転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第1章 転生編

第1章ー⑤

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 それから2年以上の月日が流れ、ようやく人並に話せるようになった。まあ、いきなり流暢に喋ったら二人ともビックリしてたな。一言目がお父さんお母さんだし。

 「よーし、よく見とけよサダメ!?」

 「う、うん」

 そんな自分は、父から特訓を申し出ていた。家族を大切にする、それと自分の身も守れる術が欲しかった。自分の身を守れるぐらい強くなれれば、家族を守ることにも繋がるしな。

 父は騎士団の副団長をも務めれる実力のある人だ。後進の育成にもある程度慣れているはず。教えを乞うには充分すぎる逸材だ。

 元々騎士団に入れることに積極的な父だ。自分の申し出にはかなり喜んでいた。だからか、ちょっとカッコつけているようにも見えるが、教えてもらってる立場だから余計なことは言わないでおこう。

 そんなわけで早速父は、物置小屋に置いてあったトレーニング用のダミー人形を引っ張り出して来て、庭の中心辺りに設置していた。そのダミー人形は父が幼い頃から愛用していたものだそうで、引退するまで定期的に使っていたそうな。よく見ると、あちこちに黒ずんでいる箇所があり、かなり使い古されているのが伺える。暫く物置小屋に放置しているせいもあってか、少々カビ臭さも感じるが。

 それはさておき、ダミー人形を設置し終えると、そこから少し距離を置き、人形に向かって手のひらを向けた。

 「爆ぜる焔よ、火《か》の球《きゅう》として聚合しゅうごうし、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん」

 詠唱の呪文を唱えると、父の手のひらに炎が集結し、野球ボールサイズの球状に成形。あっという間に炎はキレイな紅い球と化した。

 「【火球《フレール》】!」

 紅い球となった炎は、父の詠唱が終わるとダミー人形に向かって放たれた。炎の球が人形に当たるまでほんの一瞬、当たると少しの衝撃波と爆発音と煙が発生した。

 「…おぉ…」

 リアルで初めて見た光景に思わず声が漏れてしまった。魔法はある程度見慣れてはいたが、攻撃魔法を見るのは人生で初めてだ。

 「とまあ、こんな感じだ。どうだ? カッコいいだろ?」

 「う、うん…」

 模範を見せた父はニタついたの表情でこっちを見てくる。こういうところさえなければ普通に尊敬できるカッコいい父親なのだが…

 しかし、さっきの魔法は凄かったと素直に認めざるを得ないほど鮮烈な印象を受けた。鮮やかで美しい紅い球体からとても想像できない程の破壊力。そのインパクトは自分の人生のなかでも一番記憶に残ることだろう。

 「今見せたのが攻撃魔法。戦闘に特化した魔法だな。手のひらに魔力を集中し、それをなにかしらの形をイメージして成形。成形したら押し出す感じで魔力を放出。これが基本的な攻撃魔法の生成方法だ。まあ、もっと強力な魔法になると少し複雑になってくるが」

 なるほど。魔法の出し方はなんとなく理解出来た。魔力のコントロールさえできれば案外簡単なのかもしれないな。

 「ん? でも、詠唱って必要なの?」

 「んん? ああ、詠唱ね。うーん、そうだなあ…」

 しかし、詠唱について聞き出すと、父は少し困った顔をしていた。そんなに説明が難しい話なのだろうか?

 「正直な話をすると、詠唱は必要ない。【火球】!」

 「!?」

 父は少し悩んだ表情を見せていたが、手っ取り早く説明するため、今度は詠唱なしで火球を撃って見せた。すると、詠唱していないにも関わらず、さっきとほぼ変わらない形の火球を放ってみせた。威力もさっきとほとんど変わってない気がする。強いて違う箇所を上げるなら発動時間といったところか。詠唱してたときとは違い、呪文を発しただけで発動したのだ。後者は1秒ほどの時間しか要していない。

