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十五話
しおりを挟む朝食後、アロスフィアさんとエメリーさんと共に執務室でお茶をしながらあの襲ってきたパトリーさんの話をする事になった。
ちなみにヘクトールさんは爆睡してるので放置してきたらしい。
まぁどっちにしろアロスフィアさんがいるから同席は出来ないんだけど。
「エメリーさんの紅茶って渋みも無いし香りも良いし本当に最高ですね」
「ありがとうございます。 お茶に関してはかなり勉強いたしましたから」
ちょっと嬉しそうなエメリーさん。
しかしおっちゃんとしては紅茶だけだとちょっと物足りなく感じるんだよなぁ。
……紅茶に合うもの……はっ!
「アロスフィアさん、エメリーさん。 今からマーケットアプリ使おうかと思うんですが……アロスフィアさん、昨日言ってたアレ。 今やっちゃいますか」
「特別甘い物ですか! やっちゃいましょう! ええ、やりましょう!」
「エメリーさんの素晴らしい紅茶にも合うと思いますよ」
「ほほう……それは楽しみですね。 もう一杯準備しておきましょう」
計らずもエメリーさんもワクワクしてる。
ちなみに俺もわくわくしてる。なんせ向こうの世界にいた時も貧乏性のせいでなかなか手を出せなかったアレだからな。
マーケットアプリを開き、目的の欄を開く。
思ったよりもかなりの種類があるそれ等の中から検索して見つけ出す。
ただでさえお高いそれがマーケットアプリ価格のせいで四倍くらいの値段になっている。
御存知お高いアイスの代名詞。
マーゲンダッツ。
今回は個人的に好きなキャラメル味を選ばせてもらおう。
ノーマルなバニラ味でいくか、とも迷ったけどキャラメル……美味しいやん?
というわけでキャラメル味を三つ購入。
ついでにいつもの菓子パンとお肉も追加。
「ふっふっふっ……正直マーケットアプリで品質向上させられたマーゲンダッツには期待してるぞ」
届いたダンボールを開け、丁寧に包装されたマーゲンダッツを取り出す。
アロスフィアさんもエメリーさんも待ちきれない様子だ。
「どうぞ、これはアイスクリームという食べ物です」
「アイスクリーム。 とても冷たいんですね。 これはこのスプーンでいただけばいいんですか?」
外装を珍しそうに見ながら手に伝わる感触を楽しんでいるアロスフィアさん。
スプーンも付属しているので物珍しいようだ。
「そうです。 こうやって蓋を取って、表面のフィルムを剥がします。 あとはこれをスプーンで掬って食べるだけです」
「なるほど。 あの聖女様に食べさせていたものに少し似ていますね」
「甘いっていう点では似てますけど、食感や味は別物ですよ。 今度ゼリーも出しましょうか」
「ふふふ。 それは楽しみです」
ふふふ、俺も楽しみです。
俺も食べるのいつ以来だろ。
ここ最近……最近というかここに来る前は忙しかったし、食べる物も結構適当になってたからな。
ちなみにアイスは少し溶かしてから食べるのが個人的に至高だと思ってる。
二人はさっそくスプーンをアイスに差し込み一口。
「こ、これは! 冷たくて甘いです!」
「それに甘味がしつこくないのに香りもあっていいですね」
紅茶で温まった口の中に広がる冷たい甘味が二人を直撃しているようで実にいい顔をしている。
温度差のあるアイスと紅茶を交互に楽しむことでアイスクリーム頭痛も発生しにくいし最高だ。
というか久しぶりのマーゲンダッツまじで美味しいな。
マーケットアプリ品質がヤバすぎる。
アイスもとても滑らかだし、舌の上で溶ける際に広がるキャラメルの香りがとてもいい。
こんなに美味しいなら高いのも納得だ。
「ふぅ……美味しくてついつい一気に食べちゃいました」
「これなら何度でも食べたくなりますね。 量が少ないのがちょっと残念ですが」
二人も実に満足そうだ。
……量が足りないっていうけどさっきご飯食べたばっかりだけど、まだ入るの?
前から思ってたけどガッツリ肉食系だし、エメリーさん実は大食いタイプ?
「あんまり食べすぎると太りますよ?」
「私はいくら食べても太らないので大丈夫です」
「なにそれ羨ましい。 え、本当に?」
「ホムンクルスは食べたものをそのまま分解して活動エネルギーに変換するんです。 私達みたいに脂肪になったりしないからスタイルもそのままなんですよ」
へー……凄いなホムンクルス。
体重やスタイルを気にせず食べ放題とか最高じゃないか。
俺もそんな体質欲しい。
いやまって。いま私達みたいにって言ってたな。
つまりアロスフィアさんも食べ過ぎたりすると太っちゃうのか。
痩せてる気もするしもう少し肉がついてもいいんじゃないかとは思うけど。
「いま何か失礼な事を考えていませんかハルさん?」
「はははははは、まっさかー」
あぶねー。いやそんなに危ないことは考えてないけど。
アロスフィアさんだと冗談抜きに心読まれそうだから注意しないとな、うん。
でももう少し太いほうが健康的で俺はいいと思う。つまりもうちょっと食べても……いや菓子パン食い過ぎやん。この人もやっぱり太らないんじゃ?
