優しい家族に幸せを

するめさん

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二十四話

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「なんか……騒がしくないですか?」

「そうだねー、何か町全体が変な空気だね」

 スレイプニルに送ってもらい到着したシエンタール。
 もともと活気のある町だとは思っていたけど、なんだか町全体が変な空気というか。
 慌ただしいと言えばいいのかな。

「ねえねえおじさん。 なんか慌ただしい感じで変な空気だけどなんかあったの?」

 コミュ力のお化けかヘクトールさん。
 いや着ぐるみ着てるとなんでそんなに陽気なのか。
 話しかけたおじさんも着ぐるみを見て驚きもしないのがすごい。
 いやヘクトールさんの場合この見た目でAランクだから有名そうだし、驚かれたりはしないのか?

「ああ、トートデル平原にある公国の前線基地が崩壊したらしいんだ。 どうもアロスフィア・アルルコルの逆鱗に触れたらしくてな。 かなりえげつない事をしたらしい。 その混乱に乗じて前線基地からちょっと先までマルクートの領土として奪うつもりで領主が動こうとしてるらしいんだ」

「あー……ちなみにえげつない事って?」

「なんでも前線基地にいた八万の兵士を残らず虐殺。 公国で唯一にして最強の聖騎士クリフ・アストリオンに魔法を仕込んで公国の首都アトレイユに送りつけたらしい。 なんでも今後こちらに手を出すなら首都を滅ぼすって伝言をさせて、その後にクリフ・アストリオンを爆発四散させたとか。 それはそれは酷い様子だったらしいぜ」

 いやいやいやいやいやいや!
 エグすぎるよ!?
 あそこにいた兵士が八万!?
 全部やっちゃったの!?
 あの男が爆発四散したのは正直なところスッキリしないでも無いけど、そんなエグいことしてたなんて……あんな可愛いく甘え上手なアロスフィアさんが……絶対に怒らせないようにしよう。
 絶対にだ。
 しかし……あの男はともかく、八万もの兵士を失ったなら公国はもう動けないだろ。どの程度の戦力を保有しているのかは知らんけど。
 それだけの兵士を動員してたってことは軍事費やらなんやらも大量に注ぎ込んでたんだろうし、それが無くなったなんて損害額が天文学的なものになりそう。
 そんなショッキングなメッセージまで送られたらもう争うなんてことは普通は考えないだろうし。
 というか滅亡への一途だろ。立て直せる未来が見えん。

「うわぁ……ていうかそんな勢いに任せて侵略なんて大丈夫なの? 流石に王様達は許可しなさそうだけど」

「今回は公国が先に手を出したらしいから、その報復行為として認めたらしい。 まあ陛下も国を護ってくれているアロスフィア・アルルコルを敵には回したくないだろうし、公国にはいい加減苛立っているだろうからな」

「ああ、昔からなにかと邪魔してきてたらしいもんねー。 ありがとおっちゃん。 はい、情報料」

「おう。 あ、ついでだが最近クレリオ教の連中が忙しなく動いてるらしいぜ。 理由は知らんが、あまり近づかない方がいいぞ」

「はーい」

 なんて気さくなおっちゃんだ。
 これがコミュ力の差なのか。
 すげーなヘクトールさん。これが傭兵で商人をやっていた人間の能力か。頭の被り物取ったら隠れるくせに。

「いやー……改めてアロスフィアさんヤバイね!」

「そうですね。 話だけで強い強いとは思ってましたけど、ここまで具体的な数字や行動を見せられると戦慄しますね」

「本当、敵にならなくてよかったというか……ハルさんを護る方向で動いてなかったら私も消されてたかと思うと、過去の私によくやったと言ってあげたいよ」

「あはは……そう言えばさっきの話で思ったんですけど、領土を奪うつもりで動くって言ってましたけど、普通に侵略行為ですよね? 報復って言っても難しそうですけど……」

「ああ、それね。 これは商人としての予想だけど、多分奪うのは鉱山だよ」

「鉱山?」

 資源物資は確かに大切だと思うけど、こんな火事場泥棒みたいな真似して国の評価を落としてでもやる価値のある鉱山なのか?
 というか正直なところ鉱山の価値がいまいち分からん。
 いや、鉄とかの物資の重要性は分かるけど。

「うん。 トートデル平原から更にアトレイユ公国側に進んで二週間くらいのところにレクレル鉱山ってあるんだけど、そこで採取出来るベルクス鉱石がかなり特殊で貴重な鉱石なんだ。 あんまり流通しないから、これを機に奪うつもりなんだろうねぇ」

「はぁ……なんか、シエンタールの領主さん、せこいというか性格悪いですね」

「あっはっはっは! いやいや、まあそう見えるけど、ちゃんと損得で動けるって点では優秀だとボクは思うよ。 人間性は最低だけどね」

 商人としての観点から見ればそうなのかなぁ。
 うーん……まぁそこら辺は俺が考えたところで意味は無いし、マルクートがアトレイユ公国を滅ぼしに行くって言わないだけまだいいのかな?
 一般人だから戦争とかが怖いと感じてしまいどうも侵略とか暴力的なものに忌避感が凄い。

「そういやクレリオ教徒の話、近づかない方がいいって言ってたけど……なんか危ない事をしてるんですかね?」

「どうだろう。 クレリオ教徒自体は教義の影響もあって穏やかではあるけど、自己の研鑽を大事にしてるから結構強い教徒が多いんだ。 慌ただしくする理由によってはあんまり近づかない方がいいってのはあるかも」

 強いか……そういやアルメテルさんは聖女だけど話を聞く限り強い感じだった。
 俺を刺した人……パトリーさんだったっけ?
 あの人を取り抑えたのはペレグリンさんで、あの人もあんな見た目してて実は強いっぽいもんな。
 自己の研鑽……耳が痛い。俺もちょくちょく頑張ってはいるけど、そう簡単に強くはなれない。日々の研鑽は大事だよな。

「でも呼び出されてる場所がクレリオ聖教会なんですよね。 リフェルは教徒では無さそうだったんだけど」

「リフェルっていうとシエンタールでも有名なBランクだね。 私は一緒に仕事した事ないけど、戦闘面ではAランクにも負けない子だって聞いてるよ。 他がダメダメらしいけど」

 リフェルさんや……ダメダメ言われてるよ。
 でもあんな孤児っぽく変装したりしてたけど、ああいう事が出来るレベルでもダメダメ評価なのか?
 ……傭兵の世界って厳しいな。
 俺もダメダメ評価されるのは間違いないな。
 俺も、って言っちゃったけどリフェルには戦闘能力があるならそこで評価されるし……ダメダメなのは俺だけじゃないですかやだぁ。

「まあ信頼は出来る子だから、罠って事はないと思うよ! いこーいこー!」

「そうですね。 行きましょう」

 あ、メンチカツサンドをまた要求されるかな?
 見つけてくれたことにお礼もしないといけないし、色々見繕っておくか。
 久しぶりに会うし楽しみだな。

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