転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第1章 転生編

第1章ー⑥

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 あの一件から更に2年の月日が流れていた。あれからほぼ毎日鍛練を続けていた。魔法の訓練だけでなく、体力作りから筋トレ、剣術や体術に至るまで、戦いに必要な技術を父に教え込んでもらっていた。夜は母から読み書きを教えてもらったり、色んな本を読んで知識を身に付けたりして、勉学面をサポートしてくれた。



 最初はなかなかハードで音を上げそうになったが、両親が好意でしてくれることを無下にはしたくない。それに、元々自分から言いだしたことだし、強くなるためならこれしきのことで音を上げてはいられない。覚悟はとっくに決めていたからな。



 「…ふぅ…」



 今日もそのハードなスケジュールに取り組んでいた。まずは魔力のコントロールのトレーニングから始まる。トレーニングの内容は火球を4割の威力で撃つ訓練だ。



 あのあと父から聞いたのだが、あのとき詠唱を止めさせなかったのは、強大な魔力が散らばってしまうと、霧散せずにその場で爆発する恐れがあったからだそうだ。家族を守りたい一心で始めたトレーニングで一家全滅なんて洒落にならなくてその当時は冷や汗が止まらなかったことを、今でも鮮明に覚えてる。



 もとより魔法の素質自体はあったが、わずか3歳の子供にあそこまで大きい火球が出せるとは思っていなかったらしい。まあ、そりゃあ普通だれも思わんわな。



 それから父は、魔法の威力を制御する方法を教えてくれた。それが魔力のコントロールである。今自分が出せる力は4割まで。父いわく、5割以上は危険が伴うため、もう少し大きくなってからでしか許可出来ないとのこと。以前のやつはどれくらいだったか覚えてないが、あの時は威力のコントロールなんて出来なかったから、ほぼ10割ぐらいだと思う。



 あの一件の二の舞いにならないように訓練してはいるが、これが想像以上に難しい。熱風のイメージとかはいつも通りなのだが、その風を縮小しなければいけないのだ。そもそも、見えない風を少なくするイメージっていうのがイメージしづらくてムズい。



  「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前に現れし標的に猛る一投を撃ちかけん」



 身体中に流れる熱風をそよ風のようなイメージをゆっくりと想像する。そして、そよ風に変換された魔力をさらに炎に変換して、撃つ。



 「【火球】!」



 「…」



 父の厳しい視線を浴びながらの特訓は何年やっていても緊張する。今日はなんとか成功したが、最初の頃は何回も失敗して怒られたな。ここだけの話、3回ほどやらかしてる。慣れれば身体が勝手に覚えてくれるという父の言葉に調子づいてイメージするのを短縮してやらかしたときには、拳骨+小一時間の説教を受けたのもちょっと懐かしく感じる。



 そんなこともあり、今のところは一回一回丁寧にやっている。身体が覚える日がいつ頃になるかわからないからな。



 「…よし、今日はオッケーだ。剣の稽古に移るぞ」



 「ふう。うん」



 父の合格をもらい少し一安心。合格をもらえない限りずっとアレをやらされるから精神的に疲れる。とりあえず一息入れて、次の訓練を受ける。











 「いいぞー、どんどん打ち込んでこい!」



 お次は剣の稽古。1時間以内に木剣で一回でも父の身体に当てれば自分の勝ち。ご褒美に母の美味しい手作りパウンドケーキ独り占め。1時間以内に当てられなければ自分の負けで、素振り千回の罰ゲームが待っている。当然だが、一回も父の身体に当てたことはない。しかも父は本気なんか出したこともないし、むしろあしらわれる程度に返されるから負けたときの悔しさより屈辱の方が勝る。なんか勝つといちいち煽ってくるし。



 「くっ!?」



 「太刀筋が読みやすい! 手数も少ない! 相手の動きをよく見ろ! 相手の弱点を見つけたらとことん突いてけ!」



 「は、はい!」



 どんどん出てくるダメ出しになんとか対処しようとするが、相手は騎士団で副長もやってた父だ。素人の大人相手ならなんとかなったかもしれないが、超絶経験者の弱点なんて剣術素人の幼子にはまだ難易度が高すぎる。何度かフェイントを掛けてみたり、隙を作らせたりしてみたものの、全然当てられない。本当にこの人に弱点があるのか怪しくなってきた。



