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第1章 転生編
第1章ー④
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この世界に転生してからちょうど1年。ちゃんと喋れるようになるのはまだ難しそうだが、もうそのことにも慣れてきている自分がいた。まあ、元々口数は少ない方だし、ばぶばぶしか言えなくなったとて困ることは…いや、思い返してみたらけっこうあったかもな。特に排泄は。
そんな不便な状態でも不思議と慣れてくる。前世のときもこんな感じだったのかなとふと思う。
それはさておき、今日は朝っぱらから家うちがなんだが慌ただしい。父は家をうろちょろしては一人でなんかぶつぶつ言ってるし、母は…いつも通り料理しているだけだから、慌ただしいのは父が原因でほぼ間違いないだろう。まあ、なんで慌ただしいのかはなんとなく察しがつく。
室内のあちこちに飾られる紙の輪っかの飾り、いつもより豪華な食事、必要以上に多い椅子とテーブル。そして、今日がなんの日かを考えるとすぐに理解した。
今日は、自分がこの世界に産まれて1年の記念日、つまり誕生日だ。だからか、数日前から両親はウッキウキで、親戚一同を呼んでの誕生日パーティーを計画していた。その話を、まさか主役である息子に聞かれていたとは二人とも思ってなかっただろうな。
「そろそろ皆来る頃かしら?」
「ああ、もうこんな時間か。そうだな、そろそろ来ても可笑しくはなさそう…」
お昼時、パーティーの準備を終えた両親は今か今かと待ちわびていた所に、ノックする音が聞こえてきた。たぶん来たっぽいな。
「おお、おお、来てやったぞイノス」
「お父さんたち、わざわざ来てくれてありがとう」
玄関のドアを開けると、数名の客人が前に立っていた。みんな母より年上っぽい。そのうちの一人は母方の父のようで、父と母を見るや否や優しくハグを交わした。それにしても、見た目は40しじゅう越えの父とあまり変わらないから、二人が兄弟に見えなくもない。
他には母方の母と姉二人、父方は母と弟の二人で、全員で6人の客が自分のパーティーに参加しに来てくれた。親戚に誕生日を祝って貰うなんて、前世ではいつぶりだっただろう。
決して仲が悪いわけではなかった。年に一回ぐらいは実家に顔を出すし、母がスーパーに買い物に来るから、その度に他愛のない話を軽くしたりはするからまだ良好的ではあるか。
しかし、お互いの誕生日を祝ったりすることなんてなかった。正確にはなくなっていった。連絡する機会もほとんどなかった。まあ、地元に住んでるから緊急の用以外は連絡する必要もなかったからな。
疎遠でもなければ親密でもない。思い出してみたら、学生の頃からずっとそんな感じだったな。あの頃は自分も思春期だったからというのもあるだろうが、その頃からずっと、お互いの距離は一定以上離れていた。結局、最後まで埋まらなかった絶妙なあの距離感。もう少し親孝行でもして距離を縮められたらなとふと考える。
「「ハッピーバースデートゥーユー 、ハッピーバースデートゥーユー…」」
カーテンを閉め切った暗闇のなか、1本のロウソクの灯りが点き、手拍子と共にバースデーソングの合唱が始まる。ケーキの上に乗ったたった1本のロウソクだが、みんなの顔がはっきりと見えるぐらい明るく、とても暖かい燈ともしびだった。
「「ハッピーバースデーディア、サダメーーー…」」
…ああ。なんか、こういうのいいなあ
わずかな明かりの下で、みんなが楽しそうに唄うみんなを見ていると、なんだか心があったかくなる。それと同時に、前世での後悔がみるみる押し寄せて来た。カッコつけて独り暮らしなんてして、恋人も作らずダラダラと過ごし、家族ともロクなコミュニケーションを取らず生きてきた7年間の日々を。
「「ハッピーバースデー、トゥーユーーー!!」」
最後のパートが終わると、みんなの拍手が家中に響く。そして、父と母は自分の顔の近くまで寄って来る。あっ、そうか。一緒にロウソクの火を消してくれようとしてくれてるのか。今の自分では、1本のロウソクの火消すのも一苦労だしな。
「サダメ」
「?」
火を消す前に父はなにか言いたげに耳元で自分の名前を呼んだ。その言い方は、いつも以上に優しい言い方に聞こえた。
「「産まれてきてくれて、ありがとう!!」」
二人はそう言ったあと、二人で一緒にロウソクの火をフッと一息で消した。そして、収まりかけてた拍手が再び家中に響いた。
しかし、なんだろうこの気持ち。嬉しいはずなのに、悲しさの方が上回ってくる。最後に家族の誕生日を祝ったのはいつだろう? 最後に家族団らんしたのはいつ? 自分が先に死んでなかったら、あと何回両親と過ごせた?
