秋風に誘われて

剣世炸

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けやき商編 番外編 真琴の恋

第4話 後押しと決意

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 私が先輩への想いを諦めた数日後、私たちは光陵高校へ遠征に出掛けた。

 1日目は、約半日の練習試合を行った。全国で準優勝している高校ということもあり、団体戦はたったの10点差での勝利だった。

 1日目の練習試合を終え、光陵高校を後にした私たちけやき商パソコン部は、宿舎となるホテルのロビーに居た。

「よし、それじゃあ班毎に受付で鍵を貰って、荷物を部屋に置いてきたら、食堂で夕食だ。その後は自由時間とする。」

「わかりました!!」

 若林先生の指示で解散した私たちは、事前に決めていた室長が受付で鍵を受け取り、各々の部屋へ向った。

「それにしても、光陵高校は強いわね」

「お姉がもっと頑張れば、余裕で勝てたんじゃないの!?」

「そんなこと言って!あなたも頑張らなきゃなのよ!」

「…私も確かに頑張らなきゃだけど…煉先輩、ああは言ってたけど、結局調子は悪いみたいだわ…」

「まぁ、それはそうなんだけどさ…。煉先輩、調子は戻ってきているみたいだけど、なかなか苦しんでいるみたい…」

「副部長とも点差はわずかでしたし…」

「煉先輩、今日不調の原因を話してくれるって、前言っていたけど…」

「…そうなの。それじゃ、食事が終わって自由時間になったら、それとなくあなたから聞いてみて。」

「…もう、今の私では、これ以上の力にはなれない…美琴なら、もしかして…」

「分かった!」

 私たちは部屋に荷物を置いて私服に着替えると、食堂へと向かった。



 食堂にはまだ誰も到着しておらず、私たちがトップバッターだった。

「…ここなら出入口も近いし、先輩方や先生に失礼にならないわね。ここにしましょう」

 私は、出入口付近にあった島を選び出し、私たち3人が着席する。

「お姉、ところでなんでここだと先輩方や先生に失礼にならないの?」

「こういう席がたくさんある場所には『席次』っていうのがあるのよ。」

「一般的に、出入口から遠い場所が『上座』、出入口に近い場所が『下座』って呼ばれていて、上座から順番に偉い人が座ることになっているのよ!」

「先輩、さすがです」

「お姉、それって何で勉強したの?」

「2年生になると『秘書・接遇』って選択授業があるの。その授業で勉強する『秘書検定』の中に、席次の基本っていうのが出てくるのよ。って言っても、ついこの間授業受けたから、覚えていただけなんだけどね…」