 「はあ…はあ…」



 色々試していくうちに息が切れかかってきた。というか、体力ほぼゼロなんだが。流石に今の段階でこの人に勝てるビジョンが見えてこない。



 「はいー、今日も俺のかちーー!!」



 自分の体力がゼロになってきたところで時間切れになった。父の煽りガッツポーズなんかどうでもよくなってくるぐらい疲れた。けど、いい歳して恥ずかしくないのだろうか?







 「499…500…501…502…」



 「あー、今日ひょうもお母はあはんのケーキはおいひいなー!」



 「…」



 自分が素振り千回の罰ゲームを受けているなか、父はそんな自分の姿を見物しながら母が作ってくれたケーキを頬張っていた。気にしないようにしたいところだが、ああやってわざとらしく大声出して見せびらかそうとしてくるから本当にムカつく。気にしないように振る舞うのが精一杯の抵抗だ。



 「今さらだけど、これって父さんがケーキ食べたいがための口実なんじゃ…」



 しかし、ふと我慢できずに思ったことを口に出してしまった。しまったっと一瞬思ったが、事実そうなのだから愚痴っても別にいいじゃないか。



 「おいおいおい、負け惜しみかー? そんなに欲しいなら当ててみろよー!」



 「ぐぬぬっ」



 にやけ面してる父に、今すぐ素振りをしてるこの木剣をぶん投げたい気分だ。けど、父の言い分も間違ってはいないから、その気分をグッと堪えて素振りを再開する。



 「二人ともー、そろそろ降ってきそうだから濡れないうちに切り上げてよー! あと、洗濯物も中に入れておいてくれなーい?!」



 「おお、りょうかーい!」



 「はーい!」



 しかし、母に言われて空の様子に気づく。ここ最近、天気が非常に不安定だ。ずっと曇りだし、雨が降ったり止んだりでトレーニングを中断せざるを得ないから非常に困る。まあ、筋トレぐらいだったら家の中で出来るけど。







 「う~ん、困ったもんだなー」



 「そうねー、洗濯物もロクに干せないし」



 「一日二日だったらいいんだが、こうも連日続くとなー」



 ジメジメしているせいか、二人の性格までジメジメし始めている。お茶を飲みながらため息をついているが、回数がいつもより増えている。けど、気持ちはわからんでもない。小学校の頃は雨の日とか台風の日は妙にテンション上がってた気がするが、今の自分はそんなことでテンションなんか上がらない。まあ、台風の日は学校が休校になったりするからテンション爆上がりだったけど、普通に登校しないとイケなかったときは、この世の終わりみたいなテンションだったけどな。



 「この時期って、こんなに天気悪かったっけ?」



 ふとした疑問を二人に投げかけてみる。この世界に来てもう5年経つが、梅雨の時期なんてなかったような気がするんだけどな。



 「いや、この村で連日雨が続く時期なんてなかったはずなんだけどなー。とある場所じゃ、年中降り続いてる地域があると聞いたことはあるが」



 「へー」



 そんな場所があるのか。流石異世界といったところか。不思議な場所もあるもんなんだな。











 翌日、相変わらず曇り空で天候が不安定なのだが、トレーニングは欠かさない。一日欠かすと怠惰になってしまうからな。



 「よーし、5秒数えたら始めていいぞ」



 今日は少しお遊び要素が入ったトレーニングを行っている。簡潔に言うと、鬼ごっこだな。こっちの世界では『スリップタッチ』というらしい。



 スリップタッチ自体は普通の鬼ごっこと大して変わらないのだが、鬼ごっこと違う点を挙げるとするなら、魔法の使用が可能ということぐらいだろうか。魔法といっても、攻撃魔法とかを使うのは流石に禁止だが。