 「まっ、見ての通り詠唱なしでも出せる魔法も存在するから、なかには詠唱を省略するものも多い」

 「じゃあ、詠唱する意味ってなくない?」

 「いや、詠唱にもちゃんと意味はあるさ」

 「どんな?」

 「さっき撃った無詠唱の魔法は何割だと思う?」

 「えっ? えーっと…」

 父の問いかけに、少しの間考える。詠唱したときとほとんど変わらないように見えたが、若干無詠唱の方は威力が小さく感じたような気もする。

 「…4割ぐらい?」

 「残念、あれで7割だ。それじゃあ、詠唱したときは何割で撃ったと思う?」

 どうやら自分の答えは間違っていたらしいが、この問いかけの意味は理解出来た。ということは…

 「じゃあこっちが4わ…」

 「残ねーん! 2割でーしたー!」

 「…」

 外してしまったことへの恥ずかしさより、目の前で両手で大きな×印とニヤついた顔を見せつけてくる父への苛立ちの方が勝っていた。父の魔法技術がどれだけスゴイかはよくわからんが、人を苛立たせる技術だけはよくわかる。間違いなくその才能だけは一級品だな。無論、誉め言葉で言ってるつもりは毛頭ない。

 「まあ、要するに詠唱っていうのは…」

 「魔法の威力や効果を上げるっていったところでしょ?」

 「…あ、うん…」

 さっきの仕返しではないが、父に向って鼻で笑ってやった。これは決して仕返しではない。

 「お前の言う通り、詠唱は魔法の威力・効果を底上げするための所作みたいなものだな。まあ、今みたいな初級クラスの魔法ならわざわざ詠唱する必要もないがな」

 「そういうものなの?」

 「実力の差で変わってくるからな。魔力量が多いやつほど威力を上げられるし、そんなやつ相手に魔力量が少ないやつが詠唱で威力を上げたとしても、撃ち負けることだってある」

 「ああ、なるほど」

 たしかに、圧倒的実力差のある相手に全力を出したところで意味を成さない。そこらへんはリスクヘッジが重要になってくるな。だとしたら、あまり詠唱による恩恵は思いの外少ないのか?

 「それじゃあ、詠唱を覚える必要はないんじゃない?」

 疑問に思った自分は父に問いかけていた。しかし、父は「いや」と自分の疑問に対して否定的な口調になる。

 「詠唱を覚えることが決して無意味ってわけでもないさ。そうだな…例えば…」

 「?」

 すると父は、仁王立ちでなにか始めようとしていた。一体なにを始める気なのだろうか?

 「業火の炎よ。鉄より硬き剣《つるぎ》となり、我が元に顕現せよ! 【業火剣《ヘルファード》】!!」

 「!?」

 父が違う魔法を詠唱すると、父の右手に炎に包まれた剣が現れた。魔法で武器も作れてしまうとはこれまた驚きだった。

 「今出したこの剣は、詠唱によって効果が底上げされ、切れ味だけでなく頑丈さも強化されて、この剣で魔法を使用しても簡単には壊れないようになってる」

 「おお、なるほどー」

 思わず感心してしまった。たしかに、武器の効果を底上げすればそれなりに戦えるな。もちろん武器の熟練度とかにもよるだろうし、相手との相性とか諸々あるだろうが。

 「ちなみに、詠唱なしで武器を作るとどうなると思う?」

 「えっ? 詠唱なしより脆くなるんじゃないの?」

 「あながち間違ってはいないが、見せた方が早いな。【業火剣】!」

 そう言うと父は、左手の方にもう一度剣を生成して見せた。当然今度は無詠唱で。しかし、剣の生成は出来てるし、見た目はあまり変わらないように見えるが。

 「詠唱で作った剣はこんな風に振ってもなんの変哲もない剣だが…」

 そう言いながら、父は右手の剣を軽くブンブン振ってみるが、空を切る音が聞こえてくるだけで剣そのもにはなにも変化はない。それなら無詠唱の方はどうなってしまうのだろう。

 「無詠唱で作ると、こうなるっ!!」

 そんなことを考えている間に、父が無詠唱の方の剣をさっきと同様に剣を振る。するとどうだろうか。一回振っただけなのに、剣の形を保てなくなり霧散していく。

 「今のように、無詠唱だと形は出来ても武器としては使い物にならなくなる。無詠唱の利点は攻撃時間の短縮だが、欠点は形を維持出来ないことと威力や効果が詠唱したときより劣ることだな。あくまで無詠唱は素早く生成するだけだからな。さっきも言ったと思うが、初級魔法レベルだけでならこっちでも申し分ないが、中級以上の魔法となると無詠唱は普通の人には少し厳しいな」