「へぇ~。その席次って、社会に出てから絶対に必要になる知識だよね」

「そうね。だから、私たち商業高校の生徒は、他の高校に比べて就職できる確率が高いのかもね!」

 そんな話をしているうちに、いつの間にか食堂の入口まで来ていた煉先輩を美琴が見つけ、隣に座るよう指を指す。

 その動作を見た先輩は、同じ部屋の部員と別れ、私たちの席まで歩いてきた。

「…真琴達はずいぶん早いんだな」

「はい、鍵を一番早くもらえたので、部屋にも早く行けましたから…」

「それに、お腹ペコペコだしね」

「それにしても、光陵高校はなかなか強敵ですね」

「ああ。今日の練習試合も、ある意味負けなかったのがおかしい位だろう…」

「でも、アウェーである私たちが勝てたのですから、私たちの実力の方が上、ということでしょう!」

「…確かにそうかも知れない。でも、油断は禁物だぞ。自分の実力に胡坐をかいた瞬間に、大会での入賞は難しくなるだろう」

「若林先生!いつの間に…」

 いつの間にか私の隣に座っていた若林先生が話に入ってきて、一同を驚かせる。

「ああ、ほんの少し前に、な。それよりも、沢継、ちょっといいか?」

 立ち上がった若林先生が、廊下を指差し先輩を手招きしている。

「…はい、分かりました。真琴に美琴、それに紗代、また後でな。」

「はい!席を空けて、お待ちしております♪」

 美琴の言葉に見送られ、先輩は食堂を後にした。


「…若林先生、先輩とどんな話をしてるんだろう?」

「きっと、今日の試合のことね。勝てはしたけど、先生としては「圧勝」くらいして欲しかったんじゃないかな?」

「今の状況だと、今年の全国大会優勝は、なかなか難しいのでは?って考えるはずです」

「先輩が不調なら、私たちが頑張らなきゃね!」


 そんな話をしながら先輩を待っていると、5分もしないうちに先輩は食堂に戻ってきた。

 美琴がその姿を瞬時に発見し、さっきと同じように手を振り隣に座るよう指を指す。

「(…美琴…あなた、やっぱり…)」

 私達の姿を確認した先輩は、一言二言先生と話をし、私たちの席へ戻ってきた。

「煉先輩、若林先生の話って、何だったんです?」

「…いや、ちょっとな…。食事の後の自由時間の時にでも話すよ」

「…ここじゃ話しにくい話なんですね…」

「…まあ、な…」

「(…美琴はどこまで『天然』なのかしら…)」

「はいはい、話はそこまで。ほら、食事が運ばれてきたわよ」

 私の言葉に他の3人が厨房への出入口に視線を向けると、ホテルの仲居さんが次々と豪勢な夕食を運んできた。

 そして、けやき商パソコン部のメンバー全員に食事が運ばれると、若林先生の号令で食事が始まった。



 食事を終え、消灯まで自由時間となった頃、私はふと食堂内を見渡すと、いつの間にか煉先輩の姿がなくなっていた。

「(…煉先輩、一体どこに…)」

「…ねぇ美琴、さっきまであなたの隣に座っていた煉先輩は!?」

「えっ!?煉先輩なら隣にずっと…あれっ!?」

「食事の後、あなた、煉先輩と話をするんじゃなかったの!?」

「…まぁ、そのつもりだったけど…」

「『つもり』じゃなくて!!煉先輩が話すって言ってたんだから、聞きに行きなさい!!」

「美琴ちゃん、きっと煉先輩も話をしてくれると思うよ!」

「お姉、それに紗代…分かった!私、煉先輩を探してみる!」

「遅くても、消灯時間までには部屋に戻るのよ!」

「分かったよ!お姉!!」

 そういうと、美琴は食堂から駆け足で出て行った。

「(…美琴、頑張るのよ…)」

「先輩、これで良かったんですか!?」

「えっ!?」

「いえ、副部長さんも、煉先輩のことを、その…」

「三枝さん…」

「私の先輩への恋は、もう終わったのよ…もう…」

「…」

「さぁ、私たちは部屋に戻りますか!?」

「はい!」



 部屋に戻った私と三枝さんは、普段練習で使用している問題のコピーを見ながらシャドータイピングをしたり、テレビを見たりしながら、美琴の帰りを待った。

 なかなか先輩が見つからなかったのか、それとも先輩との話が盛り上がったのか、美琴は消灯時間ギリギリで部屋に戻ってきた。

「美琴!遅いじゃない!!どこに行っていたの?ていうか、その顔どうしたの?泣いていたの?」

 帰ってきた美琴のまぶたは赤く腫れ、頬には涙が流れ落ちた跡が残っている。

「美琴ちゃん。大丈夫?」

「お姉、それに紗代。心配してくれてありがとう。私は大丈夫よ。ちょっと、悲しいことがあっただけ…」


「(…きっと、先輩は鳳城先輩とのことを深く語ってくれたのね…私と同じく、今は先輩に想いを伝えても、きっと適わないと悟ったんだわ…)」

「(…私は、その瞬間に『自分には無理』と決めて、気持ちが離れていってしまった。でも、涙まで流している美琴はきっと…)」

「そう…兎に角、今日はもう休みましょう。明日も試合があるわけだし、今日みたいな無様な結果、若林先生には見せられないわよ」

「…そうだね。お姉」

「美琴ちゃん、頑張ろう!」

「…うん」

「(…美琴、私には無理だったけど、あなたなら先輩の助けになれるのかも知れない。中3の文化祭のあの日から、先輩に一途なあなたなら…頑張るのよ!美琴!!)」

 遠征2日目。今日は私たちが東京へ帰るということもあり、午前中のみの練習となった。

 美琴と話をした効果が出たのだろう。煉先輩は調子をいつもの取り戻し、光陵高校に約100点差をつけ勝利した。

 そして、私は美琴の恋を応援しようと、心に決めたのだった…


最終話 に続く
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