 移動魔法『脱兎跳躍ラジャスト』。魔力を脚に溜めることで、脱兎のごとく速さで移動することが可能になる。いわゆる縮地みたいな魔法だ。跳躍力も上がり、この魔法を覚えるだけでかなり重宝する。しかも詠唱どころか呪文を唱える必要もないお手軽魔法だ。ただ脚に魔力を注ぐだけで使える。まあ、移動の感覚とか魔力の出力をミスると危ない魔法ではあるが。現に自分が最初練習したときは、木に猪突猛進した経験を何回もしている。縮地とかにちょっと憧れてはいたけど、こんなに危ない技なんだなということをこの身で教えられた。そんな地味に危ない技だが、感覚を掴めるようになってからはけっこう楽しい。ちょっとだけ強くなった気分を味わえるしな。



 「い~ち、に~、さ~ん、し~い…」



 それで今やってるトレーニングは脱兎跳躍を使い、父を捕まえる(触るだけでもオッケー)のがトレーニングの内容となっている。当然だが、父も無論使ってくるし、自分よりも何十倍も使いこなせてるから、無策で捕まえるのはほぼ不可能に近い。事実一度も捕まえるどころか触れてすらいない。思い返してみれば、なんにも触れてないな自分。



 「ごっ!!」



 といいつつ、カウントダウンが終わると同時に脱兎跳躍で父に一直線に向かう。当然捕まえられるわけもなく、あっさりと脱兎跳躍でかわされる。



 「スタートで決めるつもりだったか? 残念だがそう簡単には捕まらんぞー!」



 「まだまだぁー!」



 それから、何度も父に向かって猪突猛進していく。一見何にも考えずに突進しているように見えるが、別に無策で突っ込んでいるわけではない。ちゃんと策は考えてある。



 父はフェイントなんかに簡単に引っかかるような人じゃない。真っ向からの突進でも駄目、安易なフェイントも通じない。なら、自分が父に勝つためには…



 「はっはっはっー、この調子じゃあ、今日も俺が勝っちゃうかなー?」



 相変わらず父の余裕っぷり。そして煽りっぷり。くそ、そろそろあの余裕たっぷりの男に一矢報いたい。



 「…」



 そう思っていると、父の後ろに『アレ』が見えた。行くなら、今がチャンスか。



 「お?」



 アレを視界に入れた自分は、さらに脚に魔力を溜めた。それに気づいたらしい父は警戒態勢になっている。流石は父。そこを瞬時に察知するとは思わなかった。



 「うおぉぉぉぉぉ!」



 魔力で増強した脚で力一杯地面を蹴る。すると、地面がめくれ上がり、突風が吹くほどの速度で父に迫る。これが今自分が出せる最高速度である。これには父も驚愕した。



 「うおっ、と」



 しかし、父は紙一重でこれを避ける。驚いてはいたものの、この程度ではまだかわされるか。だが、まだ自分には策が…



 「ぶへっ!?」



 「!?」



 とか考えている間に、最高速度で木に激突する自分。最高速度でぶつかったからか、木がものすごい揺れたような気がする。



 「お、おい!? 大丈夫かサダメ?!」



 ものすごい衝突事故を目撃してしまった父は、自分のもとに駆け寄ってくる。一方自分は、ぶつかった衝撃でその場に座り込んでいた。



 「サダメ? 大丈夫か? 頭打ったなら、お母さんに診てもらう…」



 「…ふっ」



 「ッ!?」



 自分のもとに駆け寄ってきた父が何度も自分に問いかけるなか、自分は白い歯をひっそりと見せていた。



 「もらったあぁぁぁぁぁ!!」



 心配そうな父に対し、自分は後ろを振り返り、父に思いっきり飛びかかる。



 そう、これが自分が考えた策。事故を装い、心配で近づいてきた父を捕まえる作戦。その名も【事故偽装罠アクシデントトラップ】。まあ、木に激突したのは本当なのだが。



 脱兎跳躍は魔力だけで脚力なんかを強化することが出来る魔法。その応用編で、魔力を身体の一部に集約することで、その部分を強化することが出来る。胴体に魔力を集めればボディアーマーになるし、腕なんかに集めれば、籠手のような防具にもなるしメリケンサック以上の攻撃強化も出来る。脱兎跳躍を習得したときにそのことを父に話したら、【部分魔力強化パージング】というらしい。あったんだ、その魔法。