 「へー」

 「まあ、それも昔の話になってきてるけど」

 「ん? どゆこと?」

 「最近は魔道具の技術も上がって、魔力を注ぐだけで強力な魔法も出せちまう魔道具が開発されて、都心だとそれが普及し始めているらしい。つっても、まだまだ高級品だから手を出せるのは一部のボンボンぐらいだろうし、こんな小さな村に流通するのはまだ先の話だと思うけどな」

 「それじゃあ、詠唱を使う時代も廃れていっちゃうね」

 「時代も時代だし、便利な世の中になってくることは決して悪いことじゃないからな」

 たしかに。異世界だろうがなんだろうが人間は楽したい生き物だ。現に、スマホやインターネットがないこの世界は少しばかり不便に感じるときがある。乗り物もこの村じゃ馬や馬車が主流となっている。エンジンと馬力では速さが段違いだ。

 前世の記憶がある自分にとって、この世界は少し不便に感じるところが多々あるから、少しでもそれを解消してくれる時代が来てくれると助かる。まあ、まだ3つの自分が言うのもなんか変な感じがするが。

 しかし、技術の進化がそこまで来ているとは驚いた。自分が知ってる異世界ものだと、無詠唱で魔法を使うと大体驚かれるケースが多いが、この世界ではむしろ逆で、当たり前の世界になりつつあるようだ。

 だが、うちの村はどちらかと言うと貧しい方だ。父の言うとおり、自分たちが裕福な人たちの流行りに乗れるのはもう少し先の話になるかもしれない。

 「よーし、それじゃあサダメ、火球を詠唱ありで撃ってみろ」

 「う、うん…」

 そんな話はさておき、父に促され、自分はダミー人形の前に立たされた。父の手本を見ていたものの、自分でも魔法が使えるのか自信がなくて緊張する。

 「心配するな。ゆっくり教えてやるから、俺の言うとおりにやってみろ。まずは魔力のコントロールからだな。ほら、手を開いて」

 父に言われ、左の手のひらをダミー人形に向けてみる。

 「魔力は風や熱みたいなものだ。目には見えないものだが、肌とか体内でなんとなく感じられるだろ? それを手のひらに集めるイメージだ。出来れば熱風をイメージする感覚の方がいいかもな」

 「…体内で熱風を感じるイメージ…」

 目を閉じてイメージする。熱風を体内で感じるイメージ。自分の内側で熱い風が流れている感覚がする…と思う。とにかく、それを手のひらに集めるイメージを頭の中に思い浮かべてみる。

 熱い風が胸辺りに集結してくる感覚があり、少しだけ胸焼けしたような気分だ。風は次第に左腕に集まり、そして手のひらに集まっていく感覚がした。じんわり熱くて、手汗が噴き出しそうだ。

 「よし、魔力のコントロールはとりあえずできたな。次は魔力を手のひらから出して球体のイメージでやってみろ。詠唱を唱えながらやるとやりやすいかもな。俺が言うとおりに詠唱してみろ。爆ぜる焔よ」

 「は、爆ぜる焔よ」

 次は手のひらに出した熱風を炎に変えるイメージか。イメージとはいえ、なかなか難しそうだな。

 「火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し」

 「火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し」

 なんとか、魔力を炎に変換出来た。難しいかと思ったが、思ってたよりかは簡単に出せた気がする。まあ、全集中してやっとといったところだが。

 そして、次は炎を球状に整えるイメージをしなければならない。

 「…ッ」

 ここにきて難所が出現した。炎に変換した魔力が空気の流れで上手く纏まらない。しまった、ここは素早く形成しないといけないのか。時間が掛かれば掛かるほど纏めきれなくなり、難易度が高くなってくる。そのうえ集中力も次第に切れてくる。

 「ッ!? はあ、はあ…」

 そして、とうとう集中力が底を尽き、手のひらから出ていた炎が霧散した。流石に一発で成功は難しかったか。にしても、相当疲れるなこれ。集中力を使いすぎて目と頭の疲労感がハンパない。まだ一回しかしていないのにこのダメージ量はエグイな。3歳児だとこんなものなのか?

