなたからの依頼については彼から少し面白い情報をもらったわ。
でも、先にこっちの件を片付けてからよ。
急がなければならない理由が増えたわ。
今日ここに来たのは、これを伝えるため」
美女は視線を下げ、『いい、よく聞いて』と念押しして続ける。
感情を抑えるように伏せられたその瞳に映る月は、わずかに揺れていた。
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