「お戯れはそのあたりにしておきましょう。 スフィア様、あの男の件をお願いします」
「そうね。 おほん。 ハルさんを刺したあの男のことですけど、どうも聖女を狙う者に精神支配……いえ感情増幅かしら。 精神に干渉する魔法で操られていたようでした」
「感情増幅?」
なんとも馴染みの無い言葉なのでしっくりこない。
どういう事なのか?
「元々聖女に対して持っていた不満や怒りを増幅させられたということですね。 小さな感情を大火の如く燃え上がらせて激情へと変えられたのです。 まあ、流石に殺意まで発展するには本人の素養というか、性格が暴力的でないとそこまでの行動は普通は取らないのですけどね」
ちょっと呆れたように言うアロスフィアさん。
なんか催眠術とかで似たような話を聞いたことある気がする。
本人が本心で望まない事は出来ないし操れないみたいなの。
つまり今回の犯人はそう言った素養があったって事か。
ペレグリンさんからちょっと話を聞いたけど、八つ当たりしては無理があるよなぁとは思ってた。
「その操った相手は何で聖女様を殺そうと思ったんですかね」
「歴代の聖女の役割を考えれば、魔人族の犯行と考えるのが自然でしょう。 奴等は聖女の力によって著しく能力を制限されますから」
「魔人族?」
エメリーさんが何やら気になる言葉を口にした。
魔物とかの話しはあったけど……魔人族とは?
聞いた感じなんか魔族とかそんな生き物をイメージしたけど。
「魔人族は魔神レプリヒトを信仰する種族です。 この神はクレリオ教の女神クレリオとそれはもう仲が悪く、しょっちゅう殺し合いをする間柄なのです。 そのせいかクレリオ教徒や魔人族も険悪な関係にあるんですが、クレリオ教徒が魔人族に対して特に強い力を発揮出来るものを聖女として扱いはじめたのです」
「それで魔人族はその聖女の力を削ぐために今回のような手法をとったと」
「そうですね。 魔人族は身体能力や魔力も高く優秀な種族なのですが、魔人族に対して特別な力を発揮する聖女相手では直接戦闘では分が悪いですからね」
アロスフィアさんの説明は分かりやすいな。
しかしなるほど……そんな経緯があったのか。
アルメテルさんも魔人族相手に色々とやらかしたのかな?
こういう宗教が関わる争いって怖いから二度と関わりたくはないなぁ。
しかし……聞けば聞くほど、関われば関わるほどこの世界って殺伐としてるなぁ。
アルメテルさんみたいな女の子が魔人族特攻の能力を持っていて、そんな力を持っていても年若い彼女を呪い殺そうと動く魔人族。
他にも外には魔物がいたり、ヘクトールさんが聖騎士に襲われたり……やだ怖い。
「うーん……関わるつもりは無いですけど、この世界って怖い事も多いですね」
「そうですね。 と言うわけでハルさん。 この前話していたお仕置きをやりましょうか」
「お仕置き? …………あ」
完全に忘れていたけど三日間のハードトレーニングって話だったな。
いやマジで忘れていた。
そして忘れていてほしかった。
「幸いな事に今はヘクティもいますからね。 アレは見た目も性格も破綻してますけど、実力は本物ですし訓練の相手にはうってつけです」
「あの人と訓練って……一応聞きますけど何をさせるつもりなんですか?」
「今日はひたすら基礎訓練。 明日以降はアレとひたすら実戦です」
やだーやだやだやだやだー。
いや本当にちょっと待って。だってあの人Aランクなんでしょ?
死ぬやん。死なないにしてもその一歩手前くらいまで痛めつけられるやつやん。
それならあのサイコパスより見た目も優しさも最高なアロスフィアさんかエメリーさんにお願いしたい!
「……あ、相手はアロスフィアさんかエメリーさんじゃダメなんですか?」
「私は手加減が苦手で……失敗したらわりとグロい事になりますよ?」
照れ顔が可愛いけど可愛いからって何言っても言い訳じゃないからねアロスフィアさん。
「私はどうもハルさん相手だとどうしても殺意のこもった攻撃が出来ないというか、お世話したくなってしまって訓練になりませんから。 メイド失格です」
自分で不思議そうな表情をするエメリーさん。そういうのマジでキュンと来るよ。あと殺意を乗せた攻撃が出来るのがメイドじゃないから!断じてそんなメイド認めないからね!
でもありがと!
「めちゃくちゃ断りたいけど……俺のせいでお金盗られちゃったし……分かりました。 三日間頑張ります」
「うふふふふ。 しっかり頑張ってくださいねハルさん」
「私とヘクティでしっかり育てあげますので安心してください」
したり顔のエメリーさんだけど全く安心できません。
はぁー……ここから入れる保険、ありますか?
応援ありがとうございます!
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