転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第1章 転生編

第1章ー⑱

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う奴の魔力量が計り知れない。しかもよれが攻撃魔法でもなんでもないときた。

 「『彼の実力を認めた事は事実です。だからこそ正面を切って戦うのは危険だと判断しました。となれば、如何に彼を欺いて殺すか考えましたよ。中途半端な陽動は通じる相手ではありませんでしたし。そこで私は、全力を出したフリを演出した。魔法と言葉を操り、彼に信じ込ませた。正々堂々と渡り合える相手だと。案の定彼は私の真意に気づかないまま全力の魔法をぶつけた。そっちに居たのは分身体だというのに』」

 「くっ!?」

 奴の話を聞いていて、段々歯がゆい気持ちになってきた。奴の言葉が真実だとしたら、実力だけなら父は負けてはいなかった。上手くいけば勝てていたのかもしれない。

 「『彼の敗因は相手の言葉を受け入れてしまったこと。ただそれだけです。といっても、殺し合いの場では些細なことが死に繋がる。君にとってはいい学びを得ましたね。まあ、だからなんだという話ですか』」

 「っ?!」

 話を終えた魔物は、こちらに歩いてきたかと思えば、通り過ぎた。一体どこに行こうと…

 「いゃあああああ!?」

 「っ?! お母さん?!」

 しているのかと奴の方に視線を向けようとしたそのとき、母の叫び声が聞こえてきた。気が付くと、巨体の魔物が母の髪を引っ張り押さえつけられていた。しまった、父の死があまりにもショックで、母の事をおざなりにしてしまっていた。相手の話を聞いてる場合じゃない。せめて母は自分が守らなければ。

 「『さて、この勝負、私が勝利したという事で…』」

 「や、やめぐっ?!」

 慌てて母を助けようとしたが、後ろから何者かに蹴飛ばされ前のめりに倒れてしまった。いつの間にか他の魔物達もここに近づいていたようだ。

 「くっ、そっ、があっ!?」

 背中の痛みを堪えながらなんとか起き上がろうとするも、魔物達に押さえつけられてしまった。魔力は大したことはないが、腕力なんかじゃまだまだ向こうに部があって、振りほどくどころか全く抵抗出来ない。寧ろ抵抗すれば抵抗する程痛みが増してくる。

 「『戦利品はこの村の全て。元々略奪目的で来たわけですし、勝ち負けもなにもありませんが。まあ、君が私を倒せれば話は変わってきますがね』」

 「くっ、そおぉっ」

 奴に煽られるも、なにも出来なかった。今の自分にはただただ涙を流す事しか出来なかった。

 こうして自分達の平和な日々は突然幕を閉じられ、地獄の日々が始まっていくのだった。。

 ―勇者が死ぬまで、残り8169日
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