 それはともかく、脱兎跳躍したあと、すぐに腕に部分魔力強化することで、あの衝突事故によるダメージを軽減することが出来た。まあ、衝撃までは完全に防げたわけじゃないから、多少なりとも脳が揺れている。



 しかし、多少のダメージは覚悟のうえのこと。今の自分では、これぐらいやらないと父には届かない。距離は約5メートル。いくら速い父でも、ここまで接近すれば回避は不可能…



 「えっ?」



 のはず。しかし、一瞬にして自分の目の前から父の姿が消えてしまった。



 「ぶへえぇっ!?」



 頭が混乱していて、受け身を取るのを忘れ、顔面から着地。部分魔力強化もしていなかったから、顔面にもろダメージが入り鼻血が出る。さっきの防御がほぼ無意味と化してしまったんだが。



 「はっはっはっ、事故を装うという発想は悪くなかったぞー、サダメー!」



 鼻血を抑えつつ、父の声がする方を見ると、さっきまで自分の後ろに居たはずの父が、木の上に立っていた。



 「な、なんで…」



 「お前、あのとき俺の後ろ見てただろ? その時にお前がなにか仕掛けてくると思った。後ろには木しかなかったし、なにをするつもりかまではわからなかったが、脱兎跳躍した後すぐに部分魔力強化で腕を強化していた。最初は木の破片かなにかを利用するのかと思ったが、わざわざあそこまでする必要はない。そしたら、衝突事故が起こった。ここ最近そんなヘマをしなかったお前がそんなことをするってことは、それが狙いだったということだ」



 どうやら、父にはとっくに見抜かれていたようだ。しかし、あの短時間でよく自分の作戦を見抜いたものだ。悔しいが、流石という言葉が出てしまう。



 「ていうことは、あえて俺の策に乗っかってたってこと?」



 「可愛い息子が一生懸命考えた策だ。あえて乗っかってやるのが親の務めだ」



 「じゃあ、捕まってくれてもよかったんじゃ?」



 「バカ言うな。甘えさせてやるとまでは言ってない」



 「ちっ」



 そこまできたら乗っかってくれてもよかったのではないかと思い、自然と舌打ちが出てしまった。



 「あ~な~た~?」



 「う゛っ!?」



 そんなとき、母がご立腹の様子で父のほうを睨んでいた。さっきの事故の衝撃音が家に届いていたのだろう。それで様子を見に来たら鼻血を垂らしてる息子と、それを木の上から見下ろしてる父が居るのだから。考え方次第では父に非があるようにも見えなくもない…のかもしれない。



 しかし、これはちょっと面白いことになりそうだ。母には少々悪いが、この状況を利用させてもらおう。



 「うえぇーん、お父さんがイジメてくるーーー!」



 「ッ!?」



 「おおおおい!? でででデタラメ言うな!? か、母さん?! ち、違うんだ、あの鼻血はサダメが自分でんっ?!」



 母に嘘泣きでデタラメなことを吹き込むと、父の顔が真っ青になり、一生懸命母に弁明しようとするが、弁明する間もなく母は手に持っていた木製の水桶を思いきり父の顔面に投げつけた。流石に動揺した父は回避出来ずにモロに顔面にヒットしたうえ、木から落下し後頭部を強打していた。うわあ、顔面と後頭部のコンボアタックは相当痛そう。現に父は悶絶してその辺を転がり回ってる。



 「はははははははははは…」



 「サ・ダ・メーーー!?」



 「はは…はっ…」



 その様子を見て、可笑しくて笑っていると、いつの間にか父が鬼の形相で自分の前に立っていた。このとき、本気で怒られるやつだとすぐに悟った。











 「ご、ごめんなさい」



 当然そのあと父の拳骨をもらった自分は、罰として庭の草むしりをさせられている。一方父は母からの罰で庭の草むしりをさせられている。要するに同じ罰を課されている。厳密にいえば、母から命じられたことを自分は父に手伝えと命じられたのだ。