 「うーん、今は一回練習するだけで精一杯か。まあ、その歳でここまで出来れば上出来か。それじゃあ今日は…」

 「…待って…ください!」

 「!?」

 その様子に気づいた父は、引き上げようとダミー人形を片付けようとした。しかし、そんな父を自分は引き止めていた。

 たしかに、一回練習しただけでヘロヘロの状態だ。しかし、感覚はなんとなく掴んでいるし、失敗した原因はわかっている。

 「もう一回、もう一回だけ…お願いします!!」

 「…サダメ…」

 元々、自分からお願いしていることだ。強くなりたい。前世の後悔と共に、今の家族を大事にしたい。人の死は突然で理不尽にやってくる。それを経験している自分だからこそわかる。現世だろうが異世界だろうが、何時何処で誰に殺されるかなんてわからない。まあ、病や災害で奪われるパターンもあるだろうが。それでも、誰からでもどんなものからでも守れるような力が欲しい。

 この世界は魔法が使える世界だ。通り魔が来ようがトラックが来ようが、魔法を覚えられれば物理的な被害からは守れる。

 今度こそ、今度こそ自分は生き延びて見せてやる。せめて、親の老後を見守るまではなんとしても。願わくば孫の顔も見せれたらいいけど…それはまた…うん、別で頑張らないといけないけど…うん。

 それよりも、今自分に出来ることは強くなること。まずは魔法の習得から出来ないとこの先思いやられるぞ自分!

 疲労困憊の身体に鞭を打ち、頭を下げ父にお願いする。そんな自分を見て父は困惑していた。親としての無茶をさせたくない気持ちと師匠としての期待に応えたい気持ちで揺れ動いているのだろうか。

 「…わかった、あと一回だけだからな!」

 「は、はい!?」

 そんな父からオッケーサインが出た。今度は失敗するわけにはいかない。

 失敗しても明日があるから大丈夫なんて考えはとっくに捨てていた。前世の自分だったらそうしていたかもしれないだろうが、甘い考えは止めだ。そんな気持ちで明日になったら、明日だってきっと失敗する。そんなことを繰り返すだけだ。そういう自分にうんざりしてるんだから、今度はそうはならない、なりたくない。

 「…ふー」

 深呼吸をすると、気持ち少しだけ疲労が抜けた気がする。きっと気のせいかもしれないだろうが。けど、今はそれでいい。

 「よし、さっきの通りいくぞ。まずは魔力を手のひらに集中」

 体内で熱風を感じるイメージ、ここはすんなりイケた。やっぱり感覚が残ってるうちにやるのは正解だったかも。

 「爆ぜる焔よ」

 「爆ぜる焔よ」

 次は熱風を炎に変換するイメージ、ここもなんなくクリア。一度イケると、時間も短縮されてる。さて、問題はここからだ。

 「火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し」

 「火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し」

 炎を球状にするイメージ。さっき失敗したところだ。ここは絶対に失敗出来ない。上手く球状に…球状に…

 「…くっ」

 上手く球状にならない。どうしてだ? 自分の前世の不器用さがこの世界にまで引き継がれてしまったのか?

 なんで父みたいに綺麗な球にならない。あんな綺麗な球を作るにはどうしたら…

 「サダメ! 俺の真似をしなくていい!」

 「ッ!? えっ!?」

 そのとき、父から衝撃の発言が飛び出る。言われた通りにやってるのに真似をするなって、言ってること無茶苦茶…

 「俺みたいな綺麗に作ろうとしなくていい! 今は不格好でもいいから、とにかく球を作るんだ!」

 「あっ…」

 だと思ったが、父の助言で言ってる意味が理解出来た。そうか、なにも綺麗な球を作らなくてもいいんだ。ある程度形にさえなってればそれでいい、そういう意味だったか。

 「くっ!?」

 今の自分では、綺麗で野球ボールサイズの球は作れない。それならバスケットボール? いや、まだキツいか? それならバランスボールなら…

 「おおっ!?」

 大きいボールをイメージしていたら炎はどんどん大きくなっていき、あっという間に3歳児の身長を超える規模の球体にまで大きくなっていた。ここまで大きくするつもりはなかったのだが。

 「うっ!?」

 というか、これってマズくないか? こんなデカい球を人形に向けて撃ったら、爆風とかで家とか吹っ飛んでしまう。下手すればみんなを巻き込んでしまう。

 どうする? このまま撃つわけにはいかないが、キャンセルとか出来ないのか?

