桜の雨

小露

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君が描きたい

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 圭人に言われた人形という言葉を、理央はずっと考えていた。何時もと変わらないように描いてるはずだった。なのにどうして。妙に気になって授業もそっちのけでノートに朝霞を描いてしまう。休み時間もこれまで以上に頻繁に圭人の席に行き、朝霞を観察した。

「理央!移動教室だぞ」
松田に声をかけられなければ理央はチャイムも気づかなかったかもしれない。
(絵を描いてたら集中しすぎちゃった)
あわてて準備をし、ノートを机にいれて、理央は松田と圭人の後を追った。
「急げ、次の時間三嶋だ」
圭人の言葉に理央は走って次の教室に向かう。


生物の三嶋先生のことを理央は好きになれなかった。遅刻や、授業中の私語に厳しい先生であるため、理央以外にも嫌っている生徒は多い。
しかし、理央は厳しいから嫌っているわけではない。問題は圭人に対する対応であった。圭人はよく容姿で誤解される。高身長と金に近い明るい髪色に、きつい目許のせいで、不良絡まれることも多い。だが、圭人は不良なんかじゃない。髪の色は地毛だし、きつい目許は近眼のせい。本当は優しくて穏やかな性格だ。容姿のせいで中学では正当な内申が受けられず、塩見高校に入学したが、本来は真面目な優等生だ(常に学年一位)。
しかし、三嶋はそれを認めない。ことあるごとに圭人にケチをつける。だからつけこまれないよう何時も遅刻しないように早めに教室に入っていた。しかし今日はギリギリだ。
チャイムと同時に教室に入る。
「セーフ!」
松田が両手を広げポーズをとった。
教室内に三嶋の姿はない。間に合ったことにホッと胸を撫で下ろした。次の瞬間、真後ろに三嶋がたっていた。
「・・・何がセーフだバカ者。チャイムがなってから入ったものは遅刻。よって鈴川、松田、浅見は遅刻。それから鈴川、おまえの髪はなんだ!いつになったら戻してくるんだ!」
圭人を見つけるなり髪の色について説教をかましてきた。
「何回言われても地毛です。」
圭人は勤めて冷静に話しているが、三嶋はどんどんヒートアップしていく一方だ。
「せんせー、俺こいつと幼馴染みだけど、こいつの頭ちっこい頃からこんな色してたよ。なぁ理央?」
松田の言葉に強くうなずく理央。圭人とは小学生の頃からの幼馴染みだけど髪が黒い圭人なんて見たことないし、圭人は自分の見た目を気にするタイプじゃないからわざわざ染めるなんてあり得ない。そもそもこの学校は染髪は校則違反ではない(違反だとしても誰も守らないから)。それに圭人より三嶋の目の前にいる松田の方が茶髪にピンクメッシュという派手な髪をしているが、なぜか三嶋は圭人しか怒らない。
「鈴川、おまえのオトモダチが庇ってくれておるようだが、俺は騙されんぞ。お前頭がいいかも知れんが、こんな簡単なことも直せないようじゃ、内申は絶望的だな」
三嶋はふんと鼻で笑う。
この男は卑怯だと理央は思った。偏差値が低い塩見学園から進学するのは実に大変なことだ。進学をめざす圭人にとって、内申点がどんなに大切か知っていて、脅しのネタにしているのだ。
「そりゃないよ先生!」
思わず松田が噛みつくが、三嶋はニヤニヤしている。
「お前は髪を直すまで俺の授業には入れんからな。出ていけ」
圭人は小さくため息をつき、教室を出ていこうとしたそのときだった。

「先生、鈴川君の髪は地毛です。」
思わぬとこから声がした。
教室にいた全員が声の主の方を向く。

声の主は朝霞だった。三嶋は少し面食らったような顔をしたがすぐ嘲笑うかのように
「お前転校生だな。何を根拠に・・・」
バカにしたように言った。
しかし朝霞は堂々とした態度で対抗する
「鈴川君の睫毛や眉毛、髪の毛と同じ色です。カラーマスカラや脱色という可能性もありますが、その場合、根本からこれだけ綺麗にというのは不可能だとおもいます」
三嶋の押さえつけるような言葉にも負けず、ハッキリとした口調の彼女にクラスの全員が驚いていた。今までの朝霞では考えられない行動だったし、三嶋に逆らおうとする生徒もいなかったからだ。
三嶋は生活指導を担当していて、先生たちからは信頼されている。反発しても困るのは自分達。そもそも元々素行が良くない生徒たちだから先生も親も見方になんかなってくれないっと思い込んでいて、皆逆らうのをやめてしまっていたのだ。
「他にあからさまに染めてる人を注意しないで、地毛だと主張している人間を敢えて注意する意味がわかりません。内申を使って生徒を脅すなんて、職権濫用じゃありませんか?それに、そんなくだらない理由で授業の開始時間が遅れ、私たちの学ぶ権利を侵害している状況をどうお考えですか?」
朝霞が一気にまくし立てた正論に三嶋はぐうの音も出ないようだった。小さく舌打ちすると、
「もういいから席につけ」
と怒鳴り、授業を始めた。
その日、三嶋は2度と圭人に絡んでこなかった。




授業が終わり、昼休み。理央達3人は屋上で昼食を食べていた。
「三嶋のやろー腹立つわー!」
松田は未だに三嶋に対する怒りが収まらないらしい。
「でも、本当に朝霞さんが言ってくれて助かったよね。びっくりしたけど。」
何故朝霞が圭人を庇ったのか、それは誰にもわからなかった。当の圭人も朝霞とは喋ったこともなかったらしい。
「じゃあ可能性は一つだな」
いきなり松田がニヤニヤして圭人を見た。
「なんだよ?」
なかなか続きを言わない松田に圭人はイラついている。
「まーそんなイラつくなよ。せっかく女子に好かれてるのに怒ってばっかじゃ嫌われるぞ」





「はぁ?」
少しの間の後、圭人と理央の声が屋上に響いた。圭人の顔は心なしか赤い。
「なんでそうなんだよ!」
圭人が珍しく大きい声をだした。
「だってそうとしか考えらんなくない?喋ったこともないような人を助ける理由なんてさ。特に彼女目立ちたくないみたいだし。それを曲げてまで圭人を庇うってもうこれ以外考えられないっしょ?」
圭人は顔を真っ赤にしてそんなわけないとか、喋ったこともないのに勝手なこと言うなとか言ってるが、理央はなるほど、と納得していた。それと同時にショックを受けている自分に驚く。何故ショックを受けているのか、自分でもうまく説明できないが、何故か胸が痛む。
「理央~どうした?」
不思議そうな顔で覗きこんでくる松田に、答えてやる余裕はなかった。だって自分だってどうしてこんなに胸が痛むのかわからないのだから。
「理央・・・?」
今度は圭人から声をかけられ、何でもないことを伝えると二人は何か言いたそうだったが、ちょうどよいタイミングでチャイムがなった。
「あ、やべ、行かねーと。」
松田の声に3人は弁当箱を片付け、教室に急いだ。
理央はあのタイミングでチャイムがなったことにホッとしていた。
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