 「まったく、余計なこと言いやがって」



 父は母に叱られたことをまだ根に持っているようで、ぶつくさ言いながら草をむしっている。流石に少しやりすぎたと反省はしているが、そこまで根に持たなくても…



 「なあサダメ」



 「ん?」



 とか思っていたら、急に自分の名を呼ぶ父。またなんか叱られるのかと思い、少し身構えてしまう。



 「さっきの作戦はいい線いってた。お前の実力を知らないやつが今のを見たら、確実にお前の勝ちだっただろう」



 「…」



 しかし、説教ではなく、スリップタッチのときの話をし始めていた。説教されると身構えていたせいで、茫然としてしまっていた。



 「けど、さっきのときみたいに相手が自分の次の行動を読んでいたり、相手が自分の思い通りの行動を取らなかった場合はどうする?」



 「えっ? う、うーん…」



 父の問いかけに少しの間考えてみるが、答えがわからない。行動が読まれていたらそれまでだし、相手が思い通りに動いてくれなかったらお手上げだ。



 「自分の行動が読まれているなら、逆に相手の行動を読め。相手が自分の思い通りにならないのなら、相手のことを理解し、作戦のパターンを増やしてけ。戦いにおいて最も重要なことは、相手を知ることだ」



 「相手を知ること? いや、俺だってお父さんのこと知ったうえで作戦考えて…」



 「それは知った『つもり』だろう? 俺はお前に全力見せたことないぞー」



 「…」



 父の言葉にふと気づかされる。そうだ、自分は父のことを知ったつもりでいる。普段は人のことをおちょくり、母には頭が上がらず、村の人にはいい顔をする人だが、指導するときは厳しく、ときには優しく教えてくれたり、褒めてくれたりする師の鑑だ。よく煽ることさえしなければなおよしだが。



 しかし、騎士団の頃、戦士としての父はよくわからない。たまに飲みの席の肴でちょっとだけ話してくれたりすることはあるが、実際父がどれだけ強いのかは話のなかだけでは伝わりづらい。遭ったこともない魔物を討伐したという話をされても、やっぱりすごさがイマイチ伝わってこない。



 そう考えると、自分のなかでの父は、未知の存在であるともいえなくもない。



 「相手を知ることは、戦いだけじゃなくって、人間関係においても大事なことなんだぞー。俺がお母さんと結婚したのも、お母さんの良いところを知ったから…」



 「その話、長くなる?」



 「うわ、興味なさそー」



 「ないよ」



 ちゃっかり馴れ初め話を聞かされそうになり、自分はしらけた表情を浮かべる。親の馴れ初めほど聞きたくない話はないと思う。



 「ま、まあ、俺が言いたいことは、相手を知ることが最強の武器になるってことだ」



 「相手を知ることが最強の武器…」



 話を戻した父から出た言葉が妙に心に響いた。『相手を知ることが最強の武器』、なかなかいい言葉だ。父の言葉のなかでは名言の部類に入るのではなかろうか。



 「そういえば、前から気になってたんだが…」



 「ん? なに?」



 「サダメはなんで強くなりたいと思ったんだ?」



 「うぇっ?!」



 「なんだその反応」



 父の問いかけに変な反応が出てしまった。家族を守りたいなんてこの人に死んでも言いたくない。言ったらどういう反応されるかなんとなく予想がつく。絶対イジられるに決まってる。



 「それ、聞く意味ある?」



 「なんだよ、興味本位で聞いちゃダメか?」



 「なら、黙秘権を行使するよ」



 「ちぇっ」



 なので、ここで黙秘権を使ってなんとかごまかした。父にだけは絶対に言うまい。墓場まで持っていくと密かに心に決めた。



 「それじゃあちょっと質問を変えよう。将来、なりたいもんでもあるか?」



 「将来の夢?」



 しかし、父の問いかけは止まらず、将来のことについて聞いてきた。大事な人を守りたいとは思いつつも、将来なにがしたいのかまでは決めていない。実家から出ないことを考えれば自営業? それとも村の護衛? はて? なにがしたいんだろう?