 そういえば、さっき失敗したときは霧散していったな。それと同じ原理でやれば…

 「ダメだサダメ! そのまま形を維持しろ!」

 「ええっ!?」

 そう思っていた矢先、父から維持するように指示された。一体どうするつもりなのだろうか?

 「上に向けろ! そのまま詠唱を続けるぞ!」

 なるほど、空に向けて撃たせるつもりか。霧散させた方が早いようにも思えるが、今は父の言葉を信じるしかない。

 「眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん」

 「が、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん」

 父に言われる通り、詠唱を継続した。しかし、詠唱を続けると効果が付与され、さらに大きくなっているように感じるし、手がビリビリして腕がガタガタ悲鳴を上げ始めているからこれ以上持ちこたえるのは限界だ。

 「今だ、呪文を唱えろ!!」

 「フ、【火球《フレール》】!!!」

 そして、父の合図と共に火球を解き放つ。巨大な炎の塊は、自分の手のひらから解き放たれ勢いよく上昇していく。あっという間に雲を突き抜け、その数秒後に空が紅蓮の色に染まる。それからワンテンポ遅れて轟音が村中に響き渡った。

 「…はあ…はあ…」

 乱れた呼吸を整えながら、上空を見上げ茫然としていた。手の痛みを忘れてしまうほどに、その光景に釘付けにされていた。アレって、本当に自分が出したのか?

 「あなた、サダメ!! 一体なにがあったの?!」

 暫くすると、母が慌てて家から飛び出して来ていた。それに気づいてふと我に返り、周りの状況を確認すると、父も自分と同じく茫然と上空を見上げていて、そんな父に必死に語り掛ける母。家の窓ガラスは風圧で割れており悲惨な姿になっていた。ヤベ、下手したら家が吹っ飛んでいたかもしれない。家族にケガがなかったのが不幸中の幸いだ。ケガといえば、自分は大丈夫な…

 「くっ!?」

 のを確認しようとした瞬間、自分の左手に強烈な熱さと痛みが押し寄せて来た。さっきの魔法で火傷したのか。逆にそれだけで済んだのが奇跡のようだ。といっても、激痛であることに変わりはないが。

 「サダメ!? どうしたの?! 大丈夫?!」

 激痛で蹲る姿を見て、母がこちらに駆け寄ってきた。しかし、痛すぎて母の掛け声に反応するどころか、聞いてる余裕もなかった。

 







 「はあ…まさかそんなことがあったなんて」

 「ご、ごめんなさい」

 母の治療魔法のおかげで、なんとか火傷は跡形もなく治った。腕の痺れはまだ残ってはいるが。母には色々と面倒をかけてしまって、心の底から申し訳なく思う。

 「いや、俺の方こそスマン! こんなことになるとは思ってなかったんだ」

 自分が謝罪すると、父の方は両手を合わせて頭を下げるぐらい謝罪してきた。想定していなかった事態が起き、冷や汗をかいていたに違いないだろう。まあ、それは自分もなんだが。

 「サダメ、おまえの魔力は俺が想定してる以上の素質を持ってる。これからはセーブしながらの特訓になるが、それでも構わないか?」

 「う、うん。俺も魔力を制御出来るように頑張るよ」

 「ああ。魔力のコントールの仕方もしっかり教えてやろう」

 「はあ、絶対に無茶はさせないでよね。私の治療魔法だって軽いケガを治せるだけだし、それ以前に自分の子がケガして帰ってきたら、気が気じゃないんだから」

 「はっはっはっ、子供なんだからケガなんてして当然だろ? 俺だって子供の頃は…」

 「あなたとサダメを一緒くたにしないで!?」

 「ご、ごめんなさい…」

 母の険しい表情が父に向けられ、父は萎縮してしまった。それはともかく、後日から魔力のコントロールの修行の日々が始まったのだった。



  ―勇者が死ぬまで、残り8900日
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