「…あっ」
「ん?」
前世の後悔を思い出し、次第に涙がこぼれ落ちてきた。お父さん、お母さん、親不孝な息子で本当にごめんなさい。
「ああああああああああああ…」
「おお、おお、急に暗くなったから泣いちゃったぞ」
「ご、ごめんなサダメ。今明るくするからな」
「あらあら、普段あんまり泣かない子なのにー」
涙が止まらず、そのまま大泣きしてしまった。恥も外聞も無く、ただひたすら泣きまくった。見た目が赤ん坊だからか、周囲の人にはなにか勘違されているようだが。
いくら泣いても過去の後悔を取り返すことは出来ない。それをわかったうえでも泣かずにはいられなかった。
今度は家族をもっと大切にしよう。後悔の涙を流したあと、密かに心に決める自分なのであった。
―勇者が死ぬまで、残り9635日
そんな不便な状態でも不思議と慣れてくる。前世のときもこんな感じだったのかなとふと思う。
それはさておき、今日は朝っぱらから家うちがなんだが慌ただしい。父は家をうろちょろしては一人でなんかぶつぶつ言ってるし、母は…いつも通り料理しているだけだから、慌ただしいのは父が原因でほぼ間違いないだろう。まあ、なんで慌ただしいのかはなんとなく察しがつく。
室内のあちこちに飾られる紙の輪っかの飾り、いつもより豪華な食事、必要以上に多い椅子とテーブル。そして、今日がなんの日かを考えるとすぐに理解した。
今日は、自分がこの世界に産まれて1年の記念日、つまり誕生日だ。だからか、数日前から両親はウッキウキで、親戚一同を呼んでの誕生日パーティーを計画していた。その話を、まさか主役である息子に聞かれていたとは二人とも思ってなかっただろうな。
「そろそろ皆来る頃かしら?」
「ああ、もうこんな時間か。そうだな、そろそろ来ても可笑しくはなさそう…」
お昼時、パーティーの準備を終えた両親は今か今かと待ちわびていた所に、ノックする音が聞こえてきた。たぶん来たっぽいな。
「おお、おお、来てやったぞイノス」
「お父さんたち、わざわざ来てくれてありがとう」
玄関のドアを開けると、数名の客人が前に立っていた。みんな母より年上っぽい。そのうちの一人は母方の父のようで、父と母を見るや否や優しくハグを交わした。それにしても、見た目は40しじゅう越えの父とあまり変わらないから、二人が兄弟に見えなくもない。
他には母方の母と姉二人、父方は母と弟の二人で、全員で6人の客が自分のパーティーに参加しに来てくれた。親戚に誕生日を祝って貰うなんて、前世ではいつぶりだっただろう。
決して仲が悪いわけではなかった。年に一回ぐらいは実家に顔を出すし、母がスーパーに買い物に来るから、その度に他愛のない話を軽くしたりはするからまだ良好的ではあるか。
しかし、お互いの誕生日を祝ったりすることなんてなかった。正確にはなくなっていった。連絡する機会もほとんどなかった。まあ、地元に住んでるから緊急の用以外は連絡する必要もなかったからな。
疎遠でもなければ親密でもない。思い出してみたら、学生の頃からずっとそんな感じだったな。あの頃は自分も思春期だったからというのもあるだろうが、その頃からずっと、お互いの距離は一定以上離れていた。結局、最後まで埋まらなかった絶妙なあの距離感。もう少し親孝行でもして距離を縮められたらなとふと考える。
「「ハッピーバースデートゥーユー 、ハッピーバースデートゥーユー…」」
カーテンを閉め切った暗闇のなか、1本のロウソクの灯りが点き、手拍子と共にバースデーソングの合唱が始まる。ケーキの上に乗ったたった1本のロウソクだが、みんなの顔がはっきりと見えるぐらい明るく、とても暖かい燈ともしびだった。
「「ハッピーバースデーディア、サダメーーー…」」
…ああ。なんか、こういうのいいなあ
わずかな明かりの下で、みんなが楽しそうに唄うみんなを見ていると、なんだか心があったかくなる。それと同時に、前世での後悔がみるみる押し寄せて来た。カッコつけて独り暮らしなんてして、恋人も作らずダラダラと過ごし、家族ともロクなコミュニケーションを取らず生きてきた7年間の日々を。
「「ハッピーバースデー、トゥーユーーー!!」」
最後のパートが終わると、みんなの拍手が家中に響く。そして、父と母は自分の顔の近くまで寄って来る。あっ、そうか。一緒にロウソクの火を消してくれようとしてくれてるのか。今の自分では、1本のロウソクの火消すのも一苦労だしな。
「サダメ」
「?」
火を消す前に父はなにか言いたげに耳元で自分の名前を呼んだ。その言い方は、いつも以上に優しい言い方に聞こえた。
「「産まれてきてくれて、ありがとう!!」」
二人はそう言ったあと、二人で一緒にロウソクの火をフッと一息で消した。そして、収まりかけてた拍手が再び家中に響いた。
しかし、なんだろうこの気持ち。嬉しいはずなのに、悲しさの方が上回ってくる。最後に家族の誕生日を祝ったのはいつだろう? 最後に家族団らんしたのはいつ? 自分が先に死んでなかったら、あと何回両親と過ごせた?
「…あっ」
「ん?」
前世の後悔を思い出し、次第に涙がこぼれ落ちてきた。お父さん、お母さん、親不孝な息子で本当にごめんなさい。
「ああああああああああああ…」
「おお、おお、急に暗くなったから泣いちゃったぞ」
「ご、ごめんなサダメ。今明るくするからな」
「あらあら、普段あんまり泣かない子なのにー」
涙が止まらず、そのまま大泣きしてしまった。恥も外聞も無く、ただひたすら泣きまくった。見た目が赤ん坊だからか、周囲の人にはなにか勘違されているようだが。
いくら泣いても過去の後悔を取り返すことは出来ない。それをわかったうえでも泣かずにはいられなかった。
今度は家族をもっと大切にしよう。後悔の涙を流したあと、密かに心に決める自分なのであった。
―勇者が死ぬまで、残り9635日
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