 「うーん、今は特になんもないかなー」



 「特訓してくれって頼んできたから、てっきり騎士団か冒険者にでもなりたいのかと思ってたが、なんの計画もなしか?」



 「悪い?」



 「いやまあ、そうだな。その歳じゃあ、まだ思いつかないか」



 そういえば自分はまだ5つだということをすっかり忘れていた。前世のときはどうだったっけ? 5歳のときの記憶なんてもうほとんど覚えていないからわかんねーや。



 「それじゃあ、魔法学園にでも入るか?」



 「魔法学園?」



 そんなことを考えていると、父から魔法学園というワードが飛び出してきた、少しだけ胸が高まった。やはり、魔法がある世界なんだからそれを学ぶ施設だって存在するのは当然だ。



 「首都ソワレルにあるソワレル魔法学園ってところがあって、俺が通ってた学び舎だ。この国で魔法学園といったらそこだけだが、優秀な魔法使い達が学業を学び、将来の進路に役立つ技術を養い育む場所だ。そのうえ、生徒数も初等部から高等部まで一貫だから数百、いやそれ以上居るから、いい出会いもある。俺も編入ではあったが、いい友人達に恵まれたものだ」



 「へー」



 学校か。そういえば、学生時代は勉強といい部活といい、いい加減にやっててゲームばっかやってたなー。大人になってそのことを死ぬほど後悔していた気がする。



 けど待てよ? 自分は転生して生まれ変わったんだ。その後悔を払拭するチャンスなんじゃないか?



 「でも、よくそんなところに通えたね。この国唯一の学校なら、けっこうお金かかるんじゃない?」



 しかし、仮に学校に通うにしても色々問題がある。特に金銭的な面で。うちはそんな裕福な家じゃないんだけどな。



 「編入試験とか推薦だったら授業料諸々免除だったからな。俺は編入試験で受かったから、なんとか免除してもらってたからなー。まあ、試験はそれなりに厳しかったけど」



 「試験ってなにすんの?」



 「おっ、学校に興味津々か?」



 「う゛っ!?」



 ほんのちょっと興味を持ちだすと、父がニヤケ顔でこっちを見ていた。クソ、してやられた。この人はちょっと興味を持ち始めると、調子に乗って弄り始めるから嫌なんだよなー。



 「まっ、その話はまた今度にしよう。さてっと、草むしりも終わったし、そろそろご飯の時間だろうから、その前に風呂入りに行くぞ、サダメ」



 「う、うん」



 しかし、その話は持ち越しとなり、腰を上げて家に入ろうとする父。自分もそのあとに続くように立ち上がる。



 ソワレル魔法学校。どんなところだろう。不覚にも、父のその話に興味を引かれている自分がいた。前世じゃ後悔しっぱなしだからな。そう思うと、通いたいと思う気持ちが強まっていた。自分でも行けるかな、魔法学校。



 「ね、ねえお父さん」



 「ん?」



 学校に行きたいという気持ちがどんどん強まっていき、思わず父に聞かずにはいられなかった。自分の力でその学園に入れるかどうかを。



 「あ、あのさ…」



 「んん? どうした?」



 しかし、どうしてもそれを聞くのを躊躇ってしまう。だが、引き止めてしまった以上聞かないわけにはいかない。



 「俺、魔法学園行ける…」



 意を決するかのように顔を上げる。その瞬間、妙なものが視界に移った。



 父の背後になにか立っている。それが母じゃないことはすぐにわかった。灰色のローブで全身隠れており、顔すらまったく見えない謎の人物が父の背後に立っている。それに気づいた瞬間、ゾッと寒気が走った。まるでホラー映画のワンシーンを見ているかのようだ。物音を一切発さず、父に気取られることもなくその人型のなにかが父の背後に立っている。



 「お、おとう…」



 「ッ?!」



 そのなにかを見てしまった自分は、恐る恐る父の背後を指さそうとした瞬間、父は背後になにか居るのをようやく察知し振り返っていた。



 「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前に移りし…」



 父は振り返るや否や、右手を前に出し、火球フレールの詠唱を始めていた。しかし、詠唱の速度がいつもより速い。これが本来の詠唱速度なのか。



 だが、父が火球を放とうとしていた右手は、いつの間にか父の身体から離れ、宙を舞っていた。



 ―勇者が死ぬまで、残